第10話(後編2)――「幽州を守る者」
(1225年11月上旬、幽州)
幽州を奪って3日が過ぎた。城壁には達也軍の旗が立ち、西門では戦いで傷んだ扉の修理が続いていた。朝の冷え込みは強く、警戒する兵の吐く息が白かった。
北門と西門には普段より多くの兵を置いていた。幽州の北には、まだ金の支配地が広がっている。城を取ったからといって、警戒を解くことはできなかった。
倉達也は旧金軍の役所を接収し、政務と軍議に使っていた。その朝も、広間の卓には幽州周辺の地図が広げられていた。
耶律玉蘭が、北方へ出した斥候の報告を読み上げた。北へ30里ほどの街道で金兵約40騎を確認したが、こちらの斥候を見ると引いたという。北西にも少数の騎兵が出ていた。
「やはり偵察を出してきたか」と達也は地図を見た。
そばの将校が、金軍は幽州を取り返しに来るのかと尋ねた。達也は今すぐ大軍が来るとは限らないと答えたが、金が幽州を諦めるとも考えていなかった。
玉蘭も同じ意見だった。
「燕州の中心です。ここを奪われたまま放っておけば、周辺の城も金から離れていきます」
達也は幽州から北、西、東へ伸びる街道を指した。城壁を修理して兵を置くだけでは足りず、守備軍を組み直す必要があった。
「玉蘭。幽州にいる軍人を調べてくれ」
対象には、降伏した旧金軍の将校や下級指揮官、地元の騎兵、城を守っていた兵も含めた。達也に従う者の中から、幽州を任せられる人物を選ぶつもりだった。
達也は次の目的地を告げた。
「俺たちは次に西京大同府へ行く」
玉蘭は、やはりすぐに動くのかと確かめた。金は開封で約5万の軍を失い、幽州も奪われた。達也は守りを立て直す時間を与えたくなかった。
「俺とお前が西へ行ったあと、金軍が来たから指示を待つ、では困る」
敵の数を調べ、城門を閉じ、騎兵を出す。必要なら籠城し、援軍を求める。そうした判断を任せられる将が必要だった。
「かなり大きな役目です」と玉蘭は言った。
「だから、お前に探してもらう」
玉蘭に候補を選ばせ、最後は達也自身も会うことにした。若い者を中心に調べ、以前の階級や家柄にはこだわらない。女性でも、兵を率いる力があれば構わなかった。
「主将だけじゃ足りない。騎兵、斥候、城門、弓兵も任せられる奴を何人か揃えてくれ」
玉蘭は、幽州だけで1つの軍として動けるようにするのだと理解した。達也はそのとおりだと答えた。
◇ ◇ ◇
玉蘭はその日から、幽州に残った軍人を調べ始めた。攻防戦で捕虜となった金兵の中には、達也への服属を受け入れた者も多かった。幽州周辺で徴兵された者や、家族を養うため軍へ入った者もおり、全員が金の朝廷に強い忠誠を抱いていたわけではなかった。
玉蘭はまず、旧金軍の下級将校や部隊長を集めた。名前、年齢、出身地に加え、何人の兵を率いてきたか、歩兵と騎兵のどちらを得意とするかを確かめた。幽州攻防戦で守っていた場所と、敗れたあとの行動も聞いた。
元の階級や本人の話だけでは選ばなかった。部下にも話を聞き、戦の最中にどこで指揮していたか、食糧を不当に取り上げたことがないか、普段は兵をどう扱っていたかを調べた。
城壁に最後まで残った者もいれば、命令だけ出して後ろにいた者もいた。酒を飲んで暴れ、理由もなく兵を殴るような者は候補から外した。
ある若い将については、厳しいものの、戦の前には自分で弓と矢を見て回っていたと兵が話した。逃げる兵を斬ったこともあったが、その兵は持ち場を離れ、勝手に門を開けようとしていたという。戦が終わってからは負傷兵を集めていた。
玉蘭はこうした証言と本人の説明を照らし合わせ、候補を絞っていった。
◇ ◇ ◇
2日後、玉蘭は最初の候補を達也の前へ連れてきた。27歳の趙俊明だった。
幽州守備軍の下級将校で、攻防戦では西壁を守っていた。達也軍が城壁へ登ったあとも部下をまとめて抵抗したが、西門が破られ、上官から降伏命令が出ると従った。捕虜になってからも部下を放置せず、負傷者を集めていた。
達也は、自分の軍と戦った俊明に恨みがあるかと尋ねた。俊明は少し考えてから答えた。
「敵であった時は戦いました。今は降伏し、幽州も魯王様のものになっております」
金へ戻るつもりもなかった。家族が幽州におり、置き去りにして北へ逃げる気はないという。
達也は俊明の顔を見た。
「俺と玉蘭が西京大同府へ行ったあと、金軍1万が幽州へ向かってきたらどうする」
俊明は、まず城門を閉じると答えた。斥候を出し、敵の正確な数、騎兵、兵糧隊、攻城用の道具を調べる。城内では兵を城壁へ上げ、穀物、矢、井戸を確認し、城外にいる味方を戻すと説明した。
達也がすぐには戻れない場合も考えていた。使者を何人か別の道から出し、城外で決戦を挑まず、城壁を使って持ちこたえるつもりだった。
「敵が挑発しても?」と達也は尋ねた。
「幽州を守ることが役目なら、城を空けて追いません」
達也は玉蘭にも、同じ問いをしたか確かめた。玉蘭はすでに尋ねており、答えもほとんど同じだった。
俊明は馬には乗れたが、得意なのは歩兵と城壁の守備だった。幽州で長く兵を務めていたため、城内の道と門も分かっていた。
「分かった。候補に残す」と達也は告げた。
俊明は礼を述べた。
◇ ◇ ◇
次に呼ばれたのは、25歳の完顔徳順だった。幽州の騎兵隊で約300騎を率いた経験があり、落城時には生き残った部下約180騎をまとめて降伏していた。
達也が完顔姓であることに触れると、玉蘭は、それでも候補に残したと説明した。
「ああ。姓だけで外すつもりはない」と達也は答えた。
徳順は達也に仕える意思を示し、金軍が北から来ても戻るつもりはないと話した。その理由を問われると、達也を見て答えた。
「戻るつもりなら、幽州が落ちた時に部下を連れて逃げております」
幽州には家族がいた。また、降伏すると決めたあとで部下だけを捨てて逃げる気もなかったという。
達也は、自分が幽州を離れたあと、金の騎兵500が近づいた場合の対応を尋ねた。徳順は、味方の騎兵をすべて出すことはしないと答えた。
「500騎だけとは限らないからです。後ろに本隊がいるか斥候を出して調べます」
本当に500騎だけで、味方の兵力に余裕があれば追い払う。ただし、誘いの恐れがあるため、幽州から遠くまでは追わないと説明した。
達也は玉蘭に、実際の指揮ぶりを確かめた。
「実際に動かしました。部下への命令も早く、隊列も崩しません」と玉蘭は答えた。
徳順も候補に残った。
◇ ◇ ◇
3人目は、26歳の蕭月華という女性だった。
契丹人の家に生まれ、幽州北東の集落で育った。父と兄が騎兵として働き、月華も幼い頃から馬と弓を扱っていた。周辺の村を守る地方騎兵をまとめ、多い時には120騎ほどを率いていた。幽州攻防戦の際は城内ではなく、北東の村にいた。
玉蘭は、北東の道に詳しく、騎兵を扱えることを選んだ理由に挙げた。
達也が戦の経験を尋ねると、月華は大きな戦には出ておらず、盗賊討伐と小規模な戦いだけだと答えた。ただし、120騎は自分で指揮していた。幽州から北東へ馬で数日かかる範囲なら、主な道や川、村に加え、馬を休ませられる場所まで分かっていた。
金軍が戻った場合は、先に騎兵を出して進路を調べる。見つけても兵数が分かるまでは戦わず、敵が少なくても後ろに別の軍がいないか確かめると説明した。多ければ幽州へ知らせながら戻るつもりだった。
「自分で手柄を立てるより報告を優先するのか」と達也は尋ねた。
「敵の数も分からないまま戦って騎兵を失えば、次の斥候を出せなくなります」
達也は玉蘭を見た。
「使えそうだな」
玉蘭も同意すると、達也は月華に向き直った。
「よし。幽州の騎兵で働いてもらう」
月華は承知したと答えた。
◇ ◇ ◇
4人目は、29歳の郭子安だった。歩兵出身で、長く城門の守備を担当していた。西門と南門で、兵の交代、夜警、門の開閉、武器の保管を任された経験があった。
城門を任された時に何を最も恐れるかと達也が尋ねると、子安は答えた。
「外の敵だけではございません。内側から門を開けられることです」
そのため、鍵を1人に持たせず、開門と閉門の時刻を決め、夜は責任者を交代させると説明した。戦になれば使う門を減らすが、すべて閉じる必要がなければ、商人や住民が使える門を1つ残す考えだった。
敵が商人に紛れる場合への備えも尋ねられた。
「荷車と人数を調べます。軍が近づいている時は、城外で荷を改めます」
城を守るには、敵が来てから城壁で戦うだけでは足りない。普段から門の出入りを管理できる者が必要だった。達也は子安も候補に残した。
◇ ◇ ◇
玉蘭はさらに何人かを調べ、その中から23歳の石勇を連れてきた。
幽州近郊の農家出身で、金軍では弓兵約200人を率いていた。攻防戦では南壁におり、達也軍が攻めた時も隊列を崩さず、矢を無駄に使わないよう指揮していたという。
玉蘭は、南側で味方の歩兵がなかなか城壁へ近づけなかった場所を挙げた。
「あそこの弓兵を指揮していた者です」
達也は石勇を見た。
「お前だったのか」
石勇が認めると、達也は随分苦労させられたと言った。石勇は詫びたが、達也は退けた。
「謝る必要はない。あの時は敵だった」
これまでの200人に代え、300人を任せたらまとめられるかと尋ねると、石勇は、やってみなければ分からないと答えた。人数が増えれば、今までのやり方では足りないと考えていた。
達也が対応を尋ねると、石勇は説明した。
「50人や100人ごとに指揮する者を置きます。私1人で全部へ声を届かせることはできません」
達也は笑った。
「それならいい」
石勇も候補に残った。
◇ ◇ ◇
その日の夕方、達也は玉蘭と5人を広間へ集めた。俊明、徳順、月華、子安、石勇は、幽州の守備に加えられると聞かされていた。
達也は地図を広げ、自分は幽州に居続けるつもりはないと告げた。5人の視線が集まる中、幽州から西へ指を動かした。
「次は西京大同府へ行く」
徳順は、幽州を取ったばかりなのに、すぐ動くのかと確かめた。達也は、今だからこそ行くと答えた。
「金は開封で約5万を失い、幽州も失った。今ならまだ守りを立て直せていない」
その間、幽州は5人に守らせる。ただし、誰が最終的に命令を出すのか曖昧な軍にするつもりはなかった。
達也は俊明を呼んだ。
「お前を幽州守将にする」
俊明の表情が変わった。達也と玉蘭がいない間、幽州の軍事について最後に判断する役目だった。
「しかし、私より階級の高かった者もおります」と俊明は言った。
「前の階級は金軍での話だ」と達也は答えた。「今の幽州では俺が決める」
俊明が承知すると、達也は、敵が来たらまず城を守ることを考え、手柄欲しさに大軍を城外へ出さないよう命じた。
徳順には騎兵をまとめさせ、俊明の指揮に従わせる。月華には北と北東の斥候を任せ、敵の位置と数を調べさせた。敵を見つけた時も、情報を幽州へ戻すことを優先させた。
子安には城門と城壁を任せ、門の開閉、夜警、兵の交代を管理させる。石勇には、まず弓兵300人を預けた。
「弓だけではなく、矢の残りも自分で確かめろ。戦の途中でなくなってから騒ぐな」
石勇が命令を受けると、達也は5人を見渡した。
「役目は違うが、目的は1つだ」
達也は言い切った。
「幽州を守れ」
「命に代えましても守ります」と俊明は答えた。
「命に代える必要はない」
俊明が顔を上げると、達也は続けた。
「死ぬのが仕事じゃない。幽州を守るのが仕事だ」
敵が多ければ城壁を使い、援軍が必要なら使者を何人も出す。達也たちが西京大同府にいても、知らせは届くと伝えた。
「生きて城を残せ」
俊明は、今度は力を込めて承知した。
◇ ◇ ◇
翌日から、幽州守備軍の組み直しが始まった。旧金軍の兵をすべて解散させることはせず、達也への服属を受け入れ、身元を確認した者から新しい部隊へ加えた。
ただし、旧来の部隊をそのまま残すこともしなかった。達也軍の兵を混ぜ、指揮系統を組み直した。城門の守備も旧金軍だけには任せず、達也軍の兵と組ませて交代で持ち場へ入れた。
騎兵も、徳順の旧部下だけで1つの隊を作らせなかった。玉蘭の騎兵から経験のある者を残して加え、俊明の命令が出身を問わず届くようにした。
達也は自軍の古参将校にも命じた。
「俺がいない間は俊明が幽州守将だ。守備については俊明の命令に従え」
経験の足りないところは教え、補佐させる。ただし、横から勝手に別の命令を出すことは禁じた。古参将校は俊明たちを支える副将として幽州に残り、指揮が分かれないようにした。
◇ ◇ ◇
月華は朝から北門を出た。北と北東へ向かう街道を回り、見通しのよい丘や、馬を休ませられる村、川を渡れる場所を確かめた。大軍の通過を見逃さないよう斥候の配置を決め、敵を見つけた時に幽州へ戻る道も複数用意した。
徳順は、幽州周辺に残った騎兵と軍馬をまとめ直した。偵察、戦闘、伝令に使う馬を分け、疲れた馬は休ませた。すべてを一度に使い切らず、必要な時に動ける馬を残すようにした。
子安は4つの城門を巡り、鍵の管理者や夜警の交代時刻を確認した。金軍が近づいた時に閉じる門と、火災や敵襲の際に鐘を鳴らす者も決め、兵に周知した。
石勇は弓兵を300人に増やし、50人から100人ごとに指揮役を置いて、城壁上の持ち場を定めた。矢は1か所に集めず、北壁を厚くしながら、東、西、南にも必要な量を置いた。
俊明は毎日、城門、城壁、騎兵、弓兵を見て回った。細かな指揮は4人に任せ、報告を受けて必要な命令を出した。自分の部隊だけでなく、城全体を見る守将の役目に取り組み始めていた。
◇ ◇ ◇
3日後、達也と玉蘭は北門の城壁へ上がった。北から乾いた風が吹きつけ、城外では月華の騎兵が戻ってくるところだった。徳順の別働隊は北西へ出ていた。
城壁には石勇の弓兵が配置され、子安が兵の交代を確認していた。俊明が達也たちのところへ来て、今朝、北の街道で金兵約100騎を確認したと報告した。
敵は斥候を見ると引いたが、追わせなかったという。誘いの可能性があり、後ろに別の軍がいるかもしれないと判断したためだった。
月華からは、北東にも少数の騎兵が出ているとの報告を受けていた。ただし、大軍はまだ確認されていなかった。北西へ出た徳順の騎兵は、日暮れまでに戻る予定だった。
城壁の警戒は続けていたが、すべての兵を上げてはいなかった。達也に理由を尋ねられ、俊明は答えた。
「毎日全員を城壁へ上げれば疲れます。大軍が来た時に動けません」
達也は玉蘭を見た。
「これなら、しばらく任せてもよさそうだな」
「まだ敵の本隊を相手にしたわけではありません」と玉蘭は答えた。
達也が相変わらず厳しいと言うと、玉蘭は当然だと返した。
「幽州を預けるのですから当然です」
達也は俊明へ向き直り、自分たちが西京大同府へ行っても、今と同じように務めるよう命じた。敵を見つけた時ほど慌てず、最初に数と方向を確かめ、北の金軍が大きく動いたら早めに知らせる。
「幽州を空にして俺たちの後を追ってくるなよ」
「そのようなことはいたしません」と俊明は答えた。
達也は、それならよいとうなずいた。
◇ ◇ ◇
その日の午後、達也は軍議で幽州の守備体制を正式に決めた。城壁を守る歩兵と弓兵を十分に残し、北方を調べる騎兵も置く。軍事の最終判断は幽州守将の俊明に任せ、徳順、月華、子安、石勇はそれぞれの役目を担った。
達也軍から残す古参将校にも、俊明を補佐し、その命令に従うよう改めて伝えた。
文官や書記も、これまで幽州で働いていた者を残すことにした。市場を動かし、税と兵糧を集めるには、土地の事情を知る者が必要だった。しかし、北に金軍がいる以上、城を守れなければ政務も続けられない。達也はまず軍を整えた。
玉蘭は地図を見ながら、これで幽州を任せられそうだと言った。俊明の下に徳順たちを置き、命令を一本化できたことを確かめた。
「ああ。敵が来てから誰の命令を聞くか相談していたら、その間に門まで来られる」と達也は答えた。
玉蘭は地図の西へ目を移した。自分も西京大同府へ同行するのかと尋ねると、達也は一緒に来てほしいと答えた。
「西京大同府へ行くのに、お前の騎兵が要らないわけがないだろう」
幽州の騎兵は徳順と月華に任せることになる。玉蘭は思い切って任せるのだと受け止めたが、達也は自軍の兵と古参将校も残すと説明した。新たに登用した者だけに、すべてを渡すわけではなかった。
「それに、いつまでもお前が全部の騎兵を率いていたら、次の将が育たん」
玉蘭は笑った。
「今度は私の代わりまで育てるおつもりですか」
「代わりじゃない。将が増えた方が、もっと広いところで戦える」
達也は地図上の西京大同府を指し、出発の準備に何日必要かと尋ねた。騎兵だけならすぐ動けるが、本隊まで動かすには、あと2日ほど欲しいと玉蘭は答えた。
達也は2日で整えるよう頼み、幽州の兵糧を持ち出しすぎないよう注意した。残る兵が食べられなくなっては意味がない。まず金軍から奪った兵糧を使う方針だった。
「西京大同府でもまた奪うおつもりですか」と玉蘭は尋ねた。
「使える物があるなら使う」
玉蘭は地図へ目を戻した。
「幽州を取ったばかりなのに、もう次ですね」
「金が弱いのは今だ」と達也は答えた。「立て直してから攻める理由はない」
◇ ◇ ◇
出発前日、達也は俊明たち5人と、幽州に残る古参将校を広間へ集めた。翌朝には玉蘭とともに出発すると告げ、留守を頼んだ。
「金軍が来なければ、それが一番いい。だが、来た時に俺がいないから何もできませんでは済まさん」
俊明は承知していると答えた。軍事の最終判断は俊明が下し、徳順と月華が敵情を調べる。金軍が少なくても、背後に本隊がいないか確かめるまでは追わない。子安は門を守り、石勇は城壁の弓兵をまとめる。それぞれの役目を最後に確認した。
達也は古参将校にも、経験の足りないところを助けながら、俊明とは別の命令を出さないよう念を押した。
最後に、俊明へ向き直った。敵が大軍なら籠城し、勝てると思っても、幽州を空にするほど兵を出してはならない。追い払ったあとも、遠くまで追撃させないよう命じた。
「敵を追い払っても、遠くまで追うな。幽州を取られたら勝ったことにはならん」
援軍が必要なら、達也と玉蘭へ何度でも使者を出すよう伝えた。俊明は達也を見た。
「必ず幽州を守ります」
「頼む」
達也は5人と古参将校を見渡した。
「俺が戻った時、この城がまだ俺の城なら、それで十分だ」
翌朝、達也と玉蘭は主力を率い、幽州の西門から出発した。
城に残った俊明たちは、北から金軍が来れば、自分たちで敵情を判断して戦わなければならない。若い5人を古参将校と兵が支え、その判断に従って動く守備軍が幽州に残された。
達也と玉蘭が次に目指すのは、西京大同府だった。




