11話 無駄
私は今国王直属近衛騎士団が乗っていた馬車に乗り込み、王都を目指していた。
王都に着くまでの間暇なのでナビ子さんに先日気になっていた事を聞くことにした。
まず1つ目。
風列竜と戦ったとき『光魔法』を習得したって言っていたが、私は魔法を全種使えるのでは無かったのかという質問。これについてナビ子さんは。
《『光魔法』は秘匿魔法です。個体名:キノが使用出来るのは、一般に知られている魔法のみでした》
との事。
つまり私が覚えていた魔法は世間でも知られている一般的な魔法だったのだ。故に『光魔法』の様な秘匿魔法は覚えていないということだ。
秘匿魔法を軽々と覚えてしまう辺り、ナビ子さんのぶっ壊れ性能が良く解る。
次に2つ目。
私は全種魔法を覚えているが、1つの系統の魔法全てを覚えているのかということだ。
簡単に言うなら、『炎熱系魔法』で私は『火炎魔球』以外の魔法を使えるのかということだ。これについての回答は。
《否定。使えません。個体名:キノが使える魔法は全て各系統の初級のみです》
との事だ。
初級の魔法しか使えず、それ以上の威力の魔法は覚えていないようだ。
ただし、私が望めばもっと上の魔法を習得可能らしい。今の所は特に不自由していないのでこのままでも良いのだが、剣士が魔道士の役割を奪ったら駄目だなと思い、自重することにする。
最後。
新しく発現した私の固有能力『天使の翼』の権能についてだ。とりあえず空を飛べるという事は解るのだが、それ以外にも何かありそうなのだ。只の勘だが。
《固有能力『天使の翼』の権能は、『飛行能力』『気配感知』です》
だそうだ。
飛行能力もかなり強いが、気配感知はかなり便利なのではなかろうか。
私を主軸に、半径50メートル範囲にいる生物の居場所を探れるようだ。
ふむ、何だかだんだん異世界物定番の『おれツエエエエ‼』になってきたな。
いや、『おれツエエエエ‼』じゃなくて『ナビ子さんツエエエエ‼』の様な気がしてきた。
そもそも私は『おれツエエエエ‼』系の無双物はあまり好きでは無いのだ。
最初は見ていて楽しいのだが後になってくると、ラスボス的な敵を簡単に倒してしまう。そういうのは少し苦手なのだ。
やはり最初は少し無双しつつ、後から主人公より強いキャラがバンバン出てくる方が自分的には燃えるのだ。
という訳で、私はあまりスキルを取らないことにしようと思う。確信は出来ないが…
ぶっちゃけ、世界のためとかより、まったりと暮らしたい。
が、どうやら今日は今までで一番気を引き締めなければ駄目なようだ。
何故なら――…
「到着しました。ようこそアストレイト王国が誇る王宮へ」
ドラゴンよりでかく、威厳のある城にいる国王に謁見しなければならないからだ――
――――――――――――――――――――――――――
私はメイドさん数名に案内され、城の中を歩いていた。
そこはやはりファンタジー。日本の様な和風建築ではなく、中世ヨーロッパの様な洋風建築となっていた。
埃1つ無い床は日の光りを反射し、私の体を映し出す。まるで鏡の様だ。
両側の壁に等間隔にドアが並んでおり、1つ1つがまるで門のようだ。
私がキョロキョロと周りを眺めていると、メイドさん達が一層豪華な扉の前で止まった。
「キノ様。準備が整い次第お呼びしますので、それまではこちらでお休みください」
そう言って1人のメイドさんが扉を開ける。するとそこには…
「あ、キノさん! 待ってましたよ!」
マーガレット達3人がいた。
3人は今まで見たことが無い高級なドレスやスーツを着ていた。
何これ、1人鎧で来た私が馬鹿みたいじゃん!
私がそんな理不尽な怒りを感じているのも知らず、私の姿を見るなり顔を輝かせたマリアがこちらに寄ってきた。
「なんだ、3人共先に来てたんだ。てっきり私だけ呼ばれたのかと思っちゃった」
そうさっきまで呼ばれたのは私だけなのかと思っていたのだ。
同じ馬車に3人が乗っていなかったので、不思議に思っていたのだ。
どうやら先に連れてこられていたようだ。
私は見知った顔の存在に安心しながら、今更ここに連れてこられた事への考察を開始する。
さて、わざわざ王宮に連れてこられた事への心当たりは1つしかない。
間違いなくドラゴンを倒した事が理由だろう。
先日ゴートが言っていた騎士団の事かもしれないし、ただお礼を言われるだけかもしれない。
何にせよ、私達がこの国の現国王に会わなければいけない事は確かだ。正直言って怖い。国王の前で無礼を働いたら死刑とかなのだろう。
帰りたい。マイホームに速く帰りたい…
何分経ったのだろうか。1分だったかもしれないし10分だったかもしれない。
まあそんな事はどうでもいい。今重要なのは平静を保つことだ。
先程のメイドさんに連れられ、私達は長い廊下を歩く。
辺りは無音で、コツ、コツと密度を持った足音が王宮内に響く。
私達を待っているであろう人達の所に唯々静かに。
一歩歩みを進める度に緊張感が増していくのが解る。
やがて私達の視界の先に一際目立つ大扉が出現した。
その大扉を守護するのは、早朝私の家に来た国王直属近衛騎士団。
私達が扉の前に立つと、私達を先導していたメイドさんが扉を叩き。
「国王陛下。冒険者キノ様と、その一行が到着なされました」
艶やかに扉の先にいるであろう国王に呼びかけ、それと同時に端に控えていた騎士が扉を開ける。
そこにいたのは金色の顎髭を生やした壮年の男性と、金髪碧眼の美しい女性がソファーに寛いでいた。
「ようこそ御出くださった。冒険者キノ殿よ。こんな早朝に呼び出してしまい、申し訳無い」
入ると同時に社交辞令。流石は国王。英才教育もバッチリなのだろう。
とはいえ、いきなり謝罪された物で私も戸惑ってしまい、「どうも…」とぎこちなく返してしまった。
私のその反応はまずかったのか、国王の後ろに控える騎士が険悪な雰囲気を漂わせる。
それを国王は左手をスッと挙げ、騎士に控える様にハンドサインを送る。
騎士は不承不承と言った感じで、腰に提げてあった剣の柄から手を放した。
危ない危ない。危うく斬られる所だった。発言には注意しなければ。
「立って話をするのも何ですので、どうぞお掛けください」
国王は意外とポップな感じで国王の正面にあったソファーを指さす。
言われたとおり私達は「失礼します」と返しながらソファーに腰掛ける。
座ると同時に感じる羊毛の感触。
何これ、異世界番の人を駄目にするソファーですか? ああ、やばい。これ寝っ転がったら熟睡する奴だ。
私がソファーの座り心地に驚いているとそんな私を見て国王はフッと笑った。
見ればマーガレット達はおろか、国王の隣にいた女性や、メイドさん。果ては騎士までも笑いを堪えているご様子。
恥ずかしい事この上ないね。
私は赤くなった顔を隠す様に、俯いてしまった。
「では、まず自己紹介から。儂の名はバルトラ・エル・アストレイト。アストレイト王国の6代目国王じゃ。隣にいるのは妻のカリス・エル・アストレイト。以後お見知りおきを」
メイドさんが運んできた紅茶を啜っていると、国王――バルトラが名を明かしてきた。
流石異世界。王族の名前長いですね。
なんて不躾な事を考えてしまったのはしょうが無いと思う。
「あ、えっと。私の名前はキノ。ご存じの通り冒険者をやっています。えっと、後の3人は――」
「ああ、その3人の事ならもう存じ上げておるよ」
3人の事を説明しようとしたら、バルトラに遮られてしまった。
そのままバルトラはユーリの方を向き。
「久しいな、ユリウスよ。息災じゃったか?」
そうユーリに…え。ユリウス?
「はっ。ご無沙汰しております。バルトラ様。本日はお呼びしていただき、感謝の念に堪えません」
そう言ってソファーから降り、バルトラに跪いた。
ユーリが跪くと、マーガレットとマリアもソファーから降り跪いた。
え…これどういう状況?
私が困惑しているとバルトラが私の方を向き直り。
「ん? なんじゃ知らんかったのか? この3人は長くアストレイト王国を守護してくれておる、2大“貴族”の人間じゃぞ?」
…。
「聞いてないんですけどおおおおおおおぉおお!!!?」
私の絶叫が王宮にこだました。
―――――――――――――――――――――――――――――
「ええと、すいませんキノさん…。隠していたつもりじゃ無いんです…」
ユーリ――いや、ユリウスが申し訳無そううに言ってくる。
3人は私が絶叫した瞬間私の方を向き、綺麗な土下座を見せていた。
今は3人共自主的に正座し、顔を俯かせている。
バルトラはこれから面白い物が見られそうだ、と言った顔でこちらを見ている。カリスやメイドさん。騎士はやれやれと言った感じだ。
だが私の心情は穏やかじゃ無い。なにせ今まで旅してきた仲間が貴族。それも2大貴族とやらなのだ。困惑もする。4人中3人が貴族って一体なんの冗談だ。
「まず、私達が冒険者をやっている理由ですが――」
そこからユリウス達の独白が始まった。
どうやら3人の貴族は代々王家を守る守護兵の家系らしく。政治より戦闘に携わっていたらしい。
なので、英才教育よりも戦闘訓練が多かったらしいのだ。
ある日、実践という事で冒険者に潜み、モンスターを狩る訓練があったらしい。
そこで、ユリウスは優秀だったので、高難度のクエストがある王都に。
マーガレットとマリアは年齢的にも実力的にもユリウスに劣るので、初心者が多い町に。それぞれ別れたらしい。
そこで、マーガレット達に会ったのが私だったというわけだ。
頭が痛くなってきた。只でさえ国王の前なのに、国王の前で実は貴族なんですなんて聞いたら精神的ダメージ多すぎる。
「ま、まあそっちにも事情があったていうのは解ったから、この話は後にしよう。今は国王陛下の御前なんだから」
と、無理矢理放しを締めくくった。
正直これ以上聞いてたら私の精神が持たないし、何より今日呼び出された理由も聞いていないのだ。
速く終わらせたい。というのが本音だ。
「ん、何じゃもう終わりか? もっと話してくれていても良かったんじゃが」
いや、私の精神(以下略。
「まあ良い。それでは本題に入ろう。今日呼んだのは他でもない。先日のドラゴン討伐の件についてじゃ」
と、今までとは打って変わって、真面目な顔になるバルトラ。
私も緊張の面持ちでバルトラを見る。
「知っての通りドラゴンは危険な存在じゃ。小国ではたった1日で更地と化すであろう。そんな化け物を倒したお主等に頼みがあるのじゃ。現在ここアストレイト王国の騎士団は致命的な人員不足に悩まされておる。ドラゴンを倒せる程の実力を持つお主等に頼みがあるのじゃ。どうか、我が国の騎士団にはいってくれんか? 騎士団に入ってくれたら褒美をやろう。だからどうか、頼む」
そう言ってバルトラ、それにカリスも頭を下げた。
普通ならメイドや騎士が頭を上げてくださいとか言うのがセオリーなのだろうが。メイドさんと騎士は目を閉じて沈黙に徹している。
つまりはそれほど人員に悩まされているのだろう。
騎士団か…興味はあった。だが異世界に来てまだ1ヶ月半しか経っていないのにここまでとんとん拍子で先に進んでるのははっきり言って怖い。これから先、なにか不吉な事が起こりそうな気がするのだ。横を見ればマーガレット達は私を見つめていた。どうやら判断を私に委ねるようだ。まったく、調子の良い娘等だ。これからの人生に大きく左右する事なのに私に任せるなんて。いや、この3人はどっちみち騎士団に入らなければいけないのか。騎士団に入るという事は王宮を守らなければいけない訳で、当然王宮近くに自分の家がないと駄目だろう。せっかく買ったマイホームが無駄になるということは解る。それに騎士団に入ったら危険なモンスターとも戦わなければいけないし、もしかしたら他国との戦争とかもあり得る訳で。私のまったりと暮らしたいという願いは潰えるだろう。面倒くさい。バルトラが顔を上げ私を見る。速く決めろって? 解ったよ決めれば良いんでしょ決めれば。ああ、もうなんかやけ食いしたい。そんな食べられないけど。そういえば朝ご飯食べてないや。お腹減ってきたな。いかんいかん、話がズレてきた。
私は1つ溜め息を着くとバルトラと目を合わせ。
「不束者ですが、よろしくお願いします」
そう言ってバルトラに右手を差し出した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
突然だがこの世界の食事情を話そう。
この世界には日本にあったケチャップやらマヨネーズが無い。精々塩ぐらいしか一般には売ってない。
私は良くギルドで食事を済ませていたが、大抵の物はただ焼いただけだ。肉なんて只焼いただけだし、魚も上に塩をかけて丸焼きって感じだった。サラダは洗ってちぎっただけ。とにかく食べ物のレパートリーが少ない。更に年頃の女の子が摂取したがる物が無いのだ。
そう。
甘味が無いのだ‼
甘い物が無いのだ。スイーツが無いのだ。お菓子が無いのだ。アイスが無いのだ。
果実は甘いと言えば甘いが、林檎なんて酸っぱすぎるし、梨なんて食べられたものじゃない。
私は甘味に飢えていたのだ。
結論から言おう、この世界の食べ物は不味い。美味しくないのである。
何故今こんな話をしたのかだって? それは今から解る。
「さあ、まだ朝食も食べていないだろう。遠慮せず食べていってくれ」
バルトラは片手にワインが入ったグラスを持ち祝杯を挙げていた。
今私達は先程いた客間ではなく、大広間に移動し宴会をしている。
周りには私達だけでは無く、王侯貴族やらも参加していた。
ドラゴンを討伐したという事で私達は何回か話しかけられた。だが、貴族という事でユリウス達の方が話しかけられていた。
私はその隙に豪華な皿に盛り付けられた食べ物を自分の皿に移し一口。
瞬間頭の中に電流が走る。
1ヶ月半ぶりに食べる美味しい物は私の肥えた舌を激しく刺激したのだ。
私は皿に盛り付けてあった物を平らげ、次の獲物を探す。
そして私の目に入ったのは、“パンケーキ”だった。何枚にも積み重ねられ、一番上にはこの世界には無いと思っていたバターが乗っていた。
私は『加速』スキルを使い、ほぼ音速の速さでパンケーキを掻っ攫っい口に入れる。
1ヶ月半ぶりの甘い物に私は思わず涙してしまった。
その後私は心ゆくまま高級料理を堪能したのだった。
―――――――――――――――――――――――――――――
メイドさんに私専用の部屋を割り当てられ、私は着替えを持って城の大浴場へと向かっていた。
この世界に温泉があったのが驚きだった。今までも町の近くの水浴び場で冷たい水で洗うことしか出来なかったのだ。
私はここに来て初めて異世界をちゃんと堪能出来ているような気がする。
大浴場は暖簾は無かったが、ちゃんと男女で分かれてあったので、迷い無く女湯に直行した。
衣服を脱ぎ、体にバスタオルを巻き付けてから浴場に入る。
そこは、浴槽が一つしか無いが30人は入れそうなスペースがあった。
湯気でよく見えないが恐らく私一人だ。と言うわけで私は透明なお湯の中に体を沈める。
最初は少しヒリッとしたが、直ぐに慣れた。これも1ヶ月半ぶりのお風呂なので感激する。
頭の芯が痺れるような感覚が心地よい。
「はふぅ…」
「良いお湯ね」
「ええ、ほんとに…」
思わず出た声に返答があり、私はびっくりしながら声がした方を向く。
そこには銀髪黄目の妖艶といった言葉が似合う女性だ。いつの間に入ってきたのか、それとも私が気づいていなかったのか。その女性は私を見ながら、私と同じく湯船に身を沈めていた。
その女性はメイドなのだろうか。それとも騎士団の人か。
とりあえず思ったこと。
胸がデカイ。
そうデカイ。すごいデカイ。私は思わず自分の胸を見る。そこには決して大きいとは言えない胸があった。かつて孤児院に居たとき、同じく孤児院にいた――血のつながっていない――弟妹達にお風呂で「姉ちゃんおっ〇い小っちゃーい」と言われ、それ以来ずっとコンプレックスだった私の胸と、あの女性の胸。そこには天と地程の格差があった。
…。
「ね、ねえ。なんでそんなに私の胸を見るの? なんでそんな親の敵みたいな目で見るの?」
女性は自分の胸を隠した。
おっといけない。ついつい凝視してしまったようだ。
女性は私が見るのをやめて安心したのか、少し楽しそうな様子で。
「貴女、見ない顔ね。新しいメイド、それか騎士団の子かしら?」
女性はそう尋ねてきた。
「あ、はい。新しく騎士団に入ります。キノです。よろしくお願いします」
「ええ、よろしく。そんな可愛い顔して騎士団員なのね。私の名はセレン・エル・アントワネット。セレンでいいわ」
また貴族ですかい。世の中狭いな。
「貴女が騎士団ならまた会う機会がありそうね。なにか困った事があったら言いなさい」
「あ、はい。ありがとうございます」
そう言ってセレンは湯船から出て行った。
また会う機会って事はあの人も騎士団の人なのだろうか。今度あったら聞いてみよう。
それにしても今日はいろんな事があった。マーガレット達が実は貴族だったり騎士団に入ったり、まだなんの騎士団に入るかは決めていないが、密度の濃い1日だった。速く寝たいがもうちょっと暖まってたい。
ああ、いいお湯だなぁ。
私は寛ぎながら、意識が薄れていくのも気づかずに。のぼせてしまった。
その後私は忘れ物をしたらしいセレンに救助され、目が覚めたのは日付が変わった後だった。
長風呂は危険だと実感したのだった。
ちなみに私は無双系大好きです。




