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紙上史  作者: こーりょ
3 手がかりを追って
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3-22 出発へむけて

 このウォルノール国で一番力があり、所属人数の多いギルドは軍だ。たとえ狩猟ギルド【ぽぽーん】が強く、賞を受け取れるようなギルドだったとしても、軍の強さはそれとは比べものにならない。いくら仲のいい友達が傷つけられ、それに怒りを強く感じていたとしても、数カ所に点在する軍の拠点に乗り込んだところで五百を超える人数相手じゃ到底太刀打ちはできないだろう。


 これは意地だ。


 乗り込んできた軍人をほぼ全員殺したとしても晴らせない軍への怒りを晴らす、一種の意地だ。自覚はしている。そして、一番に行くと啖呵をきった津島も、それは感じているのだろう。

 皆でロユの家から帰宅したその日の夜更け。チオリはキッチンの水回りを掃除しながら、リビングに誰もいないのをいいことに息を吐き出した。

 しんと静まり返った部屋にそれは存外大きく響き、孤独さをより一層自覚させる。


「————なにため息ついてんの」


 いるはずのない人の声に体が跳ねあがる。すでに寝ていると思っていたが、そうではなかったらしい。あわてて浮かべた笑顔を上げて、取り繕うようにチオリは挨拶をする。


「おはよう、メリィ。……ため息なんてついとらんよ」

「そ。……ねえ、なんか食べるもんない? 久しぶりに家で眠れるのはいいけど、お腹空いちゃって」


 そう言ったメリィはリビングのテーブルにつき、一つの深いため息をこぼす。シフォー・カロユの治療もある程度落ちついたため、ひさしぶりに家に戻ってきていたのだが、どうにも寝付けないようだった。

 そうそうセンチメンタルにはさせてもらえないらしい。嫌な思考から逃避できたことへ安堵しつつ、チオリはそれまで雑巾を握っていた手を洗う。


「やっぱりエリギの人の力は圧倒的だわ……。自分の無力さが嫌んなっちゃう」

「珍しいな。メリィがそんなこと言うん」

「なに、いつも自信たっぷりって言いたいの??」

「メリィは基本そういう弱音、人に漏らさんでしょ」


 チオリは言いながら、簡単に作れるものを思案する。軽く肉を炒めて、野菜を添えるか。それともがっつり食べたいだろうか。

 ミヨ・トッペスによる二月の力という強い力を目の前にしてめずらしく弱った様子の姉を横目で見て、そういえば。と食料庫の中で冷やしてあったものを思い出す。

 チオリが床に膝をつき、食料庫の中身を漁り始めたところでメリィが再び口を開いた。


「チオリだって普段、さっきみたいなため息つかないじゃん。少なくとも私たちの前では。……そういえば、結局みんなはルベルグの山に行くことにしたんだってね」

「ああ。トッペスから聞いたんか」

「バカだよ。ロユがあそこまでされたのに行くなんて」

「ええよ。メリィは無理して来んで。わたしたちだけでだって……」


 言いながら、頬杖をつくメリィの前に小皿を置いた。

 それを視界に入れた瞬間、それまでつまらなさそうにしていた彼女は目をパッと輝かせる。


「プリンだ!!!」

「あっ、こらうるさい! エグ兄寝とるんやから静かにせえ!」

「おっと。ごめんごめん。チオリってば人の心が読めるの? 丁度食べたいと思っていたものが出てくるなんて!」


 メリィはスプーンを手に取り食事の挨拶をした後、周りに盛り付けたフルーツを口に入れて頬を緩める。そんな様にチオリは口角を上げた。


「深夜のおやつは太るで」

「絶交」

「ああっ。許して」

「……ついて行くに決まってんじゃん。居なくたって問題ないなんてお願いだから言わないで。役に立たなくったってがんばるから」


 その言葉にチオリは動きを止める。一拍おいて、ルベルグの山へ行く話だと気がつき、うろたえた。


「あの、あのさあ。役に立たないとかそういうのやめーや。基準をトッペスにしたら負けやで。ベニヒ達がこの集落から出て行って結構経ってるから忘れてたかもしれへんけど、あいつらはバケモンやろ」

「……人のことバケモンとかいうの良くないと思う」

「じゃあカイブツ。とにかく、あの人たちとわたしたちは、全く違う人種だって思った方がええんやって。持ってる力の種類が違うんやから。メリィは普通の人でしょうよ。頑張っている自分を否定せんといて。……それに、さっきはああ言ったけども、世話焼きなメリィはなんだかんだ来てくれるってわかっとったよ。だからこその五日後出発なわけだし」


 その言葉にメリィは手を止め、顔を上げた。部屋を無言の空気が包む。なんの反応もない姉にチオリが少しこそばゆくなったところで、メリィはぐにゃりと顔を崩した。ぼろぼろと涙をこぼし始めた姉にチオリは目を丸くする。

 なんと声をかければいいかわからなくて、半ばパニックになりつつ手元にあった布巾を差し出でばメリィはそれで豪快に顔をぬぐった。 続けて大きく鼻をかんで、息を吸う。次にその薄い唇から吐き出されたのは、糾弾にも似た叫びだった。


「本当にチオリの言う通りだ!! 力の大きさが絶大すぎたんだ、怖かった!! 血が止まらなくて、私じゃ作った薬を塗る程度じゃ腕の比較的浅い傷の血をなんとか止める程度しかできなかったのに、ミヨちゃんは……ミヨちゃんは、深い傷をどんどん直してくんだ。あと一つ残さずに!!

 死ぬと決まった人を生き返らせるようで……そんな力を目の前にしたら、どうしようもなく怖かったし不気味に感じてしまって、でもその強い力が凄いのは確かで、わたしには到底手に届かないもので……一生懸命寝ないでがんばってる友達が怖くなるわたしが嫌で、無力なのがつらくて、ほんと!! もうやだ! 臆病っていうか!」


 ぐしぐしと布巾で顔を拭いながらそう叫ぶ姉に、チオリは未だ言葉が見つからない。

 そもそも生まれてこのかた、女性に目の前で泣かれたことなんてこれで二度目だ。普段は強気な姉が一転し弱った姿におろおろとし続けるだけのチオリに対し、メリィはふとなにかに気がついたのか布巾から顔を上げた。布巾の裏、表を確認し、眉間にしわを寄せる。


「チオリ!! これ台布巾じゃん!!」

「えっ。うわ本当や! ごめん!」

「もー最悪!なんかちょっと臭いと思ったら!」


 笑いながら持っていた布巾をチオリに投げつけ、目尻に残る涙をぬぐう。


「……困らせたね、ごめんね」

「困ったけど、謝まらんでええよ。こちらこそごめん。その……台ふきん渡してもうて」

「いーよ。ビービー泣き続けてエグ兄起こしてしまったら必要以上に心配されちゃっただろうし」


 メリィはそう言いながら、プリンの残りをぺろりと平らげた。


「おいしかった。チオリ、どうもありがと。すっきりしたよ」


 両手を合わせて、一息つく。そして、なにやら言葉を選ぶように考えたのちメリィはニッと歯を見せて笑った。


「わたしはできた弟を持って幸せだね!」


 それに虚をつかれたチオリは、慌てて我に返って眉を下げる。


「…………どういたしまして」


 まるで自分の考えを見透かしているようじゃないか。と、なんだか嬉しくなって笑ってしまう。

 それにメリィは安堵したように微笑んだ。


「チオリもくだらないことでウジウジしてないで早く寝なよ。そろそろ夜も明るくなる時期なんだから、寝ないと辛くなるっしょ」

「言われんでも」


 もしも自分が傷ついたとき、悲しんでくれる人はここには居るだろうか。

 シフォー・カロユが大怪我を負った今回の件で、めずらしく怒りを現にするエグバリーを目の前にした時、ふとチオリはそんな疑問を抱いた。


 誰かから傷つけられたとき、はたして姉は、兄は……この集落の人たちは、わたしを傷つけた人に怒りを感じてくれるのだろうか。


——わたしは、姉や、兄の弟になれているだろうか。


 しかしメリィの言葉はそんなものは杞憂だと言うように、くだらないチオリの不安を簡単に崩してみせたのだ。

 心の底を読むように、いつもの軽い笑顔に、目をほんの少し赤くして。


×××


 つぎの日、天が暗くなり始める時間帯に、津島と空は世界学者シフォー・カロユの家の扉の前にいた。先に立つ空が息を吸って、その扉を叩く。

 ロユの現状が気になると津島が言ったのは、広場から家へと帰る道の途中でのことだった。


 返事がないのはわかっているから、そのままドアノブに手を——


「あら二人とも、いらっしゃい」


 ドアノブに手をかけようとしたところで、扉が内側から開けられた。

 白いラフなワンピースに身をつつみ、普段はまとめられているオレンジの髪が下ろされている。

 それは紛れもなく世界学の学者であり、昨日まで硬く目を閉ざしていたシフォー・カロユだった。

「ろ、ロユ!?」

 ひっくり返った空の声に、彼女は不愉快さを露わにする。

「……なによ、起きていて大丈夫なのかっていいたいの?」

「起きていて大丈夫なのか????」

「同じことを繰り返さないでもらえる?」


 昨日までの白い顔はどこへ行った?


 少しばかり動揺する。

 開く気配のなかったまぶたは、今やしっかりと開いて緑の瞳が津島と空を映しており、顔色もいたって健康そうである。

 目を丸くする空と言葉も出ない様子の津島に、シフォー・カロユは肩をすくめた。


「激しい運動をしなければいいんじゃない? ミヨには起きちゃダメって口うるさく言われてるど、もうこんなにぴんぴんしているんだもの。

 逆に寝ているだけじゃ落ち着かない」

「……無事治ってよかった。ほ、本当に危なかったんだよ!? 顔が真っ青で……」

「ありがと。どれだけやばかったかなんて、当事者であるあたしが一番わかってるわよ。なんで生きているのかわかんない。ミヨに感謝しなくっちゃね。二人にも……悪かったわ。心配かけて」

「いや!!! 俺は本気で治そうとしてるミヨさん見たら大丈夫かなっておもったよ!!! メリィさんもつきっきりで看病してた。 ミヨさんが大きな怪我を治療している間、小さな怪我の血を止めていたのはメリィの薬だったって聞いたし!!」

「あら!! メリィ、もうちゃんと回復魔法つかえるようになったのね!? それで二人は……もしかして、見舞いに来てくれたのかしら」


 首をかしげるロユに空はこくりと頷いた。


「状況は昨日と変わらずだとおもってたら起きてるんだもん!!! びっくりしたぜ! 晩御飯の時間帯で申し訳ないんだけど……」

「あら、時間なんて気にしないわ。どうもありがとう。せっかくだから入って」

 扉を大きく開けるロユに、空はニッと歯を大きく見せて笑い、津島はぺこりと頭を下げた。

「ありがとう!! おじゃまします!!!」


「はじまりの樹へ行く話はやっぱりなくなってしまった? いつまでも人任せにしないで防衛くらい自分で出来ないとダメね」


 テーブルに淹れたてのお茶を置きながら、ロユは申し訳なさそうな顔をする。

 「いらっしゃい」と早口で出迎えてくれたインピィは、早々に窓際で寝息をたてはじめている。


 思えば、カーテンが開けられたこの家を見るのもすごく久しぶりだ。ロユの治療を行っている間は、常に閉めきられていた。いまは窓も開け放たれ、夜の冷たく新鮮な風が室内を通り抜けている。


「はじまりの樹へはあと三日で出発する予定だったよ」

「あら、予想と違う」


 津島の言葉へ目を丸めるシフォー・カロユ。その反応に、現状をあまり聞かされていないと感じた津島と空は、シフォー・カロユにいろいろな話をした。彼女が寝ている間に起きたことを。集落の、エグバリーの、チオリの、皆の怒りを。そして、みんなの決定を。


「軍の圧力程度には負けない……か。カズ、そんな格好いいこというような子だったっけ?」

「あのときは勢いで……空! こんなとこまで言う必要はなかったじゃん……」


 恥ずかしそうに前髪を引っ張り、歯を噛みしめる津島にシフォー・カロユはとても嬉しそうな顔をする。


「必要なところよ、そういう決意って。計画があたしのせいで破たんしてなくてよかったわ」

「ロユが起きたってわかったらエグバリーさんもチオリも治るまで待つとおもうぜ!! せっかくだし、ロユも一緒に……」

「バカ言わないで。ただでさえあたしのせいで遅れさせてしまった計画を、さらに遅らせることなんてできないわ」


 シフォー・カロユは眉を寄せ、続ける。


「あたしが治す。……ううん。ミヨに治してもらう。の方が正しいわね。あと三日で、完治させてもらうわ。

 ありがたいことに、立つことも歩くこともさほど苦労しなかった。三日間練習すれば、また走ることも可能のはず。皆に遅れをとらない程度にね」

「大丈夫なのか?」

「当然よ。今日はきてくれてありがと。はじまりの樹の件について聞くことができてよかったわ。……ああそうだ。ベニヒにも早いところ謝りに行かないと」


 伏せられる緑の瞳に、津島はアホ毛を揺らし首をかしげる。


「ベニヒさんに??? なんで??」

「クロメールと世界の幸はベニヒの家にあったものでしょう? 奪われちゃったから、軍人に。あれは本来個人で所持することが許されない本。やっぱり軍人には感づかれていたのね、学問の街でいろいろ資料漁りしたのが原因かしら……。エリギでこそこそ計画をしてる分には大丈夫と高を括ってたわ」


 くやしそうに唇を噛むロユに、空はなんと言えばいいかわからなかった。ベニヒの本だからこそ、彼女は本を取り上げる軍人に抵抗したのだ。そうしてその結果、瀕死の大怪我をすることになってしまった。

 他人のために命を顧みない。友達想いだと言えばいいのかなんなのか、空には到底理解できない感情だと思った。してみたいという気持ちが、ないわけではなかった。


 夕方、借家に帰宅した二人は目を丸くする。木製の扉を入った先のリビングダイニングルーム。そこに置かれたソファー達に埋もれるようにして人が横になっていたからだ。その人はうつ伏せで眠っているようだった。顔は見えなかったが、エグバリーやメリィと比べると色が濃く長い金髪。そしてスカートのように広がる作りのズボンには見覚えがある。


「ミヨさん……だね」


 狩猟ギルドぽぽーんの回復係であり、現在負傷中のシフォー・カロユを治療している、ミヨ・トッペスその人である。この家はもともと、彼女が所属するぽぽーんのものだったのだから、彼女がいることはおかしいことではない。連日の回復作業で疲労しているのだろう。熟睡している彼女を起こさぬよう、できるだけ物音を立てず自室に荷物を置いた二人は、そのまま静かに夕飯の準備を始めた。


 野菜を洗うのにもできるだけ静かに、フライパンを置くのも息を潜めて。うっかり皿の音を立ててしまえば息を飲んでソファーの方を確認し、息を吐き出すような準備時間。しかし料理が完成に近づくにつれ、部屋には香ばしい香りが充満してゆく。


「……おなかすいた」


 聞こえた声にあわてて後方を振り返った二人の視界の中心で、今まさにミヨ・トッペスが体を起こそうとしていた。


 三人で食卓を囲んだところで、彼女は小さく頭を下げる。


「悪いね。ロユの家で眠っていたつもりだったのに、無意識のうちにこの家に戻ってきてたみたいで。そのうえ夕飯まで」

「あっ、そんな! この家を借りているのは自分たちですから。ご飯も、お口に合えばいいのですが」


 ミヨに食事を出すのは初めてなため、いささか不安なところがある。スプーンを口に運ぶ横顔をチラチラ見ていると、彼女は「何見てんの」と苦笑した。

 しかし変な心配は必要なかったらしい。ペロリと皿を空っぽにした彼女は食器をひとまとめにしたのち「美味しかった」とつぶやいて、満足げに口角を引き上げた。喜びの色が映るその瞳に津島と空が嬉しくなって小さく笑うと、ミヨ・トッペスは恥ずかしくなったらしい。その表情を普段の無表情に戻してしまった。


「ロユは、本気なのかな」


 食器を片付けた後。リビングのテーブルで食後のお茶を啜るなかで、一人難しい顔をするミヨ・トッペスがぽろりと言葉を零した。言葉の意味がわからず首をかしげる津島へ、彼女は言葉を続ける。


「ロユの怪我が治ったのは、トッペスが二月の精錬でもらった力を使ったから。でもこれ、使用される側がひどい苦痛を感じるから、あまり派手な怪我を治そうとすると、身体と心が耐えきれなくて砕けちゃうんだよね」

「砕け……?」

「うん。前にソラには話したでしょ、トッペスのは治療する能力じゃなくて、物が持つ能力を選んで底上げする方法。戦闘能力だってやろうと思えばあげられる。けど、普段はそのうちの自己治癒能力だけを引き上げているってだけ。すると当然、人の体は悲鳴をあげる。なにせ何週もかけてゆっくり治すべきものを無理やり、急激に直そうとしているんだからね。脳を活性化させて、体の細胞達をむりやり動かす。体力の無い幼子や老人にやったら一発」


 軽く握った手をパッと開く。破裂や消滅を感じさせるその仕草に、津島は顔を青くした。


「だから使える相手は限られるし、限度っていうのもしっかり把握しとかなきゃいけない。基本的に便利な能力っていうのは、なんかしらの代償がついてるんだよ。それをわかっていない人たちは、トッペスの力をただただ都合のいいものとして好き勝手に使いたがるんだ。

 ……話を戻すね。ロユはいま、既にその限度ギリギリを掠める治療を終えた後なのにも関わらず、さらに上の治療をするように言ってきてる。治療のために命を手放そうとするってどういう魂胆よ。折角拾った命だっていうのに」


 始終面倒臭げながらもしっかりと説明を終えたミヨ・トッペスは、さてと。と短く息を吐いて立ち上がる。


「ごはんごちそうさま。へんな話聞かせちゃってごめん。明日まで一室使わせてもらいたいんだけどいいかな?」


 断る理由などあるはずがない。話の礼と共に二人は、奥の一室へと消えてゆくミヨ・トッペスの背を見送った。


 そうして次の日。ターナ家にて、久しぶりに昼食を一緒にしたメリィは食後のお茶にため息をつきながらぼやいた。


「ミヨから全部任せてくれていいって言ってくれたからこうして帰ってきたけど、でも本当に大丈夫なのかな。やっぱりあと三日でロユの怪我を完治させるのはミヨでも難しいのかも……」

「治療に耐えきれずに体が壊れちゃうかも……って昨日言っていました。 難しいというよりロユの体が心配なんだと思います」

「ふぅーん」


 興味なさげに息を吐いたのはチオリだ。メリィはそれにぶくっと頬を膨らませる。


「チオリ、いーかげん仲直りしなよ!」

「喧嘩してへんし。直す仲なんてあらへんし」

「だからって、ミヨの名前出すととたんに不機嫌そうなツラすんのやめて欲しいな! 意識するあまり好きな子に意地悪する学童みたいじゃん」

「喧嘩するだけ仲良しってことだろ」

「誰が誰と仲良しやって? こらお前ら」


「おじゃましまあす」


 大きな声を遮るように、気の抜けた声と玄関の扉が開く音がした。椅子から立ち上がりかけていたチオリはその突然の訪問者にすとんと腰を落とし、メリィもずれおちた眼鏡をそのままに玄関へと繋がる扉を見つめる。そうしてみんなが見守る中、二重玄関の二枚目とも言える扉がそっと開かれた。


「おや。偶然。ソラくんとカズくんもいるんだね」


 扉から顔をだしてそう言ったのは、うぐいす色の制服をその身にまとった軍人フォーンだった。気の抜けた笑顔をにこにこと浮かべて、するりと部屋の中に入ってくる。唖然とするエグバリーはじめ五人は、同時にフォーンの後ろにいる人影に気がついて目を丸くした。


「ロユ!!! だめじゃん! まだ起きて一日経ってないんだから……!!」

「もう外に出ても大丈夫なんか!」

「ええ、まあ。おじゃまします。少しでない間に外めっきり寒くなったわね。お昼どきにごめんなさい。丁度家にフォーンが顔を出してくれたから、一緒に来てもらうことにしたの。頼りないけど一人でほっつき歩かない分マシだと思って。ま、フォーンがいなくてもインピィがいるけど」


 そう言いながら抱えた狐の頬を人差し指で擦ったシフォー・カロユは、慌てて食器を片付けた五人へ顔を向ける。


「時間大丈夫かしら。はじまりの樹へ行くための、作戦会議をさせてもらいたいの」


 部屋の空気を変えるその一言に、津島は小さく唾を飲み込んだ。

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