第56話 衣装選び カァドスリヰブ
とある日曜日。
「じゃーん、今回はピコリのアドバイスを経て、こんなコーデになりました」
服屋から帰ってきたばかりのマジナは、早速収穫物を着て、自室にて披露した。
ほぼ同時に歓声のような鳴き声が、マジナに伝わる。
なんてったって観客は人ではなく、彼女の仲間の八匹の竜なのだから。
「みんなすごいオシャレじゃけん。と、言ってるじゃがよ、マジナ」
と、IrrynCrashは他七体の歓声を、まとめて翻訳して伝える。
「そうかい、どうもありがとう。いやー、ピコリはすごいねぇ、こういうオシャレに関しては詳しいからさ……ん?」
マジナはただならぬ視線を感じた。
今、ここにいるのは自分と八竜のみ、ならこの視線は間違いなく……
「君たち、何か言いたげだね? どうしたんだい」
マジナは視線の張本人である八竜に尋ねた。
八竜はしばし話し合い、唯一、人語を話せるIrrynCrashがマジナに総意をまとめて伝える。
「マジナのオシャレを見て私たちもオシャレがしたくなったんじゃけえ」
「なるほどね。けど今君たち、竜形態の時に飾りをつけても、一回カードに戻ったらそれらみぃんな外れちゃうんだよね。だから、かなり手間のかかるオシャレになっちゃうんだと思うんだけど……」
「ならカードに飾りをつけるのはどうじゃけえのぉ?」
「それだと束ねて入れづらくなっちゃうでしょ? 君たちはせっかくカードっていう谷間に入れて持ち歩ける便利な姿があるのに、それを殺すのはいかがなものかと思うよ?」
「普通、カードは胸元に挟まないと思うよ」
マジナたちのいる部屋に入ったピコリは、そうツッコんだ。
「それはわかってる、私はあえてしているんだよ。ピコリとかがしているように、カード系は全部財布に入れる方が便利だっていうこともわかってるしね。
ところで、君たちは何をしに来たのかいピコリ?」
マジナと八竜は、ピコリに続いてやって来たユノスに視線を向ける。
「あ、ユノス来たんだ。ウチはフツーにゴロ寝しにきたけど」
「ボクは普通に漫画描こうと思ったからだよ。マジナお姉ちゃんは何してたの?」
「新調した服を皆にお披露目してたんだよ。あと八竜の『おしゃれしたい』っていうおねだりを聞いてたね。
ねぇ二人とも。カード状態になった皆をおしゃれにする、都合のいいものって知ってたりしないかい?」
「カード状態で? ならあるよ」
ユノスはカラーボックスに入った緑のカゴ――ユノス用の収納スペースから、
「それなら、こういうのを買ったらどう?」
薄いビニールに入った、漫画のキャラが描かれた色紙を取り出す。
「何それ?」
「カードスリーブだよ。こういう風に薄い紙とかを、ホコリとかキズとかから守るのに使うビニールのことだよ。
これはカードスリーブじゃなくて色紙用カバーだけど、これをカード用の大きさにしたのがカードスリーブだよ。
ちなみにこの色紙はボクが参考にしてる漫画に付いてきた特典の色紙だよ」
「なるほどね。このビニールがゴムみたいに外と中を隔てて守ってるわけか。けど……みんなはただの透明のビニールつけてオシャレだと思うかい?」
八竜は一斉に首を横に振る。
「だって、ただ透明のビニール羽織っただけでオシャレとは到底呼べないから……」
それは違う。と、言うかわりにピコリは得意げにニヤリとして、
「ところがどっこい、スリーブっていうのはいっぱい種類があるんですよ。色がついた半透明の物とか、裏面にアニメキャラが印刷された物とか」
「ボク思い出した。そういえば沢山あったね。この色紙を買ったショップでスリーブがいっぱい並んでるの見た」
「へぇ、それは興味深いね。じゃあユノス、後でそのショップに案内してくれないかい? そこでみんなが気に入るスリーブとやらを探しに行きたいからさ」
「え、ウチじゃなくてユノス? こういうエンタメ系はウチの専売特許なの……」
ピコリの疑問はさておいて、ユノスはうんと了承する。
「いいよマジナお姉ちゃん。スケジュールが合えばね」
「よし、じゃあなるべく早くしておくれよ。皆が癇癪起こすかもしれないしね」
「うん」
ここで、ピコリが話の流れをぶった切って、
「あ、ところで、マジナ姉さんがカードを谷間に挟んでる理由ってなあに?」
「エロいから」
「ああ、そう……予測可能すぎ」
*
数日後。互いに部活動が無い日。
マジナとユノスは一旦家へ帰って私服に着替えた後、アニメやゲームのファン向けのショップへ行った。
「ここかぁ。アニメグッズが多いね。あと飾り気の無い女子と、むさ苦しい雰囲気の野郎がわらわらと」
「アニメファン向けのお店だからね」
「あれ、このパネルの小さくてかわいい男の子、何となく『不思議の国のアリス』の女王様に雰囲気が似てないかい?」
「それはそういう作品のキャラだよ。脇道それないで、本題に行こう」
ショップの奥へ奥へと進み、二人はカード売り場の前に立つ。
「『カードスリーブ』……これだね。うわ本当だ、すごい種類がある」
マジナは谷間でカード達がカタカタいわせている――興奮しているのを感じ、谷間より八枚のカードを出し、それらを棚に向ける。
八竜の意見をまとめて、IrrynCrashはマジナとユノスにだけ聞こえる声量で言う。
「圧倒的じゃけぇ……こんなに私たちのオシャレグッズがあるなんて」
「私も驚きだよ。ここの世界の人はカードを守るためだけにこれだけ沢山の物を作るんだから。私の元いた世界の人はよっぽど発想力がなかったんだろうね」
とりあえずマジナはシンプルな赤いスリーブを手に取る。
「やはり私といえば赤だからね、第一印象良いのはこれだけど、みんなはどう思う?」
八竜は一瞬会議を挟んで、まとまった意見をIrrynCrashに言わせる。
「それがいいけぇ、とりあえず着れる物があるだけ十分嬉しいじゃけぇ」
「そっか。じゃあこれにしよう。あ、その前にユノス、私聞きたい事があるんだけど?」
「?」
「どうしてスリーブってのは皆、四十枚とか六十枚とか、やたらと数が入ってるのかな?」
「さぁ、多分カードゲームっていっぱいカード使うからだと思うよ?」
「そっか。変な感覚だなぁ、まるで下着を数十着単位で買うみたいな感じがする」
何がともあれ、マジナはその赤いスリーブを買い、早速家で八竜をそれに入れた。
八竜はみんな、オシャレが出来たと大喜びした。
スリーブは一度竜形態になってカード形態に戻ってもついたままになることもわかり、マジナもお財布的に喜んだ。
総じて、マジナと八竜は『一時』この赤いスリーブに大満足『した』。
……そう『一時』大満足『した』のだった。
*
八竜がスリーブを装着してからわずか五分後。
IrrynCrashは八竜の意見をまとめ……ず、自分の意見を主に伝えた。
「すまんけぇマジナ、やっぱりこれキツくて苦しいじゃけん」
スリーブの大きさが、八竜のカード形態のサイズと合わなかったのだ。
「あーそうなっちゃうか。偶然だね、私もこれツルツルしてて、油断すると谷間から落ちそうになるからさっきからイラッとしてたんだよ」
というわけで、マジナと八竜はユノスを呼び出し、
「サイズが合わない、素材が合わないで、皆このスリーブに嫌気がさしちゃったよ。だからさ、お願い、もっかいあのお店に連れてって貰えないかな?」
と、お願いした。
「うん、いいよ。ボクあのお店に何度行っても全然飽きないから」
「ありがとう。それじゃあまた、スケジュールが合う日に、お願いね」
「うん。わかった。今度は百パーセント気に入るスリーブ買おうね」
かくて、スリーブ購入の約束は再締結された。
「……またウチの出番が取られた」
*
数日後。
二人は再び例のアニメショップへ赴いた。
「あれ、このパネル変わったね。今度は傷ついたライオンみたいな大男になってる」
「それは関係ないでしょ。ほら、カード売り場いこうよ」
二人は再び、カードコーナーの前に立ち、考える。
「うーん、これだけ種類があると、今度は何を選べばいいかわからなくなるなぁ。とりあえず、『キツくない』と『滑りにくい』が、前提条件だってのはキチンと覚えておいてるけど」
「じゃあ店員さんに話してみる?」
「そうだね。三度手間になるのはごめんだし、ここは確実に行こう」
そういうわけで、ユノスは店員を呼んでくる。
「はい、なんでしょう」
「すみません。これにピッタリ合うスリーブを探しているのですが……」
と、マジナは八竜の内一枚を、店員さんに手渡しつつ言う。
「こんなカードゲーム見たこと無いな……これってただのトレーディングカードで、飾るのが主目的のカードですか?」
「飾るのが主目的……まぁ、はい、そんな具合です」
「でしたらこちらに、カードローダーという物があります」
「カード『ローダー』? それは一体何ですか?」
店員は陳列されているプラスチックの分厚いカード型の箱を取って見せて、
「平たく言いますと、カード一枚だけを入れる箱です。
素材が非常に分厚くて頑丈で、こういうコレクション向けのカードを保管するのには最適ですよ」
言われた通り、マジナはカードローダーを手に取る。そして気づく。
「あー、これじゃあカードが密閉されちゃうね。密閉すると息ができなくなるから、これはやめておきます。普通のスリーブを探します」
「息ができない……? そ、そうですか……では、大きさを見たところこのカードはレギュラーサイズですので、本店自慢のキャラスリーブがおすすめですよ」
「キャラスリーブ?」
「裏面にキャラクターが書かれたスリーブの事だよ、マジナお姉ちゃん」
マジナはそのキャラスリーブ一覧を眺める。どれもこれも、派手に美少女のイラストが裏面に描かれている。
「わぁ、これは色々あるねぇ……」
マジナは八枚のカードを扇状に開き、その棚に向けて、
「どれか気に入ったのはあるかい?」
八竜は周りに聞こえない程度の声量で会議した。それから間もなく、マジナはカードをシャカパチし始めた――実際は八竜が揉めて、勝手に暴れているのだが。
「ちょ、どうしたんだいみんな!」
「お客様、何やらさっきからカードと会話していませんか……?」
ユノスは店員の困惑をおさえに図る。
「気のせいだよ、店員さん」
相変わらずの代弁者、IrrynCrashは言う。
「SGLとHellkite-Wがマジナ以外の女にかわいいと言って、それにBhamtonとBASLCが怒って、喧嘩になってるんじゃけぇ!」
「SGL、Hellkite-W、Bhamton、BASLC、ここで喧嘩はやめておくれ! みんな私のことが好きなんだろう? ならここは、私の名前に免じて、お願いね」
「お客様、何で急にドラゴンの名前を言ったのですか……?」
「再びの気のせいだよ、店員さん」
マジナはシャカパチをやめた――八竜達の喧嘩が収まった。
「すみません、やっぱりキャラスリーブはなしでお願いします」
「は、はぁ……」
その後、マジナは八竜のオシャレのため熟考する。
側で別作業をしているさっきの店員は、まるで服を選ぶような感覚でスリーブを買おうとするお客様が何なのか、それをずーっと考えるループに陥る。
ちなみにユノスは暇を持て余して他所のコーナーを観覧していた。
「この画材、専門店で買ったほうが絶対安いよね」
結果、マジナは、サイズがぴったりで滑りにくい加工がされたスリーブを無難に選択した。色はまたしても赤だ。
「やっぱり最初に気に入った物がしっくりくるもんだよね」
*
二人がアニメショップから帰ってくると、真っ先にピコリが現れた。
「おかえりー、マジナ姉さんとユノス。今日はどこに行ってたの?」
「スリーブ選びにいってきたのさ。悪いけど急ぐね、みんな早く着替えたいと言ってるからさ」
マジナは二階の自室へ駆けて行った。
「まぁまぁ時間かかったねユノス。多分ウチが行けばもっと早く買い物が終わったはずなのにね」
「それは薄々わかってたよ。けどお仕事頼まれたのはボクだから仕方ないよ」
「それもそうだね。おつかれさんユノス」
ユノスをねぎらった後、ユノスはクスクスと笑った。
「しっかしシュールな話だなぁ。カードゲーム扱ってる作品のキャラって、大概スリーブ買わないし。
この回、ひょっとしたら史上初の『カードスリーブ扱った創作作品』だったりして」
「流石にそれは自惚れが過ぎると思うよ」
【完】




