2-13 翼人の街『セネスリード』2
半分 世界設定説明回です
「お告げの人間だ!」
建物に足を踏み入れた二人の少年は、津島を見るや否や声を揃えた。
そっくりな顔立ちの彼らの背丈は共に130cmほど。
肩の上で揺れる緑に近い髪の色も、羽の大きさも共に似通っているが、
二人はエフセリアと異なり、耳の上からも小さく羽を生やしていた。
「オレ、人間なんて初めて見た!」
「オレも! 本当に羽がないんだね」
好奇心を隠さない二人の顔にはしかし、緊張の色も混ざっている。
津島から一番離れた壁に張り付き、距離を保っているところからもよくわかるその警戒心に
津島は慌てて頭を下げた。
「お、おじゃましてます。ごめんなさい……いきなり村の敷地に足を踏み入れてしまって」
経緯などを説明しようと息を吸う津島だが、言葉を放ったのは少年たちが先だった。
「迷いこんでエフセリアに切られたんでしょ? クルヴォの術式でも死ななかったんだって?」
「オレ、お告げを見たのも初めてだったのに。その直後に翼人狩りなんてツいてないよね」
腹を切られ死んだはずの津島が招き入れられたのは、その“お告げ”によって示されたからなのだと言う。
綺麗に整えられた広場に設置された女性の石像がこの大地に祀られた神を表すものであり、
双子が生まれてこの方うんともすんとも言わなかったその神が言葉を放ったのが寸刻前。
そして重い腰を上げたのが、津島に刃を突き立てた張本人であるエフセリアだった。
双子の説明に眉を寄せる津島に、双子はそっと距離を詰める。
好奇心が警戒心にまさった瞬間であった。——もとよりエフセリアが家に入れた人間という時点で、二人に緊張する理由などないといって同然だったが。
思考に没頭していたために寄せられた距離に気がつくのが遅れた津島は、慌てて後ずさりながら
浮かぶ質問を口にする。
「その神様は何か言っていましたか? その神様と自分との関係とかを」
「なんにも。でもオレらも気になってたんだよ、人間は女神像のなんなの?」
「思い当たる節がありません……。でもここまで来た目的に関係があるかもしれないです」
床に膝をつけ、視線の高さを双子に合わせる。
その瞬間、外の爆発が窓を激しく震わせた。
小さく悲鳴をあげる津島に対し、双子は激しく窓へ駆け寄る。
「エフセリアの干渉術はすごいよな」
「交渉は早いし威力は大きいし、格好いいよな!」
双子を追って目線を動かすことで、自然と窓の外が視界に映る。
もくもくと上がる煙に、マントと包みを強く抱きしめた。
「干渉術って……?」
津島の疑問に、双子は互いを見合わせる。
「そういえば人間は使えないんだっけ?」
「いろいろな物質に干渉することで事象を起こす術のことだよ」
「森の中で、人間はなんどもエフセリアの起こす爆発に巻き込まれたんでしょ? それだよ」
「人間はそれを真似して、魔法構文っていうのを開発したんだよね」
世界を形作る全ての要素に、言葉で干渉し事象を起こす干渉術。
そして体内の魔力を起点に、言葉で形を与え事象を起こす魔法構文。
干渉術の方が消費する体力が少なく、大きい事象を起こすことができるが、翼人をはじめとする半魔人と呼ばれる種族しか使用することができないらしい。
わかった? という顔をする双子に津島は礼を言うべく息を吸う。
しかしそれを遮るように響く、再びの爆発音。
外はすでに日が暮れ始め、爆発によって発せられた光が天に瞬く。
双子はすでにその爆発に興味を失った様子だった。
「エフセリアはここじゃ長に続いて二番目の実力なんだよ。
優しいし羽も大きいし、イケメンだし!」
「女子供からも人気あるけど、エフセリアは男の味方なんだよ!」
「ねー!」
「へえ……そうなんだ。好かれてるんですね」
確かに優しいっちゃ優しいかもしれない。一度刺されたけれど。
津島は腕の中のマントを見下ろす。
気配りはできるし、ここまで津島を運んで来たのも彼だ。
殺しにかかってきたのも、ここに住む仲間を守ろうとしての行動なわけだから責めることはできない。
「じゃあ人間、今度はオレらの番だよ。さっきここまで来た目的がどうとかって言ってたけど」
「そうそう、それオレも聞きたかった! どうしてここに来たの? どこから?」
その問いに津島は港町ブラウのこと、
そしてこの世界に関することをある学者に聞きに来たことを軽く説明した。
「港町ってどういうところ?」
「海があるんだよね、海? 見たことないけど」
次々と投げかけられる質問に、人間にとってはあたりまえのことを答え続ける。
その度に大きなリアクションで喜び、時には部屋を駆け回る双子へ津島はつい口角を上げた。
そんな中、わずかな疲労を顔に浮かべエフセリアが戻ってきた。
「エフセリアお疲れ!」
「どうだった?? どうだった?」
ぴょんぴょんと跳ねる双子の質問に、エフセリアはしゃがんで目線を合わせ、双子の頭を撫でる。
「街の住民全員無事に、侵入者のすべてを片付けたよ。 明日にみんなで花壇の土に混ぜに行こう」
津島は、エフセリアのその言葉を聞かなかったことにした。
わあいと言って離れていく双子を一瞥して立ち上がったエフセリアは、一つのデスクに近寄り手に取ったものを津島に放る。
「これ。とりあえずその服の代わりに使え。 こんな時間まで待たせて悪かった。マントはそこらに置いておいて構わない」
「あ、ありがとうございます。わざわざすみません」
津島は頭を下げて受け止めた布を広げる。
それは普通のYシャツのようなものだった。
「……この世界にもこういうシャツあるんだ」
「ん、なにか言ったか」
「へ? あっ、いえ!!なんでもないです。 どうもありがとうございます」
腕を通せばエフセリアは満足そうに頷く。
「それなら人間の中でもさほど浮かないな。 では送る。メー・ウビウス・ベスクだったか」
「えっ!? 聞いてないよ!! 人間帰っちゃうの??」
「今日泊まって行かないの!?」
双子の不満そうな声に、エフセリアは津島を睨みつけた。
睨まれた津島は、自分の口角が上がっていることに気づかないまま手を横に振る。
「じ、自分は何もしてないです! ただちょっとお話をしただけで……」
「そうだよエフセリア!ちょっとお話をしただけ!」
「ねー! 人間!」
「うん、ちょっとだけ……」
顔を見合わせる三人に、エフセリアは眉間への皺とため息を重ねつつ建物の扉へ手をかけた。
「ほら、ツシマカズネ」
「あ、はい!」
彼が扉を開けるとぶわりと暖かい風が部屋に吹き込む。
へっぴり腰でバルコニーから地上を見下ろす津島の腰を脇に抱え、エフセリアはバルコニーを蹴った。
「うおっ!?」
「運んで行くから暴れるなよ。変に力も入れるな。落ちる」
その言葉にしかし、腕一本のみで支えられている不安定な感覚は不慣れで、どうしても体に力が篭る。
エフセリアは小さく舌打ちをしつつも安定した姿勢でメー・ウビウスへ悠々と羽を動かそうとした、その時だった。
「にんげーん! また遊びに来てね!!」
「またいろんな話をきかせてー!!」
後方から予想していなかった双子の声に、エフセリアが慌てて振り返る。
「ばっか! お前らついてくるな!もどってろ!」
揺れた身体に津島はヒイイと声を上げ、ばたついた足に今度はエフセリアがバランスを崩す。
ふらふらとした出発だった彼の飛行で津島は二度ほど地面へ落ちかけた。
×××
空は畑での最後の仕事を終え、風呂の中でたわいもない会話に盛り上がっていた。
たわいもないと言えど空にとってはこの時間が非常に貴重で、些細なことだろうとこの世界のことを知るべく電波を張り巡らせる場所であった。
晩ご飯の献立、彼女の愚痴に、子供自慢。
この世界にもやはり反抗期というものはあるようで、今朝方思い切り蹴られたと見せられた大痣に大笑いをしつつ痛みを案ずる。
そうして話もそこそこに風呂の外へ視線を向けた空の視界に、受付を済ませた一人の青年が映り込んだ。
思わず腰を浮かせ、壁から背を離す。
青年は持っていた鞄をカゴの中に投げ入れ、ボサボサに崩れた髪型を少しだけ整えた。
この世界では珍しいというその長い黒髪に、そして少し疲れの見える横顔に、空は我慢できず風呂を飛び出す。
そして目を丸くするその青年の名を、半ば叫ぶように読んだ。
「カズ!!」
会わなかったのはたった丸一日だけなのにこんなに懐かしい気持ちになるのは何故だろうか。
空はそうして青年……同居人に、一日ぶりのあいさつをした。
「こんばんは! カズ。無事でよかった!!!」
×××
風呂から家へ帰る道を、二人並んで歩く。
「わざわざフォーンさんが畑に挨拶に来たからもっと遅くなるのかと思ってたよ!!」
「わがままで手間かけさせちゃったんだ。明日お礼言いに行かなくちゃ」
「日本のこと、話したんだね」
「誤摩化すのは良くないと思って……ごめん」
「確かに言って回るような事ではないけど、フォーンさんにはお世話になってるもんな」
話題を気遣ってか、たどり着いた家の鍵を開ける空の声が普段より数段小さい。
「ここ二日間でカズが体験したこと聞かせてよ。 俺も話したいこととかあるからさ!」
「もちろん。……ただいま」
頷いた津島の言葉に、空は優しい笑みで応える。
「おかえりなさい!!」




