第97話 エンド・オブ・ジ・イルミネーターズ②
「詳しく言いますと、イルミネーターズという別世界からきたヤバい四人組が、ある目的のために満月さんの娘さんたちを捕まえようとしているのです。イルミネーターズは、その足がかりとしてあなたを人質にしようと企んでいるのです」
と、ネロアはチヨの言葉通り、詳しく説明した。
「うわ、本当に信じられない……で、かくいう田中さんは何者ですか……?」
「僕はそのイルミネーターズの一員です」
その一言を聞いて、チヨは思い切り取り乱す。
「ほげー!? ほげー!? ヤバい人に家上がられてるー!?」
「落ち着いてください、満月さん! 私は確かにイルミネーターズです。が、私は満月さんたち家族を引き裂くのはあまりにも胸が痛すぎます! なので僕は満月さんたちに味方します!」
「あ、そうなの。ならよかったー……いや全然よくない! あたしまだ他三人に狙われたまんまだ!
すみません田中さん、味方になってくれるんですよね? でしたら何か作戦とかないですか?」
「はい、あります。まず満月さん、娘さんたちに僕の存在は伏せて、電話して貰えますか?」
数分後。
「……ネロア、遅くないっスか?」
イルミネーターズの他三人は、満月宅から離れた場所で隠れながら、ただ満月宅の玄関をじっと見ていた。
「ああ、遅いな。一体何に時間を食っているんだ?」
「……はやくしないと……ピコリおねえちゃんたちがきちゃ……っ!?」
この時、イバラが突然倒れる。
「どうしたんスかイバラ!?」
「どうしたんだイバラ!?」
ワノと充はイバラを心配して振り向く。と、満月姉妹――特に、電気を放つ黄竜『SGL』を持つマジナと、ルマを射出するサバキがいた。
「はっ!? 何故アタイたちの居場所が……」
ワノと充は、サバキのルマを防ごうとするも、気づくのが遅すぎた。
二人はあえなくルマを浴び、絡まり、身動きが取れなくなる。
「おいおいサバキぃ。私、自分一人でこいつら全員ぶっ倒そうと思っていたんだけど」
「片方は吸血鬼、片方は電気使いだ。そんな奴らに電撃が素直に通じると思うか、マジナ殿?」
「まぁそれもそうだね。ここでドンパチやったら近所迷惑になるし」
ワノと充は道路の上で横になり、ジタバタする。
「こ、このっ、背後から襲うなんて卑怯な真似しやがって!」
「というか、何故にアタイたちが背後にいるってわかったんスか!?」
コーリンは二人に怒りを込めて、
「うるせぇ! いい加減反省しろ! そんなに聞きたいことがあるなら、オレん家の中でしてやる!」
「あ、サバキお姉ちゃん。イバラにもルマかけといて。この人すごい危ないから」
「わかった。ユノス」
かくて拘束されたワノとイバラと充は、満月姉妹によって、彼女の家の中に運ばれる。
「ただいまなのじゃー、お母さん! お土産とヤバいお客さん持ってきたのじゃー!」
家にいるチヨとネロアは、帰ってきた満月姉妹を歓迎する。
「みんなおかえり。あと、ヤバいお客さんはわざわざ言わなくてもいいと思うんだけど……」
「おかえりなさいま……ゲフン、長旅ご苦労様だ、満月家の皆様」
「おい、ちょっと待てっス!? ネロア! あなた満月家の母親捕えるのはどうしたんスか!?」
「昨日不自然に俺たちの戦いを遮ったことといい、満月姉妹が俺たちの存在を知ったといい……さては貴様、俺たちを裏切ったな!?」
「ああ、貴様の思考の通りだ充殿僕は他人の家族の縁を裂いてまで理想を成そうとするような連中に、たとえどのような見返りがあったとしても、僕はこれ以上手を貸せない」
はっきりと本心を言うネロア。対してワノは、顔を赤くしてネロアに怒鳴る。
「アタイは見返りなんていうちっさい物になんかこだわってないっスよぉ! アタイは、アタイは……ただこの世界ではない、帰るべき場所に帰りたいだけなんだじょおっ!」
このワノの叫びを何とも思わず、
「全く、人様の家族を傷つけてまでして帰りたい異世界とは、どれほど居心地のいい異世界なのだろうか」
サバキは皮肉を言ってのけた。
「ワノさぁん、私的に、ちょっと往生際悪すぎだと思うけど、そこの所自覚あるの?」
おまけにマジナからも心ない指摘が飛んだ。
「う、うるさいっス! アタイらの苦労を何一つわかっちゃいない癖に、好き放題言うんじゃないっスよ!」
ここでワノとマジナ・サバキの口喧嘩に、チヨが割って入る。
「ごめんマジナ、サバキ。ちょっと落ち着いてくれないかな? あの、あなた、ワノさんって言うんですよね?」
「あ、はい。ワノって言いまっス」
「さっき田中さんから聞いたんですけど、あなた達イルミネーターズは『ある目的』があってあたしたちを捕まえようとしてるんですよね? まず、ちょっとそれを説明して貰えませんか?」
*
数分後。
「おまたせしました。チヨ様」
アザレアはダイニングテーブルにティーカップを七つ置く。
「ありがとうございます、アザレアさん」
ダイニングテーブルを前にして座るチヨはアザレアに礼をする。
「ありがとな、アザレア」
「ほんとありがとね、アザレアさん」
同じくダイニングテーブルを前にして座るコーリンとピコリも、アザレアに感謝する。
「誠に感謝する、アザレア殿」
「……ご丁寧にどうもっス」
「……」
「……ありがとうございます」
さらに、イルミネーターズの三人――イバラは気絶したまま座らされている――もアザレアに感謝した。
今ダイニングテーブルは、チヨとコーリンとピコリ、イルミネーターズの七人が囲んでいる。
さらに言うと、ワノと充とイバラは変わらずルマで拘束されている。
周りにはマジナ、サバキ、ユノスとアザレア、ルシェヌが目を光らせており、イルミネーターズは是が非でもチヨと会話しなければならない状態になっている。
チヨは尋ねる。
「じゃあ、何であたしたちを狙ったか教えて貰えないですか?」
代表して、ワノが話した。
四人がそれぞれ前にいた、居心地の良かった異世界に帰ろうとしていたこと。
異世界転生管理局から『異世界で悪さをする転生者を始末しろ』と命じられ、イルミネーターズとして各地を転戦したことと。
そして今回、管理局の担当者が『六人の生け捕り』の依頼を持ってきたこと。
これらをすべて話した。
「その六人が、あたしの娘たちということ?」
「はい、そうっス」
ここからコーリンが話し出す。
「そんでコイツら、オレたちが修学旅行の最中にあれこれ仕掛けてきやがったんだ。一回ぐらいピコリが誘拐されて、洗脳された」
「その辺は本当にごめんね、コーリン姉さん」
「だが、オレたちがこうして帰ってこれてる通り、オレたちは昨日、どうにかこうにかしてコイツらに勝った。なのによ、お前ら諦め悪すぎだろ。どうせ負ける癖にまた何かやりに来やがって」
ワノはそっぽを向いて、
「ふん、諦めが悪いことがアタイの長所っスよ! いい褒め言葉ありがとうございまっスー!」
充はため息をついて、
「ワノさん。まだこれでは話が足りないだろうから……すねないで続けた方が良いのでは?」
「そうっスね。
まぁ、あんまり認めたくない事実っスけど、コーリンさんの言う通りアタイたちは昨日負けたっス。
その後、一時撤退した場所で異世界転生管理局の人にあって、こう言われたんスよ。
――『実のところ、あなたたちはノルマを達成したが、担当者が利益のためにわざと事実をかき消した。だから今度こそ、元の世界の故郷に帰してやる』と」
ピコリは首を傾げて、
「え、それで帰れば良くない? なんで第二ラウンドに突入しようと思ったの?」
「その人が言っている『元の世界』っていうのは、アタイらが前いた異世界じゃなくて、アタイらが転生する前にいた世界……つまり、ここにある、各々の実家に帰らされることになったんスよ」
「それで良くねぇか?」
「それで良くない?」
と、コーリンとピコリはストレートに言った。
さらにチヨも、
「あたしもそれがいいと思います。ご家族の誰かが心配してると思いますから」
二人と同じ意見を述べた。
するとワノは、うなだれる。
「……ご家族の誰かが心配している……そんなこと、そんなことないっスよ……!」
失礼なこと言いやがって。と、でも言いたそうな目つきをして、充は語りだす。
「ここからは俺が話す。俺たち四人は、この世界で暮らした記憶が大体ないんだ。
唯一、ワノさんは、中学三年生になるまでこの世界で暮らしていたから、記憶がある。
だが、それは『自分の唯一の家族である母親が、毎日毎日自分と家事をどこかに放って、いつもどこかに遊びに行ってしまう』という忘れたい思い出だ。
俺たちがイルミネーターズを組む時、転生者討伐の心構えとして異世界転生管理局の担当者に言われたことがある。
――『異世界に転生させられる者は、周りの環境に難がある者が多い』と。
実際俺たちのターゲットは、どいつもこいつも救世主やダークヒーローを気取って、それの本質を見誤ったような凶行ばかりする、性格がへしまがっている者ばかりだった。
だから俺とネロアとイバラも、記憶にないだけで、きっとここでひどい目にあったのだろう。と察した。
だから、俺たちはこのまま管理局の言うがままに故郷へ帰りたくないんだ。代わりに、前いた異世界に帰りたいんだ」
「そうなんだ……」
と、チヨは充の説明に相槌をうった。
周りの環境に難がある……難と片付けるのも何だが、自分にも心当たりがあり過ぎるのだから。
気持ちが落ち着いてきたワノは頭を上げて、
「……代弁ありがとうっス、充。
それでアタイらは異世界転生管理局に『やはりコイツらは危険人物だったっス』って言って満月姉妹を突き出して、見返りで前いた異世界に帰してもらうために、今日、お宅を襲おうとしたんス。
けどネロア、やっぱり何でこの期に及んで裏切ったんスか? あなたこのまま、管理局に言われるがまま、ろくでもないとこに帰らされてもいいんスか?」
ネロアは真っ直ぐな眼差しをして、
「受け入れがたき運命であることは十全に理解出来る。だが、だとしても、大罪を犯した先に、喜ばしき報酬はない。あるのは後悔の念のみだ」
「こ、こんのふざけんじゃねぇっスよ、裏切り者のクソネロア! お前はそれでもいいかもしんないっスけど! お前の正義でアタイらの今後の生活ドエラくなるんスよ!? その辺理解した上で行動してるんスか!? え、え、え!?」
「……」
返す言葉が見つからないネロアは、冷めかけの紅茶を口にする。
一方でコーリンはワノにキレる。
「おいワノ! お前もお前で少し言い方考えた方がいいんじゃねぇか!?」
さらに外野の他の姉妹も便乗して言う。
まずマジナが、
「それ、いくら裏切ったとはいえ、仲間に対する口の利き方なのかい?」
次にサバキが、
「ネロア殿は正しいことをしたまでだろうが! 貴様が好き放題罵る権利はどこにもないぞ!」
続いてユノスが、
「どんなにお家帰りたくないとしても、もう少しいいやり方あったと思うよ?」
さらにルシェヌが、
「みっともないのじゃー、ワノ。これぞ負け犬の遠吠えじゃ……」
「うるさい!」
そしてチヨは一喝放った。
あまり怒らないチヨが怒ったという異常事態に、満月姉妹はキョトンとする。
それで周りがすっかり静まり返ったところで、チヨは、
「ごめんなさい。あたしの娘がひどいこと言ってしまいまして。つらかったですよね」
と、ワノに頭を下げて言った。
「え、満月さん……」
【完】




