閑話 アルベルト 剣を振る理由
人生でここまで充実した日々は無かったな。
王女様の孤児院改革は本気ですげーよ。
認めるしか無いわ。
まさかこれ程の事をしてくれているとは思わなかったからな。
孤児院を綺麗にしたりとか、食事が出る程度だと思っていた。
ここまで手厚い保護だとはな。
孤児の子供達が皆、勉強して笑顔で飯を食べてる。
当たり前の光景に思えるが、今までは誰も実現してこなかった。
それが王女様が本気出したら、ここまで変えちまうんだからまいっちまうぜ。
最近剣も振れる様になってきた。
だが、これじゃあ実戦では無理だろうな。
仮に貴族の討伐の話が来たら俺は行くだろうか?
斬れるのか、人間を。
今まで考えた事が無かった問題だ。
貴族に復讐したい気持ちはあるが戦場は別だと考えるべきだろう。
俺が100人隊の隊長なら気持ちだけでは駄目だ。
皆の命を考えないといけない。
悔しいが経験が無い、偶には相談するか。
「ケヴィン、相談したいんだが人を斬る時は何を考えている?」
「そうか。最近剣を振れる様になって来たから思い浮かぶんだろう?自分が人を殺せるか」
「ああ、その通りだ。恐らく正解なんてものは無いと思っているが聞きたくてな」
「俺の場合は守りたいものがあるし、死ねないという意志がある。だから目の前の敵は斬り殺してきた」
「そうか。死んだら妹が1人になっちまうからな。俺の中にある意志か」
「実際にどれだけ剣の腕が凄くても、人を斬ったら駄目になる奴もいる。体質もあると思う。あまり復讐とか考えない方が良い。自分が守りたいものの為に剣を振っていると思った方が楽だ」
「なる程な。復讐だと1人で背負っちまうって事か。やはり最初の1人は覚えているのか?」
「ああ、覚えている。無我夢中だったよ。自分が死にたくない思いだけで斬った。今でも夢に出てくる事もある。後悔はしていないが別の生き方もあったかもと思う時はやはりある」
近衛騎士までなってもそうなのか。
騎士で一番出世した男でも悩む世界か…。
「お前達は仲間の為に剣を振る事も、王女様の為に剣を振る事も出来る。それに引き返す事も出来るんだ。悲惨な人生だったとは思うが、今はこの上なく恵まれた環境にいるから好きな様に選べば良いと思うぞ」
「そうだな。ここの環境は恵まれ過ぎている。だから迷うんだろうな。贅沢な話だと自分でも思うぜ」
「俺の予想では、もう直ぐ人を斬る様な国ではなくなると思うぞ。国防の観点で騎士は必要だが、王女様が国を作り変えると思っている」
「孤児院を改革して、次は国まで改革しちまうのか、凄すぎるだろ。どこまで先頭を歩くんだよ」
「ああ、実際に凄いんだ。お前は見た事ないかもしれないが誰よりも危険な場所を平気で歩く。人の為にな。だからこそ守りたいと思う奴が多いんだ。お前もそうなるかもな」
「色々参考になったぜ、ありがとう。また悩みが出来たら聞いてくれ」
誰よりも危険な場所を平気で歩くか…。
俺もスラム街でボスと呼ばれていたが命までは狙われて無いからな。
命を狙われている状況で怯えてもいない。
多分、自分の命を一番大切にしていない。
知らなければ何とも思わないが、知ってしまったら守りたくなる気持ちも分かるな。
人の為に危険な道を歩き続けているんだ。
今まで出会ってこなかった人種だな。
人の上に立つ奴ってのは、ああいった人間の事を言うんだろうな。
本当に凄い王女様だぜ。
ケヴィンは近くで見て来たから感じるんだろう。
王女様が国を作り変えると。
考えれば考える程、王女様の命を守る理由ばかり思い浮かぶな。
俺も変えられたかもしれねーな。
いや、孤児は皆変わるだろうな。
好きにして良い環境で遊んでる奴がいないのがその証拠だ。
子供も大人も関係ない。
必死に変わろうとしているんだ。
王女様はそれを貴族に邪魔させないように、自分が盾になっているって事だ。
「クルト、お前は何で剣を振っているんだ?」
「最初は貴族に復讐するつもりだったんですがね、今は王女様を守ろうと思ってるんです。仲間を守る為に剣を振っていたら、王女様を守る事が一番仲間を守る事になるんじゃないかと思いやしてね」
「なる程な。間違ってないぜ」
「ですよね。王女様を守れば皆が幸せですよ」
クルトまでこれだ。
凄すぎて笑っちまうよ。
俺の意志か。
これから先は王女様の護衛騎士を目指して剣を振ってみるか!
誰のために剣を振るのか、孤児の皆が考えています。




