第159話 AIイラストは創作物に入りますか??
とある休日の午後。満月家にて。
ユノスは部屋で自分のデスクを前に、作業をしていた。
彼女の趣味は漫画を描くこと。少し前は出版社から仕事を貰っていたが、今は商業的都合で落ち着いている。
だから今描いているものは完全に趣味であり、彼女自身の創作だ。
ユノスは愛用のタブレットにタッチペンを走らせ、コマの中に迷いなく線を描いていく。
その横から、あったかいココアが入ったマグカップがそっと現れた。
「マスター、ここで休憩はいかがでしょうか」
ユノスは椅子を四十五度回して、
「ありがとう、アザレア」
と、礼を言って、執事服を着た中性的な風貌の女性からマグカップを受け取った。
この執事服の女性は『アザレア』といって、端的に言うとユノスのサポート役だ。
詳細に言うと、彼女が前にいた異世界『コミックムリヒメ』にて、優秀な漫画家に支給される電子生命体『MEY』の一種だ。
ちなみにこの姿は、彼女の代表作のキャラクターを再現している。なのでいざというときは、原作通り虫をごちゃまぜにした怪人態にも変身したりする。
ユノスは一旦タブレットをスリープし、あったかいココアをゆっくり味わう。
「流石はアザレアだね。ちゃんとあったかいけど、火傷しない温度になっているんだもん」
「光栄です、マスター」
これを飲みつつ、スマホで創作のための含蓄を得る。
最中、今まで自分とアザレアしかいなかった部屋に、賑わいが訪れる。
「でさー、本当に最近腹たってんのウチ」
「わかりますわかります」
「わかるっスわかるっス」
「わかる……わかる……」
ピコリ、ネロア、ワノ、イバラがぞろぞろやってきて、部屋の中央に腰を下ろす。
そして、ここに来るまでにも話していただろう雑談を続ける。
「迷惑でしょうがないんだけど、ああいうインプレ稼ぎの投稿。いかにもそれっぽいこと言ってるフリして、あんま中身ない感じ。でもってそれを大量に送ったり、返信してたりするの」と、ピコリは傍にあったクッションを拳でポスポス言わせる。
「僕もああいうのは好きではないですね。純粋な感想が知りたい時は特にそう思います」と、ネロアは小刻みにうなずいた。
「絶対にAIに考えさせたような文章してるっスよね。今ここ人を諭そうするとこじゃないのに、無駄に丁寧に語りかけてるのがアレっス」と、ワノは実際にスマホでそういう返信を見て、奥歯に力を込める。
「うん……うん……」と、イバラは無難に相槌を打つ。
ユノスはまだ話の輪には入ってないので何も言わないが、頭の中でそれについていく。
(ピコリお姉ちゃんたち、インプレゾンビについて愚痴ってるんだね。最近FAX(旧Mutter)で悪い意味で話題になってるの)
「ああいうのって本当に無節操だよね。不謹慎な話題にも無作法に首突っ込んだりさ、最近だとマジナ姉さん好みのHな動画貼っつけたりしてたりさあ」
「あのような物を見ると胸が痛みますよ。そこまでしてお金が欲しいのかと……ですね」
「わたしも……うえー……ってなる……」
「どこにいっても金には勝てないんスよ。
あとアタイ、AIイラストも嫌いっス」
「僕もわかります。ゲームの感想とか攻略情報とか知りたいのに、とても人が描いたとは思えないような綺麗なイラストありますよね?」
「でもってよく見ると指が増えてたり、髪と服が融合してたりするっていうね。
そもそも根本的に、原作の絵柄とかけ離れたやけに写実的な質感がヤバいっていうか。
……そう言えばああいうイラストって、なんでオススメに出てきがちなんだろうね」
「それはわたししらない……」
「僕、調べたことがあります。ああいうイラストはインプレゾンビさんの間で相互評価をし合うので、瞬間的ないいねの数値上昇が起こり、それでアルゴリズム的に『注目度が高い』と判定されて、上位に出るそうです」
「いや単に見る目のない野郎がジロジロ見まくってるからじゃないっスか?
品のない薄着を着せて、やたらと肉感的なイラストっスもん、アイツらの作品。
そういう安直なエロに食らいつく奴が大勢いるんじゃないですか」
「ぜったいそうだ……」
「なんかもうそういう時代っスかね。みんな人が手塩にかけたイラストよりも、完璧なAIイラストのほうが好きなんスかね」
「この件についてご意見ございますか、ユノス先生」
ユノスは椅子を百八十度グルンと回し、急に振られたとは思えない、自信たっぷりな態度で話す。
「ボクはゾーニングの問題だと思うな。AIイラストは絵の技術的に成熟していて、完成度が高いけど、創意工夫がない。
ファンアートはどちらかというと各絵師のセンスとか解釈がみたい人が注目してるものだから、そこに上手いだけのAIイラストが紛れ込んだら、当然非難されて当然だとボクは思うの。
つまるところ、人の描いたイラストはまだまだ戦えると思うよ」
「それは実に専門家らしいご意見ですね。ありがとうございます」
「けど、なんかユノ姐が言っても説得力ないような気がするっス……」
「どうしてですかワノさん。ものすごく未来を見通した意見だったと思いますよ」
「だって、横にアイツいるんスもの」
と、ワノはユノスからマグカップを受け取ったばかりのアザレアを指さす。
念のため、もう一度説明する。
アザレアはユノスをサポートするための電子生命体。
ざっくばらんに言ってしまえば、実体のあるAIである。
イバラはワノとアザレアとで目線を行ったり来たりしてから、首をかしげる。
「どういうこと……?」
「ご覧の通り、ユノ姐はアザレアを助手にして漫画を描いているんスよ。そのアザレアはメイとかいうAIっスよね。つまりユノ姐もAI使って絵を描いてる奴なんスよ!」
ネロアは名探偵がアリバイを崩したときのように目を見開き、犯人のようにアザレアへ向く。
刹那、ネロアは首をブンブン振り、重ねて片手も振る。
「いやいや、そんなわけありませんよ。僕、ユノスお姉さんの作品を読んだことがありますが、そこには人の工夫と温もりが籠ってますよ」
イバラは確認のため、傍にあったカラーボックスから、ユノスが過去に描いていたラノベ原作のコミカライズを手に取り読む。
ユノス特有の絵柄の荒さもありつつも、その場面の空気の緩急を一コマ一コマ加減して描かれたワンシーンがそこにあった。
「ほんとうだ……ひとのえだ……」
でしょー。と、ピコリは代わって誇らしげに言ってから、ユノスへ向く。
「ユノス、アザレアさん。どっちでもいいけど、実際、アザレアが絵を描いてるわけじゃないでしょ?」
ユノスが常に被っている赤いベレー帽は、アザレアを使用する媒体だ。
ここから二人は思考を共有し、交互に話す。
「うん、基本はボクが描いているよ。忙しい時はアシスタントとかやってもらってるけど」
「マスターが仰った通り、トーン張りやベタ塗りなどの細かい作業は私が行うこともありますが、ラフなど創作の根幹はマスターが主体で行っております。
私が発案して描いたイラストは、これまでに一枚もございません。前の世界のことも含めて」
そして二人は念を押すように、完璧に一緒のタイミングで首を縦に振った。
問題の提起人、ワノはイバラからよこされたユノス先生の漫画をパラパラめくって閉じ、『作画:満月ユノス』の文字をなぞる。
「まあ、それは信じておくっス。けど、それでまた一つ気になったことがあるんスけど」
「なんでしょう。ワノ様」
「アザレア単体だとどんな絵が描ける、あるいは生成できるんスか?」
見るのは嫌だが、自分がやるとどれくらいのものが出来上がるのか知りたい気持ちはある。
これはワノだけでなく、ピコリもネロアもイバラも同感だった。
「あ、それボクも気になる。そこまで性能試したことなかったもん」
なんならマスターも同じことを考えたくらいだ。
「じゃあ試しになんか描いて欲しいっス」
「テーマとか与えたほうがいいんじゃない?」
「じゃあボクから適当に出すよ。さっきの『マグカップに入ってたココア』とかどう? 簡単に描いてみてよ」
アザレアは真正面を向いて硬直していた。
情報処理が追いつかなくなった3Dモデルのように、十字のポーズにはなっていないが、その表情の無の具合から、相当焦っていることが見て取れる。
「アザレア、マスターのお願いだよ」
「は、はい……わかりました」
アザレアはマスターから、スケッチブックと、都合よく引き出しにあった三十六色のカラーペンを渡される。
さっき飲んでいたマグカップは、一階のシンクに戻した。アザレアの実力を測るべく、参考資料は完全抜きで描かせるためだ。
アザレアは眉間にシワを寄せながら、
「なんかAIっぽくない仕草っスね」
「そういうリアリティも出すハイテクなAIだと思いますよ」
せっせと右手を動かしてスケッチブックに目的物を描いていく。
そして三分後。
「で、できました……!」
絵師としては早いが、電子生命体としては遅い時間に戸惑う満月姉妹たちに、スケッチブックの表を見せた。
そこには、緑色のマグカップに、茶色い液体が入った絵があった。
立体感はあるにはあるが、光の反射や陰影、液体の揺れなどはない。
良くてフリー素材。悪くてパソコンに標準搭載されたお絵かきアプリで小学生の落書きのような、ものすごくのっぺりとしたイラストがそこにあった。
「ど、どうでしょうか……皆様!」
まずイバラが、ワノの腕を肘でつつく。
それにほんのりいらだちつつも、ワノはピコリに目をやる。
ピコリはほんの一瞬、両人差し指でバッテンを作り、ネロアを見つめる。
ネロアはしばし考え込み、そして苦笑いする。
この無言のやり取りを横目で捉えたユノスは、マスターの責任を果たすべく、感想を述べる。
「アザレアは、そういう風に作られた存在じゃなかったんだね……うん、頑張ったよ、うん」
「そ、そんな……」
アザレアはその場にへたり込んでしまった。
「……」
何がともあれ証明はできた。アザレアには背を向けて、ユノスは四人に言った。
「ということで、アザレアはボクのアシスタントとして大活躍しているMEYなんだよ。
ボクの思考や設計図を百パーセント受け取ることで絵が描けるんだよ。
だからそこら辺にいる調子に乗った絵師もどきとボクを一緒にしないで……」
「いいや、まだです!」
アザレアが一瞬飛び上がるような勢いで立ち上がる。まるでユノスから守護霊が飛び出たような迫力だ。
「実際、ユノスのスタンドとかペルソナとか化身……まあ、そういう系の役割もあるんだけどね。特に戦闘面では」
「マスター、私にどうか汚名返上のチャンスをください! これまでマスターのお側で、マスターの巧みな芸術を幾度も見て、時折お手伝いもした身にも関わらず、いざ独りになればあんなゴミを生み出すような者だとは……このアザレア、どうしても認められません!」
「別にいいんだよ、アザレア。あなたはそういうために生まれた……」
「僭越ながらお願いいたします! どうかもう一度私にチャンスを!」
「けどあなたが絵が上手くなったら、またワノとかからボクがAIにかまけてるとか難癖……」
アザレアはさらに剣幕を強めて、主へ詰め寄る。
「誠に恐縮で……」
これは堂々巡りになる。そう予感したユノスは早めに手を打った。
「わかった、じゃあもう一作描いてみてよ」
「はっ、我はユノスの名の元に!」
言うほどそうでもないかもしれないが……この時、周りの四人は、アザレアに対し別な汚名を考えた。
良くも悪くも意地の張った側近だと。
というわけで、ユノスはもう一度お題を出す。
「じゃあ次は『聖剣』を描いてみてよ。デザインは特に指定無し。個々人の思うような剣を描いてみて」
「仰せのままに!」
アザレアは再びスケッチブックとペンを構える。
その間、ユノスはピコリたち四人にも、スケッチブックとペンを配った。
「これ、どういうつもり……?」
「なんかアザレアばっかりイジられるのもボク嫌だから、みんなの画力も見ておきたいの。
制限時間は十分くらいでいいかな。
ああ、ボクはバカにしたりしないよ。みんな初心者だってわかってるから。うん」
と、ユノスは自分の椅子に、ふんぞり返り、腕を組み、片足をプラプラさせつつ言った。
「いいですよ。お題はアザレアさんと同じでいいですね。わかりました」
ネロアは迷いなくペンを手に取る。
「ま、まあいいけど……アザレアさんの作業が終わるのをただ見てるのもなんだし」
ピコリもアザレアの必死さをチラ見し、負けじとスケッチブックを開く。
「とはいいつつ、ユノ姐は描かないんスね」
ワノは弾くようにペンのキャップを雑に外した。
「ボクが描くとアザレアが脳内設計図をカンニングしちゃうもん」
余談だが、このお題のチョイスは、ユノスが初めて漫画家として出版社からお仕事をいただいた『不運で死んだら、侘び加護で最強聖剣ゲット! 〜チート剣聖転生者の英雄譚〜』のコミカライズにちなんでいる。
さらに余談だが、これは原作者側のトラブルで、ネームのみにとどまり、世に出る前に企画そのものが消失した(※第53話参照)。
「ボクにとっては思い出深いことから来たお題だけど、どれだけ応えてくれるかな……頼むよ、アザレア」
十分後。
「それでは皆さん一斉にオープンして」
言われた通り、アザレアたち五人はスケッチブックを表にする。
ワノとイバラはデザインの試行錯誤に苦労したらしく、何のイメージを意匠化したかよくわからない鍔がついた剣を描いていた。
「やっすい十字架っぽい剣にならないように頑張ったら、こんなまとまらない感じになったっス」
「けんつかわないから……わからない……」
「二人ともファンタジー寄りの異世界に行ってるけど、いざ見たもの描けと言われても描けないよね」
ピコリは中ボスくらいの騎士が使いそうな無難なものを描いていた。余裕があったのか青と黄色で細かく色を塗っている。
「前の世界だとジャケデザインにも関わったことあるから、多少は絵心がございます、ウチ」
「これはなかなか上出来だね。対照色相をうまく使ってるのも巧み」
ネロアは湾曲した刀身の……聖剣とは思えない黒が目立つ剣を描いていた。
「ネロア、これ……あなたの得物を描いたんじゃないの?」
「ああ、バレちゃいましたか……僕にとってはこれが聖剣ですから」
ここからが本題。
「どうです、私も見事なものでしょう!」
アザレアがガッチリと両手で構えているスケッチブックには、パッと見ても聖剣とわかるものが描かれていた。
ピコリと同じように、黄色と青の王道の正義感あふれる彩色の鍔、自ら光り輝いているような鋭い刀身。
そんな聖剣が、とても十分だけで描いたとは思えない……というより、人が描いたとは思えない、写真に迫るほどの綿密な絵柄で描かれていた。
「うん、ようやく本領発揮したね……電子生命体としてのね」
「それは、褒め言葉でしょうか!」
「ボクの思考読めるんだからそれくらい考えてよ。ボケのつもりだったらごめん」
同期時間のような数秒の間を空けて、アザレアは背中を丸めてうなだれた。
「……そんな、力作でしたのに」
肩に変な力を入れすぎると、アザレアの描いた絵は出力生成されるものとなる。
ユノスたちはまた一つ、どうでもいいことを知った。
「じゃあ、どうするアザレア。もう一度トライする?」
「はい、マスターがよろしければ是非」
次こそは主に認められる作品を作る。
という意思を双眸に込めて、真っ直ぐユノスと一人ひとりを見た。
(あとは実際の結果が伴えばいいんだけどね、アザレア)
(電子生命体のくせに暑苦しいなぁ)
(ユノ姐もユノ姐でドーナツが絡むとめんどくさいっスけど、その従者も従者っスね……)
それを食らって、五人中三人はしんどくなっていた。
「次のお題は何にしようかな……」
そうユノスが考えていると、棚ぼたのようにこの部屋にルシェヌがやってきた。
「何やら上が賑やかだと思えば、のんきにお絵かきかのう。実にくだらんのじゃ」
「じゃあお題はルシェヌで。少し縛りを入れて、何かしらの魔法を撃ってるポーズでお願い。今回も十分くらいでお願い!」
「なんじゃそのアタシに対する雑な扱いは! せめて一時間で描かせるのじゃ! 城に飾っても遜色ないくらいに!」
アザレアたち五人はルシェヌの戯言を無視して、スケッチブックに向き合う。
「おおい、聞けええいッ!」
「そうそう、ルシェヌ。写生大会にならないように実際に魔法を撃つポーズは取らないでね」
「わかっておるわ! こやつらのためにじっとしておられるか!」
ルシェヌがジタバタしている間、アザレアは芋虫が這うような速度でペンを動かしていた。
漫画界の麒麟児たるユノスの首席アシスタントとしての重圧が、三度目の正直というさらなる負荷とともに、怪人態に変身しても支えられないくらい、今、彼女の肩にのしかかり、思うように筆が動かないのだ。
(上手すぎてもだめ、下手では当然ダメ……一体、どうすればいいのでしょうか)
ここで運命の糸に引かれたように、アザレアはふと、床に置かれっぱなしになっていた、ユノスのコミカライズ単行本に目が止まった。
(そうだ。マスターと同じ主義を持つべきなのです。マスターの絵柄は芸術に求められるような繊細さはなく、どちらかというと荒い絵柄です。
ですがそこに、マスターの熱量が、気迫が、そしてセンスが詰まっているのです。
ならば私も同様に、私なりの表現を取ればいいのです!)
ここからアザレアの手は、これまでの鈍化がこのためのチャージだったかのように、十倍速で動き出した。羽全面に追い風を受けた蝶のようだった。
もはやその動きは描画というよりも、スケッチブックへの攻撃、ラッシュにも見えた。
「す、すごいのじゃこの下僕……腕が増えて見えるぞい」
「二回目もこのぐらい速度出してたけどね」
そして十分後。
バラエティ的に、一旦アザレアはオチに取っておいて、それ以外の四人が先にスケッチブックをオープンする。
ルシェヌごときにそこまで集中力を使いたくなかったワノとイバラは、海外ドラマの子供部屋の壁に貼られているように簡素に仕上げた。
「おい貴様ら! アタシの勇姿をこんな雑に描くでないのじゃ!」
一応真剣にやったピコリとネロアは、カードゲームのコモンのイラストには丁度いいくらい、比較的丁寧に描いた。
「おい貴様ら! アタシの風格をもっと大きく描くのじゃ!」
「描いてくれたんだから少しは褒めたほうがいいよ、ルシェヌ……さて、問題のアザレア、どうぞ」
「はい、ではご覧ください! 私の魂がこもった力作を!」
アザレアは、中心に軸を仕込んでいるような手さばきで、自分のスケッチブックを周りに見せる。
「おお、アザレア……これは……」
そこには、一見目隠しして次々と各色のペンを渡されて線を雑に描いたようだが、よく目を凝らすと何かしらの概念が連想される、色彩豊かな絵があった。
「……抽象画だね」
ルシェヌはここが二階であることを気にせず、ドスドス地団駄を踏んだ。
「いやただの落書きじゃろ! 全ッ然アタシに見えないのじゃ!」
「いやこれルシェヌっぽいよ。姿形をはっきり描いてはないけど。雰囲気は合ってる」
「はい。様々な属性魔法を使うルシェヌさんらしいです」
「このぐちゃぐちゃ具合もピッタシじゃないっスか」
「いかどうぶん……」
「貴様ら! 冗談はほどほどにするのじゃー!」
ルシェヌが感情的になって暴れるのを尻目に、ユノスはアザレアに寄って、その絵を見つめながら言った。
「上手いかっていうとあれだけど、とても迫力のある絵だよ。アザレア」
「イエス、マスター……お褒めいただき光栄です」
この時、二人の思考通信の間に、言ったことと同義の言葉が流れた。
余談だが、この絵は満月家の玄関の靴箱の上に掛けられた。
そのへんに飾るとそこそこいい雰囲気が出るため、家内では概ね好評であった。
制作の場に居合わせなかった他の六人は、何度見ても意味はわからなかったが。
【完】




