第86話 絆と涙と満月姉妹の修学旅行①―新幹線で京都へいこう!―
九月上旬某日の早朝。とある駅の新幹線用のホームにて。
同じ制服を各々なりに着崩している数百人規模の少年少女がいた。
彼らは地域内でとりわけ校風がユルい『百式高等学校』の一年生で、これから修学旅行に行くのだ。
その中に見た目も性格もバラバラ、けれども謎の団結力がある六人組がいた。
彼女たちは、そう、満月家の六人姉妹だ。
「おー! あれが新幹線かー! マジで速えーな! オイ!」
「そうだね、姉御。しっかしこれ、駅の外と間近で見るのはやっぱり違う……この大きさとか長さとかもさぁ……」
「マジナ殿、今の発言に含みがあったように聞こえたのは自分だけか?」
到着した新幹線に満月姉妹含む百式高校の修学旅行生はぞろぞろ乗り込む。
満月姉妹が三人席を向かい合わせにして座ってから数分後、新幹線は出発する。未知の速さに六人はワクワクした。
「速いのじゃ! 速いのじゃ! 実際乗ると速いのじゃこれ!」
「ルシェヌ、うるさい。他の一般のお客さんとかいるから、騒ぐにしてもほどほどにして」
ユノスはマナーのなってないルシェヌを叱った。
この二人の隣に座っているピコリは、
「すみません、牛すき弁当一つください」
車内販売に声をかけ、弁当を購入した。
マジナはピコリに尋ねる。
「あれ、今そんな重たそうな弁当食べて大丈夫なの? お昼食べられなくなるよ?」
「うん大丈夫。その辺はどうにかするから」
ここでコーリンがふと思う。
「そういや、今日の昼飯はどこで食うんだっけ?」
「うまい!」
生徒会長、兼、今回の修学旅行の実行委員長のサバキはコーリンの無知っぷりに呆れて、
「京都の清水寺辺りのお食事処だ。ちなみに、その後は京都市郊外の神社仏閣を回る。夕飯はホテルですませる……修学旅行のしおりに書いてあっただろうが」
「うまい!」
ルシェヌは修学旅行のしおりを取り出して、
「明日は京都市内で班ごとに自由行動。明後日は大阪のおっきな遊園地に行って、明々後日に大阪でちょっと遊んで帰る。なんじゃと」
「うまい!」
ユノスも同じく、修学旅行のしおりの予定表を見ながら、
「この通り予定いっぱいだね。すっごく充実してて、漫画の取材になりそう」
「うまい!」
コーリンもしおりを片手に、
「京か……前いた世界で隆元の兄貴が、『すげーいい所』って自慢しまくってたな……果たして本当にそうなのかなぁ」
「うまい!」
マジナはしおりをペラペラめくりながら、
「京都ってあれでしょ、ここの世界ではかなり古い歴史があるとか言われている街でしょ。
そのことなんとなーく考えながら、自由行動の予定考えたけど、そんなにいい所なのかい?」
「うまい!」
それにサバキは返す。
「この世界では観光地としては鉄板らしいぞ。自分も委員長としてしおりの編纂のため、有名どころの情報を調べながら、そうなのか。と、思ってあれこれ仕事してたぞ」
前いた世界、ここの世界、この世界――と、満月姉妹は普通の女子高生の話題に出ないだろうワードを出して会話していた。
「うまい!」
こちらももはや説明不要だろうが、念のため。満月姉妹は異世界に転生し、人生の約九年をそこで過ごしている。
なのでこの京都・大阪への修学旅行は、彼女たちにとってこの世界の特徴の一つに触れる、他の生徒よりも新鮮な体験になる予定なのだ。
「うまい!」
なお、さっきから、流行りに乗ることに躍起になって、完食した弁当を空食いしているピコリは、『音楽文化が遅れている程度の差異しかない異世界』に転生したため、さして京都・大阪に特別感を持っていない。実際大阪にはライブで行ったことがある故に。
おまけにそちらの異世界で彼女は芸能活動をしていたため、新幹線移動も慣れているので、それへのワクワク感もない。
*
数時間後。
百式高校の修学旅行生は新幹線からバスに乗り換え、清水寺付近のお食事処で、
「は、ハンバぁーグ……弁当?」
「ちっとも京都感ないな。来て早々こんな仕打ちかよ」
京都感皆無の業務用弁当を食べた後、清水寺に来た。
ここでは清水寺敷地内で個人自由行動。なのでサバキ、ピコリ、ユノス、ルシェヌはなんとなく一緒になり、清水寺のメインスポットへ。
「きたこれ、『清水寺の舞台から飛び降りる』でおなじみの清水の舞台だ」
ピコリは清水寺の舞台の上に立ち、二回目としてはなかなかの興奮っぷりを見せる。
ここでルシェヌは疑問に思う。
「そういえば今立ってるこの舞台、何だか山から飛び出たように作られおるが、何故こうしたのかえ? 別に先を見てもただの木林で、見物には使えなそうじゃが」
ルシェヌのクエスチョンにユノスが答える。
彼女はサバキと同じく修学旅行の実行委員。しおり編集に関わっているから実際詳しい。
「それはあそこの仏像を拝む人の安全のためだよ。
昔からあの仏像は崖際に置かれてるんだ。けど、その前の足場が狭くて、拝む人が沢山来ると事故になるから、こう足場を広くして、沢山拝む人が来ても大丈夫なようにしているんだよ」
「それならあの仏像を安全なところに置き直せば、こんな大掛かりな足場作らなくてもいいような気がするのじゃが? それをしなかったのは何故かわかるかえ?」
「サバキお姉ちゃん、それは何でだっけ?」
「ええと……慣例的な物じゃないか?」
「ビミョーにツメが甘いね、サバキ姉さん」
と、ピコリはサバキにツッコみ、
「……すまない」
サバキは実行委員長としての無知っぷりを猛省した。
*
一方その頃。清水通りにて。
「はい! 百式高校の生徒さんは今なら団子百円引きですよ!」
「こちらで今、百式高校の方に最中を一割引で売ってまーす!」
予め修学旅行に来る学校を把握しているだろう、お土産屋さんは全力で声を張り、一人でも自分のお土産を買わせようと必死こいていた。
「清水の舞台だかってのが、人混み過ぎて避けてみたら……」
「こっちはこっちで騒がしいって言うね。困ったね、姉御」
まず清水通りを回ることにしたコーリンとマジナは、ここの騒々しさに呆然としていた。
すると、近くにいた煎餅屋のお兄さんが、二人にこう声かける。
「そこのお姉さんたち! 制服からして百式高校の生徒さんでしょう! どうです! ウチの煎餅、いかがですか! 日持ちしますんで、お土産に最適ですよ!」
「あ、結構です」
「オレたちまだ修学旅行初日で、今デカイ荷物持つと後が大変なんでな」
と、二人は咄嗟にいい感じの言い訳を張って、煎餅屋の追随から逃れた。
「いやー、マジでうるさいな。ここ」
「それね。しかも本当にうるさいのが、観光客じゃなくてお土産屋さんっていうのが何とも言えないね。儲けたい気持ちはわかるけど、必死過ぎて迷惑なんだよねぇ」
清水通りの不満をぼやきつつ、コーリンとマジナは、お母さんへのお土産を探す。
すると今度はおばあちゃんがおぼんを持って、二人に接近する。
「お嬢ちゃんたち、このまんじゅういかがですかい?」
おぼんには、四等分にカットされ、爪楊枝が刺さったまんじゅうが何個か置かれていた。いかにも試食用である。
「どうする姉御、これ食べる?」
「まぁ、タダで食べるだけならいいだろ」
お言葉に甘えて、二人はそのおばあちゃんのまんじゅうを口にする。
「うん、可もなく不可もないまんじゅうだな」
「普通に甘くておいしいまんじゅうだね」
「そうかい、それはありがたいね。ところでお嬢ちゃんたち、甘い物食べたから、今度はこういうのはいかがかい?」
おばあちゃんは流れるようにおぼんを持ち変える。次のおぼんには、お茶入りの小さい紙コップが何個も乗っている。
「これも飲もうぜ。このばあちゃん、親切にあれこれくれてやるんだから、それに乗っかってやろうぜ」
「そうだね。実際私、さっきの甘いので喉乾いたからさぁ……」
これまたお言葉に甘えて、二人はそのお茶をいただく。
そしてコーリンはそれを飲み込んで、一言。
「……なんかこのお茶、しょっぱくねぇか?」
「金髪のお嬢ちゃん、それはね、昆布茶っていうのさ。そのほどよいしょっぱさ、癖になるじゃろ……」
そしておばあちゃん――お土産屋は最終作戦に移行する。
手際よく昆布茶のおぼんを店に戻し、昆布茶の袋を持ってくる。
「お嬢ちゃんたち、その服からして修学旅行に来た学生さんじゃろ。ならこの昆布茶、お安くしてやるよ。
この昆布茶、普通に飲むのもいいし、朝、ご飯にかけて食べるのもおすすめじゃよ。
あとパッケージが薄めだから、かさばらなくてお土産におすすめじゃよ。
あと、学生さんだからお安くしてやるし、普通に飲むのもいいし……」
と、必死に昆布茶をコーリンとマジナに売ろうとしたおばあちゃんだったが、肝心の二人は、昆布茶の袋を持ち出した時点で、既にその場を去っていた。
「まぁ、タダで貰えるだけならいいんだけどね、タダで貰えるなら」
「まさかまんじゅうは餌で、昆布茶が本命だったとは……異世界の父親しかり、年寄りは侮れないな……」
「見てくださ―い! 学生のみなさん見てくださーい!」
続いてコーリンとマジナは、やけに若々しい接客の声がする方を見る。
「ここでは世界に一つだけのー、オリジナルのメタルストラップを作れまーす! 完成時間は三十分でーす、修学旅行の思い出づくりにー、いかがでしょうかー!」
和風情緒溢れる道並みで凄まじい違和感を発揮するストラップ屋を見て、二人は言う。
「観光名所のお土産屋さんって、大変なんだねぇ……」
「だとしても、こちらも大変なんだがな」
*
その夜。京都市内のホテルにて。
満月姉妹は同じ寝室にいて、今日のことについて話し合っていた。
サバキは言う。
「やはりネットで見るのと、実物を見るのは違うな……どこの神社も寺も、趣があってよかった」
ユノスは言う。
「ボクもあちこち歩いてて楽しかったよ。おまけにいい取材にもなったよ、京都って色んな漫画の舞台になるもん」
そう絶賛する二人に対して、コーリンは真逆な事を言う。
「いやぁ、オレはあんまり楽しくなかったなぁ。オレが前いた世界とほぼほぼ同じような風景ばっかだったし」
さらにマジナは言う。
「私的に、別に古臭い建物見ても楽しくないんだよね。前いた異世界で私住んでたのが、あのぐらい古臭い物件だったからさぁ」
そしてルシェヌは言う。
「アタシは、とにかくお母さんに会いたくてたまらないのじゃ!」
サバキは言う。
「まぁ、みんなそれぞれ、感じたことはあったのだろうな……わかった」
「何がわかったんだい、サバキぃ?」
「この後実行委員会での会議がある。そこで自分とユノスは今日の統括をするんだ。だから今、貴様らの発言をネタにさせてもらうぞ」
「え、オレが『京都飽きた』って言ったこともか?」
「アタシが『お母さんに会いたい』って言ったのもかえ?」
「ああ、今日の来訪と微塵にも関連性のないルシェヌ以外の発言はきっちり出させて貰う。
それじゃあそろそろ時間だから、自分とユノスは行くからな。
四人とも、今日はしっかり寝ろよ、明日は班ごとの自由行動――修学旅行の主目的、『仲間との連携』が最も試される活動なんだからな」
するとコーリン、マジナは声を揃える。
「「えー、ひっどー」」
「だったら言うな! じゃあ、重ねて言うが、今日はふざけず寝ろよ、貴様ら」
こうしてサバキとユノスは部屋を出ていく。
「そう言われたわけだから、姉御、今日は寝よっか? もう夜遅いし、場所に馴染めてないせいか、特別ムラムラしてないし」
「そうだな、下手に騒ぐとサバキが飛んでくるし、今日は素直に寝るか」
「ふぁ〜、アタシも寝るのじゃ。もう単純に眠いのじゃ〜」
続けて、コーリン、マジナ、ルシェヌも部屋を出て、各々の寝室に向かっていった。
そしてこの部屋……
「外で待たせちゃってごめんねー、ソウたん、ミナミっち」
……ピコリ班の部屋に、ピコリの友達が戻ってきた。
「だいじょぶだいじょぶ、アタシたち、他の部屋の子と遊んでたから」
「というか、思ったより早く終わったねー。ピコリーヌの姉妹会議」
「修学旅行初日で、観光時間よりも移動時間の方が長かったから、みんな特に言うことなかったからね。さーて、三人集まったしさぁ、どうする? やっぱ修学旅行らしく、枕投げでもする?」
「いや、やめとこうよー。だって生徒会長、多分ピコリーヌに目つけてるだろうし。きっと何かやってたら、生徒会長経由で先生に大目玉食らうってー」
「うんうん、アタシもそんな予感がするから。今日は普通に寝よ、ピコリーヌ」
「わかった。そうしよっか」
ピコリは部屋の電気を消し、布団に入り、
「それじゃ、明日の自由行動、思いっきり楽しもうねー」
「「うん、おやすみー」」
友達二人と共に就寝した。
*
同時刻、京都市内のカラオケ店にて。
「ったく、異世界転生管理局は人材管理が微妙に雑なのが腹立つっスね」
と、マゼンタ髪の色白の少女はぼやく。自分の眷属であるコウモリが作り出したブラックホールから毛布四枚を取り出しながら。
「それは俺も思った。自分たちはまだ十八歳未満だから宿に泊まれないことを考慮して欲しかった。こうして裏技的な方法で一晩過ごせるのが幸いだな」
と、青緑色の髪の容姿端麗な少女は、その毛布を他の二人に配りつつ言う。
「……ターゲットは、ここにいる……どうする? もうしとめる……?」
と、黄緑色の髪の小柄な少女は、毛布を傍らにおいて、二丁の銃を手に取りながら、他の三人に尋ねる。
「今宵は冥闇、故に今宵の標的は睡眠という大きな隙を晒すはず。ワノ殿、僕にとっては、今にでもこの闇夜を駆ければ……悲願は叶うぞ」
と、群青色の髪の黒鎧の少女は、芝居がかった様子で、マゼンタ髪の少女――ワノに言う。
「いやいや、みなさんお忘れでしょうけど。今回のターゲットは六人! それも生け捕りっス!
アタイとしては、夜中に奇襲なんて野暮なことすれば猛反撃食らってこちらがやられるか、こちらが猛反撃返ししてあちらを殺しちゃうかどちらかになると思うんスよ。
だーかーら、今日は特に何もしないっス! しかも、ネロアも、イバラも、充も、きっと異世界間を移動して疲れてるでしょうし、ひとまず寝まっスよ」
「……じゃあ、いつしとめるの……?」
「イバラ。アタイも暴れたいって気持ちはわからないっス。けどここで焦るのはよくないっス。
何度も言う通り、今回の相手は六人っス。前回のような単純な正面激突じゃなくて、綿密な策略を用いて、ターゲットを生け捕りにするっスよ」
「綿密な策略……それは如何なる御業か、教えて賜われないだろうか?」
「んー、今言ってもいいっスけど確実性を取ったために、アタイながらかなり回りくどい作戦になっちゃったっスから……詳細説明が長くなるので、明日の朝発表アーンド実行しまっス!」
「このワノさんのふざけた態度……何となく不吉な予感がするな。本当に考えたのですか、ワノさん?」
「ええ、ちゃんと考えてあるっスよ、充。ただしこちらも何度も言う通り、今日はもう夜遅いから、とっとと寝るっスよ。
あ、まだアタイが何も考えてないって疑ってるなら、ヒントぐらいは出してやるっス。
それはズバリ……『今、姉妹六人は修学旅行に来てる』ことを利用するんスよ。
はい、ヒント終わりっスー! それでは皆さん、いい朝を!」
こうして四人は、カラオケルームのソファの上で毛布に包まり、明日の『仕事』に備えて眠るのだった。
【完】




