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第78話 たとえPG12の映画だとしても

 百式高等学校の夏休み中。

 当校の生徒会役員は地域貢献の一環として、近くの児童館で子供の面倒をみるボランティアに一週間シフト制で参加することになった。


 その事の発端であるサバキは、

「あー、だから痛い! サバキお姉さん痛い!」

 屋外でやんちゃ盛りな子供たちにボールを投げつけられまくり、


「はい、描けたよ」

「わーい、ユノスお姉さんありがとー!」

 妹のユノスは、屋内で子供達にあの人気アニメのキャラの絵を描いてあげていた。


 ここで解説を入れるとしよう。

 あの人気アニメとは、あの人気漫画原作の……投稿時期的に察してください。


 夕方近く。息を切らしてサバキが屋内に戻ってくる。サバキは生徒会長として、同じ生徒会の一員、青木先輩に命令する。


「青木先輩……代わって」


「ええ、また俺かよ生徒会長!?」


「なんせ、ああいう子供には自分の次くらいに人気がありますから。ほら、早く行ってください」


「やだよ。他頼むのいないのか? 生徒会長の妹とか」


「人様の妹を危険地帯に送りこもうとするのはやめてください。さあ早く、四の五の言わずに!」


「ああはい、けどこれ身内びいきじゃのおッ!?」


 サバキは青木先輩を無理矢理屋外に押し出し、わんぱくキッズの生贄にする。


「ふう、これで少しはゆっくり出来る」


 ここで、児童館の職員から、呼び出しがかかる。

「満月さん、お呼びがかかってますよ?」


 サバキはすぐ様応じて、児童館の出入口付近に行く。

 そちらには呼び出し主の母親と、自由帳を持った女の子がいた。


「はい来ました。ボランティアの満月サバキです」


「あれ、ええと、ごめんなさい。あなたは呼んでないです」


「?」


「あ、お母さん、あのお姉さんがユノスお姉さんだよ」


 遅れてユノスがやって来る。満月は満月でも呼んでいたのは満月ユノスの方だった。


 娘の方は持っていた自由帳を見せびらかしながら、母親に言う。

「みてみてお母さん! この絵ユノスお姉さんに描いて貰ったんだよ」


「まぁ、お上手ねー。昨日も一昨日もホムラに素敵な絵を描いてくださり、ありがとうございます。満月さん」


 ユノス(と、なんとなく便乗したいサバキ)は感謝する。

「「どういたしまして」」


 ここで娘――ホムラは母親に、ユノスのイラストを見せながら言う。

「ねー、お母さん。明後日お仕事ないでしょ、暇でしょー、だからあの映画館いこうよー」


 ただいま公開中の、あのアニメの映画を観るためのおねだりである。

 なお、かの映画は十月より公開開始だったはずなのに、本作は現在八月設定で通しているため、矛盾が生じているが、そこのところは気にしないで欲しい。本当に、マジでお願いします。


「えー、あの映画ー。それはまだ早いって言ったでしょ」


「けどあれこーぎょーしゅーにゅー一位になったんだよ。それに私のお友達、みんな観に行ったって言ってたよー。

 ねーいこーよー、みたいよー、かっこよく戦うところー」


「あの映画怖い映画なんだよ。きっとホムラが観たら怖くて泣いちゃって寝られなくなるよ。

 だから、ホムラがもう少し大人になってから観ようよ、ね?」


「ぶー。けちー」


「それじゃあ、満月ユノスさん、私たちは失礼しますので、ボランティア頑張ってください」


「「はい、帰りは気をつけてください」」

 

 かくて、サバキとユノスは、映画に連れて行って貰えない故に頬を膨らませるホムラと、その母親を見送った。


「……さっきのは『満月ユノスさん』ってきっちりボク指定で言ったのに、どうしてサバキお姉ちゃんまで喋るの?」


「ダメか?」


「何かイヤだった」


*


 夕食後。ユノスは、アザレアに食器洗いを託して、家族みんなに今日のことを話す。

「で、そのホムラって女の子、あのアニメ大好きらしいのに映画観せて貰えないらしいの」


 漫画アプリをよく用いて、色々な漫画を読んでいるマジナは言う。

「あの漫画の映画かい? 確かとうとう興行収入一位になったんだってね。私も読んでて思うけど、ほんと凄いポテンシャルの漫画だと思うよ、あの作品」


 ピコリは言う。

「ウチもすごい人気だと思うずら〜。だってこの前タワ○コ行ったら、音楽全く関係ない、それのグッズがズラーって並んでたずら。で、それを幼稚園くらいの子供が買って買ってっておねだりしてたずら。

 ほんとすごい人気なんだずらから、ウチの作者も、呪術廻○と、プリ○ネと、ウルトラ○ンゼットのどれ観るか迷ってる暇あったら、それ見習っていい加減書籍化繋げて欲しいずら。

 って約一年前に言ってた割には結局前二つしか観れてないのどうかしてるずら。

 さらに約一年半後も残り一つを見れてないってどういう神経してるんずら。

 さらにさらに約三年後はもはやアニメまるごと観なくなったってどういうつもりずら。

 さらにさらにさらに約六年後はこんなこと言ってた事自体も忘れてたずら」


 コーリンはユノスに尋ねる。

「ところでユノスはその映画観に行ったのか? お前映画観るの好きだろ?」


「まだだよ。だってボク、どっちかって言うとレンタルして家で観る派だもん。この前(※第60話参照)ピコリお姉ちゃんが言ってたような迷惑なお客さんと観たくないもん」


 次にサバキがユノスに尋ねる。

「ふぅん、そうか。じゃあ『それがどれぐらい怖いか』はわからないのか?」


「わかんない。けどテレビでやってたアニメ通りの描写だと子供にとって怖そう、なんだかPG12っていう変なマーク付いてるし」


 続けてルシェヌがユノスに尋ねる。

「PG12? 何じゃあそりゃ? 新種のサプリメントかえ?」


 これはそういう無駄知識豊富なピコリが答える。

「過激だから『十二歳以下は親と相談して観たほうがいい映画』につけられるマークずら。

 ちなみにこの下に特に制限なしの『G』があって、上にもっと過激な描写が多い映画につけられる『R15+』と、もっとヤバい『R18+』があるずら。

 この二つはその年齢に達してないと観ることができないずら」


「ふぅん、あのマークそういう意味だったんだ。ボクが異世界で十歳だった頃に、街中で人が脳をやられて死ぬの見ても何とも思わなかったのに」


 チヨはユノスの発言にツッコむ。

「どんな修羅場よそれ」


 一方マジナは、ピコリの発言内の、彼女がいかにも好きそうな所につツッコむ。

「R18+? ねぇピコリぃ、それ、もーすこーし詳しく教えてくれないかい?」


「それは……それ系の話題のせいで、作者がこのサイトで前科一犯やらかしてるから、そっとしてほしいずら」


「ピコリお姉ちゃんの長ったるい解説で脱線しかけたけど、とにかくPG12付いてるから怖い映画なんだよ」


 これまでの会話を聞いていたチヨは言う。

「それで子供にトラウマ植え付けたくないから、そのホムラちゃんっていう子のお母さんは映画観せないようにしてるのね」


「トラウマ……確かにそうかもずら。あのキャラがまさかあんな姿になるのとか、絶対トラウマになるずら」


「ちょっとピコリー、この前(※第58話参照)軽くネタバレされてメチャクチャ切れてたのに、今度は自分がネタバレしていくのかい?」


「ピギィ!? だ、大丈夫ずら……投稿時期からして三ヶ月以上も経ってるから、これくらいのネタバレは多分、多分大丈夫ずら……公式PVにもあの敵がガッツリ映ってたずらし……」


 チヨは言う。

「けど、かわいそうでもあるよね。ホムラちゃん、そのアニメ大好きなんでしょ? だからきっと、すごい映画観てみたいんだろうね」


 サバキは言う。

「しかし、映画館という公共の場で大泣きされたら困るという、『こちらは』筋が通った親としての言い分があるからな……そう言えば自分たちも小さい頃、映画館なんか連れてって貰った覚えがないぞ」


 ルシェヌは言う。

「それはきっとサバキがうるさくするからじゃろ? やっぱりお母さんは優しいのじゃ、サバキごときのことも気遣ってくれるから……」


「あ、ごめん。映画館連れていけなかったのは単純に仕事忙しかったのと、七人並んで席取るのが難しいからだよ」


「ルシェヌ殿、誰かに謝るなら今だぞ」


「……ごめんなのじゃ」


 そうこうサバキとルシェヌが揉めている中、ユノスは考える。


「ボク、ボランティアに来る前に、児童館の先生に教えられたの。『子供の仕事は勉強と好きなことを一生懸命すること』だって。

 だからホムラちゃんに映画、観せてあげたいなぁ」


 チヨは言う。

「けど、再三言われてる通り、泣きだされたら迷惑なんだよね……」


 ここでユノスのアホ毛がピンと立ち、それに引っかかっていたベレー帽が高速回転する。


「わ〜、未来ずら〜! ……じゃなくて、何ずらかその感情表現方法と唐突なアホ毛キャラ発動は!?」


「閃いた! 『ホムラちゃんが泣かないように映画を観させてあげれば』いいんだ!」


 サバキは言う。

「……まぁ、普通に考えるとそれがシンプルで一番いい解決方法だろうな。で、ユノス殿、どうやって泣かせないようにするんだ?」


「簡単だよ。まずあらかじめサバキお姉ちゃんに言っておくけど、明後日のボランティア休むかもしれないけどいい?」


「ん、ああ、貴様は今まで自分から毎日来てたから一日くらい休んでもいいぞ。で、それがどうなるんだ?」


*


 明後日、映画館にて。

「わー、本当に来てくれたんだ、ユノスお姉ちゃん」


 ユノスはそこでホムラ親子と待ち合せた。


「ボクと一緒に観ましょうよ。そうすればきっと、ホムラちゃんも怖いのなんてへっちゃらだと思いますもん」

 これは昨日、このようにホムラの母親に交渉した結果である。


 ホムラの母親は、ユノスに目を合わせるなり、ペコリと一礼する。

「うちの子のわがままに付き合ってくれてありがとうございます。満月ユノスさん」


「大丈夫です、これがボクの仕事ですから。あと、ここには満月サバキさんはいないから、満月さん呼びで大丈夫ですよ」


 ホムラは自由帳を見せびらかして言う。

「見て見てユノスお姉ちゃん。ちゃんとユノスお姉ちゃんが描いてくれた絵持ってきたよ。これをお守りにして、怖い鬼なんかやっつけてやる!」


「うんうん、その調子だよホムラちゃん。それで絶対、映画館で泣かないようにしようね!」


「うん!」


 数分後、ユノスとホムラ親子はスクリーンに入り、あの映画の鑑賞を始めた。

 

 流石はPG12付きの映画、幼い子供にとってはキツイ場面が幾度と流れてくる。

 その度にホムラは泣きそうになる、しかしそれと同時に自由帳を抱きしめ、涙をこらえる。


(よし、いいよホムラちゃん。頑張れ)


 そして映画はクライマックスに突入する――それ即ち、あの映画最大のトラウマシーンとも言える、例のシーンの遭遇である。


 この時、ホムラはと言うと、泣きそうになるのを必死に我慢しているため――いや、ユノスにこれ以上心配されたくないためか、笑顔になっていた。


 ユノスは、そんなホムラの手に自分の手を重ねて、他の観客の迷惑にならないレベルの音量で、優しく言った。


「すごいね、ホムラちゃん」


「うん……ありがとう」


 こうして、ホムラは最後まで泣く事無く、映画鑑賞を終えたのだった。


*


 翌日、ユノスはサバキと共に、児童館へのボランティアに行った。ただし、この日はどうやら預ける必要がなかったのか、ホムラちゃんは来ていなかった。


 けれども、

「満月さん、呼ばれてま……いや、満月ユノスさん、呼ばれてますよ」


「はい、今行きます……あ、あなたは」

 ホムラの母親はやって来た。


「昨日はホムラのためにありがとうございました。今日、ホムラはおじいちゃんが遊びに来たので、そっちと遊んでますが、明日にはありがとうを言わせますので」


「わかりました。ところで、あの後はどうかしましたか? 寝るのが怖いとか言ってたりしませんでしたか?」


「はい、ちっとも怖がってる様子はなかったです……ただ」


「ただ?」


「昨日からずっと好きあらばアマプラで呪術とかジョジョとか年齢層高めの作品みるようになってて……」


「え……じゃあまさかあの時の笑顔って……そうですか、ホムラちゃんは……」


「子供らしいほんわかしたアニメよりも、比較的流血多めなエグいアニメが好きになったみたいです。何か、こう……複雑です」


「あはは、そうですか、あはは……」


 ホムラのダークサイド化を引き起こした罪から逃れようと、必死で作り笑いをするユノスであった。

 ちなみこのダークサイド化は子供特有のあきっぽさで一週間で治ったそうな。


【完】

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