初戦は酸っぱい?
アルエットさんはプリンセスガードを目指して、武者修行中との事。戦闘力は申し分ないが〝貴女は世間知らず過ぎるから、旅にでも出て見分を広めなさい〟と姫様に言われたそうだ。
「それでズレーハ村に来たら、ゴブリンに苦しめられてたんすよ。騎士として見捨てておけないから、討伐を始めたんすけども、最近ゴブリンを見つけられなくて困っていたんす」
アルエットさんには、ゴブリンのホルモンが染みついているんだと思う……今、ゴブリンは警戒中だろう。
「俺が様子を見て来ますよ。ゴブリンはどの辺に多く出ましたか?」
剣があれば、俺でもゴブリンに勝てる筈。いざとなったら、セーフティゾーンに逃げれば良いし。
「村を出て西に行くと森があるっす。そこで良く会ったすよ」
そこならセーフティーゾーンを展開しても逃げられる筈。陽向がズレーハ村に来たら絶対にストップを掛けられてしまう。
「異世界から来た人なら、何か原因を特定出来るかも知れないっすね。お願いするっす。アイちゃんも行くんすか?」
後ろを見ると、風野さんが薙刀を持って待っていた……どうすれば、村に残ってもらえるんだ?
「ええ、陽向ちゃんからお兄さ……幸大さんの事を頼まれましたので。さあ、行きましょう」
俺の方が風野さんより年上な筈。それなのに何故か主導権を握られている気がする。
「ちょっと待って下さい……確かこの辺にあった筈……さあ、行きましょう」
車の中から、必要な物を取り出す。
「それ、お兄さんが使っているタオルですか?」
俺が取り出したのは、まだ洗濯をしていない使用済みタオル(加齢臭付き)。
◇
アルエットさんに教えてもらった道を進んで行く。天気も良く風も穏やかで平和そのものだ。
本当に魔王軍と戦争中なのだろうか?まあ、この辺は前線じゃないんだろうけど。
「あそこがアルエットちゃんの言っていた森ですね……どこに行くんですか?」
目の前にあるのは手付かずの森。ゴブリンどころか熊とかも出そうだ。
「ちょっとだけ待っていてくれますか?」
木陰に移動して、タオルで体を拭きまくる。流石の風野さんがいる前で股間のタオルを突っ込めない。
後はタオルを枝にぶら下げておけばオッケー。簡易式体臭トラップの完成だ。セーフティゾーンを展開して、様子を見る。
俺は体臭が薄い方だ。コーヒーでも飲んでゆっくり待つとしよう。
「凄い!もう来ましたよ。流石、幸大さん!」
嘘だろと思って見ると、見た事のない動物がタオルに釘付けになっている。
鑑定結果 ゴブリン雄 状態(空腹)
ゴブリンさん、空腹だから即反応したんだよね。それと風野さんの流石は、どっちの意味なんだろ。
「それじゃ、行ってきますね」
唖然としている風野さんを後目に、ゴブリン目掛けて駆け出す。
構えなんて知らないし、正しい握り方も分からない。
「グギャ!?」
これは試合じゃなく戦い……いや、一方的な虐殺だ。驚いて固まっているゴブリン目掛けて剣を振り降ろす。
一回、二回、三回……気付くと肉塊となったゴブリンを見おろしていた。
(さすがにきついな……俺が殺したんだ。生き物を殺したんだ)
酸っぱい物がこみあげてくる。後ろで見ている風野さんの事を思い、それを強引に飲み込む。
見栄を張るんだ。大人だから平気だって、見栄を張れ。
「幸大さん、大丈夫ですか?……ちょっと、すいません」
ゴブリンの死体を見た風野さんが離れた所へ走っていく。日本では動物の死体を見る事は滅多にない。
(水でも持って行くか……なんだ?こりゃ)
ゴブリンの死体の脇に薄汚れた小石が落ちていたのだ。
鑑定結果 ゴブリンの魔石 買い取り価格100バート。
お約束二連発で、魔物を倒すと魔石が手に入るらしい。そしてゴブリンの魔石は安いと。
車に戻って、ミネラルウォーター入りのペットボトルと未使用のタオルを取り出す。
「大丈夫ですか?きつかったら、車の中で休んでいて下さいね」
風野さんにペットボトルとタオルを手渡す。そのまま車に戻りスコップを取り出し、ゴブリンの死体の所へ移動。穴を掘って死体を埋める。
これは優しさじゃない。次のゴブリンを呼び寄せやすくする為だ。
(それじゃ消臭清潔保持魔法を選択)
淡い光が俺を包み込む。これでゴブリンのフェロモンが消えてくれたら、嬉しいんだけど。
「幸大さん、ご心配をおかけしました……もう大丈夫です」
声がしたので、振り返ると風野さんが立っていた。少し顔が青ざめているけど、目から強い意思を感じる。やっぱり、いざとなったら女の方が強いのかも知れない。
(餓鬼の頃の俺なら車内に逃げていただろうな)
だったら、俺はもう風野さんを子供扱いしない。自分の意思を持った大人の女性として接する。
でも、俺が誘惑に負けそうになったら〝風野さんは、まだ子供だ〟と自分に言い聞かせます。
「今度はセーフティゾーンから出て様子を見ます」
これでゴブリンが来たらアルエットさんの力を借りられる。
「来ました……行きます」
現れたのは二匹のゴブリン。風野さんはゴブリン目掛けて駆け寄っていく。
俺も加勢しようと続く……けれども必要なかったです。
》風野さんは音もなく近付くと薙刀を一閃。首を切り落とされるゴブリン。これが格の違いってやつです。
「そろそろ陽向が来ているかも知れませんから、一回村に戻りませんか?」
あっさり倒したとはいえ、かなりきついと思う。これが大人の配慮ってやつです。
「ちょっと待って下さい。ゴブリンの血が付いているから、薙刀を拭かないと……このタオル借りて良いですか?」
風野さんが枝に掛けてあるタオルに手を伸ばさそうとしたので、強引にカットイン。
俺はエロい事が好きだ。だけど、ここまで真っ直ぐな少女に汚れたタオルを持たせる趣味はない。
◇
さて、どうしよう。陽向ちゃんまたしても、ご機嫌斜めです。
「あーにーきー!大人しくしててって、言ったでしょ。もう、愛まで巻き込んで」
ご立腹の陽向の隣には、アルエットさんが立っている。どうやら村の入り口で、陽向の事を待っていてくれた様だ。
ズレーハ村に来る人は限られている。ましてや黒髪の少女なんて陽向しかいなから、簡単に特定出来たんだと思う。
「大丈夫だよ。幸大さんが守ってくれたし」
ナイスフォロー、風野さん。後からおじさんがお菓子をあげます。
「こ、こうだいさん!?兄貴っ!愛になにしたの!」
そこに食いつくか?いいじゃん。名前で呼んでもらう位。
「だって、私がお兄さんって呼んだら兄妹だって誤解されちゃうでしょ」
いや、遺伝子的に無理があります……陽向と兄妹だってのも、信じてもられない事あるけど。
「そうだけどさー」
ここは空気を変えなくては。
「ゴブリンを倒す方法を思い付いたんだ……アルエットさんにも協力してもらいますよ」
うまく行けばかなりの数のゴブリンを倒せる筈。
◇
村には宿屋がなく今日も車中泊です。
ログインボーナス ノートと鉛筆
ミッション達成 ゴブリンを倒せ 1000珠
ゴブリンで1000珠か。これはありがたい。とりあえず、今取るスキルはこれだ。
マジックキャンセルを500珠使って、獲得。これがゴブリン戦で役立つのだ。




