2-19 強くなりたい
『にしても、昨日の晩のに比べると威力が相当低くなってるかな。』
頭のなかで、先ほど言われた言葉が響く。
『まだ、現実的なレベルだ』
手を開いて、閉じる。
「現実的なレベルじゃ、だめなんだよ」
昨晩と同じくらいの力を、それからまたさらに、何倍もの力が必要だ。
全ては力だ。力がなくちゃ…………追い越すどころか、たどり着くことすら。
空は、フォーンと共にギルドセンターで依頼完了の手続きを終え、受け取った報酬は家に。字が壊滅的に汚いノートを片手に、もう一度街の外へ向かった。
今度は森の中へは入らず、昨日爆発を起こした中心で立ち止まる。周りに沢山の足跡の形跡があり、昨日の調査が相当に大規模なものだったことを物語っていた。
ノートを開いて、先ほどの魔法構文をもう一度詠誦する。まだ感覚に慣れず、身体には力が入ってしまう。
「……」
そして出てきた魔法は、やはり威力の小さいもの。
続いて昨日の夜に使った魔法構文を唱える。一度読んだだけなのにはっきりと覚えているその構文が形作った事象は、ほんの数センチの光の球だけだった。
「参ったな」
なんの効果も残さず、ふっと掻き消える程度の小さな小さな光の球。
空は頭をぽりぽりと引っ掻いて、伸びをして人が居ないことを良いことに、天へ大きな声を出す。
「参ったなーーっ!!!!!!!」
フォーンの、調べてみる。という言葉を思い出して、空は目を閉じ思案する。
もしかしたら、もう魔法構文に頼ることは難しいのかもしれない。昨日のは偶然で、もう二度とあれと同じ効果をだすことはできないのだとしたら。
そこまで考えて、空は顔を上げた。踵をブラウへ向け、地面を蹴る。
門をくぐって、途中で息が切れて立ち止まり、たどり着いたぽぽーん拠点の扉を勢い良く開け放つ。息を大きく吸って、一声。
「俺、強くなりたいです!!!!」
ノックもしない侵入者にぽぽーんのメンバーは驚いた視線を向けた。
既にフォーンが帰ってから大分の時間が経っていたが、拠点の中にはメンバーの全員がそろっている。
その顔ぶれを確認して、上がった息をそのままに空は再び大きな声を出した。
「俺、強くなりたいんです!! 一人でやっていけるような力が欲しい。魔法構文に頼らなくても生きていけるくらいに、強くなりたいんです!!」
それを聞いて、そっとグルーンが口角を上げる。ソファーに座っていたミヨは我に返り、飴の瓶を取り出した。
「いきなりどうしたの」
「わがままばかりですみません!!でもどうか自主練の方法を教えていただけないでしょうか!!
皆さんが忙しいことはわかっています。出来ることは一人で頑張ります!! なので……」
そこで、必死な空の言葉を遮り、グルーンが立ち上がった。
「来ると思ってた!! まずは体力だな!! ソラはここの女性陣二人に言われるくらい体力が無い。そこの克服から始めよう。
で、もって、筋力! 最初にオレが手合わせをお願いした時、咄嗟の判断や身体の使い方はよかった!! 鍛えれば確実に化ける。
レヨン、手伝え。詰めるぞ」
「えっ、ちょっと待って。俺? なんで……」
テンションが格段に上がったグルーンは、デスクに寄りかかっていたレヨンの腕を掴み、驚いた表情をする空に大股で詰め寄って満面の笑顔を浮かべた。
「ソラ、俺はお前のその言葉が聞けて嬉しい。 ついといで」
「は……はい!!! ありがとうございます!!!!」
突然のわがままともとれる空のお願いごとは、ぽぽーんが誇る戦闘バカ グルーンによってしっかりと受け止められたようだ。
三人は拠点を出て、空が昨晩爆発を起こし、先ほど魔法構文を使った草原へ歩き始めた。
取り残されたミヨが
「なにあれ……暑苦し……」
と呟いたことも知らずに。
腕を引かれるレヨンは焦りを多く含んだ声色で言う。
「ちょっと、グルーン一人で十分だよ。俺が生身だとそんなに強くないの知ってるでしょう?」
「じゃあお前も強くなれば良いじゃん。 ソラも強くなってレヨンも強くなって、俺は楽しい! 一石三鳥じゃねーか!」
それにレヨンはため息をつきつつ、口角を小さく引き上げた。
「たしかにそうだね。グルーン、お手柔らかに頼むよ」
「任せろ! ソラ、言ったからには気合い入れろよ。強くなるってそうそう簡単なことじゃない」
「はい!! お願いします!!」
「よし、いい返事だ!!」
ニッと笑ったグルーンへ同じように笑い返しながら空は両手で強く拳を作った。




