42話 自動人形を名乗る者からの手紙
全魔力を解放した黒龍の剣の一撃を放ってもいいが、後々ここまでの道を舗装する必要があること。そして、黒龍の剣による水質汚染を考えると、別の手段を考える必要がある。
電撃は通じず、剣は吸収され再接続ができない。
残る武装は黒龍の剣のみ。
もう黒龍の一撃を入れるしかないのかとも考えたが、この剣自体が持っている切れ味を信じて、空中へ放る。
放られた黒龍の剣は魔力糸に繋がれた状態で、高速回転を始める。
無防備に見えたその瞬間を狙い、再び水龍が氷の棘を連続で射出する。
しかし高速回転する黒龍の剣を盾代わりにし、粉砕機にかけられたように氷の棘が砕け散る。回転数を上げていき、周囲の草木が音を立て始めた。
「ウィンドカット」
ベンジー騎士団長戦で放った連携技。
だが、今回は貫通力を上げるのではなく、切断力を高めるため、レルゲンは剣に風の剣を纏わせる。レルゲンの術を見て、水龍に焦りの色が見え始める。
「剣で作った盾など、全方位から攻撃すれば済むだけのこと!」
「これは盾じゃ無い、あんたを斬るためのものだ」
氷の棘がレルゲンの四方八方から殺到する。
水龍の攻撃と同時に、レルゲンも黒龍の剣を射出し、水龍が身体を液状化させる前に剣が鱗を切り裂いた。鮮血が迸るが、すぐに斬られた部位が液状化し、出血が止まる。
「ぐっ……! だが!」
ここで初めて水龍が苦痛の表情を見せ、レルゲンが戦闘の流れを掴み始めた。
氷の棘が命中すると水龍は踏んでいたが、レルゲンは矢避けの念動魔術で衝突を回避し、水龍の目にも焦りの感情が乗る。
遠距離攻撃が通じないと見るや、水龍は今度は突進を仕掛ける。だが、ここでレルゲンがニヤリと笑う。
誘われたのか……! と水龍がレルゲンの狙いに気づくがもう遅い。浮遊する黒龍の剣が、いつの間にかレルゲンの手元に戻り、再度水龍に向けて直進する。
実体化した状態から液状化するまでの猶予はない。誘い出された水龍は身を捻り、回避を試みるが、背ビレが紙を切るように簡単に切断される。
「ぬぅっ……」
悲鳴が響き、鮮血が迸る。だが、斬られた背ビレ付近はすぐに液状化し、出血を抑えた。
突進攻撃や遠距離攻撃をいなされ続けた水龍はついに観念し、レルゲンに対話を持ちかけた。
「そなたの力量、確かなものだ。……水は好きなだけ持っていけ。私を屈服させた証として、そこに転がっているヒレと鱗を持っていくがよい」
「あぁ、そうさせてもらう。ずいぶんと潔いな」
「それはそうだ。私は殺し合いがしたいのではないからな。それと、水を綺麗にすることも必要であろう。私自身にも水を浄化する作用があるが、ここの水が綺麗なのは、地下にあるこの水晶のお陰だ。全て渡すわけにはいかんが、そなたの街一つ分くらいの水を綺麗にすることはできるはずだ」
「助かる。ここから川を引く要領でここの湖の水を頂くが、それでいいか?」
「ああ、構わんさ」
水龍に力を示すことができたレルゲンは、ここからどうやって水源を引いてくるか考えていた。
街まで川の水として流していては、いくら広大な湖とて、長くは持たないだろう。
最低でもナイトを打倒するまでの仕組みが必要だと考え、一度水龍に別れを告げて街へと戻り、女王へ水龍の素材と共に報告する。
遠距離戦を主体とする水龍とは、レルゲンは相性が良かった。
「やぁ助手君、水源確保の調子はどうだい?」
「水龍と戦って、水源を頂く約束はしたのですが、どう引いたものかと思いまして。ここから少しだけ離れた場所なので、そこまでは遠くありませんよ」
薬学研究所のカノンへ水龍を打倒した証である素材を見せると、椅子から転げ落ち、積み上がっていた書類が頭上に崩れ落ちた。
「まさか本当に水龍がいるとは……ははは、さすがは深域。で、確保した水源をどうやって届けるかだよね。無難に行くなら川を引く工事だけど、時間がかかり過ぎるから、少し工夫が必要だね。さて、どうしたものか……」
お互いに数秒の沈黙。
レルゲンが今までに見た魔術で、物を移動させる魔術――念動魔術で荷物を運ぶ、召喚魔術で魔物が現れた……り?
ハッと顔を上げてレルゲンが閃いた。
「召喚魔術って使えないか?」
「召喚魔術か……あれは術師が専用の入り口と出口を設定して発動する魔術だから、街の全土を賄うには術師が足りないかな」
「なら、召喚の魔法陣だけ刻印する形で、国民に普及するまでの間、彫り師の技術で実現できないだろうか?」
「なるほど、彫り師か……! 刻印することで消すのも修理するのも簡単だし、蛇口を回す要領で欲しい時だけ魔法陣として成立させれば無駄がない! うーむ、なるほど! 距離が予想より近いのも魔法陣の簡略化に繋がりそうだ。何とかなる気がしてきたぞぉ!!」
「悪いが魔法陣の作成と、普及方法については任せてもいいか?」
「うむ! 内政についてはこの私に任せてくれたまえ! 助手君はお母様に報告を頼むよ」
「わかった」
女王にカノンとのやり取りを報告すると、目を輝かせて喜んでいた。
これで、水問題は解決した。
「後は下水などの排水方法ですが、これはこちらで何とか致します。騎士レルゲン――迅速な任務達成。誠に大義でした」
「いえ、この案はカノン様の協力があってこそですので。下水の処理にはこちらの浄化水晶をお使いください」
「なるほど、こんな便利なものがあるのですね……」
興味深そうに女王が結晶を見ていると、和やかな雰囲気が一転し、女王の私室を強めに叩く音が聞こえる。
「女王陛下、失礼致します」
「何かありましたか?」
騎士団服に身を包む男性が、泥だらけになりながらも大粒の涙を浮かべては流し、嗚咽を堪えながら報告を入れた。
「別動部隊として……例の調査を行っていた、ベンジー騎士団長が……残念ながら……うっ、名誉ある最後を……!!」
唇を噛み、後悔するような表情を見せる女王は、一度視線を落としてから、再び強い視線で報告に戻った騎士団員を労った。
「わかりました。報告ご苦労様です。そうですか……長年、私の騎士団を統括していたベンジー騎士団長が……」
――重い空気が部屋を包む。
すると、同じく報告に来ていた影部隊の一人が、一通の手紙を女王に手渡す。
その手紙に目を通した女王は、レルゲンに伝えるように読み上げる。
「私たちの招待を断り、騎士団を派遣したなんて許せません。今度また違う人が来たら、私たちはこの国の人を順番に殺していきます。自動人形より」
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