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紙上史  作者: こーりょ
2 はじまりの街を出て
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2-11 角のある少女

 地上に上がり、明るい天に目を細めつつ身体を大きく伸ばす。

 シフォー・カロユの話は、津島には少し難しい上に密度が高すぎた。


 礼を言ってから帰る際にシフォー・カロユからの、「カズと話ができて楽しかったわ。 ぜひまた遊びに来て」という言葉はとても嬉しかったが、思い出してはぽつりと呟く。


「次この街にくることはあるのかな」


 また会いにも来たいけれど、できればその前に元の世界へ帰りたい気持ちもある。

 世界の出入り口がわかっていないのなら自分で探すしかないが、学者達が血眼になって探そうとしているものをそう簡単に見つけられるはずがないだろう。


「……お腹すいたなあ」


 呟きつつ立ち止まって後ろを振り返ると、ついて来ていた猫又が合わせて動きをとめた。

 だるまさんが転んだをしているみたいだと感じつつ、津島はしゃがみ込む。


「君はどこで自分のお守りを見つけて、どうしてわざわざ届けてくれたの?」


 猫又はそれに一回鳴き声を上げたその時、大きな花びらが一枚、津島の目の前を通り過ぎた。

 津島の視界が一瞬遮られる。


 その一瞬で、猫又は津島の視界から忽然と姿を消した。


「…………不思議」


 さっきの従獣と呼ばれていた狐のインピィは姿を変える能力を持っていた。

 今の猫又は、もしかしたら瞬間移動ができるのかもしれない。


 津島はできる限りの想像をしつつ立ち上がる。


「早く帰ろう」


 お腹は空いたが買い食いをするほどお金があるわけでもない。

 

 再び足を動かしつつ、次に元の世界へ帰る手がかりを探すとしたら、どこへ行くべきなのだろうかと思考をめぐらす。


『……そういえばバクサーロ領域の星の街。

 あそこの空中に浮かぶものに星という名前をつけたのは、神なのよ。あれも別の世界からやってきたのかもしれないわね。

 星には強いエネルギーがあるらしいから、ここから先は世界構造学でも、エネルギー関係性の話になるけど……説明しましょうか?』


 断って来たが、聞いてくれば良かったかもしれない。

 悶々としつつ歩いていると、ふと視界の端に変な物が移った。


 少女だ。津島から少し離れた花畑の真ん中に座り込んで俯いている少女が、そこには居た。


 観光のメインとされている花畑に入るなんて、なんとマナーのなっていない観光客だろうか。と考えかけたところで、意識のすべてを少女の頭に付いている物に持って行かれた。


「角……」


 まるで羊の角のような物が、その少女の頭から生えていたのだ。

 そしてその髪には絡み付くように植物のツタがひっかかっていて、ぽつぽつと花も咲かせている。


 あまりに現実離れしたその外見に声をかけることも忘れ凝視していると、少女は前触れもなく立ち上がり、まっすぐ津島に顔を向けた。


 絡み合う視線に、津島の中の時間が一瞬だけ止まる。


 しかしその少女は、それから何事もなかったように背中を向け花畑を出ていった。あまりに迷いのないまっすぐな視線だったため、なにかあるのかと一瞬追いかけそうになって我に返る。


 常識的に考えて、そんなことあるはずがない。

 と。


 今更常識だのなんだの言っていられるような状況ではないけれど、見たことも無い不思議な見た目をしているマナーのなっていない知り合い等、津島には居た覚えは当然ながらないのだ。


 追いかけようとしていた足を転送門へ向ける。

 その時突然


「行っちゃうの」


 すぐ真後ろの耳元で、細い女性の声がした。

 ぞわっとしたその感覚に津島は思わず歩を止め振り返るも、そこには誰もいない。

 おそるおそる視線を先ほどの角の少女へ戻す。

 こちらに背を向けていたはずのその少女は、津島をまっすぐと見つめていた。


 地面につきそうなほど長い金色の髪は下に行くほど濃くなっており、毛先の少し上で一つにまとめられている。

 黒を基調とした上着とふんわりとした緑色のスカートを着ており、目は垂れ目気味の透けるような緑色。


 もう一度耳元で声がした。


「こちらへおいで」


 


—……


 花の街メー・ウビウスは、ウォルノール国とバクサアロ領との境に位置する山の中腹に位置している。

 津島は今、その山を頂上の方へ向かって歩いていた。

 津島は汗をぐいとぬぐう。


「どこまで行くの……」


 視界の先には先ほどの角のある少女。

 さきほどから、長い髪の毛をゆらしながら小走りですすんでは、津島との間に距離ができると立ち止まって津島の様子を伺って……を、何度もくりかえしている。

 少女は一言も喋らず、息も切らさないですいすいと行く。


 石でつくられた階段を上がり、手すりの作られている道を登って、見たこともない不思議な実の成っている植物などに視線を奪われそうになっては、少女の視線に急かされて歩を早め。


 そうして進むことしばらく、津島は山の頂上近くの森の中へたどり着いた。


 パナーダの森より幾分木に高さのある、ひんやりとした森。

 津島にはその森がなんと言う名前かわからなかったが、魔物も居なく比較的静かな雰囲気の森だった。


 変わらず前を歩き続ける角の少女からはぐれないようにしつつ、津島はきょろきょろと辺りを見渡す。

 木漏れ日の隙間に、まるで人の手がはいっているのではないかと疑いたくなるほど、綺麗に花の咲いている箇所があった。


 しかし、自然の力はすごいと感心している暇も、景色や雰囲気を楽しんでいる余裕もすぐに無くなった。

 辺りに突然、霧が立ちこめ始めたのだ。


 霧に遮られ少女の姿が見えなくなり、津島は焦って歩を早める。

 先を歩いていたのなら、まっすぐ先に行けば居るはずだと。

 しかしいくらあるいても少女の姿は見えず、先ほどまでとは種類の違う汗が頬を伝う。


 その瞬間、


「頑張って」


 耳元で少女の声が聞こえた。

 振り返ってもそこには誰もいなく、ただただ白い霧があるのみ。

 メーで聞いた声と同じだ。

 森のひんやりとした空気と霧と声の不気味な雰囲気が相まって、ぞわりと鳥肌が立つ。

 生理的に感じる気持ち悪さに耳をふさぐが、再び聞こえた声も先ほどとかわらない距離にあった。

 

「私たちは、あなたの」


 そこで小さな爆発が起きた。

 距離はさほど津島から離れていない位置。


「っ……な、なんなのもう! さっきから!!」


 津島は爆風に押されながら後方にある木へ背中をつけ、両腕で顔を覆い、巻き上がる石や土から顔を守る。


 しばらくそのまま守り続け、ばくばくとうるさい心臓の音、そして爆発で飛ばされた石が地面に落ちる音以外聞こえなくなったのを見計らって森の中をそっと伺う。


 霧は爆発で吹き飛んだものの、未だ視界は土煙で遮られているためよく見えない。

 しかしそんな視界の端に、一つの人影が映りこんだ。


 津島たちが向かっていた方向からゆっくりと歩いて来ている。

 すっとその人影が片腕を上げると同時に、人影の周りに現れる複数の光る輪。

 それらは少し派手に光を撒き散らしたかと思うと、シャンと音を立てて消えて


「うあっ!」


 津島の目の前で大きな爆発に変わった。


 先ほどまで寄りかかっていた木に勢い良く叩き付けられ、痛みに身体を丸める。

 荷物を入れている鞄は気休めのクッションにすらならなかった。


 服は爆発の際一部なくなり、露出した肌の部分は真っ赤に爛れてしまっているのを確認し、内心で文句を言いつつ身体と目線を上げる。

 そこで津島は目を見開いた。

 先ほどまで一つだった人影が四つに増えているのだ。

 そしてそのうちの一つが大きな声をこう、張り上げた。


「まだ生きているぞ!!」


 それに津島の足はすくんだ。

 さきほどの角の少女は爆発に巻き込まれたのだろうか、無事なのだろうかと頭のなかで思考がぐるぐるしはじめる中


「逃がすな……せいっ!」


 人影からのその声の直後、再び津島の目の前で起こる爆発。

 地面に叩き付けられ、腕に木の枝が刺さる。


「痛っ……!」


 二回連続での目の前での爆発。これは決して偶然ではないだろう。

 津島は起き上がりつつ、思考を巡らす。


 まだ生きていると言っていた。逃がすな。とも。つまりそれは殺せという意味になるのだろう。


「……狙われているのは、自分…………?」


 気がついたときには遅く、津島は三度目の爆発に巻き込まれていた。


 痛みを感じつつ服についた土を払って立ち上がる。それを見た人影のうちの一人が、津島に近寄った。

 土煙の間から見えた姿に、津島は目を奪われる。


 津島を見る表情と同じ位冷たい色をした青の瞳。首の後ろまで伸びた灰色と青を混ぜたような色の髪は、ゆるりと風にゆれている。

 そして、一番視線が惹き付けられる、背から後方へ伸びた大きな翼。

 非常にファンタジックなデザインをしたその人影……青年は、変な物を見るような目付きで津島を見下ろした。


「何者だ」


 それに津島は唾をごくりと飲み込んで、かすれた声で答える。


「津島……和音」

「何を言っている? 私はなぜ、我々の攻撃を受けて無傷でいられるのかと聞いている」

「あ……ああ……」


 青年の言葉に、津島は言葉になりきれていない返事をして、さきほどまで爛れていた自身の腹を見た。

 やはり、治っている。


 どう答えようか考えるも、津島は青年の問いに答える事ができなかった。答える前に、突然今までの比にならない衝撃を腹に受けたのだ。

 腹を見下ろすと衝撃を受けた部分は綺麗に横に切り裂かれていて、切り口からこぼれ落ちるのは昨日見たおにぎりの具に似た色合いの固形物や液。


 透明なものも混ざるそれらから顔を上げると、青年は先ほどまでと変わらない表情で長い剣を握っている。

 ああ。切られたんだ。と考えるまでもなく理解した津島は、見た目に反してあまり強くない痛みに驚きつつ、間もなく意識を失った。


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