アルベルト 山狩り
俺は王女様達の中央を守る護衛騎士になる。
決意は随分前に固まっていたと思う。
しかし貴族の粛正が終わったと聞いた時に完全に固まった。
「随分と良い面構えになったじゃないか」
ケヴィンに揶揄われているのか褒められているのか…。
褒められた事にしておくか。
「貴族の粛正の終わりを聞いて決意が固まったのさ」
「そいつは良い。じゃあ中央に行く前に上手い肉を喰いたくないか?」
おいおい。
今回も王女様達が来るんだろ?
前回の様にはいかない気がするぜ。
「勘の良いお前なら分かっている思う。王女様達が来る」
「分かっている。要するにだ、逸っている馬鹿を管理して山狩りしろって事だろ?」
「流石だな。その通り。騎士には派手さも格好をつける必要も無い。常に命令に忠実でなければ、多くを守れないからな。隊長のお前の言う事すら聞けない様な奴は騎士にはなれないって事だ」
「その通り過ぎて反論は無いが難しいだろうな。皆が王女様の信者だぞ?」
「面白い例えだが、その通りだろう。でも勝手に動く信者は護衛騎士にいらないんだ。王女様を守ろうと勝手に動く騎士は危ない。多くのリスクを抱える事になる。それを見極める山狩りだ。説得はお前に任せるぞ」
「ああ、分かってる。信者でも命令通り動けば問題無いだろ?」
「その通りだな。命令通り動く信者なら歓迎だ。裏切りが無いからな」
「難しい課題だぜ。まあ中央行が迫っているからな。見極めが大切なのは分かった」
「クルト、騎士志望を全員集めろ、山狩りだ」
「分かったぜ、ボス」
さて、既にこいつらも感じているだろう。
王女様が食べに来る事は隠さない。
俺としては全員騎士になってもらいたいが適性もある。
無理なら別の仕事に就けば良いからな。
しかし今回は死ぬ危険がある。
格好をつけて獲物を追えば死ぬ確率を高めるだけだ。
それを理解してくれれば良いがな。
「集まりましたぜ」
「よし、今から山狩りに行くが今回はテストだ。騎士になれるかどうか大切な試験でもある。試験内容は簡単だ。隊長や班長の命令に従う事だ。分かっていると思うが王女様が食べに来る。そして俺の命令は単純だ。見栄を張るな、格好をつけるな、命令に忠実であれ。そして、これが騎士の条件だ。山狩りだが前回と同じ班分けにするが時間厳守で下りてこい。遅刻すれば騎士志望から違う仕事になってもらう。時間通りに下りて来ても班長の判断で騎士志望から降りてもらう可能性もある。簡単だろ?騎士は隊長に従う必要がある。班長に従う必要がある。王女様の為に働くが、王女様に見てもらう訳じゃない。王女様に見てもらいたいなら執事を目指せ。腕を自慢したいなら庭師を目指せ。仕事はいくらでもある。班長が暴走した場合、班長を除いて降りてきた場合は合格だ。班長が悪いからな。理解したな」
「分かりました!」
「よし山に向かうぞ。ちなみに獲物が重くて遅刻しても失格だ。当たり前だが獲物を置いて下りて来い。目標は無い。今回も夕暮れ前。太陽が山に隠れる時間と自分の場所を把握しろ。ぎりぎりまで粘って獲物を狙っても良いが結果は知らん、好きにしろ。それじゃあ出発だ」
「おぅ!」
さて、どうなる事やら。
最悪全員失格も有り得るからな。
完璧な王女様信者だからな。
「班に別れて山に登れ」
「行くぞー!」
「俺達の班は目標2匹だが時間厳守だ。分かったな」
「分かりました」
さて獲物を探すか。
あまり深く行き過ぎても戻れなくなる。
獲物を探す場所も大切だな。
下りる時間を考えると、ここら辺が限界だな。
(この辺で静かに獲物を探す。注意深く周りを観察しろ。見つけたら報告だ)
(分かりました)
なかなか見つからないな。
戦果なしは悲しいがそれも現実だ。
(いました。俺の視線の先です)
(…よし、猪だな)
襲ってくるか逃げるのか判断が難しいな。
(静かに左右と後ろに回り込め、そして俺が笛で合図したら一気に距離を詰めろ。俺はここで待つ。もし剣が届く距離まで近づけたら首に刺せ)
(分かりました)
よし、時間をかけて静かに回り込んでいるな。
先走っている奴もいない。
そろそろ同じ距離か。
俺は合図の笛を小さく吹いた。
猪は俺を把握したようだが、どうする?
逃げようとするか?
襲ってくるか?
…動かないな。
よし、3人一気に距離を詰めてる。
剣が届くまで後少しだ。
今だ刺せ!
俺は心の中で声を上げたが実際に剣を刺してくれた。
良かったぜ。
まさか猪も俺だけに注意を払うとは思わなかった。
上手く行ったな。
「よし、下山するぞ」
「分かりました」
時間はちょうど真昼間だな。
「猪の血抜きをして終了だ。無理をする必要は無い」
「分かりました」
俺の班は問題が起きにくい事は分かっていた。
スラムの頃から俺が指示していたんだ。
違和感なく指示に従ってくれた。
しかし他の班は違う。
班長になった奴はいままで対等だった奴だ。
そいつの言う事を聞けるかどうかが問題だ。
王女様の為に獲物を用意したいが命令が絶対だ。
それを理解しているかが問題だな。
あと1時間もすれば夕暮れだな。
またもクルトの班か。
あいつも大概の王女様信者だ。
どうなる事やら。
何だ、意外と早く下りて来たな。
全員揃っている。
…獲物は無しか。
全体で猪2匹、鹿3匹、十分だな。
「孤児院に帰る前に確認だ、命令違反、おかしな行動、何でも良いから問題があったと思う行動を言ってみてくれ」
「クルト班長が奥に行こうとしたのを皆で止めました」
「あれはまずいと思いました」
「そうだな」
「俺かよ?ボスの言う通りに時間通りに帰って来ただろうが。ねぇ、ボス」
「そうか…。クルト、お前は俺の手下か?今は班長だろ!奥まで行ったら時間通りに帰って来れなかったはずだ。班員全員を失格にする所だった。騎士失格だ」
「何で、俺はボスの…。俺は馬鹿じゃないっすか。ボスが隊長なら俺が班長だったんだ。全く理解していない。ボスの言う通りに動けば良いと思っていました」
やはりクルトか…。
お前は俺の言う事を聞く事に慣れ過ぎていた。
孤児院に来てからも俺の言う事を聞いていた。
だから人に指示出来ない。
結果、今回も個人で動いたんだ。
個人で動く人間は騎士になれない。
騎士は班で動くのが当たり前だからだ。
「せっかくだクルト。孤児で一番努力しているのは誰だ?」
「そりゃエリエッタじゃないですか?テストで一番でしたから」
「そうだな。じゃあエリエッタと模擬戦して勝てそうか?」
「そりゃ勝てますよ。あの子は勉強しかしてないでしょ」
「クルト、俺では教えてやれない。だからエリエッタから教えてもらう。王女様の隣にいる意味を」
「ボスらしくないですねー。騎士失格ですし次は何を目指しましょうかねー」
クルト、お前の言葉は軽いんだ。
王女様の近くで働きたいならそれでは駄目だ。
王女様達がいるな。
「良い戦果じゃない。今日も御馳走ね。さすがアルベルトだわ」
「王女様、褒められるのは嬉しいが少しお願いがあるんだ。エリエッタを貸してくれ」
「私ですか?」
「悪い事しないなら良いわよ」
「俺を何だと思ってるんだ!エリエッタ付いて来てくれ」
「分かりました」
「クルト、エリエッタと模擬戦だ。勝ったら騎士に合格だ」
「まじっすか?ボスはやっぱ優しいですね」
「エリエッタ。気絶しない程度で頼む。教えてやってくれ」
「分かりました。クルトさんが悩んでいる事は分かりませんが、頑張りますね」
「よし。2人とも構えて。・・・・始め!」
俺の予想通り強過ぎるな。
目で追う事さえ出来ない。
どれだけ努力したんだ。
剣もマナーも勉強も全て王女様の隣に相応しくなる為に努力したんだろう。
日常は地獄だろうな。
「はぇ?」
「これで良かったですか?」
「ああ、流石だよ。未来の女王様は俺の想像以上だぜ。同じ孤児だった身としては嬉しいね」
「ち、ちょっと待って下さい。エリエッタ、お前は剣を努力したのか?」
「全てです。王女様の隣に立つ為に全て努力しています」
「クルト、お前は勘違いをしている。王女様の近くで働きたいのは皆一緒。しかし違う事が1つある。それはな、王女様に近い程に努力の桁も覚悟も違うんだ。お前が全力で剣を振って休憩している間も剣を振る。寝ている間に勉強する。そういう世界なんだ。エリエッタが本気をだしたら即殺される。それが現実だ。俺では教えてやれない。エリエッタ、王女様の近くにいる為に考えている事を教えてやってくれ」
「クルトさん、私は命を懸けています。人生を全て懸けています」
それだけではあの域まで辿り着けないだろう。
孤児院でも地獄だったはず。
この子は常に地獄を歩いているんだな。
「クルト、お前に足りないのは覚悟だ。孤児は皆が苦しい思いをした。そして運良く王女様の側にいられる。働く事も出来る。しかしお前は知らない。王女様の近くにいる人がどれだけ地獄を歩いてきたのか。近くなればなるほど地獄の業火は熱くなる。お前は気持ちだけだったんだ、王女様の為になりたいという気持ちだけ。それでは足りないんだ」
「そういう事ですか…。なんか分かった気がします。せっかくだしエリエッタの今の本気を見せてくれ」
「剣を構えて下さい」
「ああ、いつぜもいいぜ」
「行きます!」
まじかよ…。
これ程とはな。
本気を頼まなくて良かったぜ。
「そうか。剣をいつの間にか真っ二つに切断出来る程の努力か。俺には考えられないな」
「クルト、次お前が何を目指しても良いが覚悟を持って挑め。俺はそれしか言えない」
「分かりました、ボス。根性入れて自分に合った仕事を考えてみます」
「エリエッタ助かったよ。まさか剣を切断出来るとは思っていなかったがな」
「クルトさんの迷いが晴れたなら良かったです」
王女様達が来たな。
「遅いわ!私のエリーを拘束し過ぎよ。悪い事をしていないか心配したじゃない」
「だから俺を何だと思っているんだ!どんだけ軽薄な男に見えるんだよ」
「アリー王女様。私は肉を捌いてきますね」
「本当にエリーは働き者ね。あなた達、迷いがあったのかしら?私が少しエリーがどれだけ訓練しているか教えてあげましょう。秘密って事になっているけど、セバスと立てなくなるまで毎日特訓よ。特訓の後は意識もほぼ無いから担架で運ばれるの。でも次の日、どれだけ体が激痛でも私の隣に立つわ、しかも痛みを悟らせないようにね。全部自分で願い出た事、それがエリーよ。勉強も特訓の前に全て終わらす。かなりセバスの強さに近付いているわ。凄いでしょ?私の友達だからね!」
凄過ぎるだろ。
言葉が出ない。
それは普通の人間には出来ない。
俺の考えていた地獄では生温いみたいだ。
ほんと、女王様になって幸せになって欲しと思っちまうな。
「凄いと思っていたが想像以上だ。俺の予想だと2人で女王様になると思うんだが、幸せにしてやってくれよ」
「なかなか鋭いわね。その通りよ。勿論エリーの幸せは私だけじゃない、王家が保証するから安心してね」
良い物を見せてもらったぜ!
俺もまだ努力出来る余地があるだろうが!
覚悟も固まったんだ、護衛騎士じゃない、女王様の近衛騎士を目指してやるよ!
アルベルトはエリーの近衛騎士になれそうですね。
クルトも根性入れ直せば良い仕事に就けそうです。




