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異世界行って、騎士団長やります!   作者: 神崎冬花
鬼王降臨編
30/64

25話 私がここに居る意味

すいません鬼王降臨編まだ終わってませんでした……

「――う、ッグ……」


 自然と声が出た。

 何故か声はくぐもっていて瞼が非常に重い。

 無理矢理瞼を開けると、視界に強烈な光りが飛び込んできた。

 思わずまた瞼を閉じてしまったが、このままだとまた深く寝てしまいそうな気がして、眠らないよう左腕を――恐らく――天井に掲げた。

 途端肘や肩からバキバキと骨が鳴る音がして出しかけた手はビクッと強張った。

 筋肉痛など比較にもならないほどの痛みが全身に駆け巡り、その御陰で私の意識は完全に覚醒した。

 ゆっくりと再度瞼を開け目を光りに慣らす。

 ようやく視界に何かが現れた。

 見えるのは大理石で出来たヒビ一つ無い天井。窓から差し込む日の光りが反射し、高い天井に自分の輪郭がうっすらと映っている。

 上体を起そうと右腕を動かそうとすると、右腕は何かに固定されたように動かない。

 

 一体何が、そう思い一番新しい記憶を探る。

 すると、頭の中に迫り来る炎と拳が蘇った。


「――まっ‼」


 その場から逃げようと足で地面を蹴った。

 その途端思い出したかのように右半身が悲鳴を上げた。

 

「ッ痛!」


 無理矢理起き上がろうとした体が無意識にビクッと跳ね上がる。

 ギシッとベッドが軋む音が私の下から聞こえる。

 ここで私は自分が何故こんな状態になっているのかを思い出した。


(そうだ、私酒呑童子と戦って……どうなった?)


 状況を把握しようと動かない体の代わりに顔を上げる。

 周りには学校保健室にあるような質素なベッド。

 ベッドの近くには包帯やらはさみやら治療用の道具が机の上に置かれている。

 この部屋で寝かされているのは私一人。

 怪我したのは私だけと言うことだろうか。

 

 続いて自分の状態を確認する。

 先程――ではないかもしれないが――着ていた鎧では無く、病人服。

 両足両腕に治療した跡がある。

 右半身に至っては一体何処のギャグ漫画だ、と見まがうような包帯の量。

 包帯を取ろうとすると、どこからか足音が聞こえてきた。

 奥の部屋から現れたのは聖職衣に身を包んだ赤い髪の女の子――マリアだった。

 マリアは私が起きている事に気がつき、パアッと物憂げな表情から満面の笑みになった。

 

「キノさん! 気がついたんですね!」


 駆け寄ってきたマリアの勢いは抱きつかれるのではと思うほどの速さだったが、流石に身動きが取れない患者に抱きつくような事は無くベッドの傍に立った。


「キノさん気分はどうですか? あまり動かないでくださいねくっついてきた腕が取れてしまうので。お腹は空いていませんか? 先に水を飲みますか? それとも状況報告の方を……」

「ま、待ってマリア。ストップ。情報量が多い……今なんて言った?」

「え、状況報告を……」

「違うそっちじゃない。いやそっちもしてほしいけど今はそっちじゃない。腕がなんて言った?」

「くっついてきた腕が取れてしまうので」

「ねえ待って⁉ 私の体大丈夫なの⁉ 何、私の腕取れてたの⁉ 怖い怖い怖い‼」

「お、落ち着いてくださいキノさん! ホントに取れたわけじゃなくて右腕が灰化してちぎれかけただけなので……」

「どっちみちヤバいじゃん! 私の右腕そんな状態なの⁉ ねえこれ死なない私⁉ まだ死にたくないよ私! 彼氏無しで死にたくない!」

「き、キノさん願望が漏れてます! ていうか普通に男の人好きだったんですね! ちょっと意外です!」

「私別に百合じゃないよ⁉ でもまあ腐ってるから本で見る分には尊くて良いけどね!」

「途中から何言ってるか全く解りませんよキノさん! とりあえず話を聞いてください‼」


 自分の体が想像してたよりも酷い状態だったから思わず気を取り乱してしまった。

 マリアから水を貰い一息吐いたところで話しを聞いた。


 まずゴブリンロードとオークロード、それにオーガロードの三点同時襲撃は全て撃退、死者0。怪我人多数で終わったようだ。

 その中でももっとも重傷だったのは私だという。


「キノさん一週間は寝たきりだったんですよ?」

「い、一週間も寝てたの私?」

「はい。回復魔法を何回も掛けての結果ですので掛けてなかったら半年以上、下手したら死」

「その先は言わなくていいです」


 私以外の怪我人は回復魔法の御陰で一日もかからず傷は完治したという。

 そして私の容態だが……。


「……正直トラウマになりかけました」

「そ、そんな?」

「はい。運ばれたときは炎で着てる物全部消し飛ばされて全裸だったんですけど、それが全く目に入らない程の大火傷でした」

「え、ええぇ……」


 体中火傷しており一昨日まで上手く呼吸出来てなかったのだそうだ。

 その中でも右腕の火傷が酷かったらしい。


「まず火傷で指が全部くっついていました。皮膚が溶けて骨が見えてるところもあったり。まあ簡単に言うとですね。燃え切った木炭みたいでした」

「例えが怖すぎるよ! じゃあ私右腕真っ黒黒助に白い線入ってたの⁉」


 肘から先が触れば触るほど崩れていったらしく本当に千切れかけだったらしい。

 そんな治療不可能だと思われた私の腕を治したのが宮廷回復術師団の団長だったのだという。

 その後はマリアが熱心に回復魔法を掛けてくれた御陰でほぼ全快したのだという。


「はあー。まあ状況は解ったよ。ありがとね、マリア」

「そ、そんなことないですよ団長がいなかったら腕を切断しなければいけませんでしたし」

「その点については後でめっちゃお礼言っとく」

「あら、なら今言って貰おうかしら」


 驚いて振り向いた先には以前浴場で出会った銀髪黄目の妖艶な女性。セレンだった。

 セレンは聖職衣に杖を持っており、体のラインが目立つ聖職衣の性で豊満な胸がさらに自己主張を激しくしている。

 ………。


「ね、ねえ。なんで貴女はいつも私の胸を死んだ魚みたいな目で見るのかしら?」

「イエ、ベツニ。治シテクレテアリガトウゴザイマシタ」

「ぜ、全然誠意が感じられないのだけど」


 納得いかないような表情のセレン。

 隣ではマリアが「知り合いだったんですか?」みたいな顔をしている。

 

「セレンさん団長だったんですね」

「ええ、そうよ。本当は柄じゃ無いんだけど、ね」


 セレンは困ったように苦笑した。

 私、騎士になる前にとんでもない人と知り合ってしまったのか。

 何故あのとき自室の風呂で済ませなかったのだと過去の私を怒鳴りつけたい。


「それにしても貴女、無茶しすぎよ。王を守る近衛騎士がそんなんでどうするのよ」

「す、すいません……」

「ああ、別に攻めてるわけじゃ無いわよ。むしろこれは快挙よ」

「? 何でですか?」

「貴女と一緒にいた近衛騎士の報告によると人と何ら変わりない鬼が出たらしいじゃない。その鬼は遙か昔に存在していて生き残った人間は一人だけらしいわよ。しかもそれ、その鬼に気に入られたからって理由らしいけど」

「へ、へえー……」


 今更ながら自分がとんでもない物と対峙していた事に気がついて寒気がし……。


「私ちょっとお花摘みを……」

「あ、解りました。ちょっと待ってください」

「?」


 マリアはベッドの下に手を伸ばし不思議な形の瓶を取り出した。

 注ぎ口はやけに広く奥は広い空洞になっており、一種のフラスコの様になっていた。

 それはまるで元の世界で言うところの尿瓶……。


「え、あのマリアさん?」

「失礼しますね」


 そう言ってマリアは私の首元まで掛けてあった布団をめくり、更に私の病人服をめくり下着に手を掛け……。


「ままままままっまま待ってくださいマリアさん! これは一体どんなドッキリですか⁉」

「え、お花摘みの手伝いを……」

「そうだろうね! ねえ待って前にもこんなことあった! 何で友達の前で二回も下半身スッポンポンにならなきゃいけないの、おかしくない⁉」

「だってキノさんは怪我人ですから、あまり動かないでほしいんですけど」

「うん、正論! この上ないほどの正論だよ! でもいいから、私一人でトイレ行け痛ててて」

「あぁ、あまり動かないでくださいキノさん! まだ十分に歩けないんですから! 大丈夫ですよキノさん、見知らぬ人じゃ無くて私だから良いじゃ無いですか」

「見知った人だからこんな抵抗してるんですけど! ……ああああ叫んだせいで一気に山場超えたぁ……」

「ええ⁉ それはまずいです! キノさん失礼します!」

「ふぇえ⁉ ちょ待っ――‼」


 間髪入れずマリアは私の下着を脱がして――





「…………死にたい」

「き、キノさんそんな落ち込まないでください。あんな大火傷したのにちゃんと排尿出来たんですから膀胱にはなんの影響も無いことが解ったじゃないですか!」

「……」

「え、えーと。あ、後キノさん凄い足綺麗でしたね! あんな細い足からどうやったらあんな速く走れるのか……!」

「…………」

「え、えーとですね。あ、キノさんって案外毛が無い……」

「んああああああぁあ‼ なにカミングアウトしちゃってくれてんの⁉ 乙女の秘密なにバラそうとしてんの⁉」

「え、私は足の毛全然生えてないんですねって言おうと」

「そっち⁉」


 どうやら汚れていたのは私の脳だったようだ。

 だが考えてみてほしい。友人に秘所を見られたどころか友人と知り合いの前で済ませるとかどんな羞恥プレイですか。

 

「落ち込んでるとこ悪いけど、キノ。貴女に用があってきたのよ」


 と、いままで空気だったセレンが口を挟んできた。


「は、はい何でしょう」

「今回の襲撃の対処に成功したから宴を開くのよ。貴女もどうかしら」

「え、えーと。ありがたいんですけどこんな身ですので……」

「あぁ、それなら……」


 セレンは言葉を切って私に杖を向けた。

 そして小声で何かを呟くと私の体を黄緑色の薄い膜が覆った。

 そして次々に私の体の傷が癒えていき……。


「ほら、体起してみなさい」

「は、はい」

 

 両足を床に付け、足に力を込めると簡単に立ち上がることが出来た。

 先程まで感じていた体中の筋肉痛のような痛みもすっかり消えてしまい、セレンが右腕の包帯を解くと以前と何も変わっていない白い腕があった。

 

「こ、これは――」

「ふふ、どう? これが団長という者の力よ」


 セレンが誇らしげな表情だが、私が思うことはただ一つ――



「――これやってくれたらあんな辱め遭わずに済んだじゃ無いですか‼」

「「あっ」」




 △▼△▼△▼




「諸君、この度は良くやってくれた。私も元帥として鼻が高いぞ。さあ、少し遅れてしまったが、此度の戦良くやってくれた! 盛大に飲むが良い‼」

『おおおおおおお――‼』


 元帥の言葉に呼応してビールジョッキを掲げる兵士騎士達。

 場所は街の繁華街。

 その中でも特に酒場が集中してるところを貸し切りにし、何千という兵士が馬鹿騒ぎしている。

 私はその中で一番端に避難していた。

 下手したら一番の功労者として持ち上げられる可能性があったので速やかに避難していた。

 だが、決して一人でいる訳じゃ無い。

 

「えーキノのん。それに皆さん。今回はお疲れ様でしたぁー」

『お疲れ様でしたー!』


 丸形の木の周りと比べると少し小さいテーブルを囲んでいるのは私、マーガレット、マリア、ユーリ、そしてマイだ。

 良い場所を探しているとちょうどこの席に4人が座っていたので相席させてもらったのだ。

 4人共真ん中に行かなくて良いのかと問うと、私の事だから端に来るだろうと思い待っていたのだという。

 4人と知り合ってまだ月日は浅いのだがここまで自分の事を知られているのは嬉しいし恥ずかしくもあった。


「まさか伝説級の魔物と戦って生き残るだなんて……。スキルを手に入れて舞い上がってましたが、やはりまだまだ適いませんね」

「私は第5階位までの魔法を出すことに成功したんですが、レイスさんに助けて貰って……でも少しはキノさんに近づけた気がします」

「私は大して役に立ててないけど負傷者の皆さんを治したりしました!」


 ユーリ達が自分の活躍を報告してくる。

 3人は以前と比べて格段に成長している。

 マリアは第3階位までの神聖魔法と回復魔法を。

 マーガレットは第5階位を。

 ユーリはなんとスキルを手に入れたらしい。

 何だか私の立つ瀬が無くなってきているような気がするのだが……。


「でもキノのんが今回の一番の功労者なんだから、ほら飲んで飲んで!」


 そう言ってマイが私のジョッキに酒を注いでくる。

 ふむ、酒か。

 元の世界的に言えば完全にアウトなのだが。


(いいじゃねえかよ今日ぐらいは。それにこの世界では私は大人扱いなんだ。元の世界なんて関係ねえ。飲んじまいな!)


 と、私の中の悪魔が囁いてくる。


《いけません。この世界では確かに個体名:キノは大人扱いされますが飲酒していいのは18歳からだと法律で決まっております。それ以下の年齢で飲むとアルコール中毒になる恐れがあります》


 と、私の中の天使……じゃないナビ子さんが……いや、『天使の加護』だからいいのか。

 だが、許してくれナビ子さん。

 私はこんな純粋な目で酒を進めてくるマイを断れないのだ。

 

 駄目な私を許してくれ、ナビ子さん――!

 と、心の中で謝り私は一気にジョッキを呷った。

 喉を通り過ぎる冷たい液体は暴力的なまでに喉を刺激し、脳を激しく熱する。

 普段なら飲む気も起きないだろうが、この状況なら何故かそんな気はしない。

 なるほど、これがお酒か。


「私お酒強いかモロロロロロロ」

「わああああ、キノさあん‼」

「一口で吐くって弱すぎないキノのん⁉ あああ誰かタオルと水を……!」


 マーガレットが慌て、マイが近くの兵士からタオルと水を貰いに行き。


「だ、大丈夫。何故か急に吐き気が来ただオエエエエエェ」

「キノさんもう喋んないでください逆に吐いちゃいますよ⁉ あああ回復魔法じゃ酔いは治せないし、どうしたら……」

「お、おいそこの! ちょっと氷と布を持ってきてくれ!」


 宴が始まって一分半。

 最初の脱落者が出た。




 △▼△▼△▼




「キノのん、大丈夫?」

「ううぅ、水飲んだら楽になった……」


 私はマイに連れられて城の自室にあるテラスで一息吐いていた。

 冷たい夜風が火照った体を冷やしてくれて心地良い。


「じゃあ、ワタシ戻るから。あんま水飲み過ぎても駄目だよ?」

「解ってまーす……」

「差し入れに何冊か本貸す?」

「男の娘のでお願いします」

「こ、こんな時でもブレないねキノのん」


 私は聞かれたから答えただけなのだが。

 マイが部屋から出て行きテラスには私一人だけになった。

 街を眺めると繁華街の方角に大きな明かりと風に乗った喧騒が聞こえる。

 前までだったらこんな光景を眺める日はないと思っていたが、自分は本当に異世界に来たのだなと改めて思わされる。

 この世界のことはまだまだ解らないことだらけだ。

 何故私はこんな世界に来たのかとか、魔王とは何なのか。

 そして、私はこれから何をすべきなのか全く定まっていない。

 王を守るだけの仕事で残りの人生を全て使うのか。

 待遇は最高。友達もいる。守るべきモノや、超えたい壁も出来た。

 だが、それでも思う。私はどうしたいのか、と。

 今回の戦いで痛みを知った。

 恐怖を知った。

 剣を握る意味を知った。

 率いる者の責任を知った。

 私はそれに耐えられるのだろうか。

 本当は元の世界に帰りたいのではなかろうか。

 元の世界では何よりも大切だった家族がいる。

 夢見た青春。

 痛みを知らない幸せの日々。

 

 私は――


「――まだ酔ってんのかな」


 変な思考になっていた自分に自嘲気味に苦笑する。

 部屋の中を見ればマイが置いたのであろう本が何冊か机に置いてあった。

 

 本でも読みながら寝よう。

 そう思い部屋に入ろうとしたが、最後にもう一度街の方を見る。

 未だ絶えない喧騒に街明かり。

 ここから見る景色はとても壮観だった。

 ふと。何かあった訳でも無く、風が強く吹いたわけでも無いが。

 私は自分の頭上を見上げた。

 一部屋だけ窓が開いていた。

 そして窓から顔を出して、私と同じく街を見下ろす少女がいた。

 その少女は夜に、しかも距離があるのにも関わらず、他を寄せ付けない可憐さと、マーガレットやユーリよりも強い。一本一本が宝石の様な金髪のロングヘアーにダイヤモンドの様な水晶色の瞳を持つ少女だった。

 少女はしばらく街の方を眺めていたが私が見ている事に気づき。顔を引っ込め、窓を閉めてしまった。

 

 街の喧騒を聞きながら私はその部屋をしばらく見つめてしまっていた

 

 

 


次回は幕間です。

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