戦闘準備万端、逃げる準備も万端
一昨日は城の庭に泊まったので、シングルバーナーしか使えなかった。でも、今日泊まるのは、村外れの草原。火を使っても問題ない。
「陽向、晩飯なに食べたい?」
家で料理は俺が担当である。掃除は陽向、洗濯は各々でやっていた。
一人暮らしは長いし、アウトドア料理の経験もある。
問題は風野さんだ。俺の料理はシンプルイズベストな男料理。お嬢様である風野さんの口に合うとは思えない。
「兄貴に任せるよ。日本から何持ってきたか分からないし」
パスタ……茹でるのに水を大量に使うからパス。水場を見つけてからにしよう。
ご飯……これはまだ残しておきたい。陽向がホームシックになった時に炊こう。
そうなると、あれにするか。市場で買った食材も使えるし。
「風野さんは焼きそばって食べれますか?」
不便だと思った収納魔法だけど、意外な特典があった。どうも時間停止機能が付いているらしく、クーラーボックスに入れた氷が全く溶けていないのだ。
これで賞味期限気にしないで済む。
「はい、大好きです。家族で良く行く中華料理店でも頼みますし」
いや、そんな豪華食材勢ぞろいな焼きそばじゃなく、三食セットのソース焼きそばなんですけど。
いや、この焼きそばも美味いから大丈夫だ。誰が作っても美味しいチートな食い物だぞ。俺は店の焼きそばよりこっちの方が好きだし。
「兄貴、なんで焼きそばなの?」
確かに中華料理店の本格焼きそばを知っているお嬢様に出すにはハードルが高いかもしれない。料理漫画の主人公なら、本格焼きそばに負けない焼きそば作れるかも知れないけど、俺には無理です。
「日本から持って来た食糧には限りがあるだだろ。遅かれ早かれ、こっちの食材を食べなきゃいけない。焼きそばなら大抵の食材と合うから、最初に料理するのに合ってると思ってな」
城で出された料理は日本人向けにアレンジされていたし、高級食材を使っていた筈だ。俺等が買える食材で、なんとかしていかなきゃいけない。
(調味料召喚の種類を増やさなきゃな)
攻撃魔法も欲しいし、収納スペースも増やしたい……タマポイントが欲しいです。
「どんな食材買ったの?ちょっと見てもいい?」
まずい。兄貴の威厳を守らなくてはいけない。
「キャベツと、じゃが芋、ナス、玉ねぎ、ねぎ、ハム、ソーセージとかを買ってみた。見た目は日本の物と似ているけど、味は食べてみないと分からないな……だから、見なくても良いぞ」
流石に埃立ちまくりの市場で剥き出しになっている生肉は買えなかった。まさか入れ物が自前だと思わなかったし。
清潔保持魔法を使えば、菌を殺せる。次からはタッパーかビニール袋を持って行こう。
「あー、やっぱり人参買ってない。日本から持って来た食糧にも入っていなし。もう、いい大人なんだから好き嫌いしないの」
……だって人参苦手なんだもん。薄く切れば食べられるけど、好んで食べたいとは思わない。
「たまたま偶然人参を見つけられなかっただけだよ。さあ、料理するぞ。陽向、風野さんと好きなカップスープ選んでおけ」
ありがたい事に焚き木に使えそうな木は沢山落ちている。車から調理道具を取り出して、料理開始。
キャベツと玉ねぎは一口大に切る。肉がないので市場で買ったソーセージを使う。キャベツの芯は後日使うので、ビニール袋に入れておく。
(凄いな。キャベツが全然しなびていない)
「あーにき、焼きそばに目玉焼き乗せて欲しいな」
卵の味見も重要だし、目玉焼き乗せ焼きそばはテンションがあがる。なにより陽向を喜ばせたい。
卵を割っていると、風野さんが嬉しそうに微笑んでいた。
「陽向ちゃんって、幸大さんの前だと子供みたいに甘えるんだね。幸大さんも凄く優しい顔してますよ」
陽向の通っている学校には、お金持ちの子供が多い。そこに庶民、しかも田舎者の陽向が通うには突っ張る必要があるんだと思う。
「兄妹だから当たり前ですよ。頼りにされていたら、俺も頑張れますし。さあ、出来ましたよ」
出来上がった焼きそばをテーブルに並べていく。熱々の目玉焼きてって、テンションが上がるのは俺だけでしょうか。
「凄い。このソーセージ、たこさんになっている」
どうせ食べるのなら、楽しく食べたい……でも、風野さんが喜んでくれて良かった。最近の陽向ちゃんは〝また子供扱いして〟って怒るから、お兄ちゃんは寂しいんです。
「兄貴は変な所に凝るのよ」
憎まれ口を聞いても飾り切りした方が、良く食べてくれるのお兄ちゃんは知っています。
「私、こういう賑やかな食事憧れていたんです。うちは両親二人とも忙しいので、一緒に食事をする事が少ないんです」
一緒に食べたとしても、外食が殆んどの事。普段の食事は家政婦さんが作ってくれるそうだ。
「経営者となると、外せない仕事が多いですしね。でも、風野さんを見ていると、ご両親に愛されているのが、分かりますよ。そう言えば、お父様はなんて言う会社を経営しているんですか?」
大会社の令嬢なのは確定だ。陽向からも、なんて会社聞いていないんだよな。
「化粧品会社です。ブレッサって言うんですけど……」
マジですか。でも、あれから五年経つんだよな……だから陽向は言わなかったのか。全く変な気を使いやがって。
「有名な会社じゃないですか。だから光君の家とお付き合いがあったんですね」
ここはお茶を濁しておこう。お互い愉快な話じゃないし。
◇
朝は簡単にトーストにした。最近のアウトドアグッズを使えば、簡単にトーストが出来て便利です。
バターをたっぷり塗って、塩を振りかける。
「兄貴、バター塗り過ぎ。この間の健康診断数値良くなかったでしょ!?」
インスタントコーヒーにお湯を注いでいたら、陽向の駄目だしが入った。バターたっぷりの方が美味いじゃん……バターも調味料扱いにしてくれないかな。
調味料召喚で、こっそり塩を振ったのがバレなくて良かった。
「幸大さん、これからどうするんですか?」
食事を食べ終えて、一息ついていると風野さんが話し掛けてきた。
「まずズレーハ村に行ってアルエットさんと合流します。午前中は昨日行った森の近辺でゴブリン退治。あの山道を登ってみようと思います」
今回持参する物 俺の身体や剣を拭いたハンドタオル 厚手の毛布 ビニール袋2枚
待ってろ!うちの女性陣はチートだぞ。
◇
うん、気持は分かるよ。でも、後の事も考えようね。
夕べはお祭り騒ぎだったらしく、そこら中に食べ残しが散らばっている。
中には道端で寝ている人までいた。
「兄貴、お酒臭くない?」
陽向は鼻を撮みながら、顔をしかめている。
これは陽向の教育に悪いな。昨日は車中泊をして正解である。
だって草むらには脱ぎ散らかした服があるんだもん。ズレーハ村では牛が『夕べはお楽しみでしたね』って言うんだろうか?
「酒を飲んだ事のない人にはきついよな。しかし、次の食い物が手に入る算段はあるのかね……すいません。アルエットさんは、どこに泊まっているんですか?」
道端で寝ている村人の一人に声を掛ける。この人も、かなり酒臭いです。まだ原因であるゴブリンが退治されていないってのに、のん気なもんだ。
「村長さんの家に泊まってるよ。まだ眠いんだ。もう少し寝させてくれ」
いや、せめて家に帰って寝ろよ。風邪ひくぞ。
「ありがとうございます。それともう一つだけお聞かせねがいますか?土産物を買いたいのですが、ズレーハ村の名物はなんですか?」
この余裕がどこから来るのか知りたい。それに、ここで仕入れられる物があったら、ラッキーだ。
「そんな事も知らねのか?蜂蜜だよ。ゲートウェイ伯爵様のお気に入りなんだぞ。ゴブリンが退治されれば、また取りに行ける」
蜂蜜か。農作業も出来ず、現金収入もなくなったから困窮したいたのか。もしくは蜂蜜がなくなったから、商人が来なくなったんだと思う。
そして取りに行っている事は、養蜂をしていないって事だ。随分リスキーな稼ぎ方をするんだな。
「最後にもう一つ。昔からゴブリンが良く出たんですか?」
昔からゴブリンが出没していたんなら、対策方法もある筈なんだけど。
「今年初めてだよ。ったく、高い金だして猛獣よけの結界を森に貼ったってのによ」
村人はそう言うと、再び眠ってしまった。俺の予想だと、ゴブリンを退治したらすぐに帰った方が良いと思う。




