14 表と裏 2
あれから七日目のの朝。バザル達リーダーの怒号に近い訓練の声が響く中、天幕から現れた二人の姿に、忙しく立ち働いていた兵士たちの手が止まった。
そこにいたのは、かつての「囚われの王」でも、「王宮の飼い犬」でもなかった。
二人が纏っているのは、深みのあるチャコールグレーのウール地で仕立てられた、飾り気のない上着だ。
濃い高級の絹のような光沢はない。だが、厳しい冬の風を跳ねのけるような厚みと、激しい動きを妨げない計算しつくされた裁断が見る者に「実践」の二文字を抱かせる。
エドワードは、薄暗い天幕の隅、革ひもで吊るされた磨いた盾を鏡代わりに自分の袖を何度も確かめていた。
「……ユージン、見てくれ。この感触……。無駄な飾りが一切ないのに、不思議と背筋が伸びる思いだ。……ああ、これこそが我々の、アステリオンの『正装』になるんだな」
エドワードの瞳には、かつての怯えはなく、代表としての自覚と、そして「親友」と同じ理想を纏ったことへの隠しきれない喜びが溢れていた。対するハンス(ユージン)としては「親友」だとは思っていないのだが、そうかといって歴代の王のように彼を利用しようとは微塵も思ってはいない。
ハンス(ユージン)は、髪を切り新調した服の隠しポケットに、慣れた手つきで鉄筆と印章を収めていた。彼が伊達眼鏡をクイと治すと、レンズの奥で冷徹な理性が光る。さて、これからユージンは事務官ハンスとして動き出そうとしていた。
「……ええ、銀貨数枚という低コストながら、防寒性と耐久性は基準値をクリアしています。エドワード様、その格好で並ぶと、貴方の『高貴さ』が程よく隠れ、部下たちには『話の通じる指導者』に見えるはずです……全て計算通りですよ」
「ははは!君は相変わらず夢がないなぁ。だけど、その『計算』が私を救ってくれたんだ。……行こう、友よ。我々の軍勢の元へ」
(……エドワード、俺は、お前と友達になった覚えは無いんだが……)
二人並んで歩き出す。
同じ色、同じ形の服。それは、この国が「血筋」ではなく「意思と実務」によって運営されることを示す、静かな宣言だった。
この先はいよいよ、エドワードという「清潔な看板」を横に立たせ、ハンスという「冷徹な実務家」が金を積む。アステリオン公国の誕生であった。
この最強のコンビネーションが、いよいよ大陸の物流を歪め始めていく。
有難うございます。ここでひとまず終わります。




