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紙上史  作者: こーりょ
1 元の世界へ帰る為の、紙の上に記される短い歴史
13/100

1-12 おにぎり星人

 街の緊張感は町の中心から離れ港に近づく頃には、すっかり薄れていた。低い屋根の先には、港に沿ってずらりと建てられている倉庫や、捕った魚を加工、一時保存する建物が見える。居住区域で感じていた息苦しさから解放され、津島は胸をなで下ろした。


「おにぎりちょっと多すぎたかもしれないね」

「まあ、足りないよりは多い方がいいだろ! 問題ないって!」


 二人の間の空気も普段通り。海に近づくにつれ、津島のわくわくは大きくなっていった。昨日の変な緊張感はない。けがだってしていない。しまいには我慢できずに、強く地面を蹴飛ばした。空が目を丸くする。


「ちょっ、カズ!? そんな焦らなくても海は逃げないよ!!」


 空の言葉を無視して緩い坂を下る。潮の香りを思いっきり吸い込んで、坂を下りきったところで視界が開けた。

 一面に広がる青のなかを泳ぐカモメ。一定の間隔で押し寄せては港を叩く水に合わせて、ずらりと並ぶ係船柱へ繋がれた船がゆらゆらと揺れている。足を止めた津島に駆け寄った空は、双葉のアホ毛を大きく揺らしてあたりを見渡した。


「もう、急に走り出して焦るだろ。……どこらへんでご飯にする??」

「空が良かったら、せっかくだし船の少ない場所で食べたいな」


 良い場所はないかと辺りを見渡す視界に映るのは、船の掃除をする人や、網を解く人たち。


「さっきの怖い人たち、全然居ないね」

「いや、あそこに居るよ!! 船の横でなにか食べてる!」


 空が指差した先には、確かに先ほど怖い空気をまとっていた人たちと同じ服を着た男性が地べたに座り、海に足を垂らして口を動かしていた。先ほどと大きく違っているのは、小さく丸まったその背から怖い威圧感が一切感じられないということ。


「本当だ。あの人もお昼ご飯かな……って、ちょっと、ちょっと空、なにする気?」

「話聞いて来るんだよ! 今なら何も持ってないし、取られる心配もないっしょ! 」


 津島に背を向けその男性へそっと距離を詰める空。大切なお弁当の半分は空が持っているのだが、彼はそのことを忘れているらしい。慌てた津島は空を止めるべく手を伸ばしかけて、やめた。踵を返し背を向ける。こうなったら知らんぷりをするしかない。

 足音を立てず男性の後ろに立った空は、そこで初めて第一言目を思案した。「こんにちは!」だろうか、それとも「こんなところで何をしているんですか?」がスムーズだろうか。しかしその迷いは強制的に遮断させられた。それまで水平線を見つめただ口をもぐもぐと動かしていた男性が、まるで空の思考を読み取ったかのように口を動かしたのだ。


「なにか用かな?くせ毛君」


 海の方を向いたまま尋ねてきたその声へ、空は持っていた弁当を落としかけた。彼が空の方を向いたそぶりなど全くなかったというのに。津島は思わず、背けていた顔を戻す。


「すげえ!!お兄さん、俺のことわかってたの??」

「そりゃあ、あんな大きな声で喋ってたら、遠目からでもわかるさ。そいで、なんの用かな?」


 男性が、海の方から空へ視線を写す。優しげに垂れた眉と紫の瞳。ベージュのくせ毛は短く、潮風にふわふわと揺れている。その瞳に気がついた瞬間、空は確信した。同じ服を着ていたとしても、この人は街にいた人たちとは全くもって違う人だと。


「えっと、聞きたいことがあって!! さっき、街でもお兄さんと同じ服を着てる人見かけたんです。なにかのギルドなんですか?」


 無遠慮に隣へ腰掛けつつの空の質問へ、男性はぽかんと目を丸くした。そして何かを考えるような少々の間を置いて、にこりと緩い笑みを浮かべる。


「僕らはここ、ウォルノールの国家直属軍ギルドさ。これはその制服みたいなものかな」

「うぉるのーる?」


 言葉の意味が分からず首を傾げる空に、男性は不思議そうな顔をした後すこし眉を寄せる。それを見た空は、自身のやらかしかけた失態に気がついた。


「へえ、そうなんですか。ウォルノールの。軍っていうことは街にいた人たちが腰に下げていた剣とかも戦いに……?」

「うん。あれも配給品だから、自分に合った武器に持ち替えたりしている人も居るけどね。他に質問はあるのかい? 後ろの彼が待っているけれど」


 男性が示した方を見た空の視界に、お弁当を両手で抱えて、空の気分が済むまで待つ姿勢から動かない津島が映った。空は一瞬それを見て、視線を男性に戻し一言。


「ここで一緒にご飯食べてもいいですか?」


 男性と津島はそれに目を見開いた。


×××


「僕はフォーン。まあ、軍のしたっぱって感じかな」

「俺は宓浦 空です!! 空って呼んでください!」

「あっ、自分は、津島 和音です。カズって呼ばれています」


 空の後に続いて、津島はぺこりと頭を下げる。フォーンと名乗ったその軍人は、喋ってみるととても穏やかな人だった。


「実は僕、結構前に君たちこの辺りで見たんだよね。ミヨちゃんの船へ乗って行っていたでしょ?」

「はい、そうです! カズが大けがしちゃって!ミヨさんにお世話になりました!!」

「なるほどね。あそこらへんとは仲がいいのかい?」


 すでにおにぎりを口の中に入れ始めていた津島は、もごもごと口を動かすのみで上手く答えられない。空がそれに苦笑いを浮かべながら代わりに口を開いた。


「仲がいいというか、最初にここにきたときにお世話してもらって!」

「ふうん。つまり旅行ってことかな? それとも留学生?」

「まあ、旅行ですかね!」


 はっきりとしない空の笑みと答えに、フォーンはおにぎりを飲み込み、わずかに表情を改める。


「……今ウォルノール軍の人たちがこぞってここに来てる理」

「あれ、ふぉー太郎じゃないか。こんなところでまたさぼってるのか? ソラとカズまで巻き込んで」


 声量を潜めたフォーンの言葉を市場の方から遮ったのは、声の両腕で抱えて精一杯な大きさの袋を肩に乗せた女性ベニヒだった。そちらに視界を向け挨拶をする津島と空に対し、フォーンは顔動かすことなくためいきをつく。


「ベニヒ。その呼び方は止めてって言ってるじゃないか。サボリじゃなくて、立派な昼食休憩さ」

「なにを言っているんだ。お前は昼食を食べるのに丸一日かかるのか? ソラとカズとも顔見知りだったとは思わなかったな」

「俺たちは今さっき初めて話したんです!! 俺が少し変なこと聞いちゃって。ベニヒさんとフォーンさんもお知り合いなんですね?? 」

「まあな。昔にちょっと縁があってちょっと仲良くしてただけだけど。脱一人ぼっちだな、おめでとう。ふぉー太郎」


 よかったじゃないか。と豪快に笑うベニヒに、フォーンは苦笑をもらす。


「毎日手合わせという名の殴り合いを仕掛けてきておいて”ちょっと仲良くしていた”レベルなのか。相変わらずだな、ベニヒも」

「なっ、殴り合い……!?」

「所詮は子供のお遊びだったけれどね、あっても腕がなくなりかけた程度さ。ベニヒは、ここまで何をしに来たのかな? あまりここまで下りて来ることは少ないよね」

「ああ、ちょっと酒をな。グリエにばれる前にいいところに隠しておかなければならない」


 担いでいた袋を指し示すベニヒへ、フォーンは苦笑いを浮かべながらゆっくりと立ち上がった。座っていた時にはわからなかったその背の高さに、津島は息を飲む。190cmはあるのではないか、小さく見えていたのは足が長いからだ。


「ほどほどにしておきなよ、そんなものに頼らなくったって楽しく生きられるとおもうけどな、僕は。……さて、ベニヒに見つかってしまったし僕はそろそろ戻ろうかな。ソラ君、カズ君、今日はありがとう。グリエ君たちによろしく伝えておいて」

 頷く二人に、フォーンは緩く口角を上げたのち、変な間を空けて再び口を開いた。

「あの……さ、そのおむすびなんだけれど、二人で食べるには多すぎないかい?」


 視線の先には、津島が抱える弁当箱の中身。その言葉の通り、二人では食べきれず五つほど余ってしまっていた。いきなりの指摘に驚きつつも、フォーンの期待でいっぱいな目に津島と空は思わず顔を見合わせ笑みをこぼす。


「少し多めに作ってしまったんです。よかったらお一つ如何ですか?」

「いいのかい!! ありがとう。お言葉に甘えていただきます!」


 差し出されたお弁当に、フォーンは顔を輝かせ端の一つを手に取った。そのまま片手を上げて去ってゆこうとする背中に、ベニヒが声をかける。


「おい! お前らの仲間に、あまり住民へ重圧かけるなって言っておいてくれ! 街の空気が重苦しいんだ!」

「ああ、ごめんよ。 やることが終わったらすぐに退散すると思う。伝えておくよ!」


 それにベニヒも片手を上げた。背を見送りながら、空が小さくベニヒへ尋ねる。


「ベニヒさん、あの……ウォルノールって、なんですか?」

「あ……ああ、そうか、そうだよな。ウォルノールはここの国の名前だ。正式にはウォルノール国。この世界は、柱内にあるウォルノール国とバクサーロ領域、そしてシフォルア街の三国家で成り立っている。それ以外の土地は柱外と呼ばれ、人が住める環境ではないのだそうだ。覚えとくといい」


 ベニヒは言葉とともに三本指を立て、津島と空に示して見せた。



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