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第11話 クリス

 あー、暇。

 それが今のわたしの考えていることのすべてだった。

 お父様の仕事の関係で辺境の別荘まで来たのはいいものの、何もすることがない。お父様とお母様は仕事で忙しいため遊べない。だからといって執事やメイドと遊ぶのも何だか気を使ってしまう。ということで、わたしは使用人が目を離した隙に草原へと駆け出したのだった。


 それでも暇。ただ花が咲く草原が続いているだけなのである。わたしは遠くに霞んで見える山々を見つめた。あそこまで夕方までに行って帰れるかな。時刻はお昼過ぎ、わたしは何としてでも夜までには別荘に帰りたかった。なぜなら夜ご飯が食べたいから。


 わたしは山まで走ってみようと思い、左足を後ろに下げた。その時。


「うぁ……あ……ひっく」


 誰かの泣き声が聞こえた。

 大人は泣かない。ということは子供か! 仲良くなって一緒に遊ぼう!! という軽い考えでわたしは泣き声の主を探し始めた。

 泣いている子供は思っていたよりも早く見つかった。草原にところどころ生えている木の中でも特に大きな木。その下にその子はいた。三角座りをして、膝に顔をうずめて泣いている。


「なんで泣いてるの?」


 私が話しかけるとその子は顔を上げてこっちを見た。灰色の髪のかわいい女の子だった。長くてちょっと巻いたような髪に、泣きはらして赤くなった青い瞳。

 彼女はぱちぱちと驚いた顔で瞬きをした後、こう言った。


「……お母様がいない」


 ふーん、迷子か。

 とりあえず誰かと遊びたかったわたしは彼女に手を差し出した。


「じゃあ、お母様が来るまで一緒に遊ぼ!」


 彼女は少し考えてから私の手を取って立ち上がろうとしたが、ずっと泣いていたからかよろけて座り込んでしまう。仕方がないなぁ。という謎のマインドで私は彼女の脚と背中に腕を回した。そのまま腕に力を入れて持ち上げる。


「わっ」


 かっっっっる。わたしより小さいとはいえ、その子は思っていたより軽かった。人を持っているような感じがしない。なんだか同じ大きさの羽の塊みたいな感触だった。ていうかズボンからのぞく脚がすごく細い。


「何して遊ぶ?」

「……なんでも」


 わたしは腕の中の女の子をじっと見つめた。こういう可憐な感じの女の子がしそうなこと……。


「お花遊びしよう!!」

「……うん」


 わたしはその返事を聞く前から走り出していた。そして一番近い花畑にすぐにたどり着くと、女の子を腕から下ろした。そこには色とりどりの花が広がっていた。広さでいうとわたしの寝室くらいはある。

 女の子はじーっと花を見つめた後、ぷちっぷちっと花をちぎって何か編み合わせ始めた。するするっと器用に花同士を巻き付けていく。


「花冠作れるの!? すごーい。……そうだ、作り方教えて!」


 ということでわたしはその女の子に花冠の作り方を教えてもらうことになった。いつの間にか女の子は泣き止んでいた。すぐにかわいい花冠ができあが……ればよかったのだが、その細かい作業はわたしにとって苦行だった。


「……こことここを巻き付けて」

「え、どこ? あ、ちぎれたっ!」

「ふふっ、不器用……」


 鼻で笑われた気がするが、それでもわたしはめげない。絶対に花冠を完成させる! 頑張っている間に日は沈み始めた。夕暮れの中、できあがったのは1つの不格好な花冠だった。花の色の系統はばらばらだし、茎は飛び出ているしで悲惨な状態である。お花さん、ごめんなさい。対して女の子が作った方の花冠は色々な種類のピンク色の花で作られていて綺麗だった。ところどころに青い花もまぎれていて、なんだか締まって見える。

 わたしが少ししょげていると、彼女はその花冠を私の頭にのせた。


「くれるの!?」

「うん、だからそっちのちょうだい」


 少し不格好な花冠を渡すと、彼女はそれを自分の頭の上にのせてうれしそうに笑った。まぁ、遠目に見れば綺麗な気がしないでもない。

 辺りはますます暗くなってきた。


「じゃあ、もう帰ろうか」


 女の子に言われてわたしも花畑から立ち上がった。ズボンについた葉っぱを払い落とす。


「そういえば、君名前は?」

「ノア! あなたは?」

「クリス。明日もここで会おうね」


 そう言って笑いながら女の子――改めクリスは暗闇の中に消えていった。

 ……そういえば、あの子って迷子だったんじゃなかったっけ。そう考えながらも別荘に戻って、勝手に出ていったことを両親に怒られ(花冠は庭の木の下に隠したのでばれなかった)、夕食を食べ始めたころにはそんなことは一切忘れていた。

久しぶりの投稿です。

新生活が始まり、大変忙しい生活を送っております。

少しずつ投稿していこうと思いますので、しばしお待ちください。

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