↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/200

第47話 The Knockout of Picori

 始まりは、満月家の六姉妹が夕食を食べている時のこと。


「ごちそうさま……」

 ピコリは元気なさげに、食器を片付ける。


「ピコリ、まだカニクリームコロッケあるぞ? お前、カニクリームコロッケそこそこ好きだろ?」


「そうだよコーリン姉さん……けど、いい……」


「そうか。あとピコリ、何だかさっきから元気無いが、どっか具合悪くなったのか?」


「無いよ……別に……」


 普段の呼吸に代わるような大きなため息を吐き、ピコリは憂鬱にリビングを出ていった。


「ピコリお姉ちゃん、どうしたのかな」


 数十分後。


「ふー、いい湯だったじゃー。どうせならお母さんと入りたかったのじゃ。次は誰が入るのじゃー?」


「じゃあウチ……」


 風呂上がりのルシェヌの横を、相変わらず元気のないピコリが通る。


 ルシェヌはそれを気にも留めず、寝る前の暇潰しのため、他の姉妹を見下すためにリビングに戻る。

 この時、ピコリと自分を除く他四人の姉妹がテーブルに集結していた。


「何話し合ってるのじゃー? 貴様ら」


 コーリンはルシェヌと目が合うなりすぐ、

「あ、そうだ。お前、ピコリにまた嫌がらせしたんじゃないのか?」


「全く知らんのじゃ! てか、いきなり何じゃ!?」


「みんなでピコリがどうしてあんなに元気が無いのか探ってたんだよ」


「もうじき初登校というのに、あの調子でいられると困るからな」


「それでルシェヌ。お前何をしたんだ?」


「どうして真っ先にアタシを疑うのじゃコーリン! まさかピコリがあんな元気ショボショボに出来るのは、アタシ以外にいないとでも言いたいのかえ!?」


 コーリンは刹那で答える。

「うん」


「な、何故じゃ!?」


「お前はいつもしょうもないことでピコリを困らせるし、そのピコリはセンチメンタルなとこがあるからな。

 だからどっかしらのタイミングでピコリがマジに嫌になったんだろ。てなわけでルシェヌ、さっさと白状しろ」


「は、白状も何も、アタシは悪いことした覚えはさらっさらないのじゃ!? こじつけはよすのじゃ!」


 ここでサバキが指摘する。

「ちょっと待てコーリン殿。ここはルシェヌ殿の言う通りこじつけが過ぎる。もう少し客観的な推理をしようではないか。このままでは一方通行だ」


「そういえばそうだけどよ……ルシェヌが犯人じゃなければ誰がピコリをああまで出来るんだ?」


「昨日、コーリンお姉ちゃんがピコリお姉ちゃんに寝ぼけてキスしたからだと思うよ」

 ユノスが流し台に食器を置きながら、ハッキリ言った。


「それは無いと思うな。ちゃんと謝ったんだぜ。だいたい実の姉にキスされたぐらいであそこまでしょげるほど、ピコリはそこまで雑魚じゃないと思うぜ」


「キスされたぐらいでは意気消沈しない……ならそれ以上のことをすれば! マジナ殿、貴様が何かしたのでは?」


「えっ、私? ちょっとサバキぃ、君も当てずっぽうに人を疑っていないかい?」


「疑っただけだ。犯人と決めつけたわけではない。とりあえずピコリにとって嫌になるようなことをしたか、大小問わず出来るだけ、思い当たることを教えてくれ」


「私は潔白のつもりなんだけどなぁ。あ、前にそういうことあったかも……」


*

 数日前。

「ウチ、ちょっとコンビニ行ってくるねー!」

 と、他の姉妹に断り、ピコリは家を出ようとする。


 マジナはそれにタンマをかけ、一つ頼みごとをした。

 

「ならついでで、お菓子買ってくれないかな? 百円くらいのバラバラになってるタイプの限定で。お金は後で出すよ」


「凄い限定の仕方だね……何で?」


 マジナはガヤガヤ鳴いている八枚のカードを見せて、

「私の竜が欲しいから」


「竜……あー、あの八枚のカードの竜ね。食事するんだ初耳」


「お腹は空かないらしいから快楽メインでの食事を時々欲するんだって。ほら、早く行ってきて、皆早くお菓子食べたくてムラムラ、いや、イライラしてるから」


「はーい、行ってきます」


 数分後。


「へいおまちー。買ってきたよお菓子」


 ピコリは約束の品――袋入りプリンチョコをマジナに手渡す。


「おっ、チョコを選ぶのはセンスがいいね。みんな、私にひっぱられてチョコが好きだからね。

 しかもこれ、一粒一粒がプリンみたいな形してるのもファンシーだね」


「多分マジナ姉さんのことだからいつも普通のチョコを与えてると思って、今回はちょっとひねってプリンチョコをえらんでみたの〜」


「さぁ、食べた食べた」


 マジナはプリンチョコの袋を開け、今か今かとそれを待ち望んでいた八体の竜の眼前に置く。そして八体は一斉に群がり、チョコをガツガツと食べ始めた。


「うまいけぇ、これ!」


「そうかいIrrynCrach。よかったねピコリ、皆喜んでくれたみたいだよ」


「どういたしましてなの〜」


 しかし、突如として平穏な食事タイムが殺伐とする――八体の竜が突如として喧嘩を始めたのだ。


「ちょっ、皆! どうしたんだいこれは!?」


「PYEEEE! PYEEEE!」


「ごめんSGL、君に言われてもよくわかんない。IrrynCrach、早く翻訳か説明してくれ!」


「誰かが勝手に自分だけ多く食べてるって、疑心暗鬼になったからこうなってるけぇ! 安心するけぇ、犯人とっ捕まえるまで危害は加えないじゃけん!」


「あ、そう。じゃあ無事解決してね」


「あ、そう。じゃあ無事解決しないでしょこれ!

 早く止めないと! この子たちドラゴンだから、この先喧嘩の規模がどうなるかわかんないもん!」


 ピコリはその争いを止めようと試みる。しかしいつの間にか、ピコリは八体の竜の怒りのぶつけ所と化した。


「QYEAAAAHHHH!(そもそもお前が誰が何個食ったかわかりづらい物買ってきたのが悪いんだろうが!)」

「GOOOW!(深々と反省せい!)」


「いたいの! ピコリいたいの! ……早く助けるでおじゃるぅぅぅマジナ姉さぁん!」


「いやー、こうなったら。とことんスッキリしてもらうまで、私でも止められないんだよね」


*


「マジナ殿。絶対それだ」


「私はこれじゃないと思うんだけどなぁ。終わった後も大した怪我負ってないし(みんなちっちゃい状態だったから)、みんなでしっかり謝ったし。第一にあれからけっこう時間経ってるから今、それを気にするのもどうかと思うよ」


「そうか。それもそうだな……」


 話が振り出しに戻り、サバキは再び思案する。

 さっき疑いを掛けられたマジナは、彼女へ反撃を仕掛けた。


「というよりサバキ、君には心当たりはないのかい?

 さっきから『自分は良い子ちゃんだから関係ない』って体で、推理する側に回ってるけど」


 さっさと終わらせてもっと有意義なことしたい――その一心でユノスはマジナに加勢する。

「警察・探偵側に犯人がいるって、推理劇のベターな展開だよね」


「ユノスまで……わかったわかった。今丁度心当たりが浮かんだから、白状する」


*


 数日前。ピコリと付き添いのサバキは、衣料品のプライスダウンセールを開催中の某総合スーパーに言っていた。


「さっきから意図的に黒いタイルを踏まないようにしているが、それは何故だ」


「この回の連載当時、大ヒットしてたアニメを作者がアマプラで八話まで見終わってたからじゃない?

 あ、ウチまだ十五歳だから、まだギリギリ対象外、なら沼に引きずりこまれないか」


「まるで何言ってるかわからんな。おっ、あったぞ、Tシャツ売り場」


 二人はデカデカと半額のPOPが添えられたTシャツ売り場を前にする。


「ないかなー、イカした黒いTシャツ」


「黒が好きなのか? ピコリ」


「うん、そうだよ」


「そうなのか。貴様みたいにチャラチャラした女子なら『黒は地味』と避けていると思ったのだが……」


*


「恐らくこの自分の偏見が、ピコリを傷つけたのかと……」


「それはサバキの気にし過ぎなのじゃ」


「そうだ。朝のニュースのファッションコーナー見ても、毎日のように『今どきのトレンド』とか銘打って、毎回違う格好出てくるぞ。下手すりゃ同日でも違う」


「というよりピコリお姉ちゃんのファッションセンス独特だよね。ぜんぜんやんちゃしてないのにやんちゃしてそうな格好してるもん」


 事件はさらに行き詰まった。

 これをどうにか突破口を開けようと、コーリンはルシェヌへ問う。

「やっぱ、ルシェヌが何かしたんじゃないのか?」


「また疑うのかえ、コーリン!?」


「オレとマジナとサバキに心当たりは無いんだ。まさかユノスがピコリをあんなにするまで酷いこと出来るわけない。

 なら消去法で、何かしらやらかした可能性があるのはルシェヌ、お前一人だ。

 頼む、些細なことでいいから教えろ」


「はぁ……面倒くさいのじゃ。教えればいいんじゃろ、教えれば」


*


 数日前。

「アタシが充電するのじゃ!」


「いーや、ウチだね!」


 ピコリとルシェヌは、スマホの充電をすべく、テレビの裏のコンセントの取り合いをしていた。


 ただのコンセントではない。ここに充電器を挿して充電すると、それが早くなった気がする(※今のところ根拠無し)と、満月家でまことしやかに噂されるコンセントだ。


「ウチ充電があと二パーしか無いんだけど! そっちは!?」


「こっちも五十一パーセントしかないのじゃ!」


「まだまだあるじゃん! じゃあウチが優先して使うね!」


 ピコリは話を強引に押し切り、そのコンセントを自分の充電器で制圧した。


「ひどいのじゃ、卑怯なのじゃー! こっちはスマホの使い方覚えたかったのじゃー!」


「ならウチは、あと三十分後にFALSEがテレビ出るから、Mutterで実況しながら観る必要あるの!」


「ふぁるすってなんなのじゃ!? 美味しいのかえ!?」


「ウチが今一番命かけて応援してるイチオシバンドだよ! それをMutterで他の人のコメント見たりしながら観るのが楽しいの! てなわけでここはウチが使います! 異議なし!」


 と、ピコリはルシェヌに言いつけ、テレビ鑑賞中に摘むためのお菓子を買いにコンビニへ向かった。


「ふん、覚えてろなのじゃ……」


 ルシェヌが後の復讐を決意した時、コーリンがお風呂から上がってきた。


「次は誰が入るんだー?」


「じゃあ、あたし入ろっかな」


 入れ替わりで、チヨがお風呂に入ろうとする。


「お母さん待ってー! あたしも入るのじゃー!」

 ルシェヌはさっきの怨恨をすっかり忘れて、チヨへと急ぐ。


「ルシェヌ、もうお風呂入ってたんじゃないの? 既にパジャマ着てるけど?」


「それでも入りたいのじゃ! 久々に一緒にお風呂入りたいのじゃ!」


「ごめん、今日はとびっきり疲れてるからまた今度にさせて」


 チヨがピシャリとお風呂の扉を閉めた。

 ファンタジー作品に一度はある、汚職役人か冷遇貴族が国外追放のため城門の外に閉め出されるシーン。

 ルシェヌにとって今の瞬間は、それと同じような感じだった。


「こっちもこっちでひどいのじゃ……」


 ルシェヌは魔王特有の悪知恵を働かせた。

「そうじゃ、スマホがあるのじゃ! スマホでお母さんがお風呂入ってる動画こっそり撮って、それっぽい気分を味わうのじゃ!  けどずっと構えて撮るのは疲れるし、置いて撮るのはアタシのスマホに水がかかりそうで怖いのじゃな」


 ルシェヌはさらにもう一つ悪知恵――ここでの『悪』はベクトルが違う――を働かせる。

「そうじゃ、ピコリのスマホを使うのじゃ! ピコリのスマホならこういうのに使っても問題ないのじゃ!」


 ルシェヌはピコリのスマホを充電器から抜き取り、代わりに自分のスマホを充電器に挿す。


「一〇三一。パスコードを自分の誕生日にするとは、ピコリらしく単純で結構なのじゃ」


 ルシェヌは、動画撮影モードにしたピコリのスマホを浴室の窓に仕込み、チヨの入浴を撮影した。


*


「ああ、そんなこともあったね。確かにこの前、ルシェヌが母さんとピコリの両方に怒られてたね」


「そんなことがあったのか……それは問答無用で極悪だな」


「け、けど! これも随分と経った出来事なのじゃ! だからこれも関係ないと思うのじゃ!」


「なら他に、心当たりは無いのか?」


「ない! 全くないのじゃ!」


「おっかしいな……じゃあ誰も何もしてない、ピコリが勝手に憂鬱になってるってことか?」


「待てコーリン、そう決めつけるのはまだ早いぞ」


「何? まさかユノスがやらかしたとでも言うのかサバキ」


「違う。自分は総当たりで犯人を探すのではなく、もう少し推理をしようと思ったのだ。

 みんなに聞く、ピコリの元気がなくなったのは具体的にいつ頃だ?」


「私は……ご飯食べ始めた頃からだと思う」


「ボクもそう思う。見たもん、夕食前にピコリお姉ちゃんがニコニコしてトイレ行くの」


「そうか。ならトイレに入ってから、ご飯食べ始めるまでの間に、ピコリの身に何かあったに違いない」


「お通じがあんま出なかったとかか? いや、そんくらいでピコリはあんなにしょげないか……」


「はいはい、私わかった! ピコリはね、あれなんだよ今……そう、あれ」


「それは違うと思うぞ。ピコリはあと一週間後くらいがそれだからな」


「……何でそれを知ってるのじゃ、サバキ?」


「家族の健康を把握して何が悪い! ゲフン、それと、みんなトイレにこだわり過ぎだ、もっと柔軟に原因を考えろ」


「わかりました。それはきっと、私に責任があります」

 と、ユノスのサポートをする電子生命体、アザレアが名乗り出る。


「まさか、アザレア殿が何か……?」


「はい、そうに違いありません」


*


 数日前、ユノスがMutterに自作漫画を挙げる事に夢中になっていた時。

「アザレア、飲み物持ってきて」


「イエス、マスター」


 アザレアは一階のキッチンで、栄養ドリンクを確保し、二階の六姉妹の部屋――ユノスの作業場に戻る。

 最中、ピコリがアザレアに声を掛ける。


「アザレアさん、ウチ、ユノスに頼みたいことがあるんだけど……」


 その用件は『自分のMutter用のアイコンを描いて欲しい』というもの。ピコリは細かい要望をアザレアに述べた。


 アザレアは栄養ドリンクを持ってユノスの元に戻ると共に、ピコリの伝言を伝える。


「ピコリお姉ちゃん、こだわり強すぎるね。しかもボク、今これ描くので忙しいのに」


「では『後ほどにさせてください』とピコリさんに伝えますか?」


「大丈夫。忙しいの範疇を広げればできるから」


 そしてユノスはピコリのアイコンを仕上げたのだった。


*


「恐らくピコリ様はトイレでMutterを眺めていたのでしょう。その時、アイコンを周りから誹謗中傷されていたのに気づき、あのような憂鬱な状態になってしまわれたのでしょう……」


「アザレアさん、それは『気にし過ぎ』を通り越していると自分は思います」


「サバキ、お前が言うのか……というよりアザレアさんよ、そんなに心配性だったか?」


「あのロスイさんの一件で、私は心を入れ替え、ユノス様だけでなく皆様の心配をすることにしました」


「そうか、そうなのか……まぁ、それは結構。

 けど、この件もピコリのあれとは無関係だとおもうぞ? もっとデカイ衝撃を受けてああなったと、オレは思うが……」


「ただいまー。今は七時前か。ごめんね、結構遅くなっちゃって」

 時計の針が七時間際を指した時、チヨが帰って来た。


「お帰りな……あ、ピコリお姉ちゃん」


 同時に、しばらく皆に姿を見せていなかったピコリが現れる。

 ピコリは切迫した表情で、テレビのリモコンを取りスイッチオン。

 映し出したのは音楽番組だ。


『当番組からも言わせていただきます、今までありがとうございます、これからのメンバーの皆さんの、それぞれの活躍をお祈りします。

 おなじみのFALSEさんによる、最後の演奏です』


 と、MCのアナウンサーが、しんみりと言う。

 直後に、ピコリは両膝をついて愕然とした。


「ああ、やっぱり本当に解散するんだ……」


 チヨは言う。

「FALSEって、ピコリが好きなバンドだったっけ? とうとう解散しちゃったんだ……」

 

 一方、ピコリ以外の五人の姉妹は、

「「「「「これだったのかぁ」」」」」「なのじゃ」

 と、声揃えて納得した。


 一方チヨはさっぱりわからない。

「え、なに、今のハモリ? みんなどうしたの?」


 そしてこれの説明は誰もしない。自分が安心するので忙しいからだ。


「バンド解散しただけだったのか。何だ、てっきりオレたちがどうかしたのかと思った」


「いやー、本当に焦ったのじゃ。アタシにとってどうでもいいことでピコリを苦しめてたらどう言い逃れようかと困るところだったのじゃ」


「まだ何か、自分の知らないことで悪さしていたのか……?」


「とりあえず、これにて万事解決だね」

「イエス、マスター!」


「万事解決じゃなーい! うう、皆、皆ウチがどんだけ悲しくなってると思ってるの……! 悪魔! 鬼! 人でなし! デブ! サディスト! うわーん!」


 ピコリの哀切の慟哭が、FALSE最後の生演奏に負けないくらい、満月家に響いた。


【完】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。