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亡国の天才魔術師レルゲンの成り上がり~孤独だった俺を救ったのは、命がけで護った敵国の王女でした~【19万pv作リライト版】  作者: 雪白ましろ
第三部 魔界突入編

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175話 魔力だけではない『何か』

 倒れたヴァネッサの口から血がこぼれ落ちるが、レルゲンはすぐに異変に気づく。

 身体が二つに分かれたというのに塵にならず、表情は驚きと共に喜びに震えているように明るい。


 ――塵にならないということは、まだコイツはこんな身体になってなお余力を残している……!


 すぐに氷華から黒龍の剣に持ち替え、ウルカの補助を借りながら魔力を全力で注ぐ。

 青く、そして長く伸びた刀身から放たれた全力の光線攻撃が、ヴァネッサの背後にいた悪魔までも瞬く間に飲み込んだ。


 ヴァネッサの背後にいた悪魔は抵抗する間も無く塵となって消えていくが、上半身だけのヴァネッサはまだ消えていない。


 光線が完全に消え失せても、なお塵にならないヴァネッサの上半身は、切断面がブクブクと膨れ始めて新たな下半身を形成する。


 魔力で編んだと思われる服を身にまとい、静まり返った会場に響く拍手をレルゲンに贈った。


「私がここまでやられたのは何百年ぶりよ! あなたのこと、ますます気に入ったわ。何の理由があっていきなり攻撃してきたのかなんてどうでもいいの。でも、絶対に私の部下にすると今ここで宣言するわ」


「誰がお前のような化け物の下につくものか」


「いいえ、あなたは私のものになるわ。その見たことのない魔術で何度攻撃しようが、私の愛からは絶対に逃げられない。このヴァネッサ・ヴァロネッサからは絶対に!」


 声から発せられたとは思えない覇気に、辺りに衝撃が広がっていく。

 すぐに討伐から撤退に思考を変更するレルゲンは仲間に振り返って合図を出すが、目線を切った瞬間にレルゲンの背後までヴァネッサが移動している。


 耳元で囁かれた小さな声は、レルゲンの心を大きく乱した。


「あなただけは絶対に逃さないわよ」


「……!!」


 慌てて黒龍の剣をヴァネッサの首筋に向けて振り抜くが、余裕を持ってレルゲンの背後を再び取った。


「ダメダメ、そんなんじゃ――もっと殺意を込めて振らなきゃ、何度やっても無駄よ」


「オオォォォォ!!」


 恐怖心をかき消すように気合いを乗せた一撃は、今度こそヴァネッサの身体を正確に捉えた。全力で振り抜いた黒龍の剣は五本の指で真正面から受け止められる。


「あなたの力はこんなものなの? その目、まだ隠しているんでしょう? 奥の手を」


「お見通しってわけか。この一撃は間違いなくお前たち魔王軍に感知されるから使いたくはなかったが、仕方ない――ウルカ、全力で行く」


「頑張って、レル君!」


 ――第二段階、全魔力解放。


 全身から青い炎のような揺めきを放つ魔力が噴き上がり、普段ならこのタイミングで黒龍の剣へ解放した魔力を乗せていくが、今回は違う。

 周囲の環境を取り巻く豊潤な魔力のみを黒龍の剣に込め、刀身が赤色から青色へ徐々に色味を変えてゆく。


 伸びた刀身を念動魔術で制御して元の刀身と同じ長さに圧縮し、黒龍の剣には、いつでも一閃を放てる二重の威力が込められている。


「――行くぞ」


 超強化された身体から放たれる青い魔力を帯びた連続攻撃がヴァネッサを襲う。

 しかし、これをまだ涼しい顔をしながら素手でレルゲンの攻撃をいなす。


 ――この速さにも余裕で対処する辺り、さすがは魔王軍の幹部……!


 レルゲンが使っている念動魔術は、黒龍の剣に魔力を圧縮するように込めているのみ。速度を上げるべく全身に念動魔術を重ねがける。


「オオォォォォォオ!!!!」


 レルゲンの剣筋が二重に見えるほど速くなり、ヴァネッサが受けている手に変化が訪れる。手は黒く腫れ上がり、血が滲む。


「……あら?」


 攻防が終わり一旦距離を取ると、手が異常に腫れ上がっていることにヴァネッサが気づく。


「魔力量と例の魔術を組み合わせた質量攻撃ね? あなた――魔力だけ見たら悪魔のレベルは軽々と超えている。この私よりも! でもいつまで保つかしらね?」


 たった一合のやり取りだけで、レルゲンは既に肩で息をし始めていた。

 それほどまでに負荷の高いやり取りをした証明は、一旦避難したはずの全員が戻る理由には十分だった。


「あなたを助けようとしてみんな戻ってきちゃったの? いい子ね? でも私にとっては悪い子よ」


 近くに駆け寄ったのはパーティでレルゲンの次に魔力量が多いセレスティア。


「魔力を受け渡します。魔力糸を繋いでください」


「俺なら大丈夫だ。まだ魔力量だけなら余裕がある。それよりも回復魔術を頼む。今のやり取りで身体が動きに追いつかずに骨が何本か折れている」


「……っ! わかりました。まったく無茶して!」


 すぐに回復魔術を無詠唱でかけると、折れていた箇所が完全に修復され、身体を軽く伸ばしながらヴァネッサに向き直る。


「随分と待ってくれるんだな」


「いいのよ? 時間はたっぷりあるし、結末は変わらないもの」


 魔力量はレルゲンの方が上であることに変わりはないが、それでもヴァネッサの表情には焦りの色はない。この違和感はレルゲンの心に疑念を生んでいた。

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