3-1 アニトシエーリの願
せわしなく動く軍人を一瞥したミヨ・トッペスは、ブラウの門柱に寄りかかったままため息をついた。
触らなくとも指通りの良さを感じさせる金の髪が肩甲骨の下で揺れる。
「もしかしたらこれが、最後のお別れになってしまうかもしれないんだ」
「それならそれでいいことじゃん。彼らの目的は果たされるわけなんだからさ」
零れた言葉を茶化すような声色ですくい上げるのはグルーン。
動きやすさを一番に考え装飾品の一切無いシンプルな服を身につけた彼は、どこにも寄りかからずミヨの隣に立つ。
「さみしくなるね?」
「まさか。ぽぽーんに入りたいってしつこい子が減って、むしろホッとするよ」
言葉の合間に、軍人がバタバタと門を走り抜けてゆく。
なんとなしにそれを視線で追うと、一ヶ月ほど前にできた——否、空が作った、爆発の跡にたどり着く。
一番見合う武器はなにかと模索しようとした夜のできごとだ。遠い昔のようで、ついこの間のできごとである。
爆発と共に焼けこげた周囲の雑草はいまだ復活する兆しが無く、根から燃やし尽くされたことをありありと現している。
今、その爆発地の中心には男が立っていた。白いローブを身にまとい、鈍い光を放つ球体を頭上に掲げている。
その周りを、爆発跡を囲むようにして、同じ服を身につけた人々が地面にひれ伏している。およそ二十人ほどが、まるでなにかに祈るように。
「アホらしい」とぽぽーんのリーダー、ベニヒは思った。ぶかぶかな上着のポケットへ冷たくなった両手を突っ込む。
「どうしてシフォルアの信徒なんかが、ここまで降りてきてんだ」
シフォルア街。それは、ここウォルノール国と隣国バクサアロ領に並ぶ、世界を支える三国のうちの一つだ。
俗世間という汚れを嫌うあまりに地上から離れたと言われるその国には、神への強すぎる信仰心が深く深く根付いている。
爆発跡周りの人々が身につけている白い衣は、シフォルア教会団体にも複数ある制服の一つだろう。
地上に降りることを嫌う彼らが一体何故、何に対してこんな場所で白い衣が土で汚れることも顧みずに拝んでいるのか。
ミヨは首を横に振る。
「知らないよ。でもなにも無いワケがないよね。あれのせいでソラ達をここから追い出さなくちゃいけなくなったのは確かなんだから」
「まあ、そうだな……レヨンが戻って来たらさっさと帰って、フォーンへ説明を仰ごう」
ベニヒの呟きに、メンバーは皆こくりと頷く。
それから無言で待つことしばらく。
ぼんやりとした四人の元へ、石畳を踏んで一人の男が近寄った。
その男は白に近い銀の髪を揺らし、少々おぼつかない足取りで薄い笑顔を浮かべる。
「おまたせ、無事終わったよ。戻ろう」
声に反応して、それまで一切口を開かずにいたグリエが顔を上げる。
ぽぽーんメンバー四人の元にたどりついたのは、残りの一人であるレヨン・セルパータだった。
他の世界から来たという津島と空を、誰にも気がつかれる事無くブラウの外へ吹き飛ばす。仮にもしも、なにかがあったときのために。
そんな大仕事を終えたばかりの彼へ、皆は各々労いの声をかけつつ活動拠点へ身を運び始める。
しかしそんな中、ミヨ・トッペスはひとり糸をひかれるようにして森の方角を————津島と空が飛ばされた先を振り返った。
止まる足に先を歩く仲間達が振り返る。
「ミヨー! 行かないのか?? なにか気になることでもあった?」
「いや、なんも。今行くよ」
——どうか、気をつけて。
心の中でそっと祈りつつ彼女は応える。
視界の端でそれを確認したレヨンは大きく体を伸ばして嘆息した。
「人なんて久しぶりに飛ばしたからへとへと。倒れそうだよ」
「倒れたらオレがおぶってやるよ」
「グルーンそれ本当? 今からでもお願いしたいくらい」
その軽口の通り、現在のレヨンの顔は白い肌も相まってもはや青色だ。それをグルーンは緑色の短髪を揺らして覗き見る。
「やっぱり二人は疲れる?」
「うん。余裕だと思っていたのだけれどね……やっぱり依頼後だからというのが大きいんだと思う。あとは歳かな」
「早く終わったとはいえ、洞窟に居る大量の魔物を倒しまくった後だもんな。 今日は帰ったらゆっくり休もうぜ」
「うん。そうする」
素直に頷いた通り、レヨンは拠点に到着するや否や全身の力をソファーに預け、間も無く目を閉じた。
まるで命を手放してしまったかのように動かなくなる彼を真似るように、他の皆も順番にソファーへ身を沈ませてゆく。
しかしベニヒだけは落ち着かない様子で部屋の中を歩き回り、何かを思案しては唇を噛みしめた後、最後に自身の机の上に積み重ねられていた紙のうち一枚を引き抜いて言った。
「わ、わたしは依頼完了届けを出してくるな!」
上ずった声にツッコミも、送り出す挨拶をする者もいなかったが、彼女はそんなことを一切気にする様子無く拠点の外へ飛び出していった。




