21話 騎士団長ベンジーとの一騎打ち
「やる気になってくれて助かる。個人的にも貴殿の戦い方には興味があるのでね」
「それは光栄ですが、そんなに見せびらかすものでもございませんので」
魔力糸なしで操作する浮遊剣へ、レルゲンの魔力が込められていく。
ベンジーが魔力を目に集中し、どういう仕組みで浮遊しているのか確認する。
だが、魔力の繋がりを感知することができないでいた。
ベンジーが渋い笑顔に変わり、レルゲンへ正直に伝える。
「それが貴殿の戦い方か。どうやって浮いている剣に魔力を込めているのかわからんが、面白い技術だな」
ここでレルゲンの目つきが変わる。
「どこかで見たことがあるのか?」
「似たような戦い方は見たことがあるが、貴殿の“それ”は完全に別物だな」
「――そうか、観客も痺れを切らす頃だ。そろそろ始めようぜ」
「いつでもいいぞ」
先手は譲ってやるとでも言いたげに、ベンジーが余裕を見せる。
「ではお言葉に甘えて」
最初の一撃で決める。
長引くほど観客は盛り上がるだろうが、レルゲンにとっては手札を晒すと同じだ。
できるだけ避けつつ、かつ皆に実力を認めさせるにはどうするか。
「――螺旋剣」
浮遊剣に魔力を集中し、強引に剣の形状を維持しつつ刀身を捻る。
ギリ、ギリと無理な力で捻じられ、悲鳴を上げるように金属音が響く。
念動魔術で空間ごと捻じ曲げることで、剣の崩壊を防ぐ。
「回れ」
命じられた螺旋剣が回転を始め、砂埃が中心に集まっていくように巻き上げられる。
「ほう……」
ここで感心した声を上げ、ベンジーがゆっくりとロングソードを上段に構える。
ロングソードに魔力が込められていき、ハクロウとは違い螺旋剣を正面から受けるつもりだ。
それを見て、レルゲンがさらに動いた。
「ウィンドカット」
風の初級魔法であるウィンドカットを、回転する螺旋剣に纏わせる。
回転に巻き込まれ、風そのものが螺旋剣へと溶け込む。
だが、殺傷能力と貫通力が上がっているのは、螺旋剣が纏う風が物語っていた。
ベンジーはこの時、強く思った。
一体いくつの魔法と魔術を組み合わせているのか、俺には出来ない芸当だと。
ベンジーは素直に研鑽の塊であるレルゲンの一撃に感心していた。
それを見ていたハクロウもまた同様に、自分と戦った時よりも成長している螺旋剣の威力に、固唾を飲む。
――死ぬなよ、団長殿。
ハクロウが祈りにも近い感情を抱き、二人の行方を見つめる。
ここでレルゲンが螺旋剣の発射前にベンジーに告げる。
「俺はこれから真っ直ぐ、小細工抜きにコイツをアンタにぶつける」
わざわざ何を宣言しているのかと、ベンジーは一瞬そう思ったが、すぐにその言葉の真意に気づく。
途中で軌道を曲げられ、あえて口にして圧力をかけることで避けさせないつもりだと。
「これはありがたい申し出だ。狙いが外れたら、俺もその剣には耐えられないだろう」
ベンジーの正直な独白に会場が騒めいた。
一対一の果たし合い。
勝負は一瞬で決まった。
真っ直ぐ射出された螺旋剣は、音速に近い速度で正確に突き進む。
上段に構えられたベンジーの剣が螺旋剣を捉えた。
「オオオオォォォォ!!」
気合いの込められた声で振り下ろされたロングソードは、螺旋剣を綺麗に両断した。
両断された螺旋剣は、ベンジーの後方の壁に突き刺さり、しばらく壁を突き進んだ後にバラバラに砕け散った。
「流石は中央王国の団長だな。まさか本当に斬られるとは思わなかった」
「そちらこそ、見事な一撃だった」
この勝負、ベンジーの勝利で終わるかと思われたが、両手を上げて降参の意をレルゲンに示した。
「どうして……」
「団長の勝ちでは無いのか?」
疑念の声が上がったが、ベンジーの腕が震えているのと、ベンジーの愛刀にひびが入る音が響き、観衆が黙りこむ。
振り下ろされたロングソードは刃が大きく欠けており、刀身全体に亀裂が走り、砕けた欠片が地面へと散らばった。
「俺の剣は砕かれ、レルゲン殿の剣はまだある。その気になれば、全ての剣に今と同じ威力を乗せ、同時に放つこともできるだろう。私は、レルゲン殿を認める」
再び訪れる静寂。
ニッとベンジーが笑ってから、審判が高らかに宣言する。
「勝者! レルゲン……!」
レルゲンを讃えたのは、女王とマリー、ベンジーとハクロウ。その他に何名か拍手を送っていた者もいたが、これでいい。
レルゲンの願いはこれで成就される。
再び謁見の間に通されたレルゲンは、すぐに騎士として叙勲を受けることになった。
日を改められると予想していたが、どこか急いでいるように感じる。
ダクストベリク女王が叙勲の宣言を行う。
レルゲンは謁見の間に呼ばれた時と同じく、正装に身を包んで女王に向かって跪く。
「これより、レルゲン・シュトーゲンの叙勲式を執り行う。この者をマリー・トレスティアの専属騎士として名実ともに認める。この宣言によりレルゲン・シュトーゲンを王国の民として迎え入れることを我が唯一神に誓います。マリー・トレスティア――誓いの剣を」
マリーが女王から誓いの剣を跪きながら両手で丁寧に受け取り、立ち上がってレルゲンの方へと歩み寄る。
誓いの剣を鞘から引き抜き、銀色に輝く刀身が現れた。
「我が騎士、レルゲン・シュトーゲン。あなたは私と王国を支え、時には私を諌め、そして永遠に支えることを誓いますね?」
「誓います」
レイピアのような形をしている誓いの剣を、レルゲンの両肩に軽く叩き、鞘に納める。
誓いの剣は女王へ丁寧に返却され、マリーも女王へと跪く。
「これにて叙勲式を終了します。マリー、良かったですね」
「はい、お母様」
固い式典が終わった後は、母子の関係に戻っているのがレルゲンにはわかった。
マリーは母親に愛されている。
となれば、やはり疑うべきは……。
陽が落ち、マリーの帰還とレルゲンの叙勲祝いと称した食事会が開かれた。
マリーは貴族との会話をしながら、レルゲンと出会う前からの話題を、順番に話しているようだ。
一方のレルゲンはというと、貴族の若い女性に言い寄られるわけもなく、騎士の面々に先程の騎士団長との戦いについて聞かれることもなく、一人で出された料理をつつく――わけでもなかった。
この料理、食ってもいいのか?
と腹は減っていても食事が喉を通らなかった。
気分転換にでも夜風に当たろうと思い、会場の大窓を少し開け外に出る。
半円に近いバルコニーの柵に、肘をつきながら一息つく。
マリーの位置は魔力感知で補足している。
闘技大会では意識を集中しなければ広範囲の魔力を感知できなかったが、今は比較的神経を使わなくても捉えることができた。
しばらく落ち着いていると、あることを思いつく。
もし、このグラスの水に毒が入っていたとして、その毒の部分だけ念動魔術で取り除けないだろうか?
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