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亡国の天才魔術師レルゲンの成り上がり~孤独だった俺を救ったのは、命がけで護った敵国の王女でした~【16万pv作リライト版】  作者: 雪白ましろ
第一部 絆の糸編

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12話 五段階目の魔物 アシュラ・ハガマ

 ここで最後の魔物が動きを見せた。

 動いたのは闘技場の中心にある砂の大地。

 観客の避難は、あと少しで完了する。


 待ち構えていたのは、紺のタキシードに同じ色のハットを被り、顔には白い仮面をつけている。

 涙模様の仮面が、芝居がかった口上をより演技臭くさせていた。


「皆さん、よく来てくださいましたね。ワタクシの自慢の魔物たちが……涙が我慢できません……しくしく」


 ――この声は放送の奴か。


 マリーが一歩前に出て、凛とした口調で宣言した。


「あなたの企みは潰したわよ」


 そのとき、仮面の敵の魔力が急激に高まり、口汚くマリーを罵った。


「お前が喋ることは許可していなぁぁああいい!! この卑しい雌豚が……!!」


 今までの中性的な声とは違う、男の怒声が響く。


「いやぁあん。ワタクシってば、お口が汚くていっけなーい! てへっ?」


 男が上を見上げる。


 上空から既に剣を向かっていることに気づいたか。勘のいい奴め。


 魔力を見ればわかる。

 魔物の動きは鈍い。恐らく耐久力が高い特徴があるはずだ。


 闘技場の上空は屋根がない。

 このまま剣で串刺しにして終わりだ。


「そこからお退きなさい。アシュラちゃん」


 重苦しく巨大な体躯を持った魔物が後退を始める。

 主人の命令に従う魔物か。


「いやねぇ……不意打ちなんて。せっかくのお祭り、もっと楽しみましょ?」


「一人でやってろ」


 追尾された空中の剣が、アシュラと呼ばれた魔物へ勢いよく突き刺さる。

 ――はずだった。


 念動魔術と落下速度を乗せた剣たちは、正確に魔物へ命中した。

 だが、体を覆う強靭な外殻が剣を全て弾いた。


 降り注ぐ剣が衝突する度、衝撃に耐えきれず派手に火花を上げて粉々に砕け散る。

 ユニコーンを屠ったときよりも強く放たれた攻撃は、あっさりと防御される。


 残った剣は空中に帯同させている二本のみ。


「あららぁ?? アシュラちゃんが強すぎて、攻撃が全く効いてないわよ? じゃあ次は、こちらから行こうかしら! ここで息の根を止めてやるわ。第三王女ぉお!!」


「あいつ、殺すわ。私のことを知っていながら、許されない呼び方をした!」


「ずいぶんと魔術に秀でているようだが、使い方が気に入らん。老体に鞭打つときかねぇ!」


「あら? 今の攻撃を見たでしょ? あなたたちの攻撃なんて無駄無駄。この五段階目の魔物――アシュラ・ハガマに勝てると本当に思っているのかしら?」


 五段階目の魔物。

 中央王族機構の騎士団が束になって、ようやく足止めできる強さの魔物だ。


 その大人数で相手する魔物をたった三人で相手しなければならない。

 加えて、まだどんな手段で攻撃を行うのかわからない仮面の男。


 戦況は絶望的。

 奴は暗殺ギルドの所属だろう。

 その証拠に、黒く塗られた暗器を投擲してきた。


 マリーと白髪の剣士は足に魔力を集中して垂直に跳んだが、レルゲンは動かない。


「ちょっと!」


 レルゲンが得意そうに口角を上げる。


 レルゲンへ迫った暗器は、突き刺さる寸前で不自然に軌道を捻じ曲げ、あらぬ方向へ飛んでいった。


「あなた、もしかして矢除けの加護をもっているのかしら? いやねぇ、暗殺者の商売上がったりだわん」


「対策もなくここに立っていると思うか?」


「ふぅん、まぁそれもそうね。なら狙いはそこの第三王女ただ一人に絞っちゃいましょうかね」


「させるかよ!」


 着地した白髪の剣士が瞬間的に加速し、両腕を骨折しているとは思えない速度で木剣を振り抜いた。


 仮面の男の立ち振る舞いは、この一撃を真正面から受けることはできない。


 ――完璧に決まったはずだった。

 だが、仮面の男が靄のように消えていく。


「幻惑魔術か」


「せいかぁい! でも、わかったところで対応はできないわよ?」


 マリーと白髪の剣士が周囲を警戒する。


 気配はある。

 だが、位置が掴めない。


 レルゲンは再び、闘技場全体へ魔力感知を広げるが、魔力反応が一切ない。


 こいつ、魔力感知を警戒して魔力を一切遮断しているな。それでも、周囲の魔力の揺らぎを追えば……!


 魔力の揺らぎの先で、仮面の男はマリーの方を狙おうと距離を詰めて来ていた。

 帯同していた二本のうちの一本を射出する。


 驚いた仮面の男が幻惑魔術を中断し、距離を取った。


「なんでわかった?」


 口調が演技風から男性の声へと変わる。


「勘さ。お前はマリーが狙いなんだろう?」


「そんな馬鹿なことがあるか! 俺の! んんっ、ワタクシの幻惑魔術は完璧です。気配と魔力だって!!」


 そこで仮面の男は、自分で手の内を喋っていたことに気づいたのか、一度咳払いを挟む。

 冷静になってから続ける。


「どうやら早く死にたいようね? アシュラちゃん! やってしまいなさい」


「グガァァアアアア!!!」


 アシュラ・ハガマが口元に魔力を集中し、光が集まっていく。

 収束するまで後わずか。


「白髪の剣士はそこを動くな! マリー。さっき飛んだときみたいに君を抱く」


「えっ!? どういう……」


「そうだ、だから少しだけ我慢しろ」


「ちょっと!」


 収束し切った魔力は臨界点を迎え、マリーに向けて放たれた。


 レルゲンはマリーを抱えた状態で、念動魔術を全体にかけ、両足に魔力を集中させる。

 踏ん張った地面が削れ、勢いよく加速する。


 アシュラ・ハガマの熱線が逃げるマリーたちを追尾しながら、横に薙ぎ払う形で追跡する。

 放たれた一本の熱線は、闘技場の壁を溶かしながら迫ってくる。


 仮面の男がレルゲンの速力に感心する。

 なんという速力……!


 アシュラ・ハガマは、短い首を動かすだけで熱線を薙ぎ払ってくる。

 次第に熱線の追尾が遅くなっていく。


 レルゲンの狙いは、この一瞬だった。


 熱線の追尾が遅れた瞬間に、最速でウォーターボールを氷に性質変化。

 そして念動魔術で棘状に形状を変化させる。


「回って進め!」


 二重に命令された氷の棘が、高速で回転しながらアシュラ・ハガマの顔面に目掛けて射出される。


 途中に熱線の影響を受けて少しばかり溶ける。

 アシュラ・ハガマの目に命中した氷の棘は、粉々に砕けた。


「ガァア!」


 アシュラ・ハガマの急所を捉え、呻いた。

 熱線は途中で中断され、レルゲンは回避を中断する。


「あら、これでもダメなの」


 マリー本人を守りながら戦わなければならないため、本人から距離を取るのは危険だ。

 だが、敵の狙いが中央王国の王女なら、俺はこの仮面の男と目的が同じではないか?


 ――いや、違う。

 俺の国を滅ぼしたのは誰かわからない。

 それでも、マリーを見ていてわかった。

 中央王国が俺の国を滅ぼしたことだけはあり得ない。

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