1-11 賑やかなる街2
海へ行くという俺の提案は外れではなかったらしく、心底わくわくしているその様子によかったと胸を撫で下ろした。選択は間違えていなかったみたいだ。
俺は別に、泳げもしない海に興味はなかったけど。
ジェスが卵焼きを津島におしつけ、喋っている間ずっとつま先で貧乏揺すりしていたのは気になった。何に苛ついているのか。
もしかしたら俺らがなんかしてしまったのかもしれない。明日聞いてみようと思った。
帰る途中に見たうぐいす色の上着を着た人たちの腰に下げている剣と、ぴりっとした緊張感がすごい格好よくて、俺も土弄りじゃなくてああいうの持って戦ってみたいと思った。でも、その格好よさを津島はどうやら理解できないようだ。
思い返してみれば、津島の様子がおかしくなったのはここからだった。
「と、とりあえず一回帰ろうよ」
そう言いながら、俺の腕を掴んだ手が震えていたことを、本人は気がついていただろうか。
「……あとお腹すいたしさ」
後付けで共感できそうな理由をつけたところで、あんな顔をしてちゃ説得もなにもない。一体彼はそんなに震えて、何におびえていたんだろうか。
しかし、不安に感じることならすべて吐き出すべき。取り除くべきだと、そう言った時、俺は自分の声色を、変えられていなかったのかもしれない。
津島は驚いてこちらを見た。これは失敗だった。
ああ。嫌になる。
あのときこちらを見た目が、不安のあまりに潤んでいたことを本人は気がついていただろうか。つくづく、女みたいな人だと思った。
この、街に入ってから家に到着するまでの、ほんの二十分程度の間で、
津島は普段会わせてこない目線を二度、合わせてきた。
腕を、掴んできた。
ひどい不安を、その仕草でぶつけてきた。
そして俺は過去の間違いを一つ、津島に重ねて見た。