第52話 満月姉妹部活決定譚
部活――それは、選択次第で高校生活の価値を光と闇のどちらかへいざなう、まごうことなき人生の重要な岐路であり、幾年も入学間もない高校一年生の多くを悩ませる難題。
そしてその難題は彼女たちにも例外なく襲いかかっていた。
「ねぇ姉御、部活どこにするか決めた?」
「まだだ。というか特に考えてなかった……」
食事中、コーリンとマジナはそんな世間話を交えていた。
それにピコリも混ざってくる。
「それヤバくない? 入部届の締め切りって金曜日でしょ? あと四日しかないじゃん」
「んなこと言われても。なんかよ、オレの方に勧誘がドカドカ来てさぁ」
「わかるよ姉御、こないだ私が靴箱開けたら中が部活のチラシでパンパンになってたよ」
それを耳にしたチヨは、
「そりゃそうなるよね。二人とも背が高いから、あちら側として是非とも勧誘したいんだろうね」
「ボクにも山ほどチラシが来たよ」
「うそ、ユノスも?」
チヨは驚いた。ユノスは身長も体力も特段良いわけではない、どちらかというと文化系の女子なので、まさか運動部から勧誘が来るとは思ってもなかった。
「アタシも来たのじゃ。陸上部とか野球部とか色々と」
ルシェヌもユノスと実情は同じだった。
「え、ルシェヌも!? 一体何がどうなってるの」
実のこと、満月家が百式高校へ入学をしたその時から、校内では『ある陰謀』が渦巻いていた。
*
数日前、百式高校会議室にて。
各部活の顧問達が集まり、物々しい雰囲気で言葉を交えていた。
「満月コーリン。この長身は絶対にこの学校の運動部内のエースになるはずだ」
「妹の満月マジナ、満月サバキもなかなかの逸材だな。皆こちらの部活に是非引き入れたい」
「かといって他の姉妹もほったらかしにはできない。上手いこと彼女たちを入部させれば、芋づる式で三人も入部させられるかもしれない」
「とにもかくにも、彼女たちはまとめて我ら野球部が頂く」
「いいえ、ここは皆サッカー部入部が道理でしょう」
「まぁ、とりあえず。全部活、全優良な人材を獲得できるよう、全身全霊で頑張りましょう」
*
チヨは尋ねた。
「ところでサバキとピコリはどこか検討ついてるの?」
「ウチは軽音楽部にする。一番得意なキーボード使えるし、部活見学で結構ルーズな部活だったって聞いたし。一応ウチのとこにも山ほど運動部のヤローからのチラシが来てたけど」
「自分は言うまでもなく生徒会執行部だ! この学校の風紀を正し、正道を敷く……実にすばらしい部活ではあるまいか!」
「やっぱりこの二人は安定してるね。で、他の四人はどうするの? 手当たり次第に部活見学とか行って見て決めたら?」
「だな。せっかくチラシよこしてきたんだから。期待に応えてやるか」
「そうだね、姉御」
翌日の放課後。
まだ部活が決まっていない四人はチヨに言われた通り手当たり次第に部活見学に行く。
「ようこそ剣道部へ、満月コーリンさん!」
武道場に入るなり、コーリンは剣道部員から、おもてなしを受ける。
剣道部特有の和の礼儀正しいおもてなしというよりは、政界の大物が来た時の町役場の職員のようなおもてなしだ。
「ここでは、えー、部活の名前通り、顧問の先生の厳しい指導の元、剣道をしています」
隅に置かれた防具一式を触りながら、コーリンは尋ねる。
「この布の鎧を着ながらか?」
「はい。本戦ではそれを着ます」
案内役の現部長はハキハキ答える。
好き勝手に触っちゃいけないんだけどなぁ。と、本当はコーリンのデリカシーの無さに内心呆れていた。
しかし彼女は本部活の明るい未来に必要不可欠な存在。なのでそういうことは些細だから無視れ。と、自分に言い聞かせて無視した。
「そして、この刀を持ちながらか」
コーリンは纏めて置かれていた竹刀一本を引き抜き、見つめる。
「へぇ、竹で出来てるのか……」
「は、はい……」
竹で出来てる刀なんだから竹刀と呼ぶのだろう。なぜ竹に『し』、刀に『ない』の読みを振ったのかはわからんけど。
というツッコミが喉の手前まで出そうになりながら、部長は困惑する。
「かなり軽いなこの刀」
「はい、そうですね……実刀は一キロあるとか言われてますし」
装備談義はここまでにして、剣道部員は実戦を披露する。片方は見栄え重視に、実戦では決して使わない二刀流で試合を行なった。
それが終わるとコーリンは、彼らにこう尋ねる。
「面とか胴とか叫んでたが、剣道ってのはそこしか攻撃しちゃダメなのか? 普通に首とか打ちこんじゃダメなのか?」
「はい、そういう所に当てるルールになってますから……」
「それと、走ったり跳んだりしたらダメなのか。お前ら、さっきからずっとすり足で動いていたが」
「はい、そういうルールなので……」
「お前らのいう剣道はそんなに堅苦しいルールに縛られながらするもんなのか? なんか少し『おかしい』って思わないのか?」
これまで顧問や先輩などから細かい疑問を厳しい訓練で上書きされ、ルールを叩き込まれた剣道部員は、そのコーリンの無秩序な発言に切り返しができない。
それは一大事と思い、これまで教え子たちの立ち振る舞いを温かい目で見て応援していた顧問は、いても立ってもいられず飛び出す。
「剣道というのは単に人を痛めつける武術ではなく、礼儀作法を磨く武術です。
なのでそういう堅苦しいルールに縛られて動くのが美しい、ということになっているんです」
ふーん、と、コーリンはあまり響いていない態度をした。
そしてコーリンは踵を返し、出入り口に歩いていき、
「じゃあオレには向いてないな。ありがとよ、わざわざ説明してくれて」
剣道部員に別れを告げたのだった。
「クッソー、折角あのコーリンが来てくれたのにー、剣道のバカ!」
そして顧問の先生はさっきまで肯定していた剣道に文句を言った。
*
一方その頃、マジナは女子バスケ部の見学へ行き、体育館の隅で待ちぼうけさせられていた。
「どうする、マジナが来たよ」
「ヤバい、マジで何も勧誘方法考えてない」
「うそ、折角来てくれたのに!」
部活見学に予約はない。
ふらっとマジナの姿が体育館に見えるや否や、顧問と部員総出で、彼女を迎え入れる方法の緊急会議をしているのだ。
「そうだ、ウチの男子バスケ部わりとイケメン多いよね!」
「それだそれだ、『部に入れば彼らと付き合える』って言えばワンチャン入れられるかも!」
女子バスケ一行は待たせていたマジナの元へ、そして即座に、男子バスケ部の元へ連れていく。
「見てください。こちらが男子バスケ部のイケメンさんたちです」
「へー、イケメンねぇ。まぁ確かに顔立ちいい感じはするね」
「もしあなたがここに入部出来ると、この方々とスムーズにお付き合いできますよー」
マジナはスッパリと言う。
「イケメンねぇ、悪くはないんだけど、私そういう風な安いイケメンの使い方嫌いなんだよね。悪いけど普通に部活内容とか教えて貰えないかな?」
かくて、切り札をマジナに燃やされた女子バスケ一行は、やるせなくむなしく淡々と、部活内容を紹介した。
*
その日の夕食中。
「ボクは美術部に所属したよ。あそこまともな活動してないし、『一月一枚イラスト描く』のがノルマっていうだらしないところだけど、他の勧誘がうるさすぎるもん」
「やっぱりユノスはそう転がるよね。して、他の三人は?」
ルシェヌは堂々自信を持って言う。
「帰宅部に決めたのじゃ!」
コーリンは尋ねる。
「帰宅部ってアレだろ。ただ帰るだけの部活だろ? それの何がいいんだよ」
ルシェヌに変わって、チヨが答える。
「あたしが昔所属してたから、それに合わせたのよ……」
「えっへん。さて、コーリン、マジナよ、お前たちは決まったのかえ? え?」
「まだだ。どれにすればいいか迷ってる段階のままだ。
なんてったってお誘いが凄まじいんだよ。ヒドイ時だと紹介中に別の部活が紹介に来たりしたんだ。
オレは厩戸王じゃねえんだから順番に来いよ順番に」
「最近の教科書に合わせるんだね。コーリンお姉ちゃん」
「私もわかるよ姉御。本当勧誘の手が鬱陶しいんだよ。バレー部なんか『君が入らないとこの部活は廃部だ』とか泣き寝入りしてきたしさ」
「うわそれは見ててキツイわ。ウチ知らないよバレー部が潰れる学校なんて。男子バレー部が事実上ない中学出身のキャラが主人公の漫画とかは知ってるけど」
チヨはこの話を聞いて、相手方のことを哀んだ。
「どれだけあちらは必死なんだろうね。はぁ、身長が高くて困ることってあるんだね」
「どうする姉御? ここは私たちの意思をきっぱりと通すため、いっそ帰宅部にする?」
「ダメだダメだ、サバキやユノス、はたまたピコリでさえきっちりまともな部活に所属しているんだ。こうなればオレたちも真っ当な部活に所属するべきだ!」
「ピコリでさえって、何そのウチを低……」
「そうだよね、姉御! ピコリみたいに絶対いい部活に入ろうね!」
「いやだから何かウチのこと低次元に言ってない? 帰宅部のルシェヌの方が絶対低次元なのに……」
「今何か言ったのかえ? ピコリ」
「いーえー! 何も言ってません!」
翌日、コーリンとマジナは、より一層熱を入れて、部活見学へいった。
「どうですコーリンさん、バレー部に入りませんか!?」
「入らん。玉叩くのは気品のある奴にやらせとけ」
それを、熱心過ぎるあまり強奪と表現するほうが正しい気がする勧誘が妨害する。
故に二人の入部は、困難を極めていた。
だが、その過酷な状況の中でこそ、運命的なことは起こるものだ。
「コーリンさん、ぜひ、ぜひ、柔道部に入部を……!」
「どうか、体操部に来てくださいマジナさん!」
コーリンは柔道部から、マジナは体操部から逃げている時のことだった。
前者は身を隠すのに都合が良さそうな、茂みの方に転がる。後者はグラウンドにある、人混みの中に隠れる。
「全く、人投げることの何が楽しいんだよ。掴んだら地面に押し付けたほうがてっとり早いだろ普通」
コーリンは、茂みの先をふと向くと、そこにはテニスコートがあった。
女子たちが汗を流してラケットを振るう様を、コーリンは珍しそうに眺めた。
「足開くのは得意だけどそればっかやってると腰を悪くするんだよねぇ。って、この集団は何だろう?」
その人混みは同じ方向を見つめ、何かを応援していた。
マジナも群衆と同じ方向を向く、と、そこはサッカー場で、ただいま一進一退のボールの奪い合いをしている所だった。
(やたらと刀身の幅がある刀みたいだな、見た感じ重さもそれなりにありそうだ……振ってて楽しそうだな)
(あのスピードでボールの奪い合いをする……あそこに怪盗サスペンスが混ざったら、いったいどんなてんやわんやになるのかなぁ)
その翌日、二つの入部届が、二つの部活に受理された。
二つの部活の顧問は言った。
「やった、あの満月を引き込めた……」
「こんなにも入部届を受け取る日が嬉しいなんて」
コーリンとマジナは、夕食の最中に報告する。
「……という訳で、オレはあのラケットっていう得物を振るいたいから、テニス部に入部したぜ」
「私は疾駆するのも強奪するのも出来る、サッカー部に入部した」
「なかなか似合ってるね。よかったじゃん」
と、チヨは二人の衝動的な決断を褒めた。
「だな! これでオレもピコリみたいに自分にあった高校生活が送れるってわけだ!」
「だね。いやー、ピコリでもそうなったみたいに、マッチングする部活ってあるんだねぇ」
「だから二人とも、ウチを最底辺にしないでルシェヌをそうしてよ……いや、この場合は誰とも比べてないか」
「……ピコリ、今、アタシのこと下に見たじゃろ?」
かくて、六人各々の部活ライフが、今ここに幕を開けるのだった。
「けどウチの作者はスポ根話書けないから、今回決まった部活もせいぜいキャラ設定止まりになると思うよ。期待してた人には申し訳ないけど」
【完】




