表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紙上史  作者: こーりょ
1 元の世界へ帰る為の、紙の上に記される短い歴史
PR
11/100

1-10 賑やかなる街

「海、行かない?」

 明るい天の下。そう空が提案したのは二人が畑での手伝いを終え、街へ続く砂利道を歩いている時だった。


 道端でグルーンに襲われてから数日、生活はすっかり落ち着きを取り戻し、腕にできた新しい皮膚も周りの肌と同じ色になりつつある、ある日のこと。

「ソラ、カズ! これ、おっかさんから今日作ったっていう和え物と、卵焼き!! お昼にでも食べてって」

 畑での仕事を終えいつも通り給料の封筒を引き抜いたタイミングで、畑の一人娘であるジェリクス——通称 ジェスが弁当包みを抱えて現れた。ジェスの母親は仕事で調理の手伝いをした場合、おかずを律儀にも二人分包んで渡してくれる。

 空が顔を輝かせその包みを両手で受け取った。

「やった、卵焼き!! 毎日ありがとう! 」

「何、ソラ 卵焼き好きなの? 」

「俺? まあ、基本嫌いな食べ物無いからな! ついでに言うとカズの好物は茎わかめだぜ!! 美味しく頂くよ、サンキュー」

「ジェス、おかずいつもありがとう。今日もいろいろお話できて楽しかった。また明日」

「きっ、気にする必要ないし。言うならおっかさんに言って! お疲れ!」


 ふい。と顔を背け走り始めたジェスを見送った津島は隣を盗み見る。隣に立つ空は、ジェスの気持ちなど知らずいつものうるさい笑顔で手を振っていた。

 そうして話は、冒頭へ行き着く。


「折角たまごやき頂いたから、他にお弁当でもつくってさ!!」

「いいね。なんだかピクニックみたい」

「天気もいいし……ってこれはいつもだけど!!」


 うきうきと二人は弁当の候補をあげてゆく。

 しかし軽い足取りはそこまでで、街の出入り口である門をくぐり抜けた先の雰囲気に津島は眉を寄せた。普段の和やかさは何処へやら、異質な重圧が街を覆っている。空が石畳を進みながら小さく口を開いた。


「同じ服装の人がたくさんいるな」


 街の人は少なく、代わりにうぐいす色の上着を羽織った人たちが至る所に立っている。肩部分には赤色の石がきらめくバッヂと、模様の入った小さい布を下げた人たち。彼らは怖い顔でにらみをきかせていて、ときおりひそひそと話をして、街の重い空気の原因が彼らであることは、だれの目にも明らかだった。

 しかしそこで空が津島の腕を強く引いた。


「なあなあ、あの人たちの持ってるあれ……剣だよな!」

「た……多分。ここに来てから数回しか見たことないけれど、とっても大きい剣だね。どこかのギルドなのかな」


 変に目をつけられたらたまった物ではない。数段下げた声量で応えつつ、津島は体をこわばらせた。はたしてこんなに街の空気が重い中、海に行っても楽しめるだろうか。

 そんな津島の心配もつゆ知らず、空の顔はいつもに増してやかましく輝きはじめる。

「すごい格好いいな! 同じ服着て、大きい剣持って! 男のロマンじゃないか!!」


 空の声はみるみる大きくなり、強く拳を握るまでに至る。到底理解できそうにないその興奮を受けて、津島は焦りを覚えた。


「でも怖いし……早く帰ろうよ」

「そんな怖くないって!! ほらあれみろよ、他の人と違う装飾を上着につけてる!! きっと偉いんだ!!」

「いいから!」


 津島の声が、街に響いた。今にも走り出しそうだった空は体を止め、震える声へ顔を向ける。

 津島は白くなった指で空の裾を引いた。


「と、とりあえず一回帰ろうよ。貴重品とか置いて……取られるものはなにもない状態で、い、行った方がいいんじゃないかな。って思うんだけど……あとお腹すいたしさ」


 心の中にわき上がる、理由の分からない不安は津島を強く突き動かした。服の裾を離し、代わりに空の腕を掴む。

 なにか大切な物が奪われてしまう。関わるなら、大切なものを安全な場所に置いてからにした方がいい。そんな不思議な確信があった。

 いきなり腕を引かれた空は一瞬おどろいた表情を浮かべるも、 なにかを察したのか特に抵抗もなく、腕を引かれるままに歩幅を広げる。


「カズ、歩くの早い!! いつものんびりしてんのに!! ……警戒しすぎじゃない?」

「ご……ごめんなさい。でもなんか、やっぱりダメな気がして」

 歩く速度を緩めないその謝罪へ、空は顔に薄く影を落とし、口角を引き上げた。

「……いいよ、謝る必要はない。不安なことがあるのなら」


 普段のやかましさとは違う落ち着いた声に津島は自身の耳を疑う。顔だけで後ろを振り返るも、空はけろりと普段のやかましい笑顔で首を傾げた。


「どした?? 」

「い、いや。今の喋り方に、ちょっと驚いて……」

「喋り方? なにが??」


 しらばっくれる気か。いや、これは本当に何を聞かれていないのかわからないという表情だ。津島は質問したい気持ちをぐっとこらえて、家への最後の曲がり角を曲がった。

 街を二つに分ける太い道から三回曲がり角を曲がった先、さすがにここまで細い道に来るとうぐいす色の服を着た人も居ないようで、津島は安堵し空の腕を離す。

「……あ、あの。ここまで引っ張ってきてしまってごめんなさい」

 空はしかしその言葉には答えず、遠くなる距離に目を細めた。


「もういいの?」

「えっ……何が?」


 聞き返せば、空はぴたりと動きを止めた。声ひとつ出さないその様子に、津島はつい笑みをこぼす。

「不思議な空」

「い……いや、ご、ごめん。ちょっと間違えた。海に行く準備、しようぜ」


 震えた声での提案に頷いた津島は家の扉に鍵を差し込み中へと入る。

 外に残った空は、自分の掴まれていた右腕を服の裾で強く拭い、


「……くそ」

 苛立ちを多く含んだ舌打ちを残して津島の後を追った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ