第55話 襲撃極道、サバキよ真剣に成れ
とある日の夜十時。
サバキとユノスはソファに並んで座っていた。
「おーい、これはどういうつもりなんだい」
そこに、トイレで起きてきたマジナがやってきて、背もたれの部分に両手をドンと置く。
「テレビを観ているんだよ」
「それは見て分かるよ、ユノス。私が問い詰めたいのは、サバキ、就寝時間はとっくに過ぎてるよ」
満月家の消灯時間は九時と決められている。
最近は高校に入学し、勉強や部活などで帰宅時間が遅くなったことから、これを遅らせるべきという意見が出ている。
だが、この決まりを作ったサバキが『そこも計算して時間を使えばよかろう』と頑なに反対している。
このサバキが、夜十時に、テレビを観ている。
「これはどういう悪ふざけなのかい? サバキぃ」
マジナはこの不条理について追及をした。
対するサバキはテレビに目線を固定したまま、冷静に返答する。
「悪ふざけではない。今回はどうしてもこれを観なければいけない理由があるのだ」
ユノスも続けて、
「そうなの。今回はちょっとワケありなんだ」
「録画とかじゃダメなのかい?」
「それでもいいと思って、予約はしてあるが……折角だから本放送で確認すべきだと思ってな。
……もしよければ、貴様も今日は特別に、一緒に夜ふかし構わんぞ」
「よろこんで」
サバキはユノスに近づいてもらい、これで開けたスペースにマジナを座らせた。
テレビでは今、バラエティ番組が流れている。
芸人と思しき中年男性がビンゴカードを片手に、街中で聞き込みをしている場面が映っていた。
それはさておき、マジナは二人に尋ねる。
「で、どうしてお二人はこの番組を観ようと思ったのかい? これ、二人ともあまり興味がなさそうなジャンルだけど」
「そうだね。普段ならボク観ないねこれ」
「しかしな、この放送回はちょっとした偶然でな、自分たちが関わっているのだ……」
「ええ、この番組を制作したのかい?」
「それはないよ」
「そんなわけあるか」
まだ該当の箇所にはいかなそうだから、と前置いて、サバキとユノスは、事の仔細を説明した。
*
それはだいたい三週間前の土曜の昼のこと。
サバキとユノスは通っている高校近くにあった大型公園で、ゴミ拾いをしていた。
サバキとユノスは生徒会執行部に属している。
詳細に言うと、ユノスは美術部所属であるが、本校の『各文化部は部員一人を生徒会執行部と兼部させる』という決まりから、こちらにもいる。
今日は生徒会の地域社会への貢献として、部員全員でこの公園で清掃活動をしているのだ。
これは二人にとっては初めての大規模な部活動でもある。
二人は先輩たちに負けじと敷地内を回り、せっせとゴミを片付けていった。
そして正午過ぎ。
「本日はお休みのところ来ていただき、ありがとうございました。これからも引き続き、百式高校が地域に愛されるよう努めていきましょう。
それでは、ありがとうございました!」
現生徒会長の言葉で、清掃活動は終了し、総員現地解散となった。
サバキとユノスは帰宅のため、最寄り駅へと歩いていく。
その最中、二人は言った。
「お腹空いたな……」
「お腹空いたかも……」
一生懸命に働いた反動が、二人に表れたわけだ。
「けどまあ、帰宅まで耐えればよかろう」
「そうだね、お姉ちゃん」
と、決意してから一分後、二人は足を止めた。
たまたま通りかかった定食屋から、何の料理とも言い難いがとにかくいい匂いがして、二人の食欲が一回り大きくなったのだ。
「こんなところにも飲食店があったんだね……どうする、お姉ちゃん?」
「……ユノスがよければ、地域社会に貢献するという体で……」
「素直にご褒美に外食しようってことにしよ?」
「学校周辺の飲食店を調べるとしよう!」
サバキはガラガラと入口の引き戸を開けて、
「あーいらっしゃしゃっせー! 空いてる席どーぞー!」
かなりお年を召した店主の声を聞きつつ、ユノスと向かい合うように二人用テーブル席に座った。
周りに学校と雑居ビルが並ぶ立地ということもあってか、土曜の昼の飲食店としてはあまり混んでいなかった。
六つある二人用テーブル席は、彼女たちを含めて三つだけ埋まり、カウンター席も中年男性が一人いるだけだった。
「えーっと、ご注文は何に致しますか?」
「ボクは野菜炒め定食で」と、ユノスは言い、
「自分は……この店のオススメは何です?」と、サバキは店員の女性に尋ねた。
女性は「えーっと……」と小声で長く声を出した後、「しょうが焼き定食でしょう」と返した。
「じゃあそれでお願いします」
「かしこまりました。少々お待ちくださいませー」
店員が去った後、サバキはボソッと言った。
「新人バイトか……他人事だが、大変そうだな……」
定食が来るまでの間、サバキとユノスは雑談を交わす。
ユノスはカウンターにいる男性が着ていたTシャツを指さして、
「あのシャツ、確かピコリお姉ちゃんが言ってたのだよね?」
「ん、そうなのか」
黒い生地に、具体的には何をテーマとしているか言い難いが、背中にざらついた質感で描かれた、何らかのキャラクターの四角いイラストが張り付いている。
つい最近、ファストファッションブランド『チェルクロ』で発売されていた有名アーティストのコラボTシャツだ。
「あれ、発売当日に買いたい人が殺到して、店が激混みして困ったってピコリお姉ちゃんが言ってた」
「ああ、あの話か。ピコリはただ肌着買いに行っただけなのに三十分近く並ばされたと愚痴ってたな。
おまけに、フリマアプリであのTシャツが十倍の値段で売られてたことも愚痴ってた」
「激混みの原因は転売ヤーだったんだね。やるせなくなるね、これ」
「全くだ。ピコリ曰く、自分が聞かないジャンルのアーティストだから、並び時間以外はノーダメージだったというのが不幸中の幸いだな」
こんな雑談を交わすこと七分、
「おまたせしましたー。野菜焼き定食と、しょうが炒め定食です」
二人分のおぼんが運ばれてきた。
(逆だな……)
店員が去った後、サバキは自分の前のものと、ユノスのものを入れ替えて、いざ実食。
サバキはキャベツをバラ肉一枚でまとめてつまみ、口の中に入れる。
「うん、肉の味のあとにしょうがが突き抜けてくる……安定感のある味だな」
「火が通ってるのにシャキシャキしてるね、この野菜」
別に言わなくてもいいのに、ご丁寧に二人は軽い食レポをした。
ここから二人はしばし無言で、定食を味わっていく。
その途中、波乱の切っ先のように、ピシャリと高い音が店内に響いた。
この音は、跳ね返って数センチ閉まるほど、引き戸が勢いよく開けられたために鳴った。
「「!?」」
「よう嬢ちゃん、邪魔するでー」
黄色と紫という反対色を用いたドキツい柄のアロハシャツを着た男が、ズカズカと大股広げて店に入ってきたのだ。
店員の女性は言った。
「邪魔するなら帰ってー」
「ほな失礼しやした」
そして男は店を出て、後ろ手で戸を閉めた。
「……何だ今の?」
「……何だろう今の?」
二人はそれを一瞥した後、千切りとざく切りという差異を除いては同じキャベツに箸を伸ばす。 しかし、これまた鏡映しのように、二人は箸からキャベツをこぼした。
「なら何のために来たんやワシは!」
アロハシャツを着た男が、再び店内に戻ってきたからだ。
男はカウンター席の奥に立つ店主のおじいさんにメンチを飛ばす。
「お前、返すもんさっさと返さんかいゴラァ!」
「それはもう先月返しきったはず……」
「だまらっしゃい! オヤジが返せゆうたら返せっちゅうねんゴラァ!」
弱々しく言葉を紡ぐ店主と、威圧感たっぷりに怒号をぶっ放す男……この二人のやり取りによって、周りの人たちは個々のリアクションを取っていた。
女性店員は空のおぼんを抱えて硬直していた。 二人から一番近くにいるカウンター席の男性は、めんどくさそうにしかめた顔を必死に台ヘ向けていた。
テーブル席の二組は突然の危機に震えていた。
そしてテーブル席のもう一組、サバキとユノスは机にかがむようにして、二人の様子を見張る。
サバキは特に、穏やかな空気を乱してきたこの男に注目する。
(あの場を震わせる格好と『返すもん』などの語彙からして、奴は反社会的勢力……この世界でいう『暴力団員』だな……恐らく、この店の借金取りに来たのだろう)
過去に異世界で、断退警察として多種多様な犯罪撲滅に付き合ってきた経験から、サバキの頭脳はすんなりと事件の概要を掴んだ。
ここからサバキは、いつでも両手のどちらかからルマを飛ばせるように身構えながら、暴力団員の動きを注視する。
暴力団員は背中から、ついさっきサバキとユノスが拾っていたような枝を取り出して、さらに激しくがなり立てる。
「じゃかましいわぁッ!」
すると女性店員が急に躍り出て、暴力団員の持っていた枝を取り上げ、そのままそれで相手の頭をひっぱたいた。
「何ヤクザの命の次に大事なドス奪っとんねん!」
「簡単に奪われるもん命の次にすんならいっそ死に腐れやボケェッ!」
女性店員はもう一度暴力団員を叩く。
「あとなんで店のために意地はらんのやボケ!」
ついでに店主まで叩いた。
「お前もしゃっきりせんかい!」
さらに近くのカウンター席の客までいった。
「面倒くさいなぁ全く……」
と、その男は頭をさすった。それから、自分の定食を見つめ、誰とも目を合わせないようにし続ける。
三人が叩かれた後、暴力団員と、他のテーブル席にいた一組のカップルがガクンとコケるフリをした。
数秒遅れて、サバキ・ユノスも含む、もう二組もコケるふりをした。
自分たちも合わせておかないと何かまずいことが起こるかもしれない。少しもピリついた空気を滑らかにしないといけない。
そんなおかしな予感が、この剣呑な空間によって感じさせられたためだ。
(だがそれでも、任務に集中せねば……)
今はまだギリギリ笑い話で片付けられそうだが、まだ何が起こるかわからない。
サバキはテーブルに両腕を置き、引き続きルマの射出迎撃が可能な体勢を取る。
「おいお前ら! このほっぺたの傷はわかるか!?」
「何やねんそれ」
「この斜めの傷はな、この道では特別なんや! 今朝、髭剃りでついた傷や!」
店員と店主、それとテーブル席の他二組が再びコケるふりをした。
もちろんサバキとユノスも、顔面に定食をつけないように上半身を倒す。
「深さの割になっさけない原因やな!」
ここからも店員たちと暴力団員の間で怒鳴り合いが続く。
その最中、ユノスがテーブルの下に手元を隠し、スマホで検索をしていた。
「おい、この場でスマホに触るな。通報か撮影と思われ、犯人を刺激することになるぞ」
「ああ、そういうこと……ごめんごめん」
ユノスはほんの僅かな隙にクスリと笑いつつ、スマホを椅子下のカバンの中に落とした。
怒鳴り合いの最中に、暴力団員か店員がボケて、周りがそれに合わせてコケる。という下りが、合計四回続いた。
サバキはその度に両腕を構え直しながら、思う。
(一体いつ止めにかかればいいのだ……!)
このままだと、状況は悪化しないが、改善するわけでもない。
ならすべて無視して一撃で解決しにいこうかと思い始めたサバキは、左手人差し指を暴力団員に合わせる。
その時、店内の部屋角に設置されていたスピーカーから、有線放送で哀愁漂う演歌が流れ始める。
それと同時に、店員はこれまでの激しい口調から一変して、しっとりと、諭すような声で語る。「父さんはな、アタシが小学生のころ、母さんが入院したときに、店を守るために会社休んで、レシピ本で料理勉強して、二週間この店を守り抜いたんや。
だから母さんが死んだあと、すんなり店を継げたんや。
たかが二週間、されど二週間や。
お前にもそういうちょっと頑張りがあれば、日の当たるところを歩けるちゃうんか……」
「うう……ワシも、ワシも……ティンパニ奏者になりたかったんやー!」
ここで、カウンター奥の調理場から、ずっと黙って様子を見ていた店主が、作業台へうつむいたまま言った。
「見たところお前は若い。その頬の傷くらい、すねの傷が浅いうちに足洗え」
「うう、わかった……ワシ、この仕事辞める。足洗う! あんがと、そして邪魔してスマンかったー!」
引き戸という横に力を加えれば開くものだが、暴力団員は無駄に取っ手でゴチャゴチャ手を動かして、無事戸を開けるや否や、店外へ飛び出していった。
情緒あふれる演歌のサビが、部屋角のスピーカーから響く中、店主とその娘の店員は、目を合わせ、カウンターを挟んで、互いに腕を相手の背に回した。
親子愛が店の危機を救った。この光景が、店内を感動で包んだ。
その親子の姿を見て、ユノスは目をうるうるさせている。
向かいに座るサバキは、両腕を机の下に移し、
「無事に終わってよかった……」
と、至極安心するのだった。
そして、
「いや何ですかこれー!」
まるで書割を蹴り倒すように、カウンター席で独り食事していた男性が、仰々しく片手を挙げて絶叫した。
すると店の引き戸が再び開いた。
そこから四人の人たちが、ゾロゾロと店内に入る。
そのうちの何人かは、マイクを先につけた棒や、肩に担げるサイズのカメラを持っていた。
一人は、絶叫したカウンター席の男性に尋ねた。
「これ、何だかわかりますか?」
男性は四人の登場に驚いて開いた目を、さらに開く。
「もしかして……水曜?」
一人は抑揚のない声で短く返す。
「正解です」
「え、これ何の説?」
「『大阪芸人、故郷捨てたこと見破るの容易い説』です」
ここから四人組の一人――番組スタッフのディレクターは、淡々と企画を説明した。
今、上京して、長らく大阪に凱旋していない芸人をターゲットに、大阪お笑いのシチュエーションをぶつけたら、正しく反応できるのか。ということを試すというのがこの企画の趣旨だ。
今回、彼らに仕掛けたのはその古典的存在、新喜劇のベタなシチュエーションであった。
「で、ずっと隠し撮りで見たんですけど、なんかずっと黙ってたり、あたふたしてましたね」
ディレクターがコメントすると、カウンター席の男性――元大阪芸人は、さっきまでの自分のことを思い出しつつ、ハエでも追っているのかと思うほど目を動かして、
「い、いや……だって僕、世代やないですし、真剣に新喜劇観たことないですし……どっちかっていうと漫才の人なんで……」
「なんか急に関西弁使ってますね」
「だって、疲れますもんカメラ外でそんなんやってたら……」
こういったターゲットの言い訳を、ディレクターと、カメラマン、音響さんが撮っている中、残りの一人――ADがあることに気づき、サバキとユノスのテーブルに寄って尋ねる。
「あれ、君たち、エキストラでしたか?」
唐突な質問と、聞き馴染みのない横文字に、サバキはインタビュー中の芸人と同じくらいあたふたしながら言った。
「え、エキストラ……? 自分はやってませんけど……?」
一方のユノスは落ち着いて答える。
「いいえ。ボクたちはただお昼ご飯を食べに来ただけです」
「やっぱりそうでしたか……なんか発注と違うなって思って……」
「あ、俺たちも普通の客です!」
「なんかごめんなさい、私たち、勝手に入っちゃったみたいですー!」
さらに他のテーブル席にいた一組が手を上げて言った。
「なるほど、ちょっと面倒なことになったかも……」
ADはカウンターの奥でキョトンとしている店主の老人に質問する。
「普通にお客さん入っちゃってますけど……どうしたんですこれ……?」
店主は苦笑いして言った。
「ああ、すみません……ちょっと、うっかり普通に営業しちゃってました……追い出すのもかわいそうなので……」
続けて、店員の人も、
「で、私は役を崩さないように、普通に働いちゃいました……」
「そうですか、わかりました……」
この全容が見えたADは、頭を抱えた。
そして、一通りドッキリ後のインタビューを取り終えていたディレクターに、恐る恐る全てを話す。
「アチャー、こりゃやっちまったな……しゃあない。アンケート取ってこよか」
「ですねー」
ディレクターとADは一旦店を出て、クリップボードを四枚持って戻ってきた。
二人はそれらを、サバキとユノス、それとカップル一組に渡して言った。
「すみません、顔はちゃんとモザイクで隠せるようにしますんで、撮影許可をお願いします」
この瞬間、サバキは心の底から安堵した。
(よかった、ルマを射出して、番組を台無しにしていなくて……!)
*
「自分たちはどうやら、テレビ番組の撮影現場だった定食屋に偶然入って、エキストラなる脇役の出演者になってしまったのだ」
「この企画の放送が、今日あるから、ボクたちがどうなってたか確認したくて、夜ふかししてるの」
「すまないなマジナ殿。こればかりはしかと本放送で見届けねばならないと思ってな……」
一通りの説明を聞き終えて、マジナはほくそ笑んだ。
「そういう事情があったのか……それは楽しみだ」
「何がだ」
「君たちがどんなリアクションをしているのかね」
サバキは言った。
「い、一応だが、自分は真剣に取り組んだからな。最初はやや遅れたが、あのズッコケる演技もきちんと合わせたぞ」
ユノスは言った。
「途中でこの流れが新喜劇だってこと検索したから、ボクもそのノリにちゃんと乗っかってたよ」
「ふうん、では第三者的視点ではどうなっているだろうか、ね……?」
番組開始から三十分経ち、あのビンゴを用いた街頭ロケの企画が終わる。
続いて、お楽しみの『大阪芸人、故郷捨てたこと見破るの容易い説』が始まった。
「さあて、自分たちはどうなっていたのだ?」
このタイトルに沿って、何人もの東京進出歴が長い芸人をターゲットに、大阪お笑いのシチュエーションを現実で仕掛けるドッキリがいくつも映し出された。
終盤、この企画の一番大掛かりなとっておき、新喜劇再現ドッキリのパートに入る。
その始まりに、隠し撮りでターゲットが、定食屋に入るシーンが映し出された。
この瞬間、サバキとユノスは声を揃えて叫んだ。
「何だ、人が違うぞ!?」
「あれ、ボクたちが行った店じゃない!?」
「隣で叫ばないでくれ。番組内の被害者並にびっくりしたじゃないか……」
画面内では、サバキたちが見ていたような、店内に暴力団員風の役者が二度来店し、怒鳴り散らす光景が映っていた。
ただし、そこにサバキとユノスの姿はない。モザイクで丸ごと隠されたとか、画角を調整して入らないようにしたというわけでもない。そもそも、いないのである。
ではサバキ&ユノスがいたのは何だったのか。
その答えは展開が進むにつれてわかった。
『一回水飲みましょ。ほらほら』
画面内で、ターゲットの芸人が自分が一口つけた氷水入りコップを押し付けた。
しかし暴力団員は役に徹し、台詞を怒鳴り続ける。
すると、この芸人はコップを暴力団員の襟首に注いだ。
『冷たっ!? 自分何してんねん!』
『どうだ参ったか! これが背筋が冷えるってことや!』
ここから芸人は暴力団員以上に暴走し、ピッチャーの中身そのものをぶっかけたり、
『落ち着こう! 落ち着こう! 落ち着こう! 落ち着こう! なあ! なあ! なあ! なあ!』
と、店外に押し出して血眼になって訴えていた。
その恐慌度合いを見て、ユノスは言った。
「リアクションが上回ってるね、ボクたちが居合わせた時の芸人さんよりも」
「この常識外れな有様も撮っていたのであれば、自分たちがいた方はボツにせざるを得ないだろうな」
と、二人はあの芸人のグダグダ具合を思い出し、脳内で比較しながら、虚しく言った。
そんな二人へ、マジナは聞いた。
「つまり君たちは、あの定食屋で無駄なことをさせられたってことかい?」
二人は揃って首を振った。
「いいや、何事も真剣に頑張らないとダメだということは学べた」
「それと、ゴミ拾いを頑張ったからこそ、定食をおいしく食べれたんだもん」
「ふうん、それはよかったね」
そして三人は、改めて画面と向き合い、いつの間にか上裸になった芸人と、大笑いするワイプのコメンテーターの姿を見て、ニヤニヤした。
「こんな素晴らしい番組が夜十時から放送されているんだね。ならサバキぃ……」
「ここでは就寝時間を九時から遅らせる議論をしないぞ。マジナ殿」
「ノリが悪いじゃないか、全く……」
【完】




