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激戦炸裂ホビースピリット!!  作者: 本文・挿絵・管理『ENMA.STATE レベル2』  協力『ジオラマ偶像』
第1話『トランプトラップ』
6/29

闇への疾走

『激戦炸裂ホビースピリット!!』はこの下スグ!!

サイトはそのままだ!!


※この物語はフィクションであり、登場する人物、地名、団体名などはすべて架空のものです。

玩具などで叩く、投げつけるなどの行為は大変危険です。

玩具の使用は用法を守り、安全な遊びを心がけましょう。

 住宅街に(たたず)む一軒の家。年期が入った木造建築。造りは少々古そうだが庭があり、その庭の物干し竿が一昔前の雰囲気を演出する。 時刻は午後7時50分頃… 庭には夜の闇が舞い降りていた。


 ――その木造住宅の一室。 そこに琉樹(りゅうき)はいた。


 手に携帯電話端末を握り、大の字になって畳に寝転がる。去りゆく良囲と別れた後、家に帰宅して直ぐに彼に電子メールを送った…。『徹との勝負を取りやめろ』…と。


 だがいくら待っても返信は来ない。返信が来ない理由はなんとなく分かる。良囲はあの時、琉樹や空珠に、洲葉との戦いの場所・時刻を教えずに去っていった。そこから良囲の思考を推測するに、1対1の試合を約束した以上、恐らくたった一人で戦いの場に赴き、決着を付けたいと考えているのであろう。その気持ちはわからなくはない。良囲の江戸っ子としての誇りを(かんが)みればそれも尚更(なおさら)…。 だが、やはり心配でならないのだ。相手の実力が非常に高いと思われるだけに…。


 こうなっては、もうじっとはして居られない。勢い良く上体を起こし、その場に胡座(あぐら)をかく。しばらく沈黙した後、バッと立ち上がり、畳を足で強く踏みしめ走りだした。


 感じたのだ…。やらなければならない、行かなければならない!たとえ手掛かりが無かろうとじっとしていてはいけないと!


 「どこに行くんだ琉樹? …こんな時間に。」


 家の玄関で靴を履こうとしたそのとき、背後から声が飛んできた。振り向くとそこには、1人の青年。琉樹とよく似た顔立ちだが、どこか冷めた雰囲気を醸す。髪は後ろに跳ねたショートカット、黒いシャツにジーンズ。

 琉樹の兄、火嵐(ひがらし)輝樹(てるき)


 「別に…、ちょい用事。」


 琉樹はその手を玄関の戸にかけながら小さく言い放った。話をしている時間など無い。一刻も早く良囲のもとへ急がなければならない。


 「おい待て。 何処に行くかくらい・・・。」


 「どこでもいいだろ!」


 輝樹の質問に乱暴に答える。これ以上問答を繰り返すつもりなど無し。


 「じゃあ、行ってくる!」


 言うが早いか、玄関の戸を開けると同時に夜道へと飛び出す。玄関の戸は開かれたままだ。輝樹は急いで靴を履き玄関の外へ。夜の冷気に頬を()でられながら琉樹の足音が消えていった方向に目を凝らすが、既にそこには誰も居なかった。


 「…ったく、琉樹のヤツ、何なんだ?」


 輝樹がゆっくりとため息を付き、家の中へ引き返すと、そこには1人の老人が立っていた。


 「心がある。意思がある。そして元気がある。 それで良いと思わんか?」


 老人はうっすらと笑みを浮かべた。


 「爺ちゃん…。」

挿絵(By みてみん)

 火嵐(ひがらし)立造(りゅうぞう)。琉樹と輝樹の祖父。皺に囲まれた細い目、肉の落ちた頬、額には淡い紅のバンダナが見える。甚平(じんべい)に包まれたその背中は少し曲がっているが、歳の割に頭髪は多く、足腰もしっかりしている。


 「好きにさせるのが良い。琉樹は琉樹の事情の上に立っている。1人の人間として…。」


 立造は目を細め、ゆっくりと輝樹に語りかける。輝樹はしばらく押し黙っていたが、やがて表情を軟化させ、口を開いた。


 「そうか…、  そうだね…、爺ちゃん。」


 琉樹の行方が気になるものの、見失ってしまった以上探すことは出来ない。それに、立造が言う通り、琉樹には何か特別な事情があるのかもしれない。とりあえず今は琉樹の帰りを待てばいい。輝樹はそう考え自室へと向かった。祖父の言葉は、言葉で表せぬ薄くも温かい安心を彼に与えた。




 「良囲…!」


 良囲の家へ急ぐ琉樹。既に良囲の家は目と鼻の先、目の前の角を右に曲がれば良囲の家であり寿司屋となっている建物、『寿司処(すしどころ)(かみなり)』。

曲がり角を曲がった先には見知った人影…  空珠がいた。


「ん、空珠? おーい、空珠!」


 空珠へと走りよる。


 「琉樹!?」


 空珠が振り返り目を見開く。突然のことに驚いたようだ。琉樹は空珠の近くまで走り寄ると、俯き呼吸を整えた後口を開いた。


 「空珠…。やっぱお前も…。」


 「…そうか、やっぱり琉樹も気になってんな、良囲の事…。」


 「ああ、あれから良囲と全然連絡がつかねぇんだ…。」


 空珠は、一呼吸置き、表情を引き締め話し始める。


 「良囲は、さっき家を飛び出して行ったらしいんや。良囲の父さんから聞いた…。」


 「って事は、まさかアイツ…!」


 琉樹は表情が一変!


 「多分、ホビーコレクターとのファイトに向かったんやろうな…。」


 「…どうする? 空珠。」


 空珠は直ぐに答えを出すことが出来ず、沈黙し、暗い空に目のやり場を求めた。あたりはもう夜になり、街頭の灯りが煌々(こうこう)と光っている。

 そして、決意するように琉樹を直視…!


 「…追うんや。良囲を! このままやったら良囲までホビーを失ってまう。 でも、今から追いかければ、勝負を止めさせることが出来るかもしれへん!」


 空珠は、『自分の所為で友が死地へと向かってしまった』という責任を感じていた。追わないわけにはいかなかったのだ。


 「でも、どうやって追いかけんだよ!? 良囲の行く先は分からねぇんだぜ!?」


 「ッ………。」


 歯を食い(しば)り、押し黙る空珠。この状況…、良囲を止めたいという想いだけではどうすることも出来ない。


 「くそっ…。」


 険しい顔で俯く琉樹。琉樹も空珠同様、良囲の行く先を特定する方法を思いつくことが出来なかった。俯いた目の先には、街頭に照らされた無機質なアスファルトだけが虚しく広がる。


 「…ん?」


 アスファルトの上の、鋭い光を放つ一つの小さな物体が琉樹の眼に止まった。街頭に照らされたそれは、遠目にはガラスの破片のように見えた…。


 「あっ、これって…!」


 屈みこみ、小さなを『それ』を拾い上げ、まじまじと見つめる琉樹。 『それ』は、『小さな円盤状のガラス』、それも独特の光を放つ江戸硝子だった…!


 「おい、空珠。 これって…、良囲の『おはじき』なんじゃね?」


 「良囲のおはじき…!?」


 「ああ、間違いねぇ。良囲のおはじきだ、多分アイツが落としていったんだと思う。」


 「それやッ!!」


 突如空珠の口が猛る!


 「それが良囲のおはじきなんやったら、そのホビーには、良囲が込めたホビー魂がいくらか残留してるはずや! ホビー魂が残留したホビーは、たとえ離れていても、持ち主とリンクするんや! 琉樹、それをワイに貸すんや!」


 「んっ? ああ、わかった。」


 空珠の話の内容を理解する前に、(わら)にもすがる気持ちでおはじきを手渡す。空珠が何か良い考えを思いついたのなら、それを信じるしかない。

 空珠は琉樹から手渡されたおはじきを握り締める。


 「やっぱり! このおはじきから良囲の残留ホビー魂を感じる。 このおはじきと良囲本人がリンクして、微かに引き合ってるみたいや。その『引き』をもっと精密に感じ取ることが出来れば…!」


 空珠は、そのまま目を閉じ沈黙。そして…


「………よし、これは。 いける! 良囲のおる方角を微かに感じ取れるで!」


「えっ、マジ!? スゲェ!!」


 ホビーに残留したホビー魂と、持ち主のホビー魂との繋がりを感じ取り、持ち主の居場所を大まかに特定する…。それは空珠が他のホビーファイターに比べ、他者のホビー魂を感じ取る能力に優れるからこそ可能な芸当であった。


 「行くで! ワイが先導するわ!」


 「おう! 頼んだ空珠!」


 同時に走りだした2人、その姿は何処か勇ましかった。




 夜の町、2人は走る。行く先は友のもと…。


 「ハア、ハア…、空珠、どうだ?」


 「まあ、ボチボチや!」


 微かに感じる魂の結びつきを頼りに…、友への想いを胸に…、ただひたすらに急ぐ!無心に急ぐ!


 2人が走るうち、周りの景色は車の通行量の多い大通りから、人気(ひとけ)の少ない路地となっていった。夜の路地は寒々しく寂しい。人の声は一切聞こえず、時折野良猫が声を上げる程度。周りを見ると、空き地や空き家が目に付く、どうやら住宅街から離れたようだ。その空気は、暗く、冷たく、生気の感じられないものだった。


 「この感じ、近いで…!」


 「本当か…!?」


 2人は足を止め、あたりを見回す。空珠の目が、一つの小さな廃ビルに止まった!


 「あそこや!! あの建物の上の方!!」


 廃ビルに向けて飛ぶように駆ける2人!鍵の掛かっていない入り口のドアを勢い良く開け階段を駆け上る!無人のビルに足音だけが甲高く響いた!


 「空珠! 屋上だ!」


 階段を登り切った2人の目の前には灰色の鉄の扉、恐らくこれを開ければ屋上に出られるのであろう。ドアノブを掴み、友の名を叫びながら力いっぱい押し開く!


 「良囲ーーー!!」


 勢い良く開かれたドアの先。そこには…、





―――――――居た。





挿絵(By みてみん)

2人の目に飛び込んできた光景。それは、屋上のアスファルトの床に倒れ込んだまま動かない者の姿!そして、それを遠くから見つめる、黒いマントを羽織った者の姿!


 「良囲ッ………!?」


 息を飲み立ち尽くす琉樹。


 空珠は直ぐ様良囲に駆け寄り、彼の隣に膝をつく。その時、良囲の目が虚ろに開き、空珠を覗きこんだ。


「よう、空珠…、悪ィな…、このザマだ…、やられちまったぜい…。 オメェの言う通り…、だったな…。」


 苦しそうな声を発する良囲を見て、空珠は言葉が出なかった。自分がホビーを奪われてさえいなければ…、もっと早く、良囲を止めることができていれば、こんなことにはならなかったかもしれない…。その思いが、自分の所為だという責任が縄になり空珠の胸を締め付ける。


 「クックククククク…。」


 そのとき、屋上に響くは奇妙な笑い声。そう、この屋上の端のほうで、遠くから琉樹達を眺めている者… 洲葉(すよう)(とおる)


 「笑い抑えられず…。友の敵を討つべく、颯爽と私に勝負を挑みし末路…これ! 怒りに燃えながらも何もできず、真に、無様に、あっさりと倒されるその姿…! 滑稽…、そう…この状況、最も適していると思われる表現…、滑稽…、この一言に尽きる!!」


 洲葉は琉樹達のほうへ、ゆっくりと歩き出す。


 「さて、そこを退()いて頂きたい。この私、もうここに用は無し。」


 琉樹達の前で足を止める洲葉。その手には、良囲がいつも持っているおはじきの入った巾着袋が乱暴に握られていた。徹とのホビーファイトによる敗北は、ホビーの喪失を意味する。1つの例外もなく!


 洲葉の目線の先。階段につながるドアの前で倒れ付す良囲。その隣で片ひざをつく空珠。そして、呆然と立ち尽くす琉樹。3人がここにいては、これからこのビルを降りる洲葉にとっては邪魔。だが、3人は動かない、何も言わず固まる。そのときである!


 「うあ゛ッ!!?」


 唐突に廃ビルに木霊(こだま)す叫び!声の主は良囲!琉樹、空珠の目の前に浮かぶ光景…、それは茶色い革靴で顔面を踏みつぶされた友の姿だった!

『激戦炸裂ホビースピリット!!』

 次話も見てくれよな!!


 ホビーファイト… スピリット・・・

 クラーーーーーッシュ!!!!

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