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第6話 化外の地へと

校舎内の応接室で見つめあうエレナと先生。

重い空気の中、先生が淡々と口を開く。

「......そもそもは、お前がそうしろと言ったんだ。」

予想外の回答に思わずエレナは驚きの声を上げる。

「......えっ?」

結構素っ頓狂な大きな声だったのでエレナは少し恥ずかしかった。

だがそんな恥ずかしがっている場合ではない。


先生は淡々と説明を始める。

「え? じゃない。そもそもはお前が、こんな現実が耐えられないと言うから、

お前の記憶を操作して消してるんじゃないか。」

「私が…?」

「もうお前もわかっていると思うが、われわれはとある作戦を遂行している。

それはすなわち化物退治だ。」


驚かない。

今更どんな言葉や単語が出てこようと驚いている場合ではない。

だけど『作戦』ってなに?

それに『化物退治』ってなに?


エレナも淡々と先生に回答を求めた。

「……。だったら何故私の記憶を消すんですか? まるで多重人格のように。」


「……お前は何度も死んでるんだ。」

さすがにこの回答に対して、エレナは言葉を失った。

エレナは返す言葉が見つからなかった。


先生が続ける。

「お前だけではない。ここにいる人間はほとんど再生人間だ。

まあ複製人間とも言うかもしれない。」

「......。」

「我々は『敵』と戦うため、自らの身体をバトルマシーンにしている。」

「……。」


「失礼します。」

親友が入ってくる。

エレナは驚いた表情で親友を見つめるが、彼女は落ち着いた眼差しでエレナと先生を見つめている。

「失礼します。先生、そろそろ。」


先生は一泊置いてエレナにゆっくりと問いかける。

「わかった。……どうする?これから我々は出撃する。いやなら参加しなくていいんだぞ。」


しばしの間沈黙が流れる。

沈黙が続くその理由はエレナにあった。

戸惑うエレナ。

答えを待つ先生。

特に無表情の親友。

その眼差しは、まるでエレナの決意を確認するかのように。


エレナは決意した。

「行きます。私も参加します! 私が...私がどんな敵と戦って、

再生人間になったのか、この目でみてみます!」


次の瞬間、世界が変わった。

ここは学校ではない。

ここは巨大な戦闘基地の様相に変わった。

学校と思われていた施設は巨大な外殻に守られた戦闘要塞であった。


エレナが学校だと思っていたものは、全て幻影で彼女の意識はコントロールされていたものであった。

ただひとつ、以前の『記憶』と同じものは、巨大な武道場のような広い地下大ホールだけだった。


そして、自分のエレナという名前も嘘だった。

自分も含め、ここではみんな番号で呼ばれていた。


------------------------------------------------


どこかの広い部屋。

巨大な武道場のような広い地下大ホール。

ここに来たのは二度目のはずだ。

たぶん。

でも自分は何度もここに来て鍛錬や訓練や練習をしていたらしい。

自分の意思でそれらの記憶を削除していたらしい。

とにかく自分はその理由を知りたかった。

先生の言う『敵』の正体も知りたかった。


室内には大勢のメンバーがいる。

それに混じり、自分もブリーフィングを受ける事にする。

知ってる人、知らない人がいっぱいいる。

親友、カールお嬢様、さっき会ったばかりの体育会系女子など、複数の人物がいる。

きっと先日ここに来た時にいた人たちだろう。

気がつくと、何度も相談に行った保健室の先生もいる。

たぶん『保健室の先生』と言うのも『作られた嘘』だったのだろう。


ニコニコと元保健室の先生が語りかけてくる。

「やあ。元気そうな顔をしてる。気が晴れたのかい?」

「......えっ? ええ、まあ……。」


先生が壇上に立つ。

彼も『元』先生なのだが。

『元』先生は司令官であった。

司令官はあたりを見回す。

一瞬、元エレナと視線が合うが、彼は特に表情を変えなかった。

そりゃそうだ。

そうなのだ。

自分は一人の戦士。

数ある戦士の一人にすぎない。

これまでのように『特別扱い』はもうしてくれない。

過剰な期待をしても意味は、もうない。


「全員そろったな? 今回の作戦行動を伝える。

我々の努力も虚しく、現在第3局面フェイズ:スリーを迎えている。

化外の地より押し寄せる敵種はゲートを複数構築して、我々の世界を侵食している。

これまで我々はゲートを越え、接続領域のみで作戦展開してきた。

だが、これまでの全員の努力の結果、敵大本営の位置を把握するに至った。

今や、今こそこの戦いを終え、平和を取り戻すため、

我々全軍はゲートを越え、接続領域を越え、

敵世界であるに化外の地侵攻し、敵大本営を制圧する本土決戦を行う。」


その声に反応して、室内にいる一同、鬨の声をあげる。

その勢いに飲み込まれる元エレナ。

だがこれまでの不安いっぱいの表情ではなく、不安を抑え自身の決意を示す表情へと変わっていく。


これが『先生』を『先生』と見る最後の瞬間だ。

彼はもう、自分の先生ではなく、自分も参加する『司令官』なのだから。


「今回の作戦はこちらにも多数の犠牲が発生するかも知れない。

だが恐るな。

損害を受けた者は今まで通りに無事再生することができる。

失敗を恐るな。

強気でいけ。

かならず全員を帰還させる。

負傷兵はかならず蘇生させる。

全員一丸となって、邪悪な敵を殲滅するのだ!」


室内にいる全員の鬨の声があたりに反響する。

元エレナの表情に迷いはなかった。


「作戦行動開始だ。今回の作戦は長距離移動だ。

長時間になる可能性がある。各自、身を引き締めていけ。」

鬨の声をあげる一同。

「了解!」

元エレナもそれに負けまいと強く鬨の声を上げる。


------------------------------------------------


ブワンブワンと重低音が響く。

転送機の駆動音である。

元エレナは転送機とその駆動音に驚きを隠せない。


何度も見たはずである。

何度も聞いた音のはずである。

だが、自身の記憶にない。

何度も何度も記憶が消去されてきたのだろう。


オペレーターの声が響く。

「化外の地接続領域への転送開始します。ゲートオープン。」


地下にある巨大な転送ホールに集まっている集団。

元先生の司令官、元保健室の先生、元親友、元カールお嬢様、元体育会系女子、

そして元エレナ。

数え切れないほどの人数がいる。


強烈な光が交差し、鈍い重低音が地響きを起こす。

耳を塞ぎたくなるような高周波の音が突き刺さってくる。


次の瞬間、身体が浮いた。

そう思ったのは自分だけではない。

そこにいた全員もそう思ったはずだ。

そこにいた全員は無事、化外の地接続領域に転送された。


そこは普通の世界ではなかった。

黒く曇る空には数え切れないほどの『目』の群れ。

地面には、まるで雑草のように無数に生えわたる『亡者の手』。

そして地平線から、まるでハエの大群のように空を切って飛来する『巨大な口』の群。


彼女は今その時、理解した。

なぜ自分の記憶を消去してもらったのか?

それはもう、まともではいられなかったからだ。


司令官が叫ぶ。

「全員、突撃!」

その声に一斉に武器を持って走り出す一同。

彼女は、一歩遅れてその戦列に参加するため走り出した。


そう。そうよ。

私は、私は一度死んだんだ。

何度も戦って殺されて、何度も再生したんだ。

私は、こいつら化物たちと戦って、死んだんだ。

そして、ゲートを越えて化外の地から押し寄せる敵種と戦うため

再生人間として、何度も蘇っていたんだ。


異形の敵と戦うため、自分たちも次々と異形の姿の戦士へと変形していく。

『異形の物』と『異形の者』が戦う、修羅の世界。

とても正気ではいられず、やぱり彼女は自分の記憶の消去を頼むしかなかった。


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