第85章 ―― 嵐の後の流星雨 ( 中 )
だが――
その瞬間。
「……パキッ」
乾いた音が――
突然、響いた。
ベリオスの眉が――
ぴくりと動く。
「……今の音は?」
「パキッ……パキッ……パキッ……」
三つの音が続けて響く。
何が起きているのか――
ベリオスには分からない。
だが――
彼は突然、身体を起こした。
ヴァン・ティエンの杖先が触れている場所。
そこに――
深い亀裂が入っていた。
そしてそこから――
蜘蛛の巣のような亀裂が、エネルギーシールドの表面全体へ一気に広がっていく。
ベリオスの目が――
大きく見開かれた。
目の前で起きていることが――
信じられない。
そして――
「キィィン!!」
ベリオスが誇りにしていた電磁シールドが――
無数の光の欠片となって粉々に砕け散り、消滅した。
ベリオスは――
その場で完全に固まった。
何が起きたのかすら――
理解できない。
その瞬間を――
ヴァン・ティエンは逃さなかった。
歯を食いしばり――
勢いを利用して身体を一回転させる。
そして――
星雲天聚を大きく振り抜き――
ベリオスの腹部へ真っ直ぐ叩き込んだ。
「ドォォン!!」
千斤の力を込めた一撃。
ベリオスの身体が衝撃で大きく折れ曲がる。
「ガハッ!!」
大量の血を吐き――
その身体は砲弾のように遠くへ吹き飛んだ。
地面へ激突し――
そのまま長い距離を滑りながら、大地を深く抉っていく。
そして――
荒れ果てた田畑の中で動かなくなった。
ヴァン・ティエンは上空から地面へ飛び降りる。
「ハァ……ハァ……!」
激しく息を切らす。
胸が大きく上下し――
必死に酸素を取り込んでいる。
今こそ――
最大の好機。
ヴァン・ティエンはベリオスへ止めを刺すため、すぐに走り出そうとした。
だが――
数歩進んだところで。
突然――
目の前の景色がぼやけた。
激しい頭痛も同時に襲ってくる。
「……ッ!」
ヴァン・ティエンはすぐに足を止め――
星雲天聚を地面へ突き立てる。
もう片方の手で――
激しく痛む頭を押さえる。
そして――
煙と埃に覆われた戦場の中で、荒々しく息を吐き続けた。
一方――
ベリオスは田畑の上に倒れていた。
「ゴホッ……ゴホッ……!」
何度か激しく咳き込み――
手を地面につき、ゆっくりと立ち上がる。
身体がようやく真っ直ぐになった瞬間――
また激しく咳き込んだ。
そして――
口から大量の血を吐き出す。
ベリオスは口元から流れる血を、ゆっくりと拭った。
まだ――
信じられない。
そして――
受け入れることもできない。
自分が誇りにしていたシールドが――
ただのガキに破壊された。
そんなことが――
許せるはずがなかった。
一方――
ヴァン・ティエンの視界も、少しずつ元へ戻っていく。
頭痛はまだ激しい。
手もまだ頭に置いたまま。
それでも――
集中を失ってはいない。
敵は――
まだ目の前にいる。
ヴァン・ティエンはゆっくりと顔を上げ――
ベリオスを見た。
ベリオスは――
まだ衝撃から立ち直っていなかった。
そして突然――
「グオオオオオオオッ!!」
凄まじい咆哮を上げる。
その声が――
田園全体へ響き渡る。
咆哮が終わると――
ベリオスはヴァン・ティエンを睨みつけた。
今度の眼差しには――
怒りと憎しみしかなかった。
両目が――
真っ赤に充血している。
「お前は――」
「俺が最も誇りにしていたシールドを破壊した。」
「そのことを――」
「俺は絶対に許さない。」
「絶対に……お前を許さない。」
「覚悟しろ。」
そう言いながら――
ベリオスは拳を強く握る。
そして――
自分の胸へ拳を叩き込んだ。
しばしの静寂。
「バチッ……バチッ……」
胸の中央から――
青い雷がゆっくりと姿を現した。
今までとは違う。
より濃く――
より強烈な雷。
ベリオスの身体を取り巻く青い雷撃が――
激しく爆発する。
その衝撃で――
土や石が巻き上げられ、宙へ浮かび上がる。
ベリオスは目を細め――
ヴァン・ティエンを見つめる。
凶悪な笑みが――
口元へ浮かんだ。
「瀕死のお前一人を処理するなら――」
「この半分の力で十分すぎるほどだ!」
言い終わった瞬間――
ベリオスの姿が消えた。
一筋の雷光が――
空気を引き裂く。
そして――
一瞬でヴァン・ティエンの目の前へ現れる。
青い雷を纏った拳が――
脇腹へ叩き込まれた。
「ドォン!!」
「ガハッ!!」
ヴァン・ティエンは大量の血を吐き――
身体ごと吹き飛ばされた。
ひび割れた田畑へ何度も激突する。
骨の裂けるような激痛が――
頭の中を引き裂いていく。
視界が――
さらにぼやける。
速度も――
威力も。
ベリオスが完全に上回っていた。
ベリオスはすぐに追いつき――
身体を回転させ、ヴァン・ティエンの頭を狙って蹴りを放つ。
だが――
ヴァン・ティエンの手は本能的に星雲天聚を強く握った。
蹴りが頭へ届く、その瞬間――
腕が素早く上がり、杖で蹴りを受け止める。
ベリオスは驚き――
思わず声を漏らした。
「ほう……」
だが――
すぐに口元を歪める。
「だが、それだけじゃ俺は止められない!」
さらに――
もう片方の足で蹴りを放つ。
ヴァン・ティエンは歯を食いしばり、杖を持ち上げて防ぐ。
だが――
ベリオスは止まらない。
両手両足へ青い雷を纏わせ――
拳と蹴りを連続して叩き込んでくる。
ヴァン・ティエンは――
なんとか防ぐ。
だが今――
目の前の全てがぼやけている。
ベリオスの拳と蹴りは――
ただの青い光の筋にしか見えない。
いくつもの残像が――
夜を引き裂きながら、真っ直ぐ顔へ飛び込んでくる。
攻撃そのものは――
見えない。
だが――
空気を焼き尽くす熱。
耳元で鳴り響く雷の音。
それらが――
全てを教えてくれる。
今、ヴァン・ティエンが防げているのは――
本能。
そして――
星雲天聚の柔軟な動きのおかげだった。
しかし――
ベリオスの拳は、どんどん速くなる。
雷そのものの速度を利用し――
連続して拳を叩き込む。
そして――
一撃の蹴りが星雲天聚をすり抜け――
ヴァン・ティエンの腹部へ直撃した。
「ドォン!!」
凄まじい威力。
ヴァン・ティエンの身体が大きく折れ曲がり――
そのまま後方へ吹き飛んだ。
田畑を長く抉り――
広大な田園の中央で止まる。
そして――
煙と埃が立ち上がった。
遠くから――
ベリオスがゆっくり歩いてくる。
その視線の先には――
星雲天聚を支えにして、必死に立ち上がろうとしているヴァン・ティエン。
その眼差しには――
完全な侮蔑が浮かんでいた。
だが――
煙と埃の中から。
「……グッ……!」
低く――
重い咆哮が響いた。
ヴァン・ティエンの二色の瞳。
青と白の光が――
再び激しく燃え上がる。
前世で培われた戦闘本能が――
肉体の痛みを無理やり乗り越えていく。
ヴァン・ティエンは星雲天聚を強く回転させ――
その勢いを利用して身体ごと高く跳び上がる。
そして――
広い弧を描く一撃を放った。
夜空を――
真っ二つに切り裂くように。
ベリオスは――
完全に不意を突かれた。
「――ッ!」
避ける暇もなく――
杖の一撃が直撃する。
「ザシュッ……ドォォン!!」
星雲エネルギーの波が――
真正面から放たれた。
ベリオスの胸へ直撃し――
胸当てが大きくひび割れる。
身体が――
数十メートルも後方へ吹き飛ばされた。
そのまま地面へ二本の深い轍を刻みながら――
大きく後退する。
一方――
ヴァン・ティエンは星雲天聚を地面へ突き立てる。
そして――
激しく咳き込んだ。
「ゴホッ……ゴホッ……!」
今――
脇腹が激しく痛んでいる。
それだけではない。
頭も――
まだ激痛に襲われている。
まるで――
何千本もの赤く焼けた鋼鉄の針が、脳の奥へ突き刺さり、絶え間なく捻じ込まれているような痛み。
それでも――
今の危険な反撃は、ベリオスの自尊心を強烈に叩き潰した。
ベリオスはゆっくり立ち上がる。
鼻から流れる血を拭う。
その眼は――
完全に怒りで真っ赤になっていた。
「この……!」
「こんな瀕死の奴が……」
「俺を傷つけただと?!」
極限の怒りが――
ベリオスの理性を完全に奪っていく。
「今度は――」
「もう遊ばない。」
両手を強く握る。
全ての青い雷撃を――
両手へ凝縮する。
そして――
全力で自分の胸の中央へ拳を叩き込んだ。
「バチッ! バチッ! ドォォォン!!」
今度は――
濃密な青い雷が爆発した。
さらに濃い。
遥かに濃い。
ベリオスの瞳から――
完全に瞳孔が消えた。
そこにあるのは――
狂気に燃える二つの青い雷の炎だけ。
足元の地面は――
巨大な熱量に耐え切れず、溶け始める。
赤く燃える液状の泥へと変わっていく。
身体から放たれる強烈な磁場によって――
周囲の小石や瓦礫が、自然に宙へ浮かび上がる。
首や顔の血管が大きく浮き上がり――
青い光を放つ。
周囲の空気は――
巨大な熱量によって焼かれ、歪んでいく。
「今度こそ――」
「お前を必ず殺す!」
「死ぬ覚悟をしろ!」
だが――
その瞬間。
彼がその力の極限へ到達した、その瞬間だった。
大地が――
突然、激しく震え始めた。
そして――
惑星の深部から。
古く――
広大で――
原始的な圧力が爆発した。
それは――
目に見えない巨大な圧力の壁となり、ベリオスの胸へ真っ直ぐ叩き込まれる。
ベリオスの荒れ狂うエネルギーが――
その瞬間、強烈に押し返された。
異世界から来た巨大すぎるエネルギーが――
目に見えない封印の壁と激しく衝突する。
「な……」
「な、なんだこれは?!」
ベリオスは恐怖に目を見開く。
狂暴な雷撃が――
胸の内部へ強制的に押し戻された。
そして――
血管の中で爆発する。
「グハッ……!」
凄まじい反動が――
ベリオスの身体を激しく蝕む。
彼はよろめき――
暗い血を吐き出した。
全身が――
過負荷と深刻な損傷によって悲鳴を上げている。
ベリオスは荒い息を吐く。
胸の中央からは――
「バチ……バチ……」
という音だけが残り――
黒い煙が立ち上っていた。
彼は心の中で呟く。
「何なんだ……」
「今の力は……一体……」
だが――
彼が状況を理解するより先に。
ヴァン・ティエンが――
すでに目の前まで迫っていた。
そして――
星雲天聚を腹部へ叩き込む。
「グハッ!!」
ベリオスの身体が――
勢いよく折れ曲がり、そのまま木の根元へ吹き飛ばされた。
彼はそこで倒れ――
殴られた腹部を押さえる。
その視線の先。
遠くには――
星雲天聚を強く握りしめるヴァン・ティエンが立っていた。
その眼差しには――
強い決意が宿っている。
ベリオスは自分の身体を見下ろし――
小さく呟いた。
「……駄目だ。」
「このまま続けたら――」
「俺の身体が……持たない。」
しばし――
考える。
そして――
一つの決断を下した。
「仕方がない……」
「これを使うしかない。」
「もう他に機会はない。」
ベリオスは傷ついた身体を無理やり起こす。
そして――
空を見上げた。
次の瞬間――
地面を蹴って跳び上がる。
そのまま――
空中へ浮かび上がった。
眼下を見下ろし――
そして、ヴァン・ティエンへ視線を向ける。
地上のヴァン・ティエンには――
ベリオスが何をしようとしているのか分からない。
上空で――
ベリオスは低く唸る。
その声が――
空全体へ響き渡る。
胸の中央から――
一筋の光がゆっくりと生まれた。
それが一点へ集まり――
徐々に球体を形成していく。
「バチッ……バチッ……バチッ……」
周囲へ――
雷撃が集まり始める。
球体は――
ベリオスの胸ほどの大きさまで膨張した。
だが――
ベリオスは目を細める。
「……まだ足りない。」
彼は周囲を見渡した。
そこには――
無数の戦艦が宙に浮かんでいる。
ベリオスは何も言わず――
手の中の球体を高く掲げた。
球体が――
ゆっくりと回転し始める。
次の瞬間。
周囲の全ての戦艦から――
青いエネルギーが強制的に引き抜かれ始めた。
それらは――
狂ったようにベリオスの手の中の球体へ集まっていく。
球体は――
どんどん膨張する。
あらゆるエネルギーを――
飲み込んでいく。
そして僅かな時間の後。
それは――
小惑星にも匹敵する巨大なエネルギーの塊へと変貌した。
周囲の戦艦は――
エネルギーを完全に吸い尽くされる。
重力を失い――
大きく揺れながら、ゆっくりと落下していく。
ただ落下するだけではない。
頑丈な金属製の船体までもが――
次第にひび割れ。
無数の破片へと崩れ――
そして、無数の塵となって空から降り注いだ。
ベリオスは――
巨大な球体を持ち上げる。
そして――
ヴァン・ティエンを見下ろした。
その声は――
冷たい。
「この一撃で――」
「お前を終わらせる。」
地上では――
ヴァン・ティエンが星雲天聚を強く握りしめる。
全身は――
傷だらけ。
それでも――
その眼差しは、痛みを押し殺しながら鋭くなる。
揺るぎない決意が――
その瞳へ凝縮されていた。
上空のベリオスは――
ただ嘲笑う。
「安心しろ。」
「お前を――」
「すぐに楽にしてやる……」
一瞬――
言葉を止める。
そして――
空を焼き尽くすほどの熱を放つ巨大なエネルギー球を見上げる。
さらに――
遠くへ視線を向けた。
「だが――」
「この大きさじゃ……」
「お前だけじゃ済まない。」
ベリオスは――
地上を見下ろした。
遠くでは――
負傷した住民たちが、民兵や青年ボランティアたちによって応急処置を受け、避難を始めていた。
地上は――
混乱している。
それでも――
人の温かさが残っていた。
「こっちにも怪我人がいるぞ! 早く来てくれ!」
「役所の人! こっちは消毒液がもうない!」
青年ボランティアたちは――
足元の荒れた地面を慎重に進みながら、高齢者たちを支える。
「おじさん、足元に気をつけて!」
「ゆっくり歩いてください!」
小さな子供たちは涙を拭い――
恐怖でしゃくり上げる。
「怖いよ……ママ……」
一人の女性ボランティアが――
すぐにしゃがみ込み、子供を抱きしめる。
そして――
頭を撫でながら優しく慰める。
「いい子だから、怖がらないで。」
「大丈夫。きっと全部うまくいくよ。」
「お兄ちゃんやお姉ちゃんたちが、ここにいるからね!」
上空のベリオスは――
地上の人々を見ながら、再び口を開く。
「お前だけじゃない……」
「あそこにいる人間たちも――」
「巻き込まれる。」
そして――
最後にもう一度だけ、ヴァン・ティエンを見る。
そして――
冷たい笑みを浮かべた。
「さらばだ。」




