110話 聖剣の強制執行
「それで、本日はどのような御用向きでしょうか……?」
「今日はね! あなたにこの世界を案内しようと思って!」
マリーは異世界人との交流に興味を示したようで、召子に今までのことや、これから起きるであろうこと、ディシア暗殺の件など全部話してしまう。
もし本当にディシアやレルゲンを暗殺するために王国まで来たのなら、お護りで持ってきた神剣で叩き斬ればよし。
そうでないなら、ちゃんと友好的に接しておきたいという、裏表のないマリーらしい対処法だった。
それを一通り聞いた召子は、ヨルダルクからここまで来たこと、自分が〈勇者〉を所持しているからこそ持てる聖剣について、神官からディシア暗殺を命じられていることを全てマリーに話した。
実際に全て話し合える、信頼し合えるようになるまでの最短の方法をとったことで、事態が最も解決に近くなった。
「大変だったわね。私も結構壮絶な人生歩んでいるつもりだけど、何の覚悟もできてないうちにこっちの世界に飛ばされて、こいつを暗殺しろ! 世界を救えー! なんて言われても絶対にできないわよ。あなたは凄いと思う」
「いえ、生きていくために必死だっただけで、それにまだ何もできていませんし……」
「それでも結果的にはこうして相談してくれてるじゃない。それだけで十分よ」
マリーが召子の手を握って頭を軽く撫でると、今まで溜め込んでいた感情が溢れ出し、召子は声を上げて泣くのだった。
マリーは泣いている召子を見て、ヨルダルクは自壊する寸前まで追い込み、名実ともに操り人形に仕立てあげる思惑があったのではと考えた。
「もう一度確認するけど、ショウコはディシアを暗殺するためにここまで来ることになった。でも、本心では暗殺なんてやりたくないのよね?」
「はい、やりたくありません!」
胸を張ってマリーに自身の持つ本当の心を打ち明けたとき、聖剣から黒い魔力が溢れ出し、召子を飲み込んでいく。
急激な聖剣からの魔力供給は、魔力を一切持たない召子には猛毒となり得た。
そんなことを知らないヨルダルクではないだろう。
マリーは急いで聖剣を、神剣の新たな加護である絶対切断による破壊を考えたが、吸い寄せられるように聖剣が移動してゆき、召子の手に握られた。
召子の瞳は暗く淀んでいき、そこにはもう召子の意識は存在しない。表情から力が失われ、まるで正真正銘の人形のように宙へ浮かび上がった。
この魔力の発露は王国中へ広がってゆき、レルゲンとセレスティアは真っ先にマリーと召子の下へと急いだ。
レルゲンたちが到着するまでの間、マリーは一人でこの黒い魔力を纏った召子を足止めする他ない。
「あぁもう! どうしてこうなっちゃうのかしらね!」
全力で魔力を神剣に乗せたことによる聖属性の付与と、絶対切断の加護を駆使してマリーが足止めを図る。
相手は間違いなく魔王を討ち滅ぼさんとする聖剣を手にした勇者。
ここで召子の口から、召子ではない誰かの声が響く。
「一定以上の任務破棄の――を感知しました。これより強制執行を執り行います」
「誰が勝手にその子の口を使って話してるのかしら! 姿を見せなさい!」
しかし、マリーの問いに答えることはなく、黒い魔力が次々と召子に流れ込む。
狙うはこの魔力の発生源の聖剣のみ。全力で『聖剣を切断』する。そう決めてから、マリーは聖剣を持つ召子に突っ込んだ。
しかし、神剣と同等以上の存在感を放つこの聖剣を前に、マリーの一撃は易々と弾かれてしまった。
「何でも斬れるんじゃないの!? もう!」
神剣に悪態をついたマリーだが、一つ斬れなかった原因が頭をよぎる。
――私は今、この剣が本当にショウコの持つ剣を斬れるか疑っていた?
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