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紙上史  作者: こーりょ
2 はじまりの街を出て
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2-21 彼を動かす理由

 津島は乱暴に、自室の床に荷物を置く。

 食欲は完全に失せ、倒れるようにベッドに座った。


 いつも明るくて騒がしい空にあんな顔をさせてしまうほどの何を、自分はしてしまったというのか。頭の表層でぐるぐると考える。

 なにもする気が起きなくて、少し外の散歩をしようと鍵だけ持って家を出た。


 何も考えず畑側の門からブラウの外に出て、簡単に舗装されている道を歩く。

 行きたい場所も決めていなかったため、畑まで歩いたら戻ろうかと考えた所で、空達がこちらの方に歩いていたことを思い出した。保育施設を右に見てのんびり歩く。

 お仕事ならば、途中で道を左に折れ曲がって畑の方へ向かうが、今の津島の目的地はおそらくそこではない。

 畑も保育施設も通り過ぎ、ぽつぽつと民家があるのが見える草原の中、草が綺麗に苅られた場所で光を焚いている四人分の人影を視界に入れる。

 先ほどの三人に加え、ベニヒが少し離れたところに座っていた。


 剣を持って真剣に話し合うグルーンと空を、少し離れたところからレヨンがぼんやりと眺め、その三人をベニヒが酒をのみつつぼんやりと眺めている。


 もやもやした気持ちのまま、津島は一番近くにいるベニヒにそっと近寄り声をかけた。


「こんばんは」

「お、カズか。どうした、心配で見に来たのか?」

 首を横に振る

「いえ……気がついたら来ちゃってました」

「そうか。……この短期間で、相当扱かれているらしいからな。 同居人が疲れと怪我でボロボロだったらそりゃあ心配もするな。まあここ座れ」

「あ、ありがとうございます」


 津島は礼を言ってベニヒの隣に座り、真剣な顔で剣を構えたり振ったりしながら話を続けている三人へ視線を向けた。


「なんであんなに頑張るんでしょう」

 それにベニヒが笑う。

「私にも理解できないんだ。レヨンはなにか聞いたのかわからないが、原因を知っているようなそぶりをするのが癪だな」


 そんなに自分を痛めつけてまでして、狩猟ギルドに入りたいというその考えがわからないし、これじゃあまるで

「空がこの世界で暮らして行こうとしてるみたいで」

「……それは少し私も思った。だが、帰る気がないといえばそうでもなさそうだし、男はなにを考えてるかわからないな」


 ベニヒの言葉に、津島は同意の苦笑いを浮かべる。

 そんな中、津島に気がついたレヨンが片手を上げた。その挨拶で津島の存在に気がついた空が目を見開く。


「カズ! なんでここに」

「見学……かな。空がいつもヘトヘトになって帰ってくるから何をやっているのかと思って」

「なんだったらカズも混ざ」

「グルーン。カズはぽぽーんのメンバーじゃないだろう。話に戻ろう」

「……あ、ああ。じゃカズ、ゆっくりしてってな!」


 言葉を遮ったレヨンに、グルーンは不満げ顔をしつつ津島に背を向けた。

 空はちらちらと津島を見た後、思い切ったようにやかましい笑顔で手を振って話へ戻ってゆく。

 その笑顔にほっと息をついた津島は、自分って思ったより単純だなと笑った。

 

 ベニヒは可愛らしいマグカップの中身を一口含んで、口を開く。


「今日が、初めて剣を持つ日なんだってよ。レヨンのやつ、まるで大事な弟を初めて泊りがけの任務に生かせる時みたいな顔をしちゃって」

「初めて…? じゃあ今までのヘトヘトになって帰ってきてたのは……」

「身体作り。今まで剣持ってないって言っていたから、まず話はそこからだって判断でさ。体力とか、筋肉とか。あとは棒持って型の訓練とかもしてたみたいだな。初めてな割に力の入れどころはわかっているようだとかなんとか言ってたけど」


 そしてマグカップに口を付ける。

 可愛らしいデザインなので、ジュースを飲んでいるように見えるが当然中身は酒である。


「身体作り……。すごい。本格的にやってるんですね」

「妙にグルーンが熱くなっててな。カズも気が向いたら、どうだ?」

「あはは……遠慮しておきます。レヨンさんも言ってたけど、自分ぽぽーんのメンバーじゃないですし。剣はすこし、怖いですし」


 パナーダの近くの森を抜けた時の手の感覚を思い出して強く握りこぶしを作る津島を横目で見て、ベニヒは息を吐いた。


「そうか。その感覚も、自衛の不必要な平和な暮らしあってのものだな。……そういう生活も送ってみたい」

「へっ、 あっ、ごめんなさい……」

「なんで謝るんだ。言っただろ、そういう生活も、と。この生活はこの生活で充実しているし何の問題もないんだ。酒もいっぱい飲めるしな。

 ただ、全く違う文化での生活をしていたという人がそばに居ると、単純にその生活に好奇心がわくのさ」


 空が剣を振り上げグルーンに切りかかる。それをグルーンは受け止めて、楽しそうな顔でなにやら話す。空はそれに大きく返事をして、後ろに数歩下がり、また剣を構える。


「その気持ちは、わかるような気がします」

「そうだろ? ……ああ、もしかしたらソラも、そういう気持ちがあって剣を持ってるのかもな」


真面目な顔でそう言うベニヒに、津島は眉を寄せる。


「確かにそうかもしれません……けど、どうしたんですか? ベニヒさん、真面目なことを言って。もしかして疲れてたりとか……」

「お前もなかなか失礼なやつだなこのやろう。 ミヨといいお前と言い、どうして私が真面目にものを考えると体の心配をしてくるんだ」

 ベニヒはそう言って、むすっとふくれる。


「あっ、ごめんなさい。冗談です!!」

「はは、わかってるって。……そうだ! カズ、前のパナーダへの出張の時の話を聞かせてくれないか。バタバタしていて全く聞けずにいた」

「あっ、はい! そうですね。全然話していませんでした」


 お腹を盛大に切り裂かれても死ななかったことなど、個人的に話したくないと思うことを除いた二日間でのことを、津島はおおまかに話した。


 戦う訓練をしていた三人が、草原に大の字で寝転がっている様子を見ながら、話を聞き終えたベニヒが口を開いた。


「そうか。メーの方まで行ったのか。翼人にも会うなんて、すごい体験をしたな。戦えた……というのも不思議な話だが、まあ、お前はイレギュラーだしなんでも有りなんだろう」

「なんでも有り……そうですね。 すごくスリリングでした」


 津島の苦笑に、ベニヒも口角を上げる。


「でもアイツに会っているとは思わなかった。わざわざ連絡を回す必要なかったか」

「あいつ……? 誰ですか?」

 それにベニヒはにやりと意地の悪い笑みを浮かべる

「内緒。だ。 実際会うまでのお楽しみにしようじゃないか。向こうから連絡が来たら、お前らにはエリギと呼ばれている村に行ってもらおうと思っていたんだ。 そこで会ってもらいたい人がいるんだよ」

「エリギ……ですか。キノコの名前みたいですね」

「エリギなんてキノコがあるのか?」

「本当はエリンギ。ですけど、名前似てません? ……あっ、っていうことは、今度は空と一緒に行けるんですね」


 すると、地獄耳なのかと疑いたくなる速さで、離れたところから 「呼んだー!?」とやかましい声がした。それにべニヒが答える。


「呼んでないー! おとなしく休憩してろー!!」

「はーーーーーーい!!」


 それにベニヒはふっと笑う。


「返事はやたら良い奴だな。……そう、二人で転送門でぽーんと。

 お前達が元の世界に帰るにあたって、一番力になってくれそうな奴なんだ。……っと、ここまで言ってしまうと誰だかバレるかな。

 口は固いやつだから、安心してくれていいと思う」

「ベニヒさん……! ありがとうございます!! もう手がかりなくてどうしようかと思っていたんです!」

「言っただろう。手伝うって。遅くなってしまってわるかったな」

「いえ、いえ!!そんなことないです!! 本当にありがとうございます」


 そうして、津島は深く深くベニヒに頭を下げた。

 ベニヒは困ったような笑顔でそれに応え、酒を飲む。


 稽古が終わる頃、津島の身体はすっかり冷えていて、ああもう冬かと強く感じた。


「うん。今日もいい感じだったし、これならすぐに依頼も受けられるんじゃね 」

 整理運動を終えた後、ブラウへの道をゾロゾロと歩く中グルーンがそう言ったのを聞いて、空は大きく反応した。

「本当ですか!! あっ、それはあれですよね? 街の人のお手伝いとかではなく……」

「狩猟ギルドとしての依頼!」

「よっしゃあああキターー!! ありがとうございます!」


 勢いよくガッツポーズをする空。その肩にレヨンが手を置いた。


「ソラ、お祝いも兼ねて少し話があるんだ。こんな時間まで待ってもらったカズには悪いけれど、用事がないなら少し付き合ってくれないかな」

「お話……ですか。俺は全然大丈夫ですよ!! カズが一緒じゃダメなんですか?」

「い、いや! レヨンさんは空とって言ってるから自分はいいよ……!!」

「えーー! 私は気になるぞ! 改まって二人で何を話そうって言うんだ!! まぜてくれたっていいだろ??」


 それにレヨンは人差し指を自身の唇に当てて少しだけ口角を上げた。


「男同士の腹をくくったお話だよ。ベニヒはれっきとした女性だし、グルーンはがさつだし、カズ君のことはまだよくわかってないから」


 その言葉にグルーンが吹き出した。


「レヨン!! ベニヒが女性!!!ベニヒが女性って!!!」

「おいグルーンお前覚えてろよ。……まあ、わかったよ。そこまで言うなら。カズ、帰ろう」

「ごめんねカズ君。ソラのこと少し借りるね」

「あっ、はい」

 なぜ自分に報告するのか理解できないまま、津島は頷く。

 市場の方へ行きたいと言ったレヨンに、ベニヒは言った。


「もうやってる店はないんじゃないか。あるとしても酒場……あっ、まさかレヨン」


「言ったでしょ。男同士の腹をくくってのお話なんだ。弟は今日、集団訓練合宿がどうこうで帰ってこないようだし、ね」


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