10話 断絶の刻
(なんて愚かなのだ、私は!)
ユーリは自分自身の愚かさと不甲斐なさに憤慨していた。
自分が囮になると言ったのにキノに助けられたからだ。
安全地帯に行くまで油断はしないというのは、冒険者にとっては鉄則なのだ。
だが今回ユーリは…嫌、ユーリ達は、強敵を倒した事で少し油断していたのだ。
それが今、形となってユーリ達を襲っていた。
それがゴブリンなどであったなら、ここまで狼狽えたりはしないのだ。
だが、今回ユーリ達は最悪の敵と対峙していた。
――ドラゴン――
それは全モンスターの中で最凶と恐れられているモンスターだ。相手が悪すぎたのだ。例え油断していなくてもドラゴンと対等に戦える者は限られてくる。それがほぼ駆けだしと言って良いユーリ達のパーティーでは話にならない。
――そう、本来ならば。
(ともかく、ここから一刻も速く逃げなければ全員殺されてしまう。……ならば!)
ユーリは死を覚悟し、ドラゴンに突撃しようと、剣を構える。
だがここにいる者達は気づいていない。自分たちの後ろで着々と準備を進める少女がいることに――
△▼△▼△▼
私はドラゴンの攻撃――恐らくブレス――を受け、動けないでいた。
あぁ、私このまま死ぬんだろうなぁ……。
そんなことをまるで他人事の様に思っていた。あんな化け物の攻撃を受け、さらには木々に勢いよく激突したのだ。死なないにしても背骨がバラバラに砕けていることだろう。
私が今こうして意識があるのも、あと数秒もないのだろう。
異世界生活もこれで終わりかぁ。結構楽しかったなぁ。
次の私の親が私を捨てないことに祈ろう。
そう思い私は襲いかかってくるであろう痛みに備え――
――様として、なにも襲ってこない事に気がついた。
《報告。個体名"キノ"にかかった身体ダメージは2%です》
え――……?
私が疑問に思うよりも速くナビ子さんが答えてくれた。
2%って100%中ですか? ……いや今はそんなことを聞いている余裕はない。
私が無事でもマーガレット達が無事とは限らない。
私は閉じていた目を開け状況を確認する。
ユーリはドラゴンと対峙しており、マーガレットとマリアはさっきの位置から変わってない。
よしまだ間に合う。だがあんな殺しても死なないような化け物を私が倒せるとは思えない。
ナビ子さんなんとかなりませんか、皆を救えるようなすごい能力。
そんな私の思いにナビ子さんは答えてくれた。
《要請を確認。能力を習得します。固有能力『天使の翼』、光魔法"光の剣"、スキル『思考加速』を習得しました。使用しますか?》
流石だ。それでこそナビ子さんである。気になる事が幾つかあったが、今はパスしよう。もちろん使います。強スキルであってくださいよ。
承諾した瞬間、私の体が光り輝いた。
まず、レイピアが純白の光を纏い、光り輝く大剣に。
次に、私の周りの動きがまるでテレビのスロー再生のようになり。
そして、私の肩甲骨辺りに、大鷲の様な、レイピア同様光り輝く巨大な翼が出現した。
その瞬間体が有り得ないほど軽くなる。レイピアは光を纏っているだけなので、質量は元のレイピアと変わらない。
とても良い気持ちだ。それに驚くほど冷静だ、こんな非常事態だと言うのに。
私はドラゴンの方を見る。
ドラゴンは魔力の波動を感じ取ったのか、私の事を――
――見ること無く、その人の顔ほどもありそうな左目を切り裂かれた。
「グオオオオオオオォォッ‼」
ドラゴンは不意に左目が見えなくなった驚きと、痛みから、苦痛そうな絶叫を放った。
「えっ?」
唐突にドラゴンが叫びだしたのが驚いたのか、マーガレット達は間の抜けた声を出した。
実は私も驚いている。あまりの速さに思わず本当に自分がやったのかわからなくなった。
「キ、キノさん!?」
いち早く私に気づいたマリアが信じられないと言った声を出す。
それに釣られて、ユーリとマーガレットもマリアの視線の先を追い、絶句した。
そう私は今、空を飛んでいるのだ。
何故飛んでいるかは私もよくわかっていないのだが、とりあえず『天使の翼』の御陰と言っておこう。
ドラゴンは忌々しそうに喉を鳴らし、私に向かい巨大な爪を振り下ろしてきた。
だが、『思考加速』の御陰でドラゴンの攻撃はとてつもなくゆっくりに見える。さらに『攻撃予測』の御陰でどこを攻撃しようとしているか手に取るようにわかる。
私は軽々と攻撃範囲内から離脱し、ドラゴンの懐に潜り込み袈裟懸けに大剣を振るう。
硬そうな鱗をまるで水を切ってるかの如く切り裂いた大剣は、ドラゴンのどす黒い血が一滴も付いていなかった。
「グガアアアアアア‼」
悲痛な叫びを上げ、ドラゴンは巨大な翼を羽ばたかせ――
――私に両の翼を切断された。
「グオオオォォ……」
力なく叫ぶドラゴンを、ユーリ達はただ見つめていた。
だが、ただ一人マーガレットだけは私の事を見ていた。
「きれい……」
そう無意識に呟いていた。その目はまるで神を見ているようだった。
ドラゴンは起き上がり、殺意に満ちた目を私に向け、口を大きく開け放った。
その瞬間『攻撃予測』が予測した攻撃範囲がいまだかつて見たことが無いほど大きなものとなった。
恐らくブレスだろう。私は大剣を構え、いつでもたたき切れるように準備する。
そしてそれは放たれた。竜巻を横にしたような、巨大なブレスを放ってきた。
思っていた攻撃ではなかったが、私はそのブレスの中に入り込み、
「はああああああ‼」
そう叫んで大剣を縦に全力で振るう。竜巻は半ばから2つに分かれ消え去っていった。
私は固まったまま動けないドラゴンの頭上に移動し、
「“天地断絶撃”‼」
新しい必殺技を脳天にたたき込んだ――
△▼△▼△▼
デモンバットとドラゴンをギルドに届けた私達は賞金と、共に感謝状を貰い、その日は宴会していた。
デモンバットを解体してみた結果想像以上の化け物だったらしく、賞金は200万シルと凄まじい金額のモンスターだったようだ。次にドラゴンだが、正式名は烈風竜というらしく、ドラゴンの中では最弱なのだそうだ。あれで最弱だとか、この世界なんなの? と思ったが賞金3000万シルを受け取った瞬間何だかどうでも良くなった。
一人800万シルもあるので、私は夢のマイホームを買うことにした。
ガゼルからは、『俺んとこいていいんだぜ?』と言われたが遠慮した。異世界に来る前も同じような会話した様な気がするなと思いながら、私はとうとう自立することが出来たのだった。
そう、一週間後王都から使者が来るまでは――……
△▼△▼△▼
マイホームを手にして一週間後、私は扉を叩く音が聞こえ、目が覚めた。
眠い目を擦りながら玄関を開けるとそこには煌びやかな格好をした男が数人立っていた。
私は平常時の半分以下になった思考能力を働かせ、誰かなのかを思い出そうとするも、私の記憶が確かなら初めましてな気がするが。
男達の先頭にいた大柄な男は重厚そうな口を開いた。
「こんな早朝に申し訳無い。私共はここアストレイト王国の"国王直属近衛騎士団"の者である。冒険者キノ殿に頼みがありここに参上した次第である」
ここってアストレイト王国って言うのかと今更な事を思いながら、男に聞く。
「頼み?」
欠伸をかみ殺しながら言った私の態度を気にしなかったのか、男はうむと一つ頷くと、
「これは国王陛下直々のご命令だ。『冒険者キノよ。至急我が城まで参れ。重要な話がある』。との事だ。本来なら強制はせんのだが、国王陛下のご命令だ。準備を整え王宮に行くぞ」
こ、えっ、国王?
私は困惑しながら、とりあえず持っている服の中で一番高い服――鎧だけど――を着て、私の家の前にあった、高価そうな馬車の中に乗り込んでいった。
すっごい微妙な終わり方ですが、次回はキャラ紹介をしようと思います。




