2 湿地帯の行軍陣形
霧の立ち込める湿地帯を、ロドニア側から進む部隊の構成はこうなっている。
最前線を突き進むのは、アルベール率いる辺境警備隊の精鋭たち。
泥濘の中、一切の音を立てずに進む彼らの殺気は前方の敵をけん制する「矛」と「盾」の役割を果たす。
現ロドニア国王に仕える気のなかったアルベールだが、息子ユージンの為に再び剣を取ろうとしている。
警備隊のすぐ後ろに続くのが、輜重隊の面々だ。その先頭の荷台には次の四人が座っている。
まず指揮するのは、王宮騎士団団長のガストン。御者台で道の悪さをボヤきながら進む。
縄で縛られ、自ら帯刀していたガルディアの宝剣『覇王の黒剣』と共に座るエドワード王子。
一心不乱で書類を捌いているのはユージン。
ユージンの隣でエドワードの剣に一瞬、驚いたがすぐに冷ややかに一瞥したのはモランである。
「……ほう、ガルディアの至宝と謳われたその剣は随分と軽いようですね。覇王の魂が宿る本物でしたら……」
モランはそこで言うのをやめた。
最後尾を固めるのが、アルベールが鍛え育てている学生たち。彼らは実戦経験が浅いものの、ユージンが教え込まれた、本物の戦い方を知っている師範であり一糸乱れぬ規律で進んでいる。
湿地帯の入り口。馬車の横で、アルベールはユージンの肩を掴み、久しぶりに会う息子の目をじっと見据えた。
「……ユージン……お前はここに残れ。……あのロザリンド事件の時、俺は見た。お前の中に眠る『あの御方の影』をな。……だからこそ行かせるわけにはいかん」
アルベールの声は微かに震えている。
「……アステリオンの血が目覚めれば、世界が、もうお前を放っておかぬ。何度も言うが……私は、お前を『王』にするために育てたのではない。……何でもいい、ただのしがない事務官でもいい……泥にまみれず、平穏に生きていって欲しいと願う」
ユージンは、自分をあくまでも「逃がそう」とする父の手を、そっと……しかし毅然と外す。
「……オヤジ、勘違いしないでください。俺は……人を叩き斬ってその上に上り詰める気なんてさらさらありませんよ」
ユージンは、ロザリンドの事件で振るったあの衝撃波の感触を思い出すように、自分の掌を見つめた。
「……大理石を破壊したのは、殺すためではなく『警告』ですよ。『遺恨』や『復讐』は次世代へ繋ぐものでは無いですから」
ユージンは笑う。
「もし復讐するなら……あのタヌキからでしょうね」




