謎の噂
私の日課はエリーと話す事と孤児院に行く事です。
インメル侯爵家を王家が取り潰した事により、分家と伯爵家が後釜を狙って争っている様です。
欲塗れで酷い国です。
ですが孤児院の大人や子供は違います。
皆が未来に向かって一生懸命に頑張っているのです。
綺麗な心の色をしており濁りはありません。
ここにいると、貴族の事など忘れてしまいそうになります。
私が茫然と皆を見ているとクリスタが来ました。
「アリー王女様、最近になって孤児院の悪い噂が王都で蔓延しています。対策をしないと暴動に発展するかもしれません」
また貴族の嫌がらせですね。
曰く、孤児院は王国中から子供を攫っている。
曰く、都民の税金を無駄に使用している。
曰く、他国と戦争する準備をしている。
曰く、孤児院で皆を洗脳している。
なるほど。
大きな嘘の中に小さな本当の事を入れ、真実味を増しているのですね。
それが都民をより刺激しているのでしょう。
これだけの施設です。
孤児を特別扱いしていると思っているのかもしれませんね。
噂が自然消滅するのを待つのは嫌な予感がします。
噂には真実で対抗しましょう。
「クリスタ。ホルストを呼んできて下さい」
「かしこまりました」
ホルストが面倒くさいと顔に出しながらやって来ました。
子供の相手が楽しいのでしょう。
「ホルストは現在の王都の噂をご存じですか?」
「知っていますよ。何か俺に仕事ですか?」
「ええ。噂に噂をぶつけようと思いまして。噂を流す事は出来ますか?」
「出来るけど、結果は保証出来ないですよ」
「はい。結果を求めている訳ではありません。都民に真実を知ってもらうだけです」
「なるほど。では流す噂を教えて下さい」
「孤児院は潰した貴族のお金で運営されています。今まで孤児は貴族に売られたり、攫われて奴隷として働かされていました。男は労働奴隷、女は娼館です。そして、貴族の横暴により殺されてしまった孤児も沢山います。洗脳され薬漬けの子供も多くいるのです」
「改めて聞くと本当に酷い話だぜ。貴族の連中は頭がおかしいな」
ホルストは呟くと直ぐに王都に向かいました。
孤児院に火を点けられない根は真面目な方です。
孤児の惨状も知っているので王都の噂は許せないのかもしれません。
「クリスタ。後は静かに結果を待ちましょう」
「はい。ホルストも教師として頑張っていましたから、直ぐに戻ってきますよ」
教師をしていたのですか。
何を教えていたのか凄く興味がありますね。
王都の噂は15日程で自然と無くなりました。
しかも孤児院で勉強したいと言っていた人達も静かになったのです。
両親に現状を報告します。
「密偵として孤児院に入り込むつもりだったのかもしれませんね。孤児だけでなく平民も少しずつ貴族から救って行きましょう」
「ところでエリーとお茶会しないのか?」
「え?」
何を言っているんだろうこの人といった感じで、お父様を見上げます。
話しの流れと全く関係無いです。
お母様も呆れています。
お父様がかなり焦っています。
「い、いや。アリーの友達と話したいだけだよ」
「そうですか…。」
「あなた…。ヒルデに合格を貰ったらお茶会をしましょう」
私とお母様は完全に呆れています。
その話題を出すにしてもタイミングがあると思うのです。
お父様は少しずれているのかもしれませんね。
そんな事を考えつつヒルデの元に向かいます。
「ヒルデ。両親がエリーとお茶会を望んでいます。ヒルデに合格を貰ったら行いますので判断をよろしくお願いします」
「分かりました。誰の前に出ても恥ずかしくない淑女にしてみせましょう」
エリーごめんなさい。
今日から勉強がさらに厳しくなりそうです。
私に出来る事は何もありません。
お茶会を楽しみにしていますね。
我儘でお城に連れてきて辛い勉強をしてもらう、考えると私は最低な人ですね。
アリーは最低な女だと思っていますが、エリーからは感謝されています。