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アイアシリーズ  作者: 南田萌菜(ナンディ・モイーナ)
あいちゃん

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 冷たいキッチン

 春風が心地良い。

 アイアの予想は外れ、愛子は随分と上手く半年も潜伏し続けた。

 

 アイアからの仕送りは月に一度ほど。

 潜伏開始から半年の間に斉藤の仕事が忙しくなったこともあり、直接会いに来たのは2度だけだった。


 それ以外はアイアそっくりの顔をした鳥がやってきて金を渡した。

 外の様子をカーテンの隙間から眺めた時にベランダにいたり、勝手口をカリカリ爪で引っ掻いて「ふかえのおなら!ふかえのおなら!」と舌っ足らずに鳴いたりしていた。


 買い物は土日や祝日の昼間、子供が買い物をしていてもおかしくない時間帯を選んだ。

 打ち捨てられた別荘地の前を歩くのは人目につくかと、裏手から山を越えて隣町の郊外型ショッピングモール、あえて混雑する場所、時間帯に行った。

 美人なので目立つことはあったかもしれないが、手配書が出回っているわけでもないので怪しまれることはなかった。


 それ以外の時間はずっと別荘で兄とのんびり暮らした。

 日に二度か三度簡単な食事を作り口に運んでやった。

 裏手の山の中に小さな沢があり、数日に一度水洗いのみの洗濯をした。

 

 今日は大丈夫かと、たまにはいいかと、ウッドデッキで文也を膝枕し頭を撫で、昔話のおじいさんとおばあさんのようだと思い、笑った。






 斉藤の旧友である下村知事は、愛子と文也の捜索について口添えすると返事をくれた。

 しかし実際にどのような対応をするかは警察の判断に任せるし、その具体的な内容については、あるいは本当に捜索の強化がなされたかどうかについては答えることはできないとも言っていた。

 もっともなことだと、斉藤は納得した。


 斉藤は文昭にこのことを伝えた。

 そしてこれ以上自分にできそうなことはないとも。

 20万を返したいとも。


 知事を通じて捜索の強化を打診するというきわめて現実的かつ意外な方法に文昭は驚いた。しかし何よりも強力なものだと感じた。

 文昭は感謝し、20万は受け取らなかった。


 それから定期的に警察から捜査の進捗について説明があった。

 はじめのうちは近隣の捜索をしていたものが、1カ月すると県庁所在地、そして他の都道府県警へも都市部を中心に捜索を依頼している旨が伝えられた。


 その説明が毎回なされ、つまりは何も進展していないのかと嘆息するも、毎回しっかりと警察に対し頭を下げ礼を告げた。


 見つからないかもな。そう思った。

 都市部を中心に捜索ということは、以前警察が言っていた通り駆け落ちの線が濃厚と考えているということだろう。

 文也の容態は気になるものの、それは文昭にとってはわずかながら安堵をもたらすものであった。

 

 生きてさえいれば、あるいは10年後に会いに来てくれるとか、そういうのがあればいいなと、そんなふうに考えた。

 息子の将来には期待していたが、思えば息子とともに過ごした時間は少なく、こういうのもバチなのかね、と嗤う事もあった。


 捜査の進捗とともに、助力への感謝を伝え、ついでに何か世間話でもと文昭は何度か斉藤に電話をかけた。

 しかし暇と聞いていた斉藤も次第に忙しくなっていったようで、出張(?)中だったり入院中だっりとあまり話すことができず、かけにくくなっていった。


 斉藤は知人の家族の、しかも若い者たちの安否は気になったし、自責の念もある。

 しかし本当にこれ以上自分にはできることはないと、次第にこのことを思う頻度は少なくなっていった。

 実の父親である文昭が駆け落ちならばと、そのことを少し楽観視しているのが斉藤にとっても救いとなっていた。






 ダイニングテーブルに律子は座っていた。


「そうですか、わかりました。いえ、どうもありがとうございます。はい、また」

 メモを取りつつ携帯電話をぱちんと閉じる。


 そして本棚からロードマップを取り出しめくる。

 めくり、戻し、メモを見て、そして目的のページ、目的の場所、海岸沿いのおそらく山林、緑色に塗られたところに目をつけた。

 そこに印をつけようとペンを近づけるも止めた。

 メモをやぶり立ち上がり、コンロで燃やした。


 しばらく目をつぶり考えると、再び携帯電話を開け操作する、


 天井を見上げてわずかに微笑む。

「もしもし、先生よ」

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