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紙上史  作者: こーりょ
2 はじまりの街を出て
33/100

2-15 合わない視線

 時は戻り、空が魔法構文を読み上げた直後のこと。


「……まじか」


 ベニヒの口から出たのはその一言だけだった。そして呆気にとられた様子は彼女だけでなく、魔法構文を読み上げた本人にも変わらず当てはまった。


 三人の視界の先、先ほどまで青青と茂っていた草原は陰も形もなく円形に深くえぐれ、ぱちぱちと煙を上げているところもある。季節の変わり目で涼しくなりかけていた空気はすっかり熱されて、にじんだ汗がベニヒの頬を伝った。


「なあ、ミヨ。ルパは書いてある構文は基礎的な物だと、言っていなかったか」

「確かに言ってたよ。嘘をつかれたのかな」

「ベ、ベニヒさん! ミヨさん! なんですか今の!!!!」

 離れた場所で背を向けていた空の声に、ベニヒは反射で声を大きくする。

「馬鹿、私が聞きたいくらいだ! なに基礎構文で焼け野原つくってんだよ。狩猟中の抗争でもなかなかここまでの魔法構文を使う人会ったことないぞ」


 狩猟ギルドは、獲物を奪い合いでギルド同士の抗争が頻繁に起こる。これまで【ぽぽーん】もそれを引き起こしたこと、巻き込まれたことは数えきれないほどあり、ベニヒの言葉はその経験からのものだった。

 言葉を続けようとしたベニヒが、ふと街の方へ顔を向ける。


「しまったな、誰か来た」


 しばらく遅れて空も、草を踏みしめ近づいてくる音に気がつく。神経をとがらせる三人に対し、人影はへらりと気の抜けた笑顔で姿を現した。


「そんなに睨まなくったっていいじゃないか」

「ふぉー太郎。びっくりさせやがってお前」

「そのあだ名はやめてほしいな。それにその言葉、そのままお返しするよ。すごい音が聞こえたけど何をしたんだい」


 軍人 フォーンは喋りながらベニヒ、ミヨと順に視線を動かし、しまいに空を見る。それをかばうように、ベニヒが一歩前に出た。


「私が魔法構文を使ってみろって言ったら、こうなった。やらせたのは私だよ」

「ベニヒが……。そっか、ちなみに何を読んだの?」


 その質問に、空は持っていたメモを見えるように示す。


「これです!」

「……字が汚くてわかりにくいけど、軍内で魔力持ちか否かのテストで使われてる基礎魔法構文だね。念のためそのメモ借りることはできるかい?

それと、妙な疑いを持たれたくなかったら三人ともできるだけ急いでここから離れるんだ。ここにはしばらくしたら、爆発に反応した軍人達が来て調査が始まる。気になることがあったら僕が明日聞きに行くと思うから、その時に今の話を教えてもらえないかな」


 いつものへらりとした表情のままそう言ったフォーンは、空から受け取った魔法構文のメモを見つつ爆発の中心地へ一歩足を踏み出す。


「おい、ふぉー太郎……」

「なにかな、ベニヒ。二回目の説明が必要かい?」


 短いやり取りの直後、二人の間に強い緊張感が走った。まるで今にも互いに剣を抜きそうな緊迫感に、空は汗が引くのを感じた。

 しかしミヨはそんな二人などお構い無しに、広げていた武器を鞄の中に放り込み立ち上がる。


「空、あの二人は気にしない方が良い。帰ろ」

「は、はい!」

「ベニヒ。トッペスとソラは先に戻ってるから」


 返事の無いリーダーにそう声をかけたミヨは、空の前を歩き始める。

 門をくぐり街にはいったところで、空が先に口を開いた。


「ミヨさん。あの……」

「爆発のことは気にしなくても良いと思うよ。すごい才能ってことで。まあ私はそれでも、ぽぽーんに歓迎することはできないけど」

「あっ、ありがとうございます!! いつかミヨさんに認めてもらえるよう、明日から頑張りますね!! あの、少し聞」

「認めるとかそういう問題じゃないし、頑張る必要もないよ。じゃあ、トッペスこっちの道行った方が早いから、今日はここで。じゃあね」


 ミヨは空の言葉を無理矢理遮りそう言って、空の顔を見ることもなく脇の暗い道へ足を向けた。


×××


「なるほど。それで空はここまで走って帰ってきたの」

「そう!! ミヨさんに気にしなくてもいいとは言われたけど、なにかとんでもないことをしてしまったのかもしれない」

 軍人が集まるような大爆発だなんてよっぽどだ。

 いつもはぴょこぴょこと元気に跳ねる頭頂部の双葉の毛が、今はすっかりしおれてしまっている。

「ミヨさんが言うなら、気にしなくてもいいんじゃないのかな……。でっ、でもよかったよ。すごい爆発音だったから、空が巻き込まれて大けがでもしていたらどうしようかと思ってた」

「へ」

「なあに、その顔。強い魔法構文が使えるってことはそれだけ狩猟ギルドに入ってもやって行ける強みがあるってことでしょう。ラッキーじゃない」

 津島の言葉に、空は「確かに」と考えるのを諦めた。

 今同居人の彼がどういう表情を浮かべているのか見る気にはなれなかったが、はげましてくれる言葉は素直に嬉しく感じたのだ。


「空、適正診断おつかれさま」


 小さく笑う津島に、空は固まりかけてた表情筋を緩め、口角を大きく引き上げた。


「サンキュ」

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