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第12話 おいしい木の実

 次の日も、わたしは懲りずに別荘を抜け出してあの花畑に行った。約束通り、そこにはすでにクリスがいた。クリスはわたしを見ると、ぱあっと顔をほころばせた。


「ノアくん、今日も来てくれたんだ!」

「もちろん。今日は何する?」


 そう聞かれてわたしは少し、考えた。花冠を作るのもいいけど、ちょっとわたしにはハードルが高い気がする。


「山に行こう!」

「え、山? ってどこの??」


 わたしは昨日行こうとしていた、遠くに霞んで見える山々を指さした。


「えぇ……。遠くない? 行くだけで日が暮れちゃうよ」


 いうて、そんなに遠いか? わたしはそう思いながら、地面を蹴って思いっきり走り始めた。後ろからクリスの声が聞こえた


「ちょっと! ノアくん! 速いってば!」


 しょうがないなぁ。



「うわぁ、速いね!」


 わたしはクリスを抱えて草原を走った。クリスの体重が軽いおかげで走るのにはあまり支障がない。日が空のてっぺんに差し掛かるころには、わたしたちは山の麓に着くことができた。


 もう昼ご飯の時間だからか、お腹がすいてきた。クリスを腕から降ろしてわたしはさっそく食べられそうな木の実なんかを探すことにした。


「この赤い実、食べれそう……!」


 わたしが初めに目についた木の実を口に入れようとすると、クリスに止められた。


「それ、毒あるよ。図鑑に書いてた」

「え、そうなんだ。ありがと! クリスって物知りだねぇ」


 クリスは少し得意気にしながら、少し辺りを見渡して違う木の実を手に取った。橙色のさっきのものより1回り大きな木の実だった。


「これなら食べられる……と思う」

「へぇ~! いただきまーす。……おいしい!」


 同じ木の実を木から取って、わたしは口に入れた。瑞々しい甘さが口に広がる。長い間走って乾いていた喉に、それはよく染み渡った。

 クリスも手に持っていた木の実を頬張った。


「……おいしい」


 わたしたちはその後も、近くの木になっていた木の実やら咲いていた花の蜜やらを食べて過ごした。いつの間にか、日は少しずつ傾いていた。


「そろそろ帰る?」

「うん、お父様が心配するから」


 そして、最初の花畑まで行きと同じようにクリスを抱えて走って帰ったのだった。



 別荘に帰った後、わたしは昨日と同じように勝手に家を出ていったことを叱られた。まぁ、それは聞き流せばいいし、どうでもよかったのだが。


 問題は夕食である。

 帰りも走って帰ってきたとはいえ、夕方近くまで森で果実や花の蜜を食べていたせいで、まるで食欲がない。いつもは夕食をぺろりと感触するわたしのフォークとナイフが進まないのを見て、お父様とお母様は不審に思ったのだろう。


「もしかしてノア、外で何か食べてきたの?」

「……」

「ノア、答えなさい。何か食べてきたのか?」

「……いや、ちょっと木の実とか? 花の蜜……とか?」


 2人は呆れたようにため息を吐いた。「このじゃじゃ馬娘が」とか言ったところだったのだろう。


「まぁ、いずれしでかすだろうと思ってたわ。でもね、毒があるかもしれないじゃない。自然のものは食べないようにしなさいよ」

「でも、クリスが食べれるって……」

「「クリス?」」

「あ」


 ちょっとわたしの軽い口が滑ってしまった。クリスについて根掘り葉掘り聞かれたわたしは、クリスという迷子の子がいたこと、一緒に花畑で遊んだり山へ行ったこと、などもろもろ話してしまったのだ。


 そして、次の日にクリスの家へお詫びに行くことになった。



 次の日は大雨だった。わたしたち親子は馬車に乗って、クリスの家に来ていた。いつも遊んでいた花畑を通り抜け、1つ丘を通り抜けたところに大きな屋敷があった。いつもは丘で隠れて見えていなかったのだろう。そこには王都の子爵邸よりもはるかに大きな屋敷があった。クリス、金持ちだったのか。だから、わたしの名前にも「くん」を付けるに違いない。


 その応接室にて。

 両親はクリスの父親に頭を下げていた。


「本当に、この度はうちの娘がお宅のご子息に迷惑をおかけしまして、誠に申し訳ございません。……ほら、ノアも謝りなさい」

「……ごめんなさい」


 クリスのお父様は苦笑いして言った。


「こちらこそ、ご迷惑をおかけしました。クリスも昨日、全く夕食を食べなくてね。事情を聞いたら『ノアくんと食べてきた』と。早馬で知らせてくれてありがとうございます」


 クリスのお父様は続けて言った。


「妻がなくなってからあの子は元気がなくてね。私も忙しくて気にかけてやれなかったんです。ずっと部屋にこもりっきりと思っていたのですが、外に行っていたとは」

「あの……クリスさんはどちらに?」


 お母様が尋ねた。何だか嫌な予感がしてきた。


「今日も部屋にこもっていると思うのですが」


 そこで応接室の空気が凍り付いた。

 クリス、もしかして今も花畑で待っているんじゃ?


「ノア!」


 お父様の大声に私はソファから床に降りた。しかし、玄関まで戻っている暇はない。幸いここは1階。お父様が開けた窓から私は外に飛び出した。

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