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ゴールドブレンド。


「希海ちゃん」


「あ?」


「希海ちゃん」


「なになにー?」


 前者は私、後者はお兄ちゃん。

 前者には喉を掻っ切るように、後者には喉を鳴らすように。


「ねえ、希海ちゃんさ、私のこと嫌いかな?」


「嫌われてると思ってんの?」


「え、あ、うんちょっとね」


「好きの反対って何か知ってる?」


 つまり、興味ないってことですね。


 本来の私なら、こんなのとっくに髪の毛ひっ掴んで張り倒しているところである。

 ましてや年下。

 もちろん頭に来る。

 来るのだが、どうにもこうにもかわいいのである。

 どうにかこうにか取り入りたいと思う自分がいる。

 どうこうしても天使と妖精が織りなす、髪の毛編み編みの会に見習いからで構わないので参加したいのである。


「セイラ、すっごいいい匂いするー」


 そう言って、希海ちゃんは新たに編み直しているお兄ちゃんの髪の中に鼻をつっこみ、犬みたいにくんくんと匂いを嗅ぐ。

 私も嗅ぎたい、私も嗅いでほしい。


「え、ええー、どんな匂いかなー私も――」


「近付くな。匂いが混ざるやろ」


 そう言って、希海ちゃんが私の顔面に小さな手のひらを押し付ける。

 何という……何といういい匂いなんだこれ!

 お兄ちゃんの髪を触っていた匂いと、希海ちゃんの手のひらの汗の匂いが絶妙なブレンドだよ。

 金髪(ゴールド)ブレンドだよ!

 許されるならばこの手のひらを舐めたい。

 指の間まで私の唾液で濡らしてしまいたい。

 でも、そんなことをしたら彼女は私をどんな目で見るのだろう。

 ゴミでも見るような、今以上に蔑んだ目で私を見るのだろうか。

 想像するだけで震えが止まらない。

 喜びで。


「おい、偽妹」


 彼女は私のことを「偽妹」と呼ぶ。

 「義妹」ではなく「偽妹」なのだと、メモに書いてまで教えてくれた。


「な、何かな?」


 そして、私はそれを受け入れる。

 小三で「義妹」も「偽妹」も漢字で書けるなんて優秀すぎる。


「アイス買ってきて」


「うん、わかった」


「の、希海ちゃん。セリカちゃんも……」


 お兄ちゃんの心配する声は背中で聞いた。

 すでに私は病室を飛び出していた。

 一階の売店のアイスの入った冷凍ケースの前に来ると、腕を組んで考え込む。

 氷菓子にするか、クリーム系にするか。

 お兄ちゃんにはカップ系と決まっている。

 食べる速度よりも、溶けてなくなる方が早いからだ。

 問題は希海ちゃんだ。

 ここはパピコを買って仲良く半分こするというのはどうだろう?

 いや、待て。パピコならお兄ちゃんでも食べられる。あれは溶けてからが美味しいのだ。

 きっと希海ちゃんもお兄ちゃんとパピコるに違いない。

 私だってパピコりたい。

 メーカーは今すぐ三連パピコを開発してほしい。

 そうだ、パピコとカップアイスで問題ない。

 パピコ組に洩れても、カップアイスを看病の名の元、お兄ちゃんに食べさせて、そのヘラで私が食べる。そしてまたお兄ちゃんに食べさせる。何度も何度もお兄ちゃんの舐めたヘラを舐められるし、舐めさせられる。

 私天才だ。

 仮に希海ちゃんが横取りしてお兄ちゃんにあげたとしても、そのアイスは私の元に返ってくる。

 ゴールドブレンドされて返ってくる。

 完璧じゃないか。


 病院の廊下でスキップしそうになるのを堪えて、アイスの入ったレジ袋を手にお兄ちゃんの病室に戻る。

 少し時間が経ち過ぎたかと思いつつ病室の扉を開けると、私の姿を見るなりお兄ちゃんが口の前に人差し指を立てる仕草をする。

 希海ちゃんの姿がない。いや、あった。部屋の中に入ってすぐに見つけた。

 お兄ちゃんのベッドの中で眠っているじゃないか。

 子猫のように丸まってお兄ちゃんの病院着の裾をぎゅっと掴んでいる。

 すーすーと寝息を立てるのに合わせて小さな背中がわずかに上下する。

 もう犯罪的なかわいさである。犯罪を起こしたくなる的なかわいさである。犯行動機はもにゃもにゃしてやった。


「お姉ちゃん……」


 希海ちゃんの寝言に、きょとんとしたのち、その髪を優しく撫で付けるお兄ちゃん。

 ああ……ああ。希海ちゃんにお姉ちゃんと呼ばれるお兄ちゃんも羨ましいし、お兄ちゃんに髪を撫でてもらえる希海ちゃんも羨ましいし、どっちも欲しい! どうしよう! どうしたらいい? じゃあ私、この二人を支えるベッドになりたい! 


 作業途中で寝てしまったのであろう、お兄ちゃんの右側の髪だけが三つ編みで、片方はそのまま降ろしてある。

 これはこれで何ともそそるものがある。


「セリカちゃん」


「なに?」


「希海ちゃんのこと怒らないでねぇ」


「うん、怒ってないよ」


「本当にいい子なんだよぉ」


 お兄ちゃんの中に「悪い人」という概念はないので、人類皆「良い人」に分類されるんだろうけど、それとは違うというのはお兄ちゃんの希海ちゃんを見る目を見たらわかる。

 何とも愛おしいものを見る目だ。

 まるで子供の寝顔を見る、お母さんみたいだ。

 もう、何ていうか。

 本当に今すぐ結婚したい。結婚してください。

 病めるときも健やかなるときも、寝ても覚めても、生きても死んでも、例え世界を敵に回しても、お兄ちゃんを愛し愛し愛し貫くことを全力全開で誓える。


 決めた決めた。今決めた。

 私はお兄ちゃんと結婚して、希海ちゃんを妹にする。

 でもそうなると、未来の愛息子、愛娘であるセナとセシルからは「叔母さん」になるのか?

 肩書だけとはいえ、希海ちゃんが叔母さんと呼ばれるのは何か嫌だ。

 二人には年の離れたお姉ちゃんだと言って教えよう。

 そして二人が中学に入るときに、本当のことを話す。

 最初は少し驚くだろうけど、そこは私とお兄ちゃんの子なので、すぐに受け入れて、

 「それでも希海お姉ちゃんは希海お姉ちゃんだよぉ」

 「希海姉にはおしゃれとか、恋愛とか色々教わることも多いしね」

 なんて言う。

 こらこらセシル、まだ恋愛は早いんじゃない? ふふふっ。


「ふへへ……」


「セリカちゃん?」


「なに? セイラお母さん」


「お、おか……?」


「何でもない、こっちの話これからの話」


「何かいいことあったのかなぁ? セリカちゃん嬉しそうな顔してる」


「うんうん。これからいいことがあるんだよ。私頑張って働くから、暖かい家庭を作ろうね」


「え、えーと……うん、よくわからないけど、暖かいお家がいいねぇ」


 よし、私たちは今ここに婚約しました。

 帰りコンビニでケーキ買って、初めての共同作業、ケーキ入刀の練習しよう。

 


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