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亡国の天才魔術師レルゲンの成り上がり~孤独だった俺を救ったのは、命がけで護った敵国の王女でした~【16万pv作リライト版】  作者: 雪白ましろ
第一部 絆の糸編

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41話 水龍の試練

「いや、聞いたことないな」


「簡単に言うと、深域近くに建国した領主が、深域を縄張りにしていた水龍の怒りを招いて、せっかく作った国が洪水に晒されるって話だよ。水龍以外にも深域には縄張りにしている龍種が実際にいる。出会えるかはわからないけどね。ほら、今の私たちと状況が似ているだろう?」


「なるほど、心に留めておきます。流石は所長」


「そうだろう? へへん、私はなんてったって第二王女だからね! 凄いのサ」


 鼻を上に向け、子供のように得意げな顔をする。


「参考になったよ、ありがとう」


「また私の知恵が必要になったら、いつでも頼ってくれたまえ? 私は大体起きているからね」


「そこはしっかり寝てくれ。では、失礼します」


「明日からの任務、頑張れよぅ」


 一礼して研究所を後にする。深域だからか地脈からの魔力供給が王都と比べても比較にならないほど効率がいいのは嬉しい誤算だった。


 しかし、それだけ魔力に満ちているということであり、強力な魔物が跋扈ばっこする環境なのもまた自然と頷ける。


 今日やれることはやった。後はしっかり休息を取って明日に備えようと、レルゲンは夜食を食べに厨房へ忍び込んだ。

 消耗したせいか、酷く腹が減っていた。


 次の朝、目を覚ますと体力と魔力がほぼ全快になっていることに気づく。

 サクロクス・マギクスから貰った指輪も魔力回復の助けになってくれている。


「よし、いくか」


 屋上庭園から飛んで行こうとすると、下で騎士団が出撃の準備をしている。


 事前に女王からは何も聞いていなかったが、レルゲン以外の動ける人員は可能な限り動かしておかなければ、国民にも示しがつかないのだろう。レルゲンはまだ周辺の魔物調査はできていないが、国民に安心感を与えるための出撃なのだろう。


 気にせず空へ飛び立とうとすると、マリーとセレスティアが見送りに来てくれていた。


「はぁ……やっぱり何も言わずに出て行こうとする」


「すまない、俺はこの通りほぼ全快だ。心配いらない」


 自分のことを案じてくれないレルゲンに、セレスティアが少し頬を膨らませる。


「私の心配はしてくださらないのですか?」


「心配だけど、ここの地脈の回復量を考えたら、セレスもかなり良くなったんじゃないか?」


「それはそうですが……そうではないのです」


「冗談だよ。もちろんセレスの身を案じているさ。でも無理はしないでくれ。君の傷は深かったんだから」


「それはもちろんですが、私も早く戦線に復帰できるように回復に努めます。その時はマリーも一緒に戦うことになるでしょう」


 マリーがレルゲンの手を握って、任務の成功を祈る。


「私も新しい力であなたの力になりたい。だから、ちゃんと無事に帰ってきて」


 握られた手に力が籠る。その手を握り返すように両手でマリーの手を取る。


「あぁ、約束するよ」


 マリーに誓いを立てると、セレスティアが後ろから遠慮がちに抱きついてくる。


「私も、あなたの無事を信じています。王国の未来をまた託すことになりますが、どうか皆を救って下さい」


 レルゲンが小さく頷き「それじゃ、行ってくる」

 と言い残し、空を駆ける。地上を見失わない高さまで上昇し、辺りを見回す。


 すると、遠方に湖を発見した。

 すぐに向かおうとするが、魔力感知に大型の魔物がかなりの数を捕捉する。


 昨日カノンとの別れ際に貰った魔物の書物を片手に、出会った魔物を記録していく。四・五段階目とやはり強力な魔物が多い。


 騎士団が出撃準備していたが、大丈夫だろうかと心配になる。不安を振り払うように、レルゲンは湖へ向かった。

 不思議なことに、湖の近くは魔力反応がない。不思議な力が働いているのだろうか。


 湖の側に降り立ち、飲み水として使えるかどうか物質分離の魔術をかけてみる。


 多少の不純物はあったが、決して飲めない水ではなさそうだ。カノンは濾過の心得があると言っていた。後はここからどうやって水源を引いていくかだ。


 しばらく考えていると、地面が小刻みに揺れ、段々と大きくなってくる。

 慌てて空中に飛んで距離を取るが、信じられない光景がレルゲンの目に飛び込んできた。


 ――水龍だ。

 話で聞いていた水龍が今、目の前にいる。

 少しの興奮を抑えながら、水龍の動向を空から見守る。


 何かを探すように辺りを見回すが、何もいないことを確認し終わると湖の深くへ潜っていき、レルゲンの魔力探知からも離れていく。


 どうやらかなりの深さを誇る湖だとわかるが、ここを水源とするならば、あの水龍をどうにかしなければならない。


 姿を見るに、魔石龍と同じ六段階目なのは間違いない。六段階目の中でも上澄みだとわかる神々しさ――再び湖の近くにいれば、恐らく水龍が姿を見せるだろう。警戒心と縄張り意識が高いことが伺える。


 ――女王に報告するか? と一瞬レルゲンは迷ったが、今こそ武勲を立てるとき。功を焦っている気持ちは自覚しているが、魔石龍との一件もある。穏便に済ませられるならそうしたい。


 湖の近くで身を落ち着ける。

 地面が小刻みに揺れ始め、次第に大きくなる。今度は隠れず、ただ水龍をじっと見つめた。


「この深域に何用だ、小さき者よ」


「お初にお目にかかる、水龍殿。私はレルゲン・シュトーゲンと申す者。この水源の一部を頂きたく馳せ参じた次第である!」


「ほう、私が魔物であることを理解し、対話を望むか。前に何度か龍と対話したことがあるのだな?」


「魔石龍とは、そうだな。勝手な思い込みかもしれないが、友人だと思っている」


「ははは! もしかしてお喋り好きの老龍か! 面白い。奴はまだ元気に隠居していたか」


「残念だが、魔石龍はもう居ない」


「そなたが討ち取ったのか?」


 緊張感が走る。返答を誤れば即戦闘になるだろう。


「いや、俺も最初はそのつもりだったが、俺たち王国をこの深域に転移させた人物が魔石龍を討ち取った」


「なるほど、それでそなたらは水に困り、私のところまで来たと言うわけか」


 レルゲンが静かに頷く。


「いいだろう。水を与えるのはやぶさかではない。だが、そなたが持っているその黒い剣。それを持っているということは、過去に龍と対峙し、証として一部をもらったのだろう。私はそなたの力量がどれほどのものか確かめたくなった。剣を構えろ、レルゲン・シュトーゲン」


 穏便に話が進むかと思われたが――やはりこうなるか……! とレルゲンはやむを得ず黒龍の剣を鞘から引き抜いた。

 そして、念動魔術で持ってきた鉄の剣を五本、空中に浮遊させる。


「面白い術を使うな? ではまずはこちらからいくぞ」


 大きく息を吸い込む動作を取り、レルゲンは瞬時に咆哮による拘束攻撃かと思い、耳を保護するべく小さなウォーターボールを生成して耳につける。


 しかし、咆哮ではなく、水を高圧で射出する水線攻撃だった。


 一歩反応が出遅れたレルゲンだったが、これを矢避けの念動魔術で軌道を逸らし、後方の森を水線が一直線に進み、簡単に抉り取った。


 当たりどころが悪ければ、一撃で死んでいたであろう攻撃。


 ……流石は六段階目だな。と後方を小さく確認して水龍を睨む。


 今度はレルゲンが動いた。

 湖の周りを高速で走り、水龍の裏を取ったところでサンダーボールを複数出現させ、湖に投げ入れる。


 着水と同時に白い蒸気が噴き上がるが、水龍に電撃が到達すると、これを弾いた。


 どういうことだ? どうして水に流した電気を弾く? と一瞬判断が遅れる。

 ここで水龍が勝ち誇ったように言い放つ。


「浅知恵じゃな! 私に電気は効かんぞ!」


 首から下はそのままに、薙ぎ払うようにレルゲンへ水線攻撃を繰り出す。


 しかし、これもまた念動魔術で軌道を逸らす。


 ここで水龍が水線攻撃を諦め、今度は空中に氷の棘を幾つも展開し、レルゲンに向けて射出する。


 今度はあえて矢避けの念動魔術を使わずに、黒龍の剣で全て叩き落とす。

 それを見た水龍の口角が少し上がり、氷の棘をレルゲンに向けて大量に射出してくる。


 レルゲンは横に走りながら躱し、剣で叩き落とす。集中攻撃の切れ目を狙って浮遊させた鉄の剣を全て水龍に放った。


 すると、水龍の硬い鱗で覆われた部分が水に変化し、鉄の剣が水龍の中へ入る。

 ――動きを完全に殺された。


「無駄だ無駄だ。その程度の攻撃、いくら続けても結果は変わらんよ」

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