第17章――神弩、覚醒
金亀神の咆哮が、空一面に響き渡った。
「グオオオオ……ッ!!!」
衝撃波が地震のように広がっていく。
空中の艦隊は激しく揺れ、今まさにエネルギーを蓄えていた砲台が、一斉に消えた。黒い兵士たちは混乱する。
「いったい何が起きたんだ!?」
「あの怪物は何なんだ!?」
巨大な金亀神の身体が、徐々にヴォン古螺池の水面から姿を現していく。
湖の水は大波となって渦巻き、その甲羅はまるで古代の山脈のようだった。
甲羅には東山銅鼓の古代紋様が刻まれ、青い光を放っている。
その中央には、十四本の光を放つ太陽の紋章。
甲羅に刻まれたラク鳥たちは、まるでエネルギーの流れに合わせて動いているかのようだった。
ヴァン・ティエンはその前に立っていた。
その巨体を前にすれば、彼はまるで一粒の塵のように小さい。
彼は荒い息を吐いた。
「あなた……は……」
すると、古代の声が再び彼の心の中に響いた。
低く――深い。
まるで千年の歴史から響いてくるような声だった。
「我は、古代よりこの大地を守護してきた者」
「人々は我を……」
「金亀神と呼ぶ」
空の上で、段鉄は目を細めた。
彼は湖の中から現れた巨大な生物を見つめる。
「……神獣」
だが、その口元にはさらに冷たい笑みが浮かんだ。
「実に面白い」
そう言って、彼は手を上げた。
一隻の戦艦から、エネルギー砲が一発放たれる。
赤い光線が、ヴァン・ティエンめがけて一直線に降り注ぐ。
しかし――
ドォォォン!!
金亀神は瞬時に身体を回転させ、巨大な甲羅でヴァン・ティエンを守った。
エネルギー砲が甲羅に直撃し、大爆発を起こす。
だが――
そこには傷一つ残っていなかった。
段鉄が眉をひそめる。
「神級防御……」
その下で、古代の声が再び響いた。
「星力を宿す者よ」
「お前の身体は、すでに限界へ達している」
ヴァン・ティエンは拳を強く握った。
「大丈夫です」
「まだ……戦えます」
金亀神は数秒間、黙っていた。
そして――
「ならば、お前に一つ貸し与えよう」
その言葉が終わった瞬間、古螺城の大地が突然震え始めた。
ゴゴゴゴゴ……!
地面が裂け、巨大な構造物が大地の底からゆっくりと姿を現す。
黒い兵士たちは、それを見て呆然とした。
「あれは……何だ!?」
古螺城の中央に、巨大な弩が姿を現した。
全長数十メートルにも及ぶ巨大な神弩。
その表面には無数の古代紋様が刻まれ、弦はまるでエネルギーそのものから作られたかのように青い光を放っている。
そして中央には――
一本の神の矢。
青い光がその周囲を包み込んでいる。
ヴァン・ティエンは目の前の武器を見つめた。
「これは……」
金亀神が答える。
「連珠神弩」
「かつて我が安陽王に与え、この国を守るために使わせた神器だ」
「今……それをお前に貸そう」
しかし、神の声は重くなった。
「だが、これを起動するためには……」
「お前自身の生命力を使わなければならない」
「お前は……死ぬかもしれぬ」
ヴァン・ティエンは黙った。
彼は空を見上げる。
十万隻を超える戦艦が、空に浮かんでいる。
その下には、無数の人々が暮らすハノイの街。
父、母、ミン、トゥおばさん――そして、すべての人々。
ヴァン・ティエンは拳を強く握った。
「……もし、俺がやらなかったら」
「みんなが死ぬ」
彼は神弩の台座へと歩いていく。
そして、古代の弩に手を置こうとした、その時――
金亀神が突然、声を上げた。
「待て」
ヴァン・ティエンは振り返る。
「……?」
金亀神は低い声で言った。
「矢を放つ前に、お前に一つ与えよう」
そう言うと、金亀神は一本の足を持ち上げた。
そして――
自らの爪を一本、引き抜いた。
爪は静かに身体から離れた。
一滴の血も流れない。
金亀神は、その爪をヴァン・ティエンへ差し出した。
その瞬間――
爪は黄金色の光を放ち始めた。
まるで琥珀の宝石のように、美しく輝いている。
ヴァン・ティエンはそれを受け取り、困惑した表情を浮かべた。
「これは……?」
「これは――霊光金爪」
「我が国土を守るための、護国の爪だ」
「それを弩の弦を引く機構に取り付けよ」
「お前が弦を引けば、天地の霊気が集まり、万の矢となって敵軍を打ち砕くだろう」
「この古螺城の勝敗――」
「そして、この国の運命を……」
「今、すべてお前の手に託す」
ヴァン・ティエンは、手の中で燃えるように輝く神爪を見つめた。
千年もの間、流れ続けてきた力を感じる。
もう、迷いはなかった。
彼はすぐに神爪を弩の機構へ取り付けた。
その瞬間――
黄金色の光が、一気に爆発した。
まるで光る血管のような光の筋が、強固な木製の弩身を駆け抜け、巨大な弓の両端へと広がっていく。
ズズズズズ……!
地の底から、雷鳴のような低く重い音が響き渡った。
空気が一瞬にして重くなる。
その音を聞いた上空の兵士たちは、身体を震わせ、足を小刻みに震わせた。
突然――
ゴォォォォッ!!
猛烈な暴風が吹き荒れた。
ヴァン・ティエンが立つ神弩の周囲へ、風が渦を巻き始める。
山河、大地、天空――
天地の霊気が、まるですべて吸い込まれるように神弩の機構へ集まっていく。
その圧倒的な霊力によって、周囲のすべてが震え始めた。
ヴァン・ティエンは神弩の台座へ手を置いた。
そして、敵をまっすぐ見据える。
「なら……」
「必要なものを、全部持っていけ」
その瞬間――
首にかけた十字架のネックレスが、強烈な光を放った。
青いエネルギーが、彼の身体から神弩へと流れ込んでいく。
ドォォォン!!
神弩が激しく震え始める。
周囲の空間が歪んでいく。
段鉄はすぐに異変を察知した。
目を大きく見開く。
「何だと……?」
神弩の上にある矢が、突然分裂し始めた。
一本。
二本。
十本。
百本。
千本。
無数の矢が神弩の周囲に浮かび上がる。
まるで星の群れのように。
金亀神が空を見上げる。
「時は来た」
ヴァン・ティエンは弦を引いた。
身体が激しく震える。
口元から血が流れ落ちる。
それでも――
彼は引き続けた。
そして――
叫ぶ。
「撃てぇぇぇぇ!!」
ヒュン!!
無数の光の矢が空へと放たれた。
それらはさらに分裂し、数万本もの光の矢へと変わっていく。
まるで――
流星群。
ドォォン!!
ドォォン!!
ドォォン!!
最初の戦艦が爆発した。
続いて二隻目。
三隻目。
そして数秒のうちに――
ハノイの空は炎の海へと変わった。
無数の戦艦が次々と爆発していく。
黒い兵士たちは完全にパニックに陥った。
「こんな……あり得ない!!」
段鉄はその光景を見つめていた。
初めて――
彼の冷静な表情が消えた。
「……神器」
地上では、ヴァン・ティエンが膝をついた。
荒い呼吸。
口から流れる血。
それでも彼は顔を上げた。
燃えながら落下していく、数万隻もの戦艦を見つめる。
金亀神が彼を見つめる。
「お前は、代償を払った」
「だが……」
神は空を見上げる。
「戦いは……」
「まだ終わってはいない」




