36話 安らかな死を邪魔する者
空気を焼くような光の斬撃が魔族を襲い、三体をまとめて塵にしてやるつもりだったが、側近二人の魔力防御で、指揮官の魔族だけは辛うじて即死を免れた。
だが、側近の二体は斬撃に耐えられず塵となり消えた。
「貴様が第三王女の騎士だな! 不意打ちとは卑怯な奴め」
強がってはいるが片手片足が欠損し、修復しようと傷口が蠢いている。
「その王女を毒殺しようとした奴が何言ってやがる」
レルゲンの指摘は無視して、指揮官の魔族が勝ち誇ったように宣言する。
「私に危機が迫った時には、自動的にここへ配下が集まるように転移魔法陣を組んである。国の民はさぞ苦しんでいることだろう! 素晴らしい成果だ!! 貴様がいるということは第三王女も一緒だな。ここにはいないようだが、見つけ出し、貴様の前で殺してやる」
「そうさ、今現在も王国民が苦しんでいる。どうやら傷を治すのに時間を稼いでいるようだが、ただお前の話に付き合っていると思うか?」
「魔力感知に反応はない! ただの戯言だ」
――魔力感知が使えるのか。
「どうかな、魔力だけに注意していると足を掬われるぞ」
「何を言って……!」
突如、魔族の指揮官の足元が隆起し、天井付近まで押し上げられる。唐突な足場の変化にバランスを崩しながらも、翼を展開して空中に羽ばたく。
四方八方に魔族の魔力を感知する。その数、事前に聞いていた通り十五体。
――時間はかけていられないな、と手から伸ばした魔力糸を手繰り寄せる。
「綴雷電」
魔力糸に電撃を流し込み、魔族が感電する。
念動魔術で天井の岩塊を引き剥がして叩きつけ、地面に引きずり下ろす。
急降下した先では、レルゲンが魔力を込め終わった黒龍の剣を構えている。
慌てて翼を使って軌道を変えようとするが、もう遅い。魔族の心臓とも言える魔石の位置を正確に捉え、黒龍の剣で貫く。
貫かれた魔族は何とか剣を引き抜こうとする。
剣を抜こうとする魔族の指揮官を、力づくで横一閃に切り裂き、身体を分断する。
真っ二つになった身体と、なお再生しようと蠢く切り口を見て、レルゲンは余計に怒りが込み上げてくる。
ここで手下の魔族連中が集まってくる。
しかし、そこには誰もいない。
集まってきた魔族が困惑の表情を見せた中、レルゲンは魔族の死角となる空中にいた。
全員が魔力感知を持っているわけではないとわかり、すぐに次の一手を繰り出すべく魔力糸を展開する。
円形状に巻かれた魔力糸を、魔族たちの頭上まで静かに降ろした。
拳を握ると、広範囲に展開された魔力糸が急速に狭まり、魔族たちが一箇所へ強引に引き寄せられる。
締め付けの強さに悲鳴を上げる魔族もいたが、気にせず魔力を収束させた。
「アイス・ジェイル」
大量の水を魔力で精製し、氷へ性質変化させる。全身を氷漬けにされた魔族は、身動きを全て封じられ、声すら上げられない。
レルゲンは黒龍の剣に魔力を限界まで込め、中段よりやや低めに構える。剣から伸びた光が地面を抉り、刀身が伸びるように感じるが気にせずに横に薙ぎ払う。
十五体もの魔族を氷漬けにした塊が半分になり、切り口から魔石が顕になる。
切り口の魔石を目視し、一体一体全て魔力糸で巻きつける。
紐を結ぶように引っ張られた魔力糸は、十五体分の魔石を一度に粉々にし、指揮官の魔族と同じように塵へ変わる。
セレスティアと魔石龍がいる広間まで戻る。度重なる黒龍の剣の行使で、魔力量に自信があるレルゲンだが、魔力が底を尽きかけるほど消耗していた。
セレスティアがレルゲンを見つけて、すぐに駆け寄って来て抱き締めた。
「どこも悪くありませんか? ちょっと見せて下さい」
セレスティアがレルゲンの身体を触診する。
攻撃は一度も受けてはいないが、魔力消費が激しいことを伝えると、すぐに魔力の受け渡しをしてくれた。
「セレスの方はうまくいった?」
「はい、簡単にいうと熱感知に近いものだと思いますが、慣れるのに時間はかかりそうですね」
「そうか、さすがだな」
「いいえ、この魔石龍の説明が上手でした。熱を色で表現するそうですよ」
「熱を色か。魔石龍よ、礼を言う。この熱感知も急務だったんだ」
「良い。貴様ら夫婦の明日はまた険しいものになるだろう。旅の友にコレを持っていけ。我が奴らからの拷問を受けても渡さなかった宝物だ」
宝物ってなんだ? と思って手を出して受け取ってみると、それはペアの指輪だった。貰えるものは貰うが、指輪って確か……。
「付ければ大幅に魔力が増幅される。見たところどちらも魔力消費が激しかろう。持っていけ」
セレスティアは感激の余り言葉が出てこない様子で、代わりにレルゲンがお礼を返す。セレスティアは左手の薬指に自ら嵌め、レルゲンは左手の小指に嵌める。
それを見たセレスティアは、何やら不満そうな顔を一瞬見せたが、やがて納得してくれたようだ。魔術的にそれぞれの指の大きさへ合わせるように指輪が縮み、お互いの指の太さに合わせられる。
効果は絶大だった。
セレスティアからの受け渡しですら半分程度しか魔力が戻っていなかったレルゲンだが、指輪を嵌めた瞬間、身体の奥底から魔力が溢れ出した。
枯渇寸前だったはずの魔力が、一気に満ちていく。
「では、その黒い剣で我を討つが良い。我はもう長くない。これ以上そなたらの国民を苦しませるのは忍びないのでな。レルゲン、頼めるな」
レルゲンは少ない時間だが、「いい魔物」だったように感じていた。セレスティアも目から大粒の涙が溢れ出し、レルゲンの肩に顔を埋めて肩を振るわせて悲しみの感情を堪えている。
何とか殺さずに別の解決法を一瞬考えたが、思い浮かばない。
黒龍の剣に魔力を再び込めて、せめて一撃で楽になれるようにと思いながら、剣を振りかぶる。
瞬間――何者かがレルゲンよりも早く、サクロクス・マギクスの首を落とした。
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