9話 災厄
ジャイアントキャタピラー討伐から3日が経ち、私は1人、ギルドで朝食を取っていた。
パーティーを組んでいるからといって、必ず4人一緒という訳では無い。
基本的には4人一緒だが、誰かが都合が悪かった場合は他の冒険者に臨時で入って貰ったりしている。
マーガレットとマリアはほぼ休むことはないが、ユーリは1週間に2回ぐらい冒険に出られない時がある。何でも家の用事があるのだとか。
話が逸れたが今私は1人で朝食を食べている。1人飯は慣れているので、寂しくなんか無い。
……そう寂しくなんか無い。
それにこうやって食べてたら、どうせすぐに――
「キノさん今日のクエストを持ってきました!」
ユーリがクエスト用紙を握りしめ私の元にやってきた。ユーリのすぐ後ろにマーガレットとマリアもいる。
ほら、こんな感じですぐに集まってくるのだ。
私はユーリからクエスト用紙を受け取り、中を確認する。
『デモンバット1匹の討伐
森林にある地底湖にデモンバットが出現しました。大変凶悪と予測されますので、討伐の際は念入りな準備をお願いします。
報酬金 50万シル(仮)』
デモンバット……デモンって事は悪魔かなにかの類いなのだろうか。
森林ののに何故地底湖があるのだろうか。
ていうか50万シル(仮)ってなんだろう。
ナビ子さんナビ子さん。デモンバットってなんぞや?
《デモンバットとは、下級悪魔がジャイアントバットに憑依したモンスターです。
通常のジャイアントバットより戦闘力は3倍程上がっています》
ジャイアントと言えば3日前に倒したジャイアントキャタピラーのようなものか。悪魔が憑依してジャイアントキャタピラーと同じ報酬金ならそんなに強くないのだろうか。
《否。ジャイアントバットとジャイアントキャタピラーの強さはほぼ同程度です》
ジャイアント2人組―2匹組―は同じくらい強いんだったらデモンバットはもっと報酬金高くても良いんじゃ無いかな。ついにブラック企業の本性を現したのだろうか……。
《これは推測ですが、デモンバットの戦闘記録が少ないため、ジャイアントバットの報酬金をひとまず提示し、討伐を終えた後、冒険者の証言、解剖した後に適切な報酬を払うものと推測します。
なので今は(仮)と提示しているのでしょう》
あー、なるほど。だから(仮)と提示しているのか。
ちなみにナビ子さん。私達ってデモンバットに勝てるかね?
《不測の事態が起こらぬ限りは可能と思われます》
オケオケ。大丈夫そうだね。
「うん、じゃあこれ受けようか。ユーリ悪いけど受けてきてくれない?」
「はいわかりました!」
私は持っていたクエスト用紙をユーリに返し、ユーリは紙を持って受け付けの所に駆けていった。
前から思っていたのだが、ユーリにだけに限らずマーガレットやマリア達は私の事を過大評価しすぎているような気がする。悪い気はしないのだが、もう少し気軽に接してきて良いのに。
「あ、そういえばキノさん。ここ最近森林に向かった冒険者が帰ってこないらしいですよ?」
「ええ、なにそれ。今から森林行くんだからそういう不吉な事言わないでよ」
マリアが思い出したようにそんなことを言ってくる。
そういう事いわれると怖くなるからやめてほしい。
マリアは「エヘヘ、すいません」と舌をペロっと出してはにかんだ。
マリアの額にデコピンを喰らわせ、私はふと、ナビ子さんが先ほど言っていた『不測の事態』という言葉が脳裏をよぎった。
私は一抹の不安を抱きながら、残っていたソフトドリンクを仰いだ。
△▼△▼△▼
3日ぶりに森林に来た私達は、森林の奥深くにある地底湖に足を運んでいた。
目撃証言によると、通常のジャイアントバットより一回り巨大な体躯らしい。
そんなにでかいのなら注意深く探せば見つかるだろう。
そう思い辺りを注意深く見回していき5分位歩いたところにそれはいた。
蝙蝠のように天井にぶら下がっておらず、何か食べているのか、咀嚼音と共に頭が激しく上下している。
ゴクリと、後ろから唾を飲む音が聞こえ、マーガレットが上を向いたまま、
「き、キノさん。う、上に……」
その言葉に上を向くと…紅く輝く星があった。それは正確に言えば目を紅く輝かせる、元いた世界と同じくらいの蝙蝠が大量に天井にぶら下がっており、その目全てが私達に向けられていた。
私は思わず息を飲み、それと同時に蝙蝠の軍勢が私達に向かい襲いかかってきた。
「わ、ちょっ!」
思わず大声をあげたマリアの口をユーリが慌てて塞ぐも、間に合わなかったようだ。
捕食していたデモンバットはゆっくりと頭をこちらに向け。
「獲物ガ来タ……」
ひび割れた声を上げ、大量の蝙蝠と共に襲いかかってきた―
△▼△▼△▼
「『火炎魔球』ッ‼」
マーガレットは元から準備していたのだろう、炎熱系魔法を放ち、迫り来る蝙蝠は大半が焼け落ちてくる。
邪魔な奴は倒したが、最大の障害がまだ残っている。
デモンバットをユーリが丸盾を使い防いでいるが、全長4メートルもある巨体を流石に受け止めきれなかったらしくそのまま吹き飛ばされ地面に2度3度転がっていった。
追い打ちをかけようとしていたデモンバットのすぐ下に光り輝く魔方陣が出現した。
「『聖なる鎖』!」
マリアが神聖魔法を繰り出し、魔方陣から同色の鎖が出現し、デモンバットを縛り上げる。
おお! これが神聖魔法か。初めて見た!
一瞬見とれてしまったが、マーガレットの魔法を詠唱する声が聞こえたので私も詠唱を始め。
「「『火炎魔球』ッ‼」」
二人同時に魔法を放ち、2つの火球はデモンバットに直撃した。
轟音が洞窟内に鳴り響き、爆心地に左側の羽を失ったデモンバットがいた。
あれを喰らってまだ生きてるなんて、正直侮っていた。もう少し楽に倒せると思っていたのだが。
そう思っているとデモンバットは忌々しそうに喉を鳴らし。
「ユ、許サンゾッ! 貴様等、楽二死ネルト思ウナヨ‼」
デモンバットはそう言い、再び突進してきた。私はレイピアを腰だめに構え。
「“雷獣刺突撃”‼」
雷を纏ったレイピアを突き出し、突進してきたデモンバットの頭に突き刺さった。
「グアアアアアアァッ‼」
体中が放電したデモンバットは絶叫しながら地に伏した。
「グ、グクク。私ヲ倒シテモスグニ復活シテクレヨウ。マタ会オウ冒険者共ヨ――」
そう言い残しデモンバットは二度と起き上がらなかった。
△▼△▼△▼
デモンバットを入り口前に置いていた荷台に載せ、帰路に着く途中、私は天候が悪い事に気がついた。
「降りそうだね。急いで――」
帰ろっか、そう言おうとした私の耳に、森林全体に咆哮が鳴り響いた。
それと同時に、咆哮が聞こえた方から凄まじい風圧を喰らい、私達は荷台ごと吹き飛ばされた。
「なっ、一体――」
なにが、私の言葉を遮ったのはいつの間にか目前に現れた黒い壁により阻まれた。
私は壁の正体を探るために頭上を見上げる。そこにいたのは……。
凶悪な顎を持ち、全てを切り裂きそうな巨大な爪、羽ばたくだけで全てが吹き飛びそうなたくましい翼。
そうドラゴンだ。漆黒の鱗を持つドラゴンが道を塞いでいたのだった。
「あ、あぁ……」
その言葉は誰が発したのだろうか。ユーリか、マーガレットか、マリアか、それとも私か。それすらわからなくなる程、私は混乱していた。
硬直からいち早く回復したらしいユーリが私達の前に立ち。
「私が時間を稼ぎます! その間に3人は逃げてください!」
ユーリが何かを言っているが私の耳に入ってこなかった。
なぜなら、ドラゴンが巨大な頭を少し後ろに下げ、何かを溜めてるようだったからだ。
私の視界に、ユーリに巨大な光のリングがかかる。
これは、つまり――!
私はそれに気づくのと同時にユーリを突き飛ばした。
瞬間私は凄まじい衝撃を受け、吹き飛ばされた。木々にぶつかり、私は遠くから聞こえる絶叫をただ聞いていることしか出来なかった。




