2 ミラージュ・マルセルの事情
貴族にとって兄弟、姉妹とは。
中にはとても仲良しな、絵本に出てくるような家庭もあるでしょう。
ですが、大半は足の引っ張り合い。
嫡男は弟に次期家督を奪われまいと躍起になり、弟はそんな長兄を蹴落とす策を練る。姉妹なら、相手より良い伴侶を求め、自分より姉や妹を下げる事に熱を入れる。
くだらない世界。
私は、そんな貴族に生を受けた。
さて、皆様ごきげんよう。
私の名はミラージュ・マルセル。
銀の髪に、透けるような紫の瞳を持っています。年齢は十七歳ですわ。
公爵家の長女で、二つ上に兄が一人、一つ下に妹がおりますの。
家は兄が継ぐので家督“だけ”は問題は起きないのですが、問題があるとすれば、私と妹ですわね。
「ミラージュ姉様、何処に行きますの?私も行きたいですわ」
ほら、今日もまた来ましたわ。
馬車の準備が出来たので、玄関ホールを出ようとしたのですが、見計らったように声をかけられましたわ。
金色のゆるくカールがかかる髪に、私と同じ紫の瞳。
ただ違うのは、その容姿。
「今日は王太子妃教育で城に上がりますと…昨日説明したでしょ?」
「姉様いいなぁ…私もお城、行きたいです!」
大きな瞳を潤ませ、庇護欲を誘う表情をする妹。
本人に自覚があるのかは不明ですが、この仕草を武器にして彼女は我が家のお姫様になっています。
本当、キツめの顔をした私とは正反対ですわ。
ほら、現に今も。
「ミラージュ、たまにはシシリーも一緒に連れて行ってやればいいじゃないか。殿下からは許可されているのだろう?」
出ましたわね。
空気読めない阿呆三号である我が兄。
妹と同じ色を持つ、容姿だけなら最高の阿呆ですわ。
あぁ、因みに一号と二号は父母。四号は妹ですわ。
「いくら殿下がいいと言われていたとして、シシリーが一緒の授業についてこれると、お兄様は本気でお考えですの?この子の学園での成績はお兄様も知っていらっしゃるでしょ?“また”恥をかくのはシシリーですのよ?」
言い方はキツイですが、本人のためですわ。
妃教育の先生方は厳しい方ばかり。
そんな環境に、この甘えた妹が耐えれるはずが無い事くらいすぐ分かるでしょうに。
「お姉様酷い!そうやっていつも“除け者”にするんだから!私はお姉様と一緒にいたいだけなのに!」
やれやれですわ。
側から見たら、姉を慕う健気な妹なのでしょうが。
実際は、単なる金魚のフンですわ。
この妹は、昔から私の行くとこ行くとこに付き纏い、迷惑をかけてくるついでに、いいところを全て掻っ攫っていくのです。
私が王命により王太子殿下の婚約者に選ばれた際も、やれ「姉様だけ狡い」だの、「私もお城に住みたい」だの言って……。
結果、婚約当初からの殿下とのお茶会には、かなりの確率で付いてきています。
正直言うと、貰ってもらえるなら、この立場を譲りたかったですが、この妹に国母が務まるわけがないのは火を見るより明らか。
王命ですし、仕方なく立場を受け入れていますが、殿下の心が昔から妹にあるのは明白。
(本当、クソ面倒だわ!)
「ミラージュ、いいじゃないか。授業についていけないなら、また見学をさせてやれば」
「そうですわ!別に、見学でしたら私も勉強になりますもの。お姉様お願ぁい」
ちょっと、何言ってるのか分かりませんわ。
この頭に花畑が咲き誇る阿呆どもは、何を言っているのかしら。
先週同じように付いてきて、城で一悶着あったのをもう忘れているの?
「シシリー、貴女先週も付いてきて、授業中に勝手に発言して先生に叱られたの記憶にありませんの?あのお門違いな発言のせいで、あの後大変でしたでしょうに」
「あ、あれは“先生が悪い”のですわ!カル様だってそう言ってました!」
…………はぁ?
因みに、カル…カルロスとは、王太子殿下の事です。
この妹、不敬にも名前で殿下を呼んでおりますの。しかも愛称。
それにしても、殿下が肯定なさるなんて…。
歴史の授業中、隣国とのやり取りについての考察をしていた中、見学していた妹は勝手に挙手し勝手に話し始めました。しかも内容はトンチンカン。確実に国際問題になる事を「いい事思いつきました!」と自慢げに。
先生も呆れ、妹を諭したのですが、妹は聞く耳持たず。
私があの後どれだけ先生に謝った事か。
その内容を殿下は肯定?
この国、将来大丈夫ですの?
ミラージュちゃんは、決して心が弱い子ではありません。
むしろ凛とした強ツヨな精神の持ち主なので、いくら阿呆家族に虐げられようと、「だから?」と言い返せる子です。




