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リリスの言葉

「えぇっと、見学、ですか?」

「はい、本日は『光の収穫祭』の会場を見学していただこうかと」


 その日、セイディは朝一番で神官長にそう告げられていた。彼はにっこりと笑いながら、「こちらも、必要なことなので」と言いながら部屋の窓から外を見つめる。本日は、いい天気だ。そんなことを思いながら、セイディは「突然ですね」と言葉を返す。大体の予定は前日に教えてもらえる。しかし、今回に限ってはそれがなかった。ただ、突然朝一番で神官長がやってきたかと思えば、そう言ってきたのだ。


「はい、そろそろいいかと思いまして」


 神官長はそう言って、目を細める。それはきっと、神官長なりにセイディの努力を認めてくれたということだろう。それにホッと胸をなでおろしながら、セイディは「では、準備をします」と言って立ち上がる。外に出るということは、もう少しまともな格好をした方が良いだろう。そうセイディが思っていれば、部屋にリリスが入ってくる。その後、一つの衣装をセイディに手渡してくれた。


「こちらは、王都の神殿勤めの聖女が身に付ける聖女の衣装です。本日はこちらを身に付けて、行動していただきます」


 セイディがリリスから衣装を受け取ったのを見て、神官長はそんなことを教えてくれた。衣装を広げてみてみれば、ヤーノルド神殿所属の聖女だった時に身に付けていた衣装よりも、かなり豪華だ。さすがは、王都の神殿。そんなことを考えながら、セイディは衣装を見つめる。なんだろうか。もう、二度と身に付けることがないと思っていた。なのに、今自分の手元には聖女の衣装がある。……いろいろと、複雑な気分だ。


「では、外で待機しておりますので、着替えが終わりましたら呼んでください。リリスさん、お願いしますね」

「はい、かしこまりました」


 そんな言葉だけを残し、神官長は部屋を出ていく。残されたのは、セイディとリリスだけ。本日からセイディの護衛に当たるリオは部屋の外で待機している。きっと、リオも本日の会場見学についてくるのだろう。


「セイディ様、失礼いたします」


 セイディが呆然と聖女の衣装を見つめていれば、リリスはそう言って近づいてくる。大方、着替えさせてくれるということだろう。聖女の衣装は一人で着ることも可能である。だが、ここは素直にリリスに甘えておこう。そう判断し、セイディはリリスに「では、お願いします」と言葉を返した。


「……セイディ様、なにか、考えていらっしゃいますか?」


 セイディに聖女の衣装を着せながら、リリスはそんなことを問いかけてくる。リリスは、人のことをよく見ている。だから、そう問いかけてきたのだろう。リリスにならば、自分の気持ちを伝えてもいいかも、しれない。そう思い、セイディは「……もう、二度と着ることは、ないと思っていましたから」と言って聖女の衣装を身に付ける自分を、姿見越しに見つめる。


「聖女の衣装なんて、もう着ることがないと思っていました。だから、なんだかいろいろと考えてしまって」


 ヤーノルド神殿から追放された際、もうこの衣装は自分には関係ないと思っていた。そして、騎士団の寄宿舎でメイドとして働き始めたときから、自分の衣装はメイド服になった。でも、また聖女として活動しようとしている。これが終われば、またメイドに戻りたい。そう、思う。が、それは出来ることなのだろうか? 実際問題、目立ってしまえばここに居ることは難しくなる。なんと言っても、周囲に迷惑をかけてしまうから。


「それに、私にはいつか向き合わなくちゃいけない問題が山のようにあります。ですが、今は……その、そんなこと、気にしている状態ではないな、と」


 向き合う問題は山積みだ。だが、今はそれと向き合うべき時期ではないと思ってしまう。今は、自分のことよりも王国のことを考えなくてはいけない。帝国の問題を、解決しなくてはならない。


「……セイディ様の気持ちは、少し、分かります。私も、いろいろと問題がありますから」


 セイディの言葉を聞いたリリスは、少しだけ目を伏せながらそう言っていた。リリスのその声は、何処か不安そうで。彼女にも彼女なりの悩みがあるのだろう。それは、容易に想像が出来た。


「ですが、私から言えることは一つです。……セイディ様は、ご自分のことをもう少し優先されてはいかがでしょうか? 一人の人間として、自分を大切にした方が良いと思います」

「……自分を、大切、に」

「そうです。人を優先するのは美徳かもしれませんし、確かにいいことです。ですが、それが自分の幸せにつながるかと言えば別問題。たまには、自分を甘やかすことも必要です」


 リリスのその言葉は、何処か重苦しい雰囲気を帯びていた。それに驚いてセイディが目を見開けば、リリスは「出来ましたよ。せっかくですし、髪型も少し弄りましょうか」と言ってくる。その時にはもう、普段のリリスで。


「……そう、ですね。動きやすいように、一つにまとめてください」

「かしこまりました」


 だから、きっと。今は、彼女の事情に深入りする時じゃない。結局、自分は人と深く関わることから逃げているのだろう。セイディはふと、そんなことをまた思い知らされた気がした。

更新遅れてしまい、すみません……。次回更新は金曜日を予定しております。ただ、少し私の方が不調なので、時間はまたズレるかもです……。


書籍版とweb版の違いについては、発売が近づき次第お知らせしようと思っております。また、特典や書き下ろしについても追々。

ちなみに、書き下ろしはリオ視点のものとモブ騎士視点のものになります。特典は電子はクリストファー、公式通販の方はフレディとなっております(いずれ活動報告にまとめます)


いつもお読みいただき、誠にありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします(n*´ω`*n)

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