第87話 絆と涙と満月姉妹の修学旅行②―自由行動大作戦―
早朝、京都のとあるホテルの大ホールにて。
百式高校生徒会長兼、修学旅行実行委員長であるサバキは、ステージに上がって、
「みなさん、おはようございます。
今日は修学旅行最大の目的、『仲間との連携を強め、人として成長する』ための大切な行事、班ごとの自由行動があります。
みなさんそれぞれが班のメンバーと相談して決めた予定表に従い、かつ、百式高校の生徒として恥じないように、行動してください」
と、他の百式高校の修学旅行生に向けて、真面目なスピーチをした。
予定表に書いた場所には必ず行く。常識的なマナーは守る。個人行動は禁止。何か困ったことがあれば先生に連絡する。午後五時にはこのホテルに戻ってくる。などなど……
自由行動のルールを聞かされた生徒たちは、準備が出来た班から出発した。
「おっしゃ、行くぞ!」
コーリンは自分と同じ女子テニス部の子と、
「それじゃあ、行ってくるよ」
マジナも自分と同じ女子サッカー部の子と、
「んじゃ、行ってきまーす!」
ピコリは軽音部の友達二人と、
「じゃあななのじゃー」
ルシェヌはマジシャンとしての自分のファンたちと、
「さて、これで自分達以外の全ての班が出発したな。よし、じゃあ自分達も行くぞ」
「うん、サバキお姉ちゃん」
サバキとユノスは、実行委員会のメンバーと出発した。
ホテルからしばらく離れた所で、ピコリは友達二人に、
「うっし、まずはさっさと博物館行ってしまって……後は服屋さんとかCDショップとかいこっか!」
予定表を作成する上での決まりに『京都の伝統・文化的な場所を最低一つ訪れる』という物がある。
これにさして興味のないピコリたち三人は、それを一番最初に行く。後は好き放題自分たちの趣味趣向にあったスポットに行く。というのが彼女たちの予定だ。
「そうだねピコリーヌ! 地元と京都のお店だと、どんな違いがあるかとか、凄い気になるし!」
「アタシ的には、古都の文化とか一ミリも興味ないし! あ、でも食べ物とかはバエるし気になるかなぁ」
「よーし、なら余計にさっさと博物館行くぞー!」
「「おー!」」
ピコリたち三人は、博物館目指して、京都の道をせっせと歩く。
その後ろで、青緑色の髪の少女が不可思議な輝きを放つ石に話しかける。
「満月ピコリ……だったか。ターゲットが出発しました」
『行き先はどこかとか言ってなかったっスか?』
「博物館に行くと言っていました」
『ほおん。となるとこのエリアで博物館と言えばあそこしか無いっスね。
じゃあアタイはネロアとイバラにそれぞれ指示出しするっス。充は引き続きピコリの尾行お願いしまっス』
「了解」
*
数十分後、ピコリたちは、
「よっし、博物館完走!」
博物館を出て自由行動のノルマを達成し、その出口で大はしゃぎする。
「じゃあいよいよ京都でショッピングタイムと行きますか!」
「「いえーい!」」
「……ぐすん……」
そんな彼女たちの側で、黄緑髪の小柄な女の子が泣いていた。
気づいたピコリはすぐその子に声をかける。
「どうしたの? キミ?」
「……おかあさん、どこ……」
「あ、もしかして迷子になったの? ……うわ、こまったなあ?」
ピコリの友達の一人、ソウは早く遊びにいきたさ故にきっぱり言う。
「ほっといて大丈夫じゃね? あとはその辺の大人に助けて貰えば……」
「ソウたん、そうしたらこの子がかわいそーじゃん。ちゃんとウチらがどうにかしようよ」
ピコリのもう一人の友達、ミナミは気だるい感じで、
「だねー。んー、博物館の出口で泣いてるから、この子多分、先に博物館から出ちゃったんじゃないかな? だから一回博物館に戻って職員に預ければいいんじゃない?」
「それは雑推理だと思う。だってここの出口の中側に警備員さんいたじゃん。その警備員さんがこんな小さい子が一人で出ていくの見過ごす訳ないじゃん。多分街中でお母さんとはぐれたんじゃない?」
女の子はそのピコリの言葉にうなずく。
それを確認するとピコリは、
「よし、なら一回交番に行って、どうにかして貰おうよ。えーと、この辺りの交番……」
スマホを手に取り、マップアプリで近くの交番の位置を探る。
「ここから徒歩三分……結構近くにあるね。よし、じゃあ……キミ、名前はなんて言うの?」
女の子は答える。
「……イバラ……」
「イバラちゃんねわかった。じゃあソウたん、ミナミっち、イバラちゃん連れて交番行こうよ」
するとソウとミナミは揃って言う。
「「えー、ピコリーヌ一人で行って来ればいいじゃん」」
「ちょっ、朝の話聞いてた!? 別行動厳禁だって先生言ってたじゃん!」
「悪いけど交番までいくスタミナないんだよねー、アタシ」
「うんうん、交番行くために疲れたくないんだよ。
てか、ここから歩いて帰って六分でしょ? これくらい別に動いたって、誰にもバレなくない?
さらに迷子の子供を助けるためっていう理由があるから、見つかってもむしろ『偉いっ!』て感じで済むんじゃない?」
「えー、じゃあウチ一人で……交番に?」
「うん、悪いけどピコリーヌ、ガンバ!」
「私たちはここでスマホいじって待ってるから、じゃあね!」
「そんなぁ……じゃあ、イバラちゃん。ウチと一緒におまわりさんのとこ、いこっか」
「……うん」
ピコリは友達二人と離れ、イバラと名乗る女の子を連れ交番へ。
残った友達二人はスマホを取り出し、ピコリが帰ってくるまでの暇を潰し始める。
その時、
「Excusez-moi, où est mon chargeur de téléphone ?」
と、マゼンタ色の髪の色白の女子が、ソウとミナミに、明らかに日本語ではない言葉で尋ねてきた。
「え、今なんて言ったの? ミナミっちわかる?」
「わかるわけないでしょ! 何か探してるような感じは伝わってくるけど! ちょ待って、今翻訳アプリ出すから!」
ミナミはスマホの翻訳アプリを起動し、もう一度その女の子に、謎の言葉を言わせる。
「ダメだ! すごいネイティブ過ぎて翻訳アプリがまるで働いてくれない!」
「ええ、じゃあとりま英語で話しかけて見る? き、キャンユースピークイングリッシュ?」
マゼンタ髪の女子は、しばし首を傾げた後、
「プリーズ、エレキ! プリーズ、エレキ! プリーズ、エレキ!」
と、連呼し始める。
「ダメだ、この外国の人、英語公用語じゃないっぽい!」
「だとしても、エレキだけ言われても困るんだよー!」
するとマゼンタ髪の女子は二人に土下座して、
「プリーズ、エレキ!」
と、何かを懇願した。
「どうするミナミっち! 逃げる?」
「い、いや外国の方土下座させて逃げるとか最低でしょ! とりあえず、エレキっぽい所に連れてってあげて、離れて貰おう!」
こうして二人は、『エレキ』を求めるマゼンタ髪の女子を黙らせるため、彼女を案内することにした――イコール、ピコリとの待ち合わせ場所から去った。
*
一方その頃、ソウとミナミの危機を一切知らないピコリは、
「あった、交番!」
交番を目前とし、迷子のイバラちゃんと共に歩いていた。
「よし、じゃあイバラちゃん。あとはおまわりさんに助けてもらおうね」
「……」
するとイバラは突然足を止める。
「え、どうしちゃったのイバラちゃん?」
と、ピコリが訪ねた時、イバラのお腹が大きく鳴り、
「……おなかすいた……」
イバラは口とお腹の二面で答えた。
「えー、それもおまわりさんから何か食べさせて貰おうよ」
「……やだ……はんばーがーたべたい……」
「は、ハンバーガー……ごめん、イバラちゃん、ここは一旦ガマンできないかな!」
「……やだ……むり……いまたべたい……」
イバラはその場にうずくまり、一切動かなくなる。
このイバラのワガママに困り果てたピコリは、自分が折れることにする。
「わ、わかった! じゃあお姉さんといっしょにハンバーガー食べに行こう! けどその後はおまわりさんの所行こうね!」
イバラは微笑んで、
「……ありがとう……なに、おねえちゃん……?」
「あ、そう言えば名前言ってなかった……お姉さんはね、満月ピコリっていうの」
「……わかった……ありがとう……ピコリおねえちゃん……」
「はいどうも。じゃあ早くハンバーガー食べようね」
「……うん」
こうしてピコリとイバラは行き先を交番からハンバーガーショップに変えた。
「もしもし、こちら充。イバラもワノさんも、順調に作戦を進めている」
『左様か。なれば運命の歯車が軋む音、これは『僕がそろそろ一芝居打つ』を意味するだろう……僕の標的は、もう既に僕の視界で舞踏っているが故に』
「では、そちらも健闘を祈る。俺は変わらず尾行を続ける」
*
同時刻。
「これが日本の歴史の大きな分岐点となった場所か……」
サバキとユノス含む生徒会班は本能寺にいた。
サバキたちの予定表は京都の歴史文化を巡るように作られている。
よって巡る場所ほぼ全てが神社仏閣。当然ここ本能寺も含まれている。
生真面目な班長の性格が反映されている予定表である。
ユノスは本能寺の本殿を前にして、一言。
「やっぱり、あんまり他のお寺と変わらないね」
サバキは、しおり作成の過程で得た知識をユノスに熱く語る。
「本能寺はあの有名な事件以外でも幾度と火災に見舞われた上、時代の流れに合わせて移転・土地削減などが行われたからな。
だから清水寺のように荘厳な様相が保てなかったのだろう。残酷だな、時勢というのは」
「それ知ってる」
と、同じくしおり作成に関与したユノスははっきり言う。
「……すまない、自慢みたいに言って。さてみんな、鑑賞は終わったか? 写真は撮ったか? スケジュール順守のため、そろそろお賽銭して次行くぞ」
「「「はい」」」
サバキ班は班長の号令に従い、賽銭箱の前へと行く。と、その前に群青色の髪の女子がいて、カバンをガサゴソしていた。
あからさまに困っているその女子に、サバキは親切に声をかける。
「そこの方、どうかしましたか?」
女子は頭をかくしぐさをしつつ、答える。
「ああ、邪魔してすみません、僕、どうやら財布をなくしてしまったらしくて……!
ああ、折角京都に旅行に来たっていうのに何やってるのでしょうか僕……」
「財布を無くした……!? それは大変ですね。何か見当とかございませんか?」
「ええと、確か今日は、伏見稲荷でお守り買って、二条城でストラップ買って、京都タワーでお土産用のクッキー買って、あとお昼ご飯にハンバーガー食べました!」
「何故昼飯だけ京都感皆無なんだ……ゲフン、とりあえず一つ一つ逆行して探してみては?」
「ああ、はい! ありがとうございます! では行ってきます!」
かくて群青髪の女子は本能寺の土地から出てい……
「あだっ!?」
……く最中、何もない所で盛大にコケて、背負っていたカバンの中身を豪快にぶちまけた。
それを見てユノスは言う。
「サバキお姉ちゃん、あの人についていかない? 何だかあの人、まるで死神が憑いてるみたいに不安な感じがする」
「……だな。少々予定を切り詰める必要があるが、人助けするのも百式高校の生徒の努めだ。
ユノス、先生にかれこれ事情があって予定を変更すると連絡をしてくれ」
サバキは、荷物をカバンに大急ぎで戻す女子の元へ行き、その作業を手伝う。
「お姉さん、自分たちに貴方の財布探しを手伝わせてくれませんか? これで折角の旅行が台無しになると、自分たちも嫌な気持ちになるので」
「ああ、ありがとうございます! えっと、貴方は……」
「満月サバキって言います。百式高校という学校の、修学旅行生です」
「僕は田中ネロアです。では、お手伝いお願いします!」
(名字と名前の落差が凄いな……)
サバキ班はネロアに同行し、ハンバーガーショップへと向かっていった。
*
「……はむ……はむ……」
イバラはピコリが自腹で買ってあげたハンバーガーを必死にかぶりつく。
「どう、おいしい?」
「……おいしい……」
「それは良かったね。けど、ちょっと食べるの急いで欲しいかな? きっとおかあさん心配してるよ?」
(あと早くソウたんとミナミっちの元に戻らないと……もし先生とかに見つかったら『別行動した』って怒られる……)
「……おねえさん……なんで……しんぱいしてくれるの? ……わたし、あかのたにんなのに……」
「ん? いや、そりゃこんな小さい子が泣いてたら、普通はほっとけないに決まってるでしょ?
あるいは……ウチ、お姉さんが三人、妹が二人いるんだけど、そのお姉さんたち、お姉さんらしいことあんまりしてくれないし、妹二人もなんかウチをお姉さんだと思ってくれないんだ。
だから今ウチ、そのお姉さんたちへのやり返しみたいな気持ちになってて、普段お姉さんになれないイライラを晴らしたくて、イバラちゃんをかわいがってあげてる……のかなぁ?」
「……ひどいおねえちゃんと、ひどいいもうとだね……ピコリおねえちゃんは、いやにならないの……?」
「そりゃ嫌になるよ。たまにひどい目にあうし。けどね、それと同時にみんな、何だかんだ捨てきれない魅力があるし、何より家族でいることが楽しいんだ」
「……ふうん……かぞくって……たのしいんだ……」
「あ、イバラちゃん。何度も言って悪いけど早く食べてね。お母さん待ちくたびれてるかもしれないから」
「……うん、わかった……ピコリおねえちゃん……」
その頃、ハンバーガーショップの外では。
「エレキ! エレキ!」
ピコリの友達二人と、マゼンタ髪の女子が、『エレキ』を探して歩いていた。
「エレキ、エレキ、エレキ……家電量販店に連れて行っても、楽器屋に連れて行っても、ちっとも納得してくれない……もう何なのこの人……」
「ていうか海外旅行に行くんだから、少しくらいコミュニケーションツール持ってきたほうがよかったと思うんだけどこの人……」
二人が女子の不満をコソコソと交えていたその時、マゼンタ髪の女子はピタリと足を止め、ある方向に駆け出した。
「え、何急に?」
「とにかく、追いかけよ!」
二人は、マゼンタ髪の女子が駆け込んだゲームセンターの中に、彼女を追って入る。
「ん、あれは……ピコリの友達……?」
同時に、二人はその様子を、ネロアの財布探しのためハンバーガーショップに行こうとしていたサバキ達に見られる。
「イエーイ! エレキ!」
「ちょっと、急に駆け出してどうしたんですか……」
マゼンタ髪の少女は、スマホ充電器のレンタルマシンを目の前にして大喜びする。
「ああ、エレキってそういうこと! この人スマホ充電したかったんだ!」
「エレキ……電気、なるほどね……なら『バッテリー』とか『チャージ』とか、もっと充電に繋がりやすい英単語覚えて欲しかったんですけど……!」
「センキュー! センキュー!」
マゼンタ髪の女の子は二人にペコペコと頭を下げて感謝した。
そしてスマホ充電器をレンタルして、風のように去った。
残された二人は、揃ってぼやく。
「「ああ、疲れた……」」
同時刻。
「ここです。僕がお昼を食べたハンバーガーショップは」
ネロアは自分が財布を無くした場所の候補である、ハンバーガーショップを指差す。
「だって。じゃあ行こうよ。サバキお姉ちゃん」
「ん、ああ……」
先程のゲームセンターに入っていくピコリの友達二人と、本来なら同行しているはずだろうピコリがいないこと。
それを不思議だと脳裏に浮かべつつ、サバキは班員と一緒にハンバーガーショップに入店する。
「……もしもし。聞こえるかイバラ。そろそろネロアがその店に入る。後は手はず通りにやれ」
ハンバーガーショップに入店した直後、ネロアはここでした行動をサバキ達に語る。
「確か僕は、ここに入店した後、すぐにレジに注文して、お金を払って、メニューを受け取って、上で食べて、そしてここを出ました」
「そうですか。なら上の席が怪しいですね。ユノスは店員に財布の落とし物がなかったか聞くがてら、入店した故の礼儀として人数分の飲み物を買ってくれ。自分たちは二階に行く」
「うん、わかった」
この時、二階にて。
「……ピコリおねえちゃん……わたし、トイレ……」
「あ、行ってらっしゃい」
イバラはピコリの元から離れ、トイレに行くと見せかけて、一階へと降りていった。
それから間もなく、
「僕はあの辺りの席で食べてました」
二階に上がったネロアは、自分がハンバーガーを食べていた座席を指す。
しかし同行していたサバキは、それよりも大変な者を発見してしまう。
「そうだ、今のうちにソウたんとミナミっちに謝らないと……色々あって交番じゃなくてハンバーガーショップに来ちゃったって……きっとあの二人、博物館付近で怒ってるだろうなぁ」
と、思い立ったピコリは、SNSアプリでグループにメッセージを書き込もうとする。
その時、
「あの、すみません。ちょっと貴方のテーブルの下に潜らせてもらっていいですか? ちょっと探し物がありまして……」
と、ネロアに声をかけられ、
「あ、どうぞ」
ピコリは足を上げ、ネロアはテーブルの下を探す。
「あ! ありました! 僕の財布!」
そしてネロアは探し求めていた自分の財布を発見した。
「え……この下に財布落ちてたんだ……」
「ご協力ありがとうございました。そして、失礼しました」
ネロアは律儀にピコリに一礼し、その場から撤退した。
「どういたしましてー……っ!?」
直後、ピコリは、明らかに憤っているサバキと対面してしまう。
ピコリは焦燥した。なんせ今、自分は友達と離れている――班員と『別行動』しているのだから。
【完】




