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亡国の天才魔術師レルゲンの成り上がり~孤独だった俺を救ったのは、命がけで護った敵国の王女でした~【19万pv作リライト版】  作者: 雪白ましろ
第一部 絆の糸編

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21話 念動魔術の真髄

 ここで念動魔術を教えてくれたナイト先生の言葉を思い出す。


 念動魔術とは魔力で糸を作らず、ただ自分の意思のみでありとあらゆる“事象の上書き”ができる魔術なのです。


「答えは“ここ”か」


 胸に手を添えて、懐かしむように遠くを見つめる。


 ナイト先生の言っていたこと、そしてあのとき掴んだ念動魔術の核心。


 ――やってみるか。


 念動魔術で自身を空中へ浮かび上がらせ、花が生い茂る中庭へと降り立つ。

 降りる前に持参した水に、花壇から土をすくいグラスの中へ入れる。


 細かい土の粒子が水の中へ溶け、茶色く濁る。

 意識をグラスの中の水へ集中させ、綺麗になった水を想像する。


 念動魔術を発動し、土と水の分離を行う。

 水面が波立ち徐々に土が取り除かれ、水の濁りが薄くなる。


 ――ここからだ。


 さらに深く集中するために、目を閉じる。

 もうグラスを見る必要はない。

 次に目を開けるときは完全に分離を成功させた後。


 水が渦を巻き、渦の中心へ目に見えない細かい砂が集まっていく。

 水面が静かに落ち着いていき、土の粒子がゆっくりと持ち上がり花壇へと戻っていく。


 出した命令は、水と"不純物"と仮定した物質群の完全分離。

 レルゲンが目を開ける。

 見た限りでは真水へと戻っているように見えるが、実際にはどうだろうか。


 意を決して水を口に含み、砂の感覚がないか確認する。


 ――よし、成功だ。


 ゴクンと水を飲み込み、少し待つ。

 仮に砂は分離できても、毒物が入っている時に分離できているか確認する。

 自らを実験台にして待ったが、身体に変化はない。


 こっちも大丈夫そうだな、と一つの確信を得る。


 この時の成功体験が、後のレルゲンの成長速度を加速させるきっかけとなる。


 その様子をじっと見ていた、月の光に照らされて上品に反射する青い髪の女性が一人。

 レルゲンに声をかけた。


「素晴らしい技術です。これが魔術の真髄。そう思える光景でした」


「あなたは……いえ、あなた様は」


「おや、覚えていて下さいましたか。私はセレスティア。中央王族機構、第一王女。王位継承権一位、セレスティア・ウノリティア。どうかセレスとお呼び下さい」


「では、セレスティア様と。なぜ会場ではなくこちらへ?」


「つれませんね。精錬された魔術の気配を感じましたので、つい気になって来ただけですよ」


 レルゲンは深く集中していたため気づかなかったと最初思ったが、すぐに間違いだと認識を改める。


 この第一王女。

 ――間違いなく高位の魔術師だ。


 体外へ漏れ出る魔力が、恐ろしいほど滑らかだった。

 それなのに感じる魔力量は一般人の平均とほぼ同じ。


 レルゲンも隠匿は得意な方だが、ここまで無害な一般人を装うと逆に怪しい。


「そうですか。しかし、セレスティア様にはまだまだ及びませんよ。一度魔術の手解きをお願いしたいくらいです」


「なぜ私が魔術師で、レルゲン様よりも魔術に長けているとお思いで?」


 セレスティアは平静を保っているが、言葉に疑念が含まれていたことを魔術ではなく態度で判断する。


「それは簡単な問いです。今のやり取りで、あなたは二つのことを私に教えて下さいました。一つ目は、水の中に入っている砂を取り出したくらいで、それを『精錬された魔術』と仰ったことです。二つ目はもっと簡単です。セレスティア様から流れる魔力は綺麗過ぎます。流れる魔力は少しも揺らがず、普通の一般人と変わらない魔力量を演出なされている」


 セレスティアは目を見開いて一度驚いたが、すぐに優しく微笑んだ。


「なるほど、レルゲン様は私に魔術の手解きをお願いしましたが、それは必要ないと思われます。魔力については指摘されると思いましたが、まさか最初の一言目で気づかれてしまうとは。口は災いの元ですね」


「ええ。私も集中していましたので、セレスティア様に気づくのが遅れました。申し訳ございません」


「……気にしないで下さい」


 少しの沈黙。

 再びセレスティアが、覚悟を問うように尋ねた。


「レルゲン様は、なぜマリーの専属騎士になろうと思われたのですか?」


「今更ですが、私のことはレルゲンと呼び捨てになさってください」


 間をおいて、空に輝く星を見つめながらレルゲンが語り出す。


「最初は成り行きでした。どこか危なっかしくて、でも芯のある性格で――簡単に言えばほっとけないんです。彼女を、マリーを護るのは俺じゃなくてもいい。でもそれがマリーを護らない理由にはならないんです」


 ふふふと笑うセレスティア。

 その表情はどこか幸せそうに見えた。


「そうですか。マリーは幸せ者ですね。ところで、私の事はセレスと呼んで下さらないのに、私にはレルゲン様を様抜きで呼べと仰るのですか?それは少し不公平だと思います」


「分かりましたよ、セレス様」


 お互いに少し笑うが、セレスティアが小さい声で言う。


「様も要りませんのに」


 と言っていたことは、レルゲンは聞こえないフリをして流す。


「マリーの小さい頃の話を、聞きたくはありませんか?」


「ぜひ」


 宴用に軽装だったセレスティアに、自分が着ていた服を羽織るよう勧める。

 レルゲンは断られると思ったが、意外にもあっさり袖を通した。

 思い切りの良さは、姉妹としてどこか似ている。


 夜が更けていく。


 お互いが知っているマリーを語り合う。

 笑い、考えながらも策を話し合い、気がついた時には夜が明けようとしていた。


 夜明けから少しして、朝食がマリーの部屋に運ばれてくるとき、レルゲンがバルコニー側の窓ガラスを叩いた。


「レルゲンだ。マリー、入ってもいいか?」


「こんな朝早くから何? どうぞ、入って」


 昨日セレスティアと話し合ったことを説明する。


「それで……これから毎食、私の料理をあなたが先に毒味するって?」


「そうだ」


「あのねぇ、もしものことがあったらどうするのよ」


「それは大丈夫だ。出される料理全てに『毒分離』の念動魔術をかける」


「念動魔術ってそんなこともできるの?」


「できるようになった――が正しいけど、信じられないか?」


「あら、私に嘘ついているの?」


「まさか」


「そう、ならいいのよ。

 その毒分離の念動魔術――やってちょうだい」


「わかった」


 意識を集中し、昨晩の砂を分離した感覚を呼び起こす。


 レルゲンがイメージしたのはマリーに害のある物の分離。


 空いている皿を予め用意し、分離できてしまったときのために保存できるよう準備したが、果たしてどうだろうか。


 すると、やはりというべきか――

 空いていた皿に『白い粒』が少量とはいえ集められていた。

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