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未来予想図 Ⅱ

 

 小五にして、男の娘にして、母性を匂わせるほんわかお兄ちゃんを見つめながら。

 ケーキ入刀の先にある生活について思いを馳せる。



 その日は私とお兄ちゃんの誕生日。

 仕事をどうにか早く切り上げ家に帰ると、希海ちゃんと二人の子供たちがおめでとうと祝ってくれる。

 毎日我が家はゴールドラッシュ。

 お兄ちゃんとはお互いに、おめでとうと言い合う。

 改まると何だか少し照れくさい。


 希海ちゃんはお兄ちゃんに髪飾りか何かを、私にはヒールの折れたパンプスを、

 セシルからは似顔絵、セナは手先は器用だから石膏像くらいは作れるかな?

 皆それぞれにプレゼントをくれる。

 お兄ちゃんからも私にと、職場に持っていけるようなブランドバッグをくれる。

 そんな中私だけがプレゼントを出さない。

 誰もがそのことに触れないように気を遣う空気の中、セシルが遠慮なく、「ねー、セリカお母さんからはー? セイラお母さんにプレゼントはー?」と聞いてくる。

 この子はセナと違って、いつも自分の感情に素直だ。

 幼い自分の焼き直しを見ているようで、いつも私をむずがゆい気持ちにさせる。


 そしてそんなセシルの声に、私は「ああ、ごめーん」とか言ってみる。

 お兄ちゃんがすぐに、「セシルぅ!」と窘めると、私に向かって「い、いいよぉー。セリカちゃんお仕事頑張ってくれてるんだもん。気持ちだけで十分だよぉ。とんでもないよぉ」と言う。

 だが、そう言いながらも、ほんの一瞬だけ見せた寂しそうな顔を私は見逃さない。


 そこで私はいよいよかと、おもむろに立ち上がると、庭に面したガラス戸のカーテンを開ける。

 外はすでに暗く、ガラスには私の宝物である暖かい家庭の風景が映っている。

 皆が私の行動を不思議に思っているのが背中越しに伝わってくる。

 そろそろセシルが疑問の声をあげようかというタイミングで、私はガラス戸をカラカラと横にスライドさせる。


「うっわぁー……!」


 最初に声をあげたのはセナ。

 この子は引っ込み思案なところがあると毎回通知表に書かれては私たちを心配させるけど、かわいいものを前にしたときだけは感情が先に出る。

 そういうところは誰かさんにそっくりだ。


 庭には首にピンクのリボンを巻いた一匹のゴールデンレトリバーが、尻尾を振ってこっちを見ている。

 子犬にしようかとも思ったけど、初めて飼うということを考えて、訓練された成犬を選んだ。

 一年前からお兄ちゃんにばれないように、同僚とのランチも適度に断り、小遣いから少しずつためてきたのだ。


 セナとセシルが犬の首に抱き付き、そこに希海ちゃんも混ざる。

 庭先で跳ねまわる歓喜と興奮の声。

 でも一番聞きたい声がまだ聞こえてこない。

 焦れた私が振り返ると、それを待っていたかのように、程よいサイズの衝撃が胸に飛び込んできて、少し後ろにたたらを踏む。

 その人は私の背中に手を回し、胸に顔をうずめている。

 彼女が呼吸する度にワイシャツ越しに暖かい空気が入ってくる。

 そして私の胸の中でようやく顔だけをあげると、潤んだ碧い瞳でこちらを見つめ、少し湿った声で囁く。

「セリカちゃん、本当にね、本当に愛してるよぉ」

 私は兄から妻になったその人の髪を、わしわしと撫でる。

 すると途端にかわいく表情を曇らせ、

「もぉー、セリカちゃん、ボクは犬じゃないよぉー」

 と、ぷんすかと拗ねる。

 私は構わずその頬に手を添えると、子供たちがまだ犬に夢中なのを確認して、そっと唇を……くちびうを、うをうぉううぼふぉぁーーーーー!


 何だこれ! 最高最強人生バラ色超特急プランだな!

 二十三歳までにこれは達成しよう。

 くそっ! ちんたら小学生なんてやってらんねえよ! 早く大人になりたい!


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