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亡国の天才魔術師レルゲンの成り上がり~孤独だった俺を救ったのは、命がけで護った敵国の王女でした~【16万pv作リライト版】  作者: 雪白ましろ
第一部 絆の糸編

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48話 ヒート・ミストラル

「素晴らしい! 皆さん本当に素晴らしい! 誰も欠けることなく私の最高傑作を打ち倒すとは。特にユゥに入れた最後の一撃!私は感動しましたよ、ご老人! 流石は年の功! ですので」


 パチンと指を鳴らし、レルゲンが浮遊させていた鉄剣が螺旋状となり一瞬で高速回転する。


「……は?」


 レルゲンが命令を出していないはずの鉄剣が、螺旋を描き、ハクロウの左肩を捉える。勢いが収まることなくその後ろにある壁をも貫き、やがて見えなくなる。


「くそ……しくったか……」


 ハクロウの左腕が肩口から螺旋剣に抉り飛ばされ、酷く出血している。


「なんで……! くそ、ハクロウ!」


「こっちを見てんじゃねぇレルゲン! 俺なら大丈夫だからよ……お前は敵に集中しろ……」


 即座に浮遊している残り四本の鉄剣を外へ飛ばす。残る武装は黒龍の剣と白銀の細剣のみ。


 肩で大きく息をするハクロウ。

 出血量はセレスティアが負わされた時以上、間違いなく致命傷だ。


 魔力糸による手術は一度経験している。慣れた手捌きでハクロウの応急処置をし、止血する。注意はナイトに向けたまま、感覚だけを頼りに手術を行った。


 出血量が少なくなったところで、すかさずハクロウが回復薬を飲み、完全に止血が完了する。


 荒れていたハクロウの呼吸が落ち着き、レルゲンが安堵する。

 その様子を見たナイトが不気味なほど優しく声をかけた。


「手術の速度と精度も上がっていますね。実に素晴らしい成長だ」


 それを聞いたレルゲンは魔力を全て解放し、もはや黒と形容してもいいほど濃い赤の魔力が全身から迸る。


 我を忘れ、今にもナイトへ突っ込んでいきそうなレルゲンを止めたのは、マリーとセレスティアだった。


 ただそっと二人が両手を握り、優しく魔力をレルゲンに流す。

 全身から迸る赤い魔力が空中に溶けるように消え、レルゲンが我に返る。


「……ありがとう、二人とも」


 マリーとセレスティアが頷き、構えを取る。

 セレスが高速詠唱でバフを二人にかけている最中、時間を潰すかのようにナイトが語り始める。


「シュットくんの魔力はどんどん濃さが増していますね。色を見れば明らかですが、魔力総量だけ見れば既に私を超えているでしょう」


「レルゲンしか見えてないって言いたいのかしら?」


 マリーが挑発するようにナイトを煽る。


「いえいえ、そんなことはありませんよ? 第三王女のマリー・トレスティア。あなた方王女には正直期待していませんでしたが、シュット君を献身的に支える姿には涙が出るほどです」


 マリーは顔をしかめる。だが、ナイトの余裕を崩すには――

 高速詠唱でバフをかけ終わったセレスティアが、ナイトに向けてあえて感謝の意を伝える。


「待って頂き、ありがとうございました」


 ナイトが眉を少しあげて、「いえいえ」と返す。


「では始めましょう? 楽しみましょう!」


 ナイトが魔力を高め、右手を掲げる。


「ウォーターシャーク・トルネイヴ」


 水の上位魔術を無詠唱で発動し、レルゲンたちの周りが水の渦に包まれる。


 中にいる水性生物が襲いかかってくるが、これを見たセレスが一言呟く。


「カウンター・ディスペル」


 セレスティアが唱えた瞬間、水の上位魔術が跡形もなく霧散する。


「ははっ! あなたも遂にディスペルの入門ですか! シュット君の周りにいる方々は、彼に引っ張られるように強くなっていきますね。試練を与えた甲斐がありました」


「何が試練ですか、下らない」


 セレスティアがナイトの持論を一蹴し、こちらも光の上位魔術を無詠唱で繰り出す。


「マルチ・シャイン・ジャベリン」


 先程まで詠唱をしていた光の上位魔術を、今度は無詠唱で発動し、ナイトをさらに驚かせる。


 半歩出遅れたナイトだが、余裕を持って光の上位魔術を繰り出し、空中で衝突してお互いの光の槍が全て砕け散った。


「いいですね。魔術師の基本はできると思うこと。できそうと思える思考や予感が大事だと気づきましたか」


 得意気に講釈を垂れるナイト。その表情はレルゲンに魔術を教えていたときを思い出しているようにも見えた。


「流石は魔術の先生です。素晴らしい講義ですね」


 セレスティアがナイトの演説ともとれる独り言をあえて茶化すと、これが気に食わなかったナイトの表情に力が入る。


「上から物を言っているんじゃない、第一王女――よろしい、真の魔術と呼ばれるものをお見せしましょう」


 再びナイトが魔力を集中し、そして目を見開いて唱える。


「複合魔術、ヒート・ミストラル」


 ナイトの周囲から白い水蒸気の靄が溢れ出し、瞬く間に視界が真っ白になる。


「痛っ……!」


 いや、違う。ただ痛いだけではない。似ているが少し違う。


 熱い……! 白い霧に触れた肌を見ると、真っ赤に腫れ上がっている。


「その白い靄は全て高熱の水蒸気です。水が沸騰したときに出るものが、全身を包んでいるとお考え頂ければ理解できますか? 温室育ちの王女様方は、湯を沸かしているところなど見たことはないのでしょうがね」


 これだけの空間を蒸し風呂状態に、しかも熱さを一切殺さない。恐らく水蒸気の一つ一つに細工が施されていると考えるべき攻撃を受けて、マリーとセレスティアが苦しそうに咳き込む。


 レルゲンは腕で口を瞬時に押さえたが、対処の判断が一瞬だけ遅れる。この隙をナイトは見逃してくれなかった。


 視界が完全に塞がれ、魔力感知に頼る他ない状況に追い込まれたレルゲンたちは、魔力を完全に隠した一撃を避けることができなかった。


「ぐっ……!」


 不可視の矢が三人に直撃し、全員が膝をつく。身体に何かが刺さっていると気づき、引き抜くが、抜いたそばから血が滴る。


「ハイディング・アロー、どうやら効いていますね」


「マリー、セレス! ……息を吸いすぎると喉から気管にまで……火傷が広がる! 何とかするから十秒だけ息を止めろ!」


 返事はないが、咳き込む声が止まる。二人とも息を止めていると判断し、片手を空へ伸ばす。


 意識を集中し、目に見えない細かい水の粒を押し固めて圧縮する想像を頭に思い浮かべる。


 押し固められた水蒸気が細かい水滴となり、室内であるにも関わらず温かい雨となって降った。

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